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街中ダンジョン  作者: フィノ


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462話 芽吹く 挿絵あり

「私としては出来ませんでしたと言う結果が出るのが喜ばしいんですけどね。取りに来いと言ってなら行きますと言われてすぐに日本に入られたら国境や入国管理の方法を1から見直す事になる。クロエさんもそれ、分かって言ってますよね?」


「当然ですよ。でも、可能性の話をするよりも実際に出来たと言う結果を見て考えた方が議論は前に進むでしょう?私はテレポートは出来ませんけどそれに似た事は出来る。」


「ファーストさんはテレポート出来ないと?自由気ままに世界を移動出来そうですが?」


「いやぁ〜、壁の中にいるって状態は怖いじゃないですか。私のイメージとしてテレポートは一度身体を分解して、別の場所で再構築しているものと考えています。その代わりテレポートの和名である瞬間移動は可能だと考えています。」


 同じ意味を指す言葉だがイメージは全く違う。瞬間移動はあくまで移動なので移動方法の指定がない。だからこそ、姿を消して最高速度で突っ走ればそれに似た事が出来る。その代わり、テレポートとなると変化しない身体と分解して再構築と言うイメージのせいで切れかけの電球の様にその場で点滅しているか、或いはそもそも出来ないと言うイメージに行き着く。


 まぁ、映画のザ・フライの様に何かが身体に紛れ込むのも怖いし、再構築するならするでその場所が本当に安全か?と言う疑問もなくならない。実際再構築してテレポートするイメージの人には砂埃とかあげてればいいんじゃないかな?再構築された身体の中に無数の砂があるとか有害以外の何物でもないし。


 それを回避したいなら手っ取り早くそこに割り込むのが一番かな?本人による割り込みで周囲の物を押し退ける。難点としては小さな物で移動出来るならいいだろうが、剣の通過軌道上にでも現れたら身体の途中から切り裂かれたりするかも。


 一番テレポートっぽい動きをしてるのは卓かなぁ?逆に雄二のは瞬間移動っぽいし。何にせよあの2人もギルドが落ち着いたからと中層に向かうと言っていた。簡単には死なないだろうがどう予定を組んでいるのやら・・・。


「なるほど・・・。私の動き1つが変化点になると考えてるんですね。」


「ええ。そもそも国境は人が定めたものでそれに多数が従うから成り立っている。しかし、それを何の制約もなく行き来き出来る人が増えれば、それさえも曖昧になる。お互い島国なので実感が薄いかもしれませんが、地続きの所はかなり曖昧にならざるをえない状況らしいですよ?」


 ソフィアの件で外務省関連のデータを山程読まされたが、無断で国境を越えるスィーパーを止める手立てはない。仮にやるとすれば国を囲む城壁を作る事だがそれは地下にも数十メートル伸ばさないといけないだろうし、空を飛べる者を警戒するなら屋根もいる。そんな密閉空間に住みたいかと言われたら悩むが、今の所国境撤廃の動きはないし国毎に法律も通貨も違うからメリットも感じないのだろう。ただ、シェンゲン協定なんかも既にあるので流れ的には拡大しそうだな。


 今の日本には全く意味のない協定だし、来るのに海を渡る必要があるので国会でもほとんど議題には上がらないが、実際に個人で出来る人を見ればその辺りの話も活発化するかも。まぁ、どこと協定結ぶかは俺の知る所の話ではないのでどうなるかは不明。やるなら米国からじゃないかな?その後ここでサイラスが証明すれば英国とも結ぶとか。


 航空会社の株はどんどん値上がりしそうだな。協定があっても個人で来れないなら飛行機や船を使う事になるだろうが、チケットをバカ高く設定すれば来る人の質も管理しやすいし、買えないけど用事がある人は統合基地周辺で話せばいいよ。そもそもロスから東京までファーストクラスだと110万円かかるし格安を探しても11万くらいかかる。それを考えるとゲートの中を馬で走れば無料なので、本当にそこそこの金持ちくらいしか観光に来ないんじゃないかな?スィーパーで稼いでるなら無理な額ではないが・・・。


「耳の痛い話ですね。獣人が職に就く話で国境の話しとは・・・。ただ、政府側から言わせて貰えば海路での輸送は目減りしてほとんどが豪華客船に改修されていますよ。船の維持費や人件費は高いですがその分空輸するより遥かに多くの物が運べた。でも、今は指輪がありますしねぇ。さて、サイラス長官はどうされます?私はこの会議で起こった事象に対してとやかく言うつもりはありません。単純に魔法使いが魔法使いに魔法を使って会いに来た。それだけの話として受け止めます。」


 松田としても興味があるのだろう。英国から日本へ来るのに飛行機で14時間くらい。海路での来るなら数日と言った所だが魔法を使えばどうなるのかと。でもまぁ、完全な個人技能だしなぁ・・・。


