閑話 97 とある星の出来事 挿絵あり
「走れ走れ走れ走れーーーー!!!!まとまるな!ばらばら・・・、ぐきゃ!」
「振り返るな!指揮官がやられた!聖都は近い!振り返らず走れ!」
「なんで・・・、なんでここで襲撃が!この辺りは安全じゃなかったのか!!」
「無駄口を叩くな!死んだ仲間の為にも少しでも多く辿り着け!ジルダ!ガジザ!・・・、ここで死ぬぞ・・・。ギシカ、お前は離れたらこいつらを集めて聖都へ。」
「そんな!私もここで戦います!勇士じゃないけど戦わせて下さい!!」
「行けよギシカ。お前は番ったばかりだ。番って子を残して戦士として育てろよ・・・。」
「そうだ、俺達はここで戦って多分死ぬ。だが、ここで戦って死んだ勇士がいた事を語ってくれ。その語りの中でなら俺達は生きてる。」
「た、助けて!先にも魔物が!」
「行け!行って道を切り開いて聖都の神々の贈り物へこいつらを・・・!少しでも多くの子供達を中に入れて勇士としての人数を増やしてく・・・。」
走る光は無慈悲に命を刈り取る。私は私が憎い。ここにいても何1つ出来る事はなく、言葉を発して返された分仲間達の隙が生まれて命が刈り取られる。目から流れる涙を拭う事も忘れ散り散りに走る子供達を集める為、一度だけ『私に続け!』と声を上げた後は無言。
あの魔物達は何に反応するか分からない。
あの魔物達に慈悲はない。
あの魔物達には近寄れない。
あの魔物達を見かけたら勇士でない者は逃げるしかない。
鉄砲水の様に押し寄せる魔物は手練れの勇士を飲み込み、時折聞こえる怒号がまだジルダ達が生きている事を教えてくれる。でも、その音も遠く草木の間を走る中で潰えた。集められた子供達は全てで10。当初30あったが集まれなかった子は見捨てるしかない。願いが届くならどうか、自力で聖都へたどり着いてほしい。
誰も言葉を発さない。言葉が漏れ音が聞こえれば魔物に見つかるかもしれないから。ただ、すすり泣くくらいの自由は許されるだろう。兄弟でいた者は1人しか見えない。隠れ里を出る時にされた守りの呪いを破壊された者は後がない。先頭を走る私は勇士ではないので魔物に見つかれば戦う事も許されず死ぬだろう・・・。
無言で走り先に逃げた子の亡骸を置き去りにし、それの近くで佇む魔物を大きく迂回して進み、どこから魔物が飛び出すのか?後ろの魔物達はいつ追い付くのかと言う恐怖の中で体力切れで動けない子を背負い・・・、或いは見捨てて聖都を目指す。許してくれとは言わない。運が良ければまた会える。運が悪ければ魔物に見つかり足止め代わりとして殺される。
休憩なんてものは誰も口にしない。子でも勇士となる為に育てられ選ばれた者達だ。死ぬ時は誰にも迷惑をかけずその命を糧として生きる者達の為に使えと言われている。だが、その勇士となれるかも分からない。
走り歩きまた走って空に浮かぶ3つの日が闇と光を5回訪れさせた頃、ようやく私達は聖都の門を叩いた。ここまでこれた子は更に減って5。足はボロボロになり体力切れの子はその場で崩れ落ち目を閉じる。それを聖都の中から出てきた者が運び休ませる。
「ギシカ、他の仲間は?」
「魔物の波に・・・。」
「くっ!聖都の周りにも魔物が・・・。俺達は何時まで罰せられなきゃならないんだ・・・。」
「言うならリズラ。祖先と神が結んだ約束の結果だ。」
「それでも!・・・、いや、ここで話す事じゃない。お前は休め、子達の輸送ご苦労。慰めになるか分からないが、お前より先に2ほど子が来た。自力で来たから立派な勇士になるだろう。」
「分かった、その知らせをしてくれてありがとう。」
育てばいずれ肩を並べ・・・、私が生きていれば共に戦う事もあるだろう。生き長らえて鍛え死地に赴き糧となる。勇士とはそうやって生きて死んで逝く。ただ、その勇士となるのでさえ試練で命を落とし出来損ないとなる可能性がある。
リズラと別れ聖都の中を歩く。いつ出来たか分からない聖都は外と比べどこか無機質で絵が浮かんでは消える壁画は古の神話を・・・、祖先が栄華を極め堕落していく様を浮かび上がらせていると言う。私達はこれに学びこれを目指す。残された古い書物では我々はここを飛び出し他の星にも行ったと言う。
向かった祖先がどうなったかは語られていない。私達はその向かった祖先が援軍を連れてきてくれる事なんて期待していない。今あるのは多数の魔物が日夜どこかから現れ、私達はそれを少し倒すだけの力しかなく疲弊していると言う事実だけ。この疲弊もいずれは終わりがあるのだろうか?
