467話 登校初日 挿絵あり
ギルドの祭りは盛況に終わりゴミ等もそんなに出なかった。やはりと言うか分別せずに大きなゴミ箱を用意したのが良かったのだろう。容器なんかのゴミは山盛りだがゲートに投げ込めばそれで片が付く。最近はごみ処理場も焼却施設は廃炉路線で回収メインとなり集まったゴミはそのままゲートに処理してもらうと言う方針。エコやリサイクルと叫ばれてはいるが、本質的に人は面倒臭がりなので適当に投げ込んでも消えていくゲートは大助かりな様だ。
ただ、消費と供給に目を向けると原材料をゲートから取ってこないといけない場面もあるので、効率的なリサイクル技術そのモノは研究され続けている。筆頭と言えばいいのか生ゴミなんかは治癒師や魔術師:土が土葬してバクテリアを急激に増殖させるバイオマスを試したり、調合師が成分を弄ってプラスチックを溶かしたりと様々。過激な所は魔術師:火を集めて全て灰にしてもらうなんて話もあるが、大気成分分析装置の開発が完了すれば大気汚染の問題なくなるのかな?
設計図として発見された装置だが危険性は少ないと開発路線になり、国外への公表もされて各国が開発に乗り出している。ただ、設計図の内容はオール日本語なので研究する=言語学者を呼ぶか日本人をチームに加えると言うのが通例の様だ。確かに設計図は丁寧に書いてあるのだが、それでも解釈は人によりけりな部分もある。完成すれば大気の分析から調整まで出来るらしいが、神志那の言う様に本当にテラフォーミング向けの装置だな。因みにこれの開発を最優先としているのは中国や乾燥地帯の国々、名を挙げるとネパールとかだったかな?
アラブ系の国々は石油価格が下がって打撃が大きいので、今のうちから技術力を高めると国家予算をかなり研究分野に突っ込んでいる。と、言うかほとんどの国が科学研究やら教育に予算を割り振っているので戦争やら紛争をする資金はかなり削られている。
『戦争するくらいなら、その資金を技術開発や教育に充てる!』そう宣言している国は多い。実際教育と技術開発が揃わないと国として落ちぶれて行くのは明白なので、それを宣言出来ずにスィーパーを集めて戦争やら侵略しようと企てる首相に後ろ盾は付かないし、国民からも反発やら襲撃を受けた様だ。
笑っていいのか分からないが、市民の訴えを聞かずに政府軍で鎮圧しようとした所は結局政府軍も国民側に寝返って無血開城となった。仕事をする国連の発表曰く、ゲート出現以降人同士の戦争行為の推移は有史以来最も低いらしい。まぁ、戦争で人が死に国力が落ち込んだ所にスタンピードが発生すれば、最悪国はなくなるし少なくとも敵対していた国はスタンピード対策に協力はしてくれないだろう。
話は逸れたが盛況に終わった祭りは来年もやろう!と言う声が多い。昼間は見に行かなかったが半分位の人は上半身水着やらでウロウロしつつ定期的に降る雪で涼を取ったり、温泉から運ばれた湯を浴びたりしながらずぶ濡れで楽しみつつ商品をみて回る。選出戦以降、大規模なパワードスーツ展示会もなかったので地場企業含め展示品も多く、小さな子供は目をキラキラさせて見ていたとか。
確かに宇宙刑事シリーズは放送しなくなったが戦隊モノはやっているし、ロボットアニメもやっている。最近のスタンダードは小型志向で大きくても5m位と設定されている様だが、操縦システムがレバーを握る方式からほとんどトレースシステムと言うか、人がそのまま身体を動かして操縦するシステムに変わっている。
必要かどうかはさておき、アニメの登場機体をそのままパワードスーツに落し込んだりもしているので、配信を見ると真面目に戦いつつもどこかコスプレ特撮アニメに見えなくもない。まぁ、ビームやら触手での切り裂きやらで半壊して血塗れの中の人が見えるのはリアルと言えばリアルなのだが・・・。まぁ、子供から大人になった時にパワードスーツを同じ様にキラキラした目で見られるならスィーパーとしての道を歩むんじゃないかな?
「き、今日から学校です!大丈夫ですか?」
「ですかと聞かれてもなぁ・・・。勉強内容的にはついて行けると思うし、フェリエットと同じクラスに編入する予定だからそこまで問題ないとしか・・・。今日は莉菜が送るし何かあれば学校からも連絡が来るだろう。と、言うかフェリエットはその荷物全部持ってくの?」
「指輪使っていいなら楽だなぁ〜。ほとんどは食べ物だなぁ〜。」
「知ってるよ、昨日一緒にボストンバッグに詰めたし。保健室で備蓄する用だから食べ尽くすなよ?後、指輪や職は緊急時以外使わない事。その指輪は獣人用のデジタルタグって話で話はまとまってるから学校で誰かに聞かれてもそう言う事。」
特に獣人がやらかしたと言う事件は聞かない。だが、もしもの為と政府からスィーパーのドックタグの様な物を用意すると言われて、出来たのがこのデジタルタグ制度。フェリエットは今の所付けていないがモデル校に通う獣人は試験的に指輪はチョーカー、或いはイヤーカフスを付けて誰がパートナーか分かる様にしてある。
この試験が順調に進めばやらかした際の責任者もすぐに分かるし、被害者との話し合いもスムーズに行くと言う話である。獣人用の法律は今の所全部パートナー側に責任がかかるし、早期に憲章を発表して獣人達に啓蒙もしたい。まだ犯罪事例のない今が1番受け入れやすい時期だろう。
まぁ、犯罪がないと言っても腹減った獣人が会計前にパートナーがくれたと思いお菓子を食べてしまったなんて話はたまにあるし、人の家の果物を木から取って食べてしまったなんて話もある。ほとんどは悪意もないし話し合いで解決しているが、増長してもいい事はないのでデジタルタグ制には賛成かな。
中には金銭で解決せずに獣人本人に畑を荒らす鳥を撃退させたり、収穫を手伝わせてバイト代わりにそのまま雇い入れるなんてケースもある様だし。獣人が増えて人との関わりが密接になればなるほど野性的な行動は社会的行動から外れるので責任の所在だけはハッキリさせとかないとね。
「そろそろ行くけど準備は大丈夫?」
「大丈夫なはずです。」
「朝ご飯いっぱい食べたから大丈夫だなぁ〜。憲章の内容は出来るだけ守るなぁ〜。」
「分かった、何もないと思うけど学校生活をぼちぼち楽しんでこいよ〜。」
夏制服を着た娘2人が妻と共に玄関を出るのを見送る。中学校の制服なんて息子で見納めだと思っていたが、なかなかどうして感慨深いものがあるな。ソフィアは少なくとも高校まで通うとして約4年半、フェリエットは高校まで護衛を継続するか分からないが、学校に通うモデルケース獣人とするなら多分通うだろう。
外で望田と出くわしたのか互いの挨拶の声が聞こえる。人数が減る予定だった我が家は人数が増えてまた慌ただしくなりそうだし、娘達が友達を作ればその子達も寄り付く様になるだろう。まぁ、家は住まないと急激に朽ちるとも言うしいいのかな?息子は先に家を出てお見送りに立ち会えない事を嘆いていたが、知らぬ間にシスコンとかになってなければいいが・・・。
息子はさて置きこれからの学校生活と言うか獣人との関係を考えると、獣人の子供が生まれていないので何とも言えないが、政府側の考えとしては学校卒業資格の有無で獣人の1人暮らしも可能にしようと言う話もある。まぁ、仕事してお金を稼ぐなら国民としての義務は果たしていると言う事かな?法律的には人の物で問題ないし、何かあればギルドが駆け込み寺となるのだろう。
喜ばしい事に悪徳金融や詐欺師はどんどん捕まるし、警察が提出する証拠も揺るぎない物が多く、雄二が言う様に弁護士が弁護せずに示談金で揉めた時くらいしか出て来ない場面も多い。まぁ、それも事案ごとの上限が決まりつつあるし、AI裁判で私情を考慮せずに判決を出し納得いかなければ人を入れて再度話し合いなんて方式も検討されている。
情状酌量の余地を決めるのは結局人でしかないが、それはもう弁護士ではなく本人の主張と裁判官の判断だろう。なにせ法律的な瑕疵は分かっているし証拠も揃っているのだから。
「ツカサー、そろそろ行きますよ。」
「さて、私もギルドに向かうとするか。」
ーside ソフィアー
「窓側の席ならそのまま寝てサボりたいなぁ〜。」
「駄目ですフェリエット、休み時間に寝るのはいいですけど授業は真面目に受けないと怒られます。」
「そうね、ソフィアからフェリエットが寝てたって言われたら・・・、晩ごはんを減らそうかしら?」
「目を見開いて黒板をみるなぁ〜!ご飯が減ったら外にネズミを取りに出かける羽目になるなぁ〜!」
「それもやめてね?害獣駆除は嬉しいけどネズミとか食べたらお腹壊すわよ?」
「薬を飲めば大丈夫だなぁ〜。でも、ネズミは不味いし鳥は焼きたいなぁ〜。」
「えっ?食べたです?」
「舌が肥える前は食べたなぁ〜。まずくてすぐに投げ捨てたらカラスが持っていったなぁ〜。」
お母さんが運転する車内で話すけど、フェリエットの溢れる野性味が!私のモザイクの様な記憶はここ1〜2ヶ月のはっきりとしたモノ以外浮かんでは消える泡の様で、首元にあると言う感覚以外ありません。それは多分、私が過去と別れたからかな?
特に古い記憶・・・、前のお母さんの手の温もりや歌声は聞こえてもその後どうなったのかは曖昧でお父さんが・・・、司が迎えに来てから今の私として生まれる間の記憶も朧気です。多分、夜にたまに見る夢や首元にあるクリスタルが記憶の鍵だと思うけど、今はそれに触れたいとは思いません。それよりも転入生としておかしくないかが心配です!
横にいるフェリエットは肝が据わっているのか足をパタパタさせながら窓の外を見ていますが、何度も歩いて確かめた学校への道は楽しみよりも今は不安が多い。おバカにならない様に必死に勉強しました。同い年の子は近くにいなかったから話は聞けなかったけど、兄ちゃん達やお姉様方に話を聞いてシュミレーションしました。
買ってもらったスマホにはお父さん達の番号や藤のモノが入っていて『学生ならこれが参考映像になるでござるよ!』とアニメも教えてもらいました。やっぱり私も謎の転入生として学校デビューした方がいい?包帯はないですけど、代わりにハンカチでも巻けば・・・。
「気軽に行くなぁ〜。いるのはガキンチョだから普通にしてればいいなぁ〜。」
「でもあれですよね?竹刀持った体育の先生とか、もの凄く権力持った生徒会とか、生徒だけど実は凄腕の兵士で昼に銃を撃ちながらコッペパンを要求したりとか、宇宙人の女の先生が生徒と恋愛したりとか、クラスの人からいないものとして扱われる眼帯つけた女子生徒が・・・。」
スパンっ!!
「なにするですフェリエット!」
「紙を折り畳み扇状に広げ、持ちての部分をガムテープで補強した物で頭を叩く。平たく言うとツッコミだなぁ〜。昨日真面目に計算していい音と耐久性が最もある仕上がりにしたなぁ〜。」
フェリエットからハリセンで頭を叩かれました!無駄な努力を語っていますが、音の割に痛くはないです。おかしいです、藤から勧められたアニメではそんな感じばかりでした。なら、日本の学校はそんな感じのはずです!