「フィンの件もあるので一旦ティータイムとしませんか?」


「英国の方はティータイムを大切にすると聞きます。どうぞどうぞ。引き合わせは1時間後でどうでしょうか?」


「近くなったら英国側からミスター松田へ連絡を入れます。それから再開としましょう。」 


 ジャスパーが通信を切り画面からファーストが消える。去り際に手を振っていたようじゃがあいくるしぃのう。これで狡猾さやら老獪さがなければええんじゃろうが、どうしたもんかのぉ・・・。魔法省長官と言えば聞こえはいいが、ワシは元教師で手慰みに物語を書く程度の人間。政治の駆け引きやらには疎いからジャスパーがおるし、あの場ですぐに日本へ行ってしまっていいものかの判断もつかん。しかし、会えるなら直接会って話してみたいのぉ。 


「ああ言うのをお人形さんみたいって言うんだろうな。ビビるくらい美人?可愛い?んだけど。え、同じ生き物だよな?ジャスパーさん。」


「同じ人間かは不明ですよエヴァさん。推定人間でしょうが個人情報は何1つ手に入ってません。配信等を見ると彼女もまた人ならざる者の使者である可能性も囁かれています。」


「外見が人なら人でいいじゃろ、少なくとも敵対はしておらんし。さてと、ワシはレディからのお誘いを受けたわけじゃが・・・、行くと不味いよな?」


「口調が戻ってんぞ師匠。行ってお資料もらって茶飲んで帰ってくれば済む話だろ?なにか不味いのか?お茶道具くらい何時も指輪に入れてるだろ?」


「私は時々お前の無鉄砲さが羨ましく思う。」


「同感です。流石に来いと言われて行ったら密入国で捕まると言う事はないでしょうが、技を1つ見せただけで何処まで能力が知られるかは分かりません。時間はありませんがこの場での見解は行かないと言う選択肢が妥当でしょう。ただ、それで機嫌を損なわれても事なんですけどね。」


「話した感じそこまで狭量ではないでしょう。これが初期の配信時の様な感じならその線も捨てられませんが、対話の内容や事の運び方からすれば理性的で且つ優しげに思える。」


「それはまぁ、言葉を聞いてる限りではそうですね・・・。ただ、獣人の職の話と国境の話を同時に出してくるあたり、日本側としても獣人を使い入国管理をしたいのではないかと推測が出来る。そして、その試験場を同じ島国である英国に求めているのではないかとも・・・。」


「う〜ん・・・、それって英国で試験してまずい事あんのか?地理考えたら日本の方が大急ぎで試験をしそうだけど?」


「確かにエヴァさんの懸念は最もです。日本は資本主義国家ですが隣国には社会主義国家があります。その上でラボが浮遊した時の配信を考えると急ぎたい気持ちもあるのでしょう。ここだけの話をするなら大使を日本に置き協力体制を整えると言う方向性の中で、国連本部に何か動きがあれば教えて欲しいとも言われましたし。」


「無作為に敵を作りたいわけではないようですね。少なくとも英国は味方チームと見てもらえているようだ。ただ、招待を断るとなるとそれなりの理由がいる。流石にパスポートがないは言い訳にはならないでしょう?」


「堂々と密入国しろって言ってるからな。そう考えるとやべー奴に思えてくるけど。」


「逆にお茶に招待するのはどうです?8時間ほど日本側が時間が進んでいるなら向こうは昼過ぎでしょう?英国式ティータイムにご招待するから来てくれと持ちかければあちらも難色を示すのでは?」


「日本側としてはファーストを国外に出したくないと言う方針ですから簡単にOKは出ないでしょう。その線で話を出してもいいですが、万が一お言葉に甘えると言われたら取り返しがつかない。来て破壊活動をする訳でないですが、もてなすにしてもウチの料理はアレですよ?お茶とお菓子だけでお引き取り願えるかどうか・・・。」


 行ったら行ったで何を見抜かれるか分からんし、来たら来たでどう対応するのが正解かも分からん。遠くから見る分にはいいんじゃろうが扱いには困るのぉ・・・。


「サイラス長官、仮に日本に行くとしてどの程度の時間がかかると推測します?」


「時間・・・。PCでファーストの居るギルドを調べ、周囲を見渡せればイメージが作れる。そしてそこに行くだけなら多分数分程度。流石に私も国を超えての移動はした事がない。」


 島を渡る程度ならいいんじゃが流石に日本までとなるとどうなるかのぉ?無理ではない。やり方は変わらんから後はイメージの構築次第となるがそれも手間ではない。やはり多く見積もっても10分あれば行けるじゃろう。


「その時間を引き合いに出しましょう。行けるけど行くには1時間程度かかる。だから今回は見送り獣人の話へ引き戻す。これならスマートではないですか?」


「確かにそれなら話は通用しそうですが・・・。」


「待つって言われたらどうすんの?」


「その時は・・・、急用が出来たとか?例えばこの後女王陛下への報告があると言うならアチラとしても無理強いはしないでしょう。・・・、しないといいなぁ・・・。」


「そこで弱腰になられると私としても困る・・・。」


「いっその事なる様になれで行くのがいいんしゃね?あっちで困るのは師匠だし、お忍びなら国際問題とかもないだろうし。なぁジャスパーさん。」


「お前は悪魔か!」


「確かに公式でない以上国際問題には発展しませんね。来たら来たで本当に帰ったのか調べる必要も出てきますし、獣人の情報を逸早く手に入れる事と移動を見せて不利になると言う事はない。」