大通りを歩き番の待つ所へ向かう。今浮かぶ絵は神と祖先の対話の図。なぜこの子が選ばれたのかは何1つ記録が残っていない。しかし、その子は選ばれて神と対話し祖先は栄華を極めた。未知の道具に見た事ない物の作り方。番わなくても子は作られ、遠くの勇士と話し物でさえ瞬時に手元に届く。今では想像も出来ないが空には陸が浮かび、闇は払われ常に昼であった。
食うに困らず住むに困らず、魔物は現れず私達の祖先は誰しもが笑顔で死の時までを自由に過ごす。絵に描いた様な楽園はそこに有りて不変と謳われ失墜はなく支配者としてあり続ける。勇士はいたがそれも姿を消し、いつしか透明な私達が対話した場所から欲しい物を欲しいだけ持って来る。
祖先は選ばれたと思い何1つ疑問に思わず、無限の報酬と発展にあぐらをかき、ただ誰1人最初の子の声に耳を傾けなかった。それはきっと戒めであり警告だったのだろう。多くに向け訴えたがしかし、多数はそれから目を背け怠惰な発展と他への支配に目を向けて話しを聞くどころか封印した。そして、封印され死ぬ間際の子が言った言葉は今でも聖句であり戒めとして残る。
曰く、報酬を得るなら仕事をしないと大変な事になる。
子が死にどれほどか日が流れた時、それは突然に現れた。魔物だ。始めは少数の魔物の群れだったとされている。しかし、祖先はその少数を倒す為に莫大な損害を出した。空に浮かぶ大陸は落とされ、勇敢な者は近寄る前に殺され、或いは触れただけで何のダメージも与えられず犯され溶かされもがき苦しみ息絶える。
透明な私達も肉体を破壊されれば消えていき、数多くの技術が失われる中で、その魔物をどうにか空に捨て事態は収まったかに思われたが、また群れが現れた。それも前よりも多くの群れが。更に多くの技術はうしなわれ空に・・・、宇宙にあった祖先の住む場所も最初に上げた魔物に襲撃され破壊され、話しを聞くべき子は既に死に絶望が歩きだす。
誰も耳を傾けなかった子の訴えをどうにか拾い集め、対話の場へ肉の身で入り勇士となれば魔物と戦えると結論が出た。そして、意を決して入ろうとした最初の勇士達は誰一人帰ってこなかった。正確な数は分からないが支配していた者とされていた者を合わせて数万と言われている。しかし、入る前に急に現れた魔物から襲撃され数を減らし、対話の場所に入った者達も行く方は分からない。そして、次の勇士を次の勇士をと送り続けようやく本当の勇士となる者が帰って来た。しかし、その勇士の言葉に希望はなかった。
「対話の場所には魔物の群れがいる。それは外にいる魔物の比ではなく、幾千も逝く万もの群れが互いを貪り姿を変え、それでも更に魔物は増えている・・・。多分、外にいる魔物は中から出て来たものだ・・・。」
入らなければ魔物を倒す力は手に入らない。入ればそこには無数の魔物の群がある。半死半生の本物の勇士はそう語り潰えた。そこで初めて祖先は事の重大さに直面し対策を考えた。神とは何処にいるのか?最初の子を復活出来ないのか?対話とは何を話したのか?増える魔物の襲撃で無数の技術は失われ魔物を倒す為に作られた兵器も一定の魔物を倒せば壊され、ジリジリと私達が数を減らす長い日の中でようやく1つの文献が出て来た。
聖句の中の仕事とは魔物を狩る事である、と。そして、その魔物に対抗する手段は魔物の巣に入る事であると・・・。ここで勇士は求められた。しかし、私達は貧弱に成り下がっていた。今はない技術が栄え祖先達は動かずともその場で全てが叶う暮らしをしていたせいで、私の様に走る事は出来ず酷い者は呼気でさえ技術に任せていた。
