479話 行き先は英国で 挿絵あり
松田と話し合いを重ねある程度の詰めは出来た。まぁ、こう言う大きな会議では事前に話しをまとめ共有しスムーズに行うので、日本としてもそこまで大きな路線変更もなければ話す事にも変わりはない。そう、変わりはないのだが大きな変更点とでも言えばいいのか、フェリエットに付いての部分は中々話しがまとまらなかったな。
政府としてはと言うか、英国も含めて今回の会議で職に就いた獣人の話しを議題に乗せたいし獣人憲章の事にも言及したい。そこでフィンだけではなくフェリエットも現地に招待したいと言う話しは前からあったのだが、現時点で言えばフェリエットはソフィアの護衛兼学生である。今の所秘密裏と言うか職に就いた獣人の話しはどこも表面上は出て来ていないので隠せている。
しかし英国側は今回の会議で発表したいとしているし、米国側としても正式に発表されれば人だけではなく、獣人に対してもそこそこ訓練を行い隣人として共に戦うパートナーとしたいと考えている。獣人の性格が軍人に向くかは別として指輪の中が見えると言う件は権力者にとって身を守る切り札にもなるし、ギスギスする渡航者の管理に付いてもある程度の対策と出来る。
まぁ、それでも人数がいないので先は長いし、獣人憲章が正式に可決されて認知されれば下手な扱いはないだろう。実際隣人として多くの国が扱っているのだが、地域格差とでも言えばいいのかどうしても対等ではなく下に見る人もいるし、逆に人以上として扱う人もいる。
あまり言いたくないが生まれガチャと言えばそれまでなので目を瞑る他ない。スラムは減って学のない人を強制的に学校に通わせる国も増えているし、これからに期待するしかないな。まぁ、給食と言う名のゲート内食料を出しているので、少なくとも勉強しにくれば飢餓は凌げる様だし。と、話しは逸れたがフェリエットを連れて行く事にメリットがない訳では無い。
国際の場に獣人が現れると言うか出席すると言うのはそれだけ見た目でのインパクトもあるし、意思無き隣人ではないとアピールも出来る。それに、憲章の決を誰に取らせればいいのか?と言う問題もある。人が打ち出したモノだが、それでも獣人が守らないでは意味がない。まぁ、今の所ほぼ憲章通りの性格なので負荷はないが、知らずに守るのと知ってから守るのでは訳が違う。
人は会議でその決定を尊重するが、獣人のいない所で決まったモノを獣人が守らないとか、勝手に決めたと覆しにかかられてはどうしようもない。そこで出てくるのがフィンとフェリエット。猫人と犬人のスィーパーとして獣人達にとっては従いやすい人物である。
英国や米国、そして日本でも秘密裏にアンケートを実施しスィーパーとなった獣人の決定を尊重するのか?と言う項目に対しての反応は概ね顔が分かってその同族が納得するなら従うと言うものだった。封建的な考えでもあるが種として優れている者には追従すると言う事だろう。例外的な意見としては勝手にしていいと言うものもあるが、それは獣人となって日が浅いものの考えの様だ。
これにより日本からの出席者としては俺、フェリエット、松田に護衛としての青山で決定となった。まぁ、行った先でも護衛は付くので青山の立場としては小間使と言われればそれまでだが、知らない土地で確実に信用出来る者がいると言うのは緊急時の対応力が増す。
「これをどうぞ、松田さんからフライトチケットが届いてました。」
「ありがとうカオリ。いきなりスイスじゃなくて英国を経由する辺り松田さんも警戒は解かないらしい。」
「立ち話外交とかを考えると、下手にスイスに宿泊して押し掛けられるのを避けたとも言えますね。」
「それね〜。興味はないけど北欧家具とか見て回ろうかと思ってたからあてが外れた。まぁ、ロンドンはロンドンで観光には事欠かないけどね。」
「おっ!どこ見て回ります?やっぱり時計塔ですか?」
「う〜ん・・・、行動範囲を考えると飛べば英国全土を見て回れるけど流石にそれはいい顔されないからね。やっぱり時計塔を主軸に大英博物館とか王室を外から見るとかかなぁ〜。街の古本屋を巡って変な本とかも探してみたい。なにせ英国も歴史は古いし大航海時代を考えると色んな物が集まった過去があるからね。東インド会社は当時最強の会社だったし。」
海賊とは王の勅命により捕鯨をしたり他の国を攻めたりする言わば海の傭兵である。当時の事を考えるとクジラからは大量の脂も取れるし食肉にもなるし髭は歯車にもなるし、希少な竜涎香も採種出来で捨てる所はない。荒くれ者と言える海賊は脱法海賊で勝手に犯罪犯している者達なので縛り首だが、認められた海賊は高給取りでもあるしバーソロミューなんかは船に部下の家族を住ませたり、船を降りる時は退職金をだしたりしていた様だ。
