473話　試着しに行こう　挿絵あり

　9月も一週間が過ぎたが慌ただしさは変わらない。まぁ、慌ただしくても日常業務として慌ただしいだけで緊急事態と言うものはない。巻き戻り妻と話て見せびらかすではなく、どうしようもない時は仕方ないと結論が出た。ただ、言い訳どうする問題が発生するわけで・・・。

　不死も不老も既に薬は出ている。売り払った薬は飲まれたし、夏目は不老の薬を飲んだ。なら、ダブルで飲んだとすれば話しは早いが元に戻るわけじゃないんだよなぁ・・・。夏目曰く不老であっても寿命は存在する。あくまで外見的に肉体的に老いがないだけで死期そのものは内包しているので、裏技の様にテロメアの延長を職でしないと死ぬ。

　薬に巻き戻りと言う効果がない以上、別の所理由を用意しないと薬の間違った認識を広めてしまう。そこで出した結論と言うのが頼りたくはないが魔女と言う職でなしていると言うもの。魔女なら薬を作れると思って選んだが作れなかった。代わりに戦闘狂じみているが、モンスターに厄災をもたらす職だからとするなら話しは通りやすい。

　実際モンスターは狩りまくるし強制的に従わせられるし、モンスターにとっては厄災でしかない。それをもたらす者はモンスターがなくなるまで朽ちないと言う話なら、そこそこ信憑性も増すんじゃないかな？EXTRAが他におらず、ダブルEXTRAと言う話は国際会議で宣言して交渉権譲渡不可能の理由にする予定だし、多分突っ込まれても大丈夫だと思いたい。

　ただ、ダブルEXTRAって俺の後に多分出ないんだよなぁ・・・。上位の職が統合されるか、EXTRAしか適性がないと言う事は他の可能性がゼロと言う事。つまり、どうあがいても誕生しない。う〜ん・・・、俺って仕事辞められるのかな・・・。年金もらって悠々自適な老後を過ごしたいし、年老いる妻と元気な内に思い出を多く作りたい。

　ま、まぁ？ギルマスの仕事を押し付けて交渉とかスタンピードの時だけ顔出せばいいよね？ゲートやらモンスター退治は俺の仕事だがギルド運営は乗りかかった船で、厳密には講習会終了で解放されててもいいはずである。だけど終わって無職と言うのも困るし、雄二達の事もあったのでこうしてマスターしている訳で・・・。

「て、テストが！明日からのテストが！」

「今更焦っても仕方ないなぁ〜。やれる事をやったなら後は問題を見て考えるだけだなぁ〜。」

「ならお兄ちゃんが問題を出してやろうか？」

「ダメです！混乱するです！」

「でも、ソフィアは授業にはついていけてるんでしょ？内容が分からないなら焦る気持ちも分かるけど、分かってるならそこまで焦るものかしら？」

「でもですねお母さん。私は日本では初めてのテストですよ？廊下に立たされる生徒は見ませんでしたが、点数を廊下に張り出すんですよね？」

　ソフィアの焦りはそこか。ただ、俺はそんな光景見た事ないけど本当にやるのだろうか？県が違えばないとも言い切れないから、俺は不用意な事も言えないな。ただ、学生の頃は友達と何点だった？とか、勝負しようぜ！やら昨日勉強したとか？山張った！なんて会話はよくしたな。

　本当かは知らないが一夜漬けが上手い奴はそれで乗り切っていたし、何事も要領なのだろう。1年生から入学していればテストの傾向とか先生の癖も分かるのでやりやすいが、一週間でそれを見抜けと言うのは酷だ。ただ、ソフィアに対してフェリエットのお姉さんムーブは留まる所を知らない。

　勉強は教えてやれるし、肝が据わっているのかテストにも動じない。べったりと言うわけではないが護衛と言う立場も忘れずにフォローしている様だし、責任感と言うものがちゃんと見えて来る。まぁ、猫だと老衰で死んでもおかしくない年齢なので、ある意味考えが年齢に追いついてきたとか？

　学校での話を聞く限りでは友達も出来た様だし馴染めている様で一安心。部活どうする？と言う話はまだ決められずにテストの後に考えると保留している様だがステレオタイプに考えるとチアリーダーとか？なんか白人の部活って言うとチアくらいしか思い浮かばない。しかし、ソフィアがチアをやるとなるとフェリエットもチアをする事になるが、ポンポンを振るよりも追いかけてるんじゃないかな？

　　

　　

　どちらにせよ2人共美人だから運動部系の男子はやる気が出るんじゃなかろうか？動機が不純でも努力は努力だし、いい所見せようとか、活躍してやろうと言う意気込みがあればそこそこいい成績が出るんじゃないかな？まぁ、本当にチアをやるかは知らないが。