流れる壁画を尻目に番の元へ急ぐ。私に残された日は短い。もうすぐ本物の勇士となるべく対話の門を潜り勇士となって戻って来なければならない。その過程で迫りくる死を跳ね除けるのは自身の力しかなく、そして力が及ばなければ帰るものはない。
「戻ったよゾルン。」
「よくぞご無事でギシカ。今回は安寧でしたか?」
「いや・・・、勇士がかなり魔物にやられた。聖都も危ないのかもしれない。かなりここから近かった。」
「そうですか・・・。いえ、勇士として散って逝ったのでしょう。その仕事に敬意を。」
ゾルンが言葉を紡ぎ逝った勇士達に敬意を表する。祈りはない。神と呼ばれた対話者は万能者ではあるが私達の元に姿を現す事はない。きっと私達の祖先の不誠実さに腹を立てて顔も見たくないのだろう。それに、今の惨状を嘆き許しを請うても何が許しなのかは分からない。
「何か食べよう。流石に空腹だし子を成すにもこのままじゃ無理だ。」
「ええ。今用意します。」
ゾルンが用意した食事を2人で取る。ボソボソとしてすぐに崩れ落ち粉となってへばり付く。そして、少しづつ吸収されていく。多分高級な物だろう。この一回の食事だけで向こう数カ月は動ける。いや、もしかして事前配給食なのかもしれない。
「ゾルン、これは君も食べているか?」
「いえ、ギシカの取っている物は勇士の物。対話の間に入る用意のある者が行く前に取り込む物です。」
「そうか・・・、等々その時が来たのか。これを取るなら旅立ちは明日だろう。齢150歳にしてようやく認められるのか。」
「ええ。番って間もないですが、私は貴方を誇りに思います。だからどうか勇士として帰って来て魔物を多く倒しその命を有効に使ってください。」
「分かってるよ、対話の間での死は無意味だ。必ず・・・、必ず勇士として戻るよ。」
時間はなく食事を終えてすぐに子を成す。残す者、残される者、生きる者、死地に向かう者。今回私が連れてきた子もかつては別の聖都と呼ばれた所から魔物の襲撃により、住処を追われて隠れ里に移った者が大半だ。中には勇士として子を送り出す事を良しとしない者もいる。しかし、働き手は一定数残しその里の長に選ばせているので遺恨を残す事はない。
いや、そもそも里にいてもいつ襲撃されて死ぬか分からず、勇士となればまだ戦い生きる可能性もある。本来対話の間への入口は多数あったと記録されているが、それも度重なる襲撃で埋もれ、或いは宇宙へ飛び出した言われている。聖都とはその対話の間への入口を納めた街だが、本当後どれくらいこの聖都も保つか・・・。
ガルシス様がこの街を守護し外から来る魔物を撃退する障壁を常に張っていてくださると聞くが、不安なのはそのガルシス様同様に障壁を張っているはずの聖都も陥落している事だ。いや、やめよう。番のゾルンが横にいて子を成したのに不安にさせるのも悪い。
「なにか考え事ですか?」
「いや、新たな勇士として子が育つのが楽しみだと思って。」
「気が早いです。子が育つのには時間がかかりますや。」
「そうだな。・・・、私が子を見れない時は頼む。」
「ええ、立派な勇士となれる様育てます。憂いなく行って下さい。」
ゾルンと過ごし2つ目の日が登る時に出発し対話の間に入る門を目指す。そして到着すると守りの呪いを施され門の前に立つ。赤い線が半分ほどまである門はどこか神聖で、これが祖先と神が中で対話した物であると考えると長い年月をここで過ごしたのだと考えさせられる。
