459話 妖精と魔法の国 挿絵あり
望田が帰って来て大きな騒ぎもなく数日。8月頭辺りに許可と言うか『祭りやらない?地域貢献で。』と言う話は許可したのでぼちぼち準備が進んでいるようだ。協賛企業と言うか商工会議所と連携を取り、出店したい飲食店や的屋の名簿も出来ているし、普段から露店を開いている人はそのまま露店を開く。
一応その露店を開いている人と言うかスィーパー側にはギルドから、するならその日だけは出店する旨を登録して欲しいと話を出しているので、管理もそこまで大変ではないだろう。風物詩とでも言えばいいのか、祭りの後のゴミも大きなケースを数カ所設置して最後にゲートに投げ込めばいいので散らかる事もないと推測されている。まぁ、そうでなくとも指輪持ちがいればその人が与ればいいだけの話だしね。
実際海外に多数あったスモーキーマウンテンはゲート出現以降姿を消し綺麗になったと聞くし、ゴミのせいで水質汚染のヤバかった川もかなり綺麗になってきてると聞く。やっぱり納豆だな。あの粉を使うと綺麗な水が作れるし、水箱を設置すれば水道ギャングから水を買わなくてもいい。
生活がある程度豊かにならないと環境に目は行かないし、ギリギリの生活の中で清潔にしろと言っても無理な所は無理。そもそもスモーキーマウンテンの中や周りにはスラムがあって、そのごみの山の中から使えそうなものを拾って売り捌いて生活していたのだから単純になくせばいいと言うものでもない。
飯を食う為には働くかどこかで食うものを取って来ないといけないが、その働き口も取ってくる場所もなければ詰み。だが、今はゲートがあるので文字通り一攫千金も夢ではない。その代わり賭けるものが命なので釣り合う釣り合わないの議論はさらに続く。
前に奏江と作った防壁はそこそこ?機能と言うか来訪者がいるようで攻略される可能性はゼロに等しいのだが、案内人を眺めている様な者もいるとか。間違った方向に8割誘導するのだが見ているだけなら大丈夫なのだろうか?寧ろ奏江が相当時間案内人といるらしいと聞いたが・・・。まぁ、仕事の一環で一緒にいると思いたい。
ただ、前に奏江と電子データを手繋で行い成功した事から、脳波トレースや記憶の読み取り技術が作れるのではと佐沼達がまた何かやりだしたらしい。ラボと提携しているしそのうちそちらの技術革新もあるのかな?『私に身体はない!ネットだけの電子生命体だ!』なんて話があれば面白いと思うが、人がそれに耐えられるかは微妙だな。
確かにネットの中に住むと言えば多数のデータに囲まれて見たいものを見れて暇はないと思うが、その反面何かに触れて実際に体感する事は出来なくなる。やるにしても仮想現実と現実を行き来する程度が丁度いいと思う。まぁ、好みはそれぞれなので振り切る人がゼロとは言わないよ。
「クロエさんクロエさん、どうですこれこれどうです?」
「祭りのはっぴか・・・、取り敢えずその絵を消せ。なんで私に似たイラストが背中に入ってる?祭り系は青山を信用して任せたがまだ早かったか。」
「今抜き取ったんでもうありません!しかし、祭りをするにあたって何かしらのシンボリックな物は必要だと言われて、向こうもゲートを模した丸の中に、デフォルメしたクロエさんのイラストがいいって言ってるんですよ。」
「そこはこう・・・、私もずっとマスターじゃないんだからