461話 外見は不要
「確かに長期で潜られればそれだけ増える。フィン君は画面の向こうだがどうだい?種族は違えど獣人が魔術を使っているが。」
「ウチのパートナーは魔術師じゃないから魔術に触れる機会そのものがないんですよ・・・、興味があるなら宿舎で習ってもいいとは言ってるんですけど・・・。」
パートナー問題か。確かにパートナーが魔術師ではなく近くに魔術師がいないなら習う機会もない。それだからと言って魔術を教えるノウハウがあるかと言えば答えはNO。フェリエットの場合本人が偶然とは言え使う事が出来たからそれを伸ばした。でも、使えた条件って言うと必要に駆られたからなんだよなぁ〜。水が掛かるのが嫌だから水を遠ざけようとして水を操作したし。
「レディクロエ、魔術を教える方法としてフェリエットさんには何を?」
「あ〜・・・、神志那さんの見解は何かあります?或いはフェリエットの意見は?個人的な見解はありますが、あまり勧めたいものではない。」
「状況を考えると私もそれ言及したくないよ。」
「なにか問題のある方法であると?」
「ちょっと嫌な事を回避したなぁ〜。水が顔に掛かるのが嫌だから水を遠ざけたなぁ〜。でも、好きな事をしてても多分上手くなるなぁ〜。」
「長所を伸ばせばいいと?犬人なら穴を掘らせればいいのかな?フェリエットさん。」
「ミルクたっぷりのお茶のお礼・・・、多分犬人はそれでいいなぁ〜。私は出来る事をどんどんしたいから練習してるなぁ〜。でも、そうじゃないなら遊んでると多分自然と覚えるなぁ〜。」
よく言ったフェリエット!増田との模擬戦もあったから無理矢理な方法を取ったが、本人が遊びながら覚えられると言ったらそれが正解になる。確かに顔に水が掛かると言うのは遊んでいた結果に過ぎず、風呂には普通に入るしこれと言って特別な取っ掛かりを作ったわけではない。
やはり最初の1つか。物事が出来る、魔法が使えると言うイメージが出来ればそこから発展させていくと言う方法が本来のルートで、縛り上げて魔法を使わせると言うのは良くない方法なのだろう。まぁ、それでも結果が出るから困っていると言えば困っていたのだが。
「魔術を見せつつ本人のイメージを伸ばす方針か。確かに火の魔術を覚えさせるのに焚き火をされては火事の心配もある。フィンには私から土や風を教えていくとしましょう。無理矢理やると本人にやる気がなければ潰れてしまいそうだ。」
「ええ、そうなります。ただ、獣人の魔術は発展途上なのでくれぐれも過信しない様に。」
「だね、戦闘時のデータもあるから渡すけど魔術だけで戦うよりも、止めを刺すまでの道筋で魔術を使うって感じが多いかな?クロにゃんの方針としては比重を気にしてるから両方伸ばしていきたいって方針だけど、英国ではその辺りって気にしてる?」
「気にしてない事はないですが、そもそも魔術が使えない状態では使う以前の問題です。最初の魔術が使えなければその獣人は近接寄りになっていくでしょうし、上手く魔術の取っ掛かりが掴めれば両方使う様になる。仮に何か指針があるとすれば武器とかですか?」
武器か・・・、フェリエットの武器が特殊かと言われると迷う。どの武器も形状は特殊なのでストレートに杖やら銃っぽい物が出る方が希少と言えば希少だし、俺の武器なんてキセルである。それを考えると獣人の武器もまた変わった形なんだろうなぁ・・・。人は牙も爪もなくなったからマニキュアでは武器たり得ないが、獣人ならそれは武器としてあるものと言う判定なのだろうし。
「フェリエットの武器はマニキュアです。爪や髪に塗ればそれが武器になる。ただ、汎用性がある反面壊れやすさもあれば長時間の戦闘に向きにくい。」
「マニキュア?フィンの物は確か・・・。」
「これです。」
画面の向こうのフィンが出したのは篭手。寧ろクロー?爪が伸びていて握り込む事は出来そうに見えるし、強度を上げる為か三つ指で爪も3つ。イメージすると鳥の足とかだが、親指だけで爪1つを担っているのて握り込める。長さも肘まであるが盾師の盾の様に硬くは見えずどちらかといえば肉壁スーツ的な印象かな?
「フェリエットも出して・・・、彼女の物はこれです。飲んでも害はないとされていますが進んで飲みたいものではない。また、無機物、例えば既存の剣等には塗布出来ません。確認しただけなら魔法糸ならいけるかな?と言う所ですね。」
嫌がらせなのか武器のお株を奪われたくないのか、それとも有機物を武器としたいのか?とにかく無機物に塗ると滑り落ちる。増田は嘆いていたが俺も嘆きたいよ・・・。仮にこれが銃弾に塗布出来て武器として有効なら、今ある兵器をゲート内で使って消費する手立てもあったのだが、駄目だとなると死蔵するしかない。
実際今の武器メーカー、例えば銃製造会社は銃を作るが銃弾の生産ラインはほぼ稼働しなくなったし、ミサイルを作る会社も生産ラインをどんどん減らしている。なにせゲートから出るものは無限で銃弾を供給してくれたりするしね・・・。
一応国防用として作りはしているが、兵器使用から別用途使用にシフトチェンジして技術を残しつつ生き残りを模索している。まぁ、人が人を殺す道具を作るよりはそちらの方が望ましいと言えば望ましい。自衛隊も戦車開発をやめて高機動車両開発に舵を切っていたりパワードスーツ開発に力を入れているので、次の戦争があるなら有視界戦闘がメインだろう。まぁ、降下ポイントを選ばないのがミソと言えばミソだが・・・。
「やはりと言うか武器は特殊な様だ。流石に液体サンプルを貰っても意味がないので拝見だけにとどめましょう。さてと、有意義な時間でしたがそろそろお時間かな?」
昼過ぎから意見交換を行ったが確かにいい時間といえばいい時間なのかな?時差を考えると面倒だし、この後サイラスに何かあるのかもしれない。
「私達としてはサイラス長官に不要な時間を取らせるわけにもいかない。この後の予定があるならそちらを優先してください。手土産と言ってはなんですがこの土地の名産をどうぞ。」
結局何を手土産にしようかと思ったが唐揚げやらかぼすやらの土地の名産とした。本当は魔法を見せてもらった分、何かしら価値のあるモノがいいのだろうが、魔術師相手は難しいんだよなぁ〜。
「ご丁寧にどうも、あちらで頂くとしましょう。」
「ええ、これからも連絡を密にしたいと考えているので、なにかの際はこの番号に気軽に連絡してください。今繋いでる番号はここへの直通になります。時間帯次第ではいないのでその際はメールを残してくださいね。」
「・・・、よろしいのですか?」
「こうして来ていただきましたし何かの際に連絡を取るのは当然では?特に今は獣人関係で話し合う機会も増えそうですし。まぁ、公式発表等は私ではなく政府の管轄なので本当に茶飲み話程度ですけどね。」
「分かりました、ではレディ達さらばです。」
そう言い残すとフッと消えてしまったが準備は不要なのだろうか?まぁ、帰るだけなら元の場所はイメージが出来ているので楽なのだろう。中々気のいい青年?だったが本来の年齢は分からない。それはお互い様だし、これから先年齢で何々と言うのはさらに希薄になるだろう。なにせ、不老も不死も若返りもあるのだから。