「ソフィア、焦りすぎても空回りするから自信の待てる材料を探すといい。この公式は完璧とか、この問題に対する答えは完璧とか。分からない部分を不安に思い続けるよりも確実な部分を多くする方が結果としていい点が取れるぞ。」

「完璧な部分・・・。フェリエットぉ〜、私の完璧な部分ってどこです？」

「そのおっぱいは完璧に巨乳で間違いないなぁ〜。莉菜よりも大っきいなぁ〜。」

「違うです！おっぱいじゃなくで勉強です！」

　じゃれているというか猫にあしらわれていると言うか・・・。息子はフェリエットの言葉で居心地悪そうにしているが、妹の胸を見ない様に目を逸らしている。まぁ、大きかったら目が行くのは仕方ない。なにせ記憶を辿って行くと最初に飯にありつける場所は胸で、そこで母の温もりと安心を感じたんだしな。

　そんな夜を過ごしギルドに出勤して何もない1日を！と意気込んでいたらラボからと言うか遥からメールが来た。内容的には宇宙服が仮完成したから試着して意見が欲しいとの事だか、確かに渡したデザインはかなり作るのに手間暇かかりそうだし、モンスターの素材使用NGなので面倒と言えば面倒なのかな？

　ただ、雄二にあげた絵はなんでそうなったか知らないが、東京ギルド入口に飾られて『作：クロエ=ファースト寄贈』と絵の下に俺の名前が書かれている・・・。うん・・・、俺に絵を頼まないでね？魔女は絵を描けるが俺は下手だからね？デフォルメすれば犬とか猫は描けるけどそれでも下手だし・・・。字はそこそこ綺麗だけど、やはり曲線がダメなのだろうか？

「昼1ラボに行く予定が出来たけど何か言伝とかある？」

「ラボですか？今だと統合基地で色々済んじゃうんですよね。薬の引き渡しもそこで出来ますし、他国の人が売買する時もゲート外じゃなくで統合基地でって話も多いですし。」

「護衛わんさか連れてくるよね。上昇アイテム使って5階層から退出ゲート探して帰る事になるけど、その5階層も危ないって判断なのは喜ばしい。」

「油断は禁物ですからね。中位だって棒立ち無抵抗なら瞬殺されるから安全対策は必須ですよ。」

「いくら雑魚とイメージしても本質的に攻撃が当たればダメージだと思うし、抵抗しなければ死を受け入れるしかないからね。ギルドとしての薬の在庫は必要水準で備蓄してるし、安価エナドリもガンガン増産して自動販売機で買えるからそこそこ小さい怪我なら事前準備で対応出来る。てか、安いからってエナドリバカ売れなのはどうなのかな？」

　ゲートから出る薬は最低でも金額20枚からだが、高槻の作るものは増産しているので半額くらいで安定して買える。エナドリは自動販売機で売るとして統合基地の物は金貨1枚で提供しているのだが、安すぎるせいか来た人が山の様に買っていく。

　いやね、自動販売機にお一人様1本の張り紙を貼る羽目になるとは思わなかった・・・。売店では6本パックも用意しているのでそれを買えばいいし、もっと欲しいなら直接問い合わせとなる。因みにギルドの自販機では500円としてあるが、金貨ならやはり1枚。ボッタクリと言われるが嫌なら換金すればいいだけだしないなら諦めろ。

　毎日健康と言いながら爺様婆様がエナドリを飲んでは走っているので、多分価格は変わらないだろう。てか、獣人が結構話を聞いてくれるからと人よりも獣人に長話をしている。ある意味職に就く準備とも取れるのかな？世間話だろうと昔話だろうと知見を広める事には変わりないし。

　そんな話を望田として救護室にも一応、必要な物はないか確認を取りゲートへ。神志那は付いて来たいと言っていたが、政府から獣人教育アプリの事で話があると言われて付いてこれなかった。

　セーフスペースでさっさと馬を捕まえ走らせる。ゴールのイメージは俺の旗なので複雑な気分だが、走らせた馬が止まれば多分直下付近だろう。底面が鏡張りなせいで暗い中だと割とステルスしている。運んでくれた馬はサクッと潰して指輪に収納し、電話しながら飛行して行けばラボが見える。しっかし必要とは言えあの旗は下げて欲しいな・・・。

「久しぶりお父さん。」

「久しぶり、遥も元気そうだな。やけに晴れ晴れとしてるけど何かいい事でも？」

「いい事って言うか36階層までこの前行けたのが一番嬉しいかな？あそこって繭っぽいモノが結構取れるし魚もいるからね。」

　嬉しそうに話しているが娘も中位、そこに行けるだけの情熱があって歩みを止める事が出来なかったのだろう。次に家に帰ってきた時にはお祝いでもしようかな？

「おめでとう、おねだりするならしていいぞ。」

「それは考えとくね。さて、それでは早速試着しに行こ！」