「こらジャスパー!行かないのが妥当と言う話はどうした!?」


「いや、好印象をファーストさんは持たれているようですし、落胆されるのもまた耐え難いでしょう?」


「それはまぁ、確かに・・・。」


 想像するのもなんか嫌じゃのぉ・・・。喜ばしいと言ったファーストが落胆の色を顔に浮かべワシを見る。そこにあった期待も喜びも色褪せ、愚物を見る様に蔑まれる。想像するだけで何故か耐え難い。


  挿絵(By みてみん)


「確かにそれは耐え難い。」


「それに行けば獣人が魔術を使う様を直接見られるし、個人的にでも親交があれば何かの際に要請も出しやすい。」


「あ〜もう!分かった分かった、ジャスパー。ファーストの居るギルド周辺の映像は?」


「すぐに出しましょう。」


「なら私はフィンを呼んでくる。流石に待ちくたびれてるだろうからな。」


「分かったから行って来い。」


 行ってどうなるかは分からんが、来いと言ったのはあっちじゃ。なら、何かしらの手土産くらい用意しておるだろうし、普通に振る舞って怒られる事もないじゃろう。しかし、本当になんでファーストから落胆されると言うのがこんなにも嫌なんじゃろうな?



________________________

 

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「ほらフェリエットは寝ようとしない。休憩終わったらフィンと顔合わせして魔術見せたら後はご飯食べに行ってもいいから。」


「それならゲートで魔術を練習するなぁ〜。火と風は難しいなぁ〜。」


「獣がどうこうするものじゃないから仕方ないね。てかクロにゃんサイラスって人来ると思う?と、言うか呼び寄せて良かったの?」


「別に来ないなら来ないで構いませんよ。単純に長距離移動が出来る魔術師がいればスタンピードの時に援軍として期待出来るじゃないですか。まぁ、それに・・・。」


「冷水を私にぶっかけたかったんですか?寝てはないですが国防や国の在り方に一石を投じる話になりますよ?」


「でも松田さんと言うか、その議論って昔から政治家の中でありましたよね?」


「それは・・・。」


「クロにゃんは穏やかだけどやる事は過激だにゃあ。ま、日本の中位やスィーパーのデータ見ても島国だから安全って防壁はかなりガタが来てるからにゃあ。日本からどこかに行って試すのは中々ハードルが高いけど来てもらう分にはハードルが低い。そして、丁度いい所に身元もハッキリして悪さしたくても出来なくて長距離移動出来そうな人が現れたと。実際本当に出来るの?私としては半信半疑なんだけど。」


「中位に至るほど戦い両の職で魔術師を選ぶ。なら、それは適性もあるでしょうが魔術に対しての並々ならぬ憧れがあるんでしょう。そんな人物が転移魔法なんて言う最もメジャーで現代科学では無理なモノを試さないわけがない。それに、土と風なら有と無を扱えるんですよ?余程攻撃一辺倒でもない限り大丈夫だと思いますし、そもそもモンスターを狩る事をメインにするなら第2職は魔術師でなくていい。」


 ゲームでウンディーネ相手に水魔法使えばダメージ0か下手したら回復される。だが、それはゲームの話であって魔術師:水同士が戦えば回復はなくダメージも蓄積される。要は人が属性なんてものを考えてゲームと言うモノに落とし込んだが故にそうなるだけであって、雷は岩を砕くし純水なら電気は流れない。ゲーム会社は涙目で調整するしかないだろうが、科学の進んだ現実に魔術が入り込めば後は術者がどれだけ貫き通せるかだろう。


 兵藤と加納の模擬戦とか同じ水使いだけど凍らせる、蒸気にする、熱湯にする、高圧で撃ち出し浸透圧を上げる、水分を抜いて干からびさせる等々、ひたすらに荒ただしい。まぁ、至るならそれだけの信念があるから簡単には負けを認めないんだよね、中位って。


「そろそろ時間ですが英国からは・・・、は?」


「松田さんどうしたん?フィン君腹痛とか?」


「その様な事はない。レディ達の部屋に急に現れるのもどうかと考えたが、招待されたなら早い方がいいとこうして現れました。話の邪魔でしたか?」


 俺の座るデスクの前、パラリと天井から埃が落ちたかと思えばそこには画面の向こうにいた人物が立っていた。魔法陣なんてものはない。現れる兆候なんてあの埃くらいだろう。ただ、そこにあると言う事実が、彼が魔術師であり英国の魔法省長官であると言う事を伝える。


「いえいえ、種を巻けば芽吹くものです。歓迎しますよサイラス魔法省長官。」


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― 新着の感想 ―
[一言] クロエがザ・フライや壁の中にいるしてもきっちりより分けられるんだろうなぁ あと長官の反応見る限りメスガキクロエは対スィーパー戦闘能力高いよな というか新人相手ならクロエは表情だけで無力化し…
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