「そんなアニメみたいな事はないわよ?あるとすれば学校の七不思議を調べて悪霊に取り憑かれるとかかしら?」
「莉菜〜、それもないなぁ〜。悪霊とか見た事ないなぁ〜。」
「あら?私が学生の頃にコックリさんしたら猫に取り憑かれて四つん這いで走った子はいたわよ?」
「それは多分冗談だなぁ〜。死んだ奴はさっさと土に還っていなくなるなぁ〜。」
尻尾をパタパタするフェリエットは多分私を和ませてくれたんだと思います。でも、宇宙人が本当にいるなら多分さっき言った内容も本当にありますよね?どこかの学校では・・・。学校の裏に車を止めお母さんとフェリエットと一緒に職員室へ。担任と紹介された先生は若い女の先生で英語を教えているそうです。
「葛城といいます・・・。その〜、何かあったら気軽に言ってくださいね?フェリエットちゃ・・・、さんはお腹すいたら保健室に行ってね。」
「よろしくです葛城先生、黒江 ソフィアです。分からない事はどんどん聞くので教えてくださいです。」
「黒江 フェリエットだなぁ〜。ぼちぼちやるからぼちぼちお願いするなぁ〜。」
「特に問題を起こす様な娘達ではないですけど、悪い事したらビシバシやってください。お願いします。」
お母さんが頭を下げるので一緒に下げますが、先生が明らかに私よりも小さいです。でも、お母さんと一緒くらいの身長があるので私の方が育ったと言えば多分育ってる?日本人だけど外人から見た日本人はやっぱり身長が低いですね、お父さんも小さいし。
お母さんは仕事があると学校を後にして、私とフェリエットは先生に連れられて教室へ。私とフェリエットは2-Aの生徒となる様です。でも、なんでフェリエットはハリセンを直さず腰にぶら下げてるんでしょう?邪魔だと思うですけど、実は授業で何か使うんでしょうか?それに廊下を歩いていると他の教室の生徒から見られます。何か変かな?家を出る前に鏡は見たので大丈夫なはずだけど・・・。
「それじゃあ私が先に入るから呼んだら入って来てね。ど、どこにも行かないよね?」
「いかんなぁ〜。」
「待ってるです。」
何やら先生が念を押しますが何かあるんでしょか?先生が入り扉が閉められガラス越しに中を覗いていると声が聞こえます。お父さんが人前は嫌というのが分かるです。
「え〜、夏休み明けに皆さんと再会できた事、先生は嬉しく思います。宿題はしましたか?提出期限は各教科ごと先生によって違うので遅れない様にして下さい。先生が文句言われます。と、言うか先生の話聞いて〜!廊下ばっかり見ないで〜!」
「先生!廊下の人の紹介早く!絶対あの人でしょう!?」
「地方の全中学生が泣いた・・・、美人の度合いで勝てない・・・。」
「分かりきった結末でした。そもそも比べるだけ無駄と言うか・・・。」
「オレ、多分一生分の幸運を今使ったと思う。」
「お前らの叫びを僕が以下同文と叫んでやろう!アイドルが同じ教室にいるってこんな感じなんだろうなぁ〜。」
「そりゃぁね!そりゃぁ先生も同じ女性としてビックリしましたよ!スーパーモデルかと思いましたよ!どこかに行かないうちに紹介します。今学期より新しく2人がクラスメイトとして同じ教室で勉強する事になりました。ソフィアさん、フェリエットさん入ってきてくださーい。」
先生が私とフェリエットを呼ぶけどどうしよう?な、何か面白い事とか言った方がいい?でも何か・・・。
『ソフィア・・・、ソフィア殿・・・。』
『藤師匠!』
『ここは鉄板ネタで勝負するのが寛容ですぞ、ですぞ、ですぞ・・・。』
師匠の助言痛み入るでござる・・・。羽団扇で長い帽子被って袈裟みたいなのを着た藤から電波で助言をもらったから多分大丈夫です!
「さっさと入るなぁ〜。」
「あぁ~!心の準備がぁ〜!」
痺れを切らしたフェリエットがさっさと扉を開けて入ったので、それに連れられて入ると人の目が〜、目が〜!大丈夫です、ちゃんと見えてます!緊張しながら歩くと先にフェリエットが立ち止まったので追い越すように先へ行き止まります。多分皆さん歓迎してくれてるとは思いますよ?
「では、お2人共自己紹介を。」
「黒江 フェリエット。ぼちぼちやるからぼちぼちよろしくお願いするなぁ〜。」
「おはようごじゃいマース、黒江 ソフィアです。この中に宇宙・・・。」
スパンっ!
「フェリエット!挨拶が終わってません!なんでツッコミをするですか!」
「古いネタは止めろと啓示が下ったなぁ〜。皆さん、ソフィアは残念な奴だが仲良くしてくれると助かるなぁ〜。」