まぁ法律は守るモノだが、その法律も人が作ったものなら世相も反映されるし国としての正義も含まれてくる。どの国も豊かではありたいからね。
「巡るのはいいですけど変なモノ見つけてこないでくださいよ?魔導書とかカタコンベとか。」
「流石に今ある地球の魔導書って魔術師に有効・・・、だな。多分。サイラスさんとか魔導書の稀覯本とかを勝手に集めて読んでるって言ってたし、ついこの間もロンドン地下を工事してたら新しいカタコンベが見つかったって報じられてたし。」
「古い金貨が欲しいなら根こそぎ持って帰りましょう!どうせホコリかぶってカビ臭くなってるだけの金属です。クロエさんが欲しいなら俺が探してきますよ!徳川埋蔵金とかでもいいですか?」
「やめとけ。埋蔵金系はロマンを追い求める人達の原動力だ。この前も特番で採掘家集めて穴掘りまくってたし。頼むからお前は現地では指示があるまで大人しくしておいてくれ。」
青山に探してこいと言うと本当に見つけて来そうで嫌なんだよな・・・。なんかこう・・・、文献調べるとかじゃなくて成分抜き取って捜索したら見つかったとか言う行き当たりばったりで・・・。
「大丈夫です!俺もクロエさんに恥をかかせない様、英語も覚えました。何かあれば通訳もしますし、罵倒する場面では相手の顔が真っ赤になる様にガンガン罵倒します。」
なぜ罵倒する前提なのか?人選ミスとは思いたくないが加納も本部長としてギルドを切り盛りしているし、選出戦メンバーも各地でギルド稼働前とは言え切り盛りしているので動かせない。かと言って置いていくと今度は現地で動かせる人間がいない。
青山とは選出戦で名は売れたものの下位のスィーパーであり、戦力として他国が分析した時に探索者の職に就いた普通の人である。そう、俺の護衛として来ているものの取り立てて要注意人物とする様な人間ではない。その分誘蛾灯の様にハニトラ対策要員として女性の前に差し出してもいいし、無害と思わせておけば好き勝手走り回ってもそこまで注意を引かない。
流石に初期の配信の様に話の通じないエキセントリック少女の汚名返上は出来ていると思うが、それを他国も容認してるかは知らないしなぁ・・・。流石にまともに話している配信の方が多くなったし必要な事は発信しているので大丈夫だと思いたい。
「青山さんそれはクロエが困るのでしない事。今から私と護衛変わります?ピンチヒッターに増田さんも来ますし。」
「えっ?嫌ですけど?選ばれたのは青山 空ですし。」
「なんかそう言われると凄くムカつきますねぇ!ちょっとR・U・Rの模擬戦で的になってもらえません?」
「いいですよ!やりましょう!どんどん強くなってクロエさんの役に立つ様に切磋琢磨しましょう!」
「その切磋琢磨手加減なしでやってやりましょう!クロエ、ちょっとR・U・R使っています!」
2人が慌ただしく出ていくのと入れ替わりにフェリエットがひょっこりと顔を出す。行くと決まって以降も学校にはソフィアと通っているが放課後はこうしてギルドを塾代わりに英語の勉強をしている事が多い。
「あの2人は元気だなぁ〜。」
「老人みたいな事を言うな、早く老けるぞ〜。」
「年取って楽が出来るなら楽したいなぁ〜。会議とか授業と変わらないから眠たいだけだなぁ〜。」
「済まないと思ってるよ、こうして表舞台に立たせた事は。でも、獣人と人が対等な隣人として正式に立つ為にはどこかで見える形で話さないといけない。まぁ、それもいずれ風化するかもしれないけどね。」
「骨になった後は知らないなぁ〜。」
「それが普通だからそれでいいさ。で、学校はとうだ?ソフィアと通ってみて。」
「ぼちぼちだなぁ〜。人が何してたか今まで興味はなかったけど、そこそこ興味は湧いてきたなぁ〜。でも、やっぱり面倒な話しは面倒だなぁ〜。子供とか男と女がいれば自然とできるなぁ〜。」
保体か!なんとも親としては言いづらい事を教えてくれるが、日本の保体って海外からすると遅れてるらしい。まぁ、中々言いづらい事だしなぁ・・・。ただ、フェリエットの場合野生なら既に経験済みとしてもおかしくない訳で・・・。そもそも半外飼だしねぇ・・・。
「まぁ・・・、そのな・・・。確かにそうなんだが人には情緒とか感情とか中々難しいものがあってだな・・・。」
「理解してるなぁ〜。私も無闇矢鱈と子作りする気はないなぁ〜。相手はちゃんと選ぶなぁ〜。」
「そっか・・・、フェリエットはそこまで理解してしまったか。」
「だな。私は多分そこそこ頭良くなったよ。」
「うん。でもなぁ〜は聞いてたいかな?」
「分かったなぁ〜。」
頭をグリグリと撫でる。飼い猫もいつしか娘で嫁に行くのか。その相手が誰であれ選んだからには祝福しよう。