「今回入る勇士候補は総勢200!祝福を!新たなる勇士の誕生に祝福!!」
ガルシス様が離れられない代わりに古代人が声を上げる。祖先の直系にして知を有する者。失われた技術を今に伝える喋る辞書。戦いの法も各地に残る遺跡や祖先の技術も使える者達。しかし、その知も今となっては必要なのだろうか?たとえ技術が復活してもその技術で魔物が倒せなければ意味はない。
しかし、古来より宇宙と言う場所には必ず行かなければならないと言い伝えられている。そこに何があるのかは知らない。宇宙にあったと言われる祖先の住処も既に落とされているのだから。
話が終わりゾロソロと1人づつ対話の間へ入る。中の状況は緩やかな斜面ですぐに何かに掴まれと言われ、そこで一定時間待機したら次は1人が入れるほどの扉を探せばいいらしい。その間にある魔物の襲撃が試練であり脱落は死を意味する。
私の時となり入り、転がるほどではない斜面に降り立ち糸を出して隠れながら周囲を警戒してその時を待つ。その時はまだか?その時とは何時来る?遠くに魔物が見え、いつコチラに気付くか分からない!私は勇士になれないのか!?ゾルンに何と言えば!
(お前でいいか。)
「だっ!」
慌てて口を塞ぐ。何の声だ?近くに何もいない。魔物はまだ襲撃する様な素振りは見せず、目を凝らしても薄暗い中で何も見えない。どこだ、何がいる?いや、これが勇士になると言う事なのか?
(吾は奉公する者。落第した種を救済して来いと言われた故、ここに来た。誰でもよかったし別になんでもよかったが、適当に目に付いたお前でいい。あの御方が意識を割れと言うから割って来たが、早く帰りたい・・・。)
「な、なんの話だ?」
(声はいらぬ。能書きも苦悩も何もいらぬ。吾は言われて来ただけであの御方のいない星は吾には寂しすぎる。)
「だから、なんの!」
(避けぬと死ぬぞ?)
「うわぁぁ!!!」
声の主を幻視するがとても奇妙な形をしている。頭?は私達に似ているがそれ以外はどこをとっても似ていない。棒の様な物は何だ?それに色も黒い。これは魔物の攻撃か?いや、しかし避けろと・・・。
(そうだそうだ。避けて走って攻撃する手段を考えてもアレを・・・。先ずは外に逃げろ。ここでは分が悪い。そのあたりの箱を何個か開けるか運べよ。)
「なんだこれは!こんなもの投げつけても!」
(中身は武器だ。もしくは戦う手段?なんでもいいが邪魔なら中身だけでいい。さっさと外に出ろ。)
「扉は!?それがないと出られない!」
遠くで他の勇士の悲鳴が聞こえる。そして、斜面を登ろうにも蓋があり、降ろうにも光と魔物が待ち受けている!扉は!ここで死ぬ訳にはいかない!まだ勇士として何1つ果たせていない!
(劣化か・・・。他の能を捨て選択出来なくなり、あの方々からの力も借りられず残ったのは勇士のみ。それさえも見るに値しないとそろそろ離れそうである。貧弱極まりない。かつての落第点、青山よりもなお劣る。故に落第であり吾に行けと勅命が下ったか。)
「なんな話だ!生き残る為に何かしてくれ!」
(バカか・・・。吾は身体を持たずお前の中にある。故にお前がどうにかしろ。扱いは教えてやる。)
「扱い!?」
(そう、勇士ではなく救済者。それがお前の名となる故に覚えておけ。なに、死ねば別に移り次の救済者が現れるだけだ。嫌なら簡単に死ねば良い。)
勇士とはなんなんだ?私の中にあった強く気高く戦い散って逝った者達はこんな者と共にあったのか?扉はどこだ!こんな所でこんなわけの分からない奴の声を聞きながら死にたくない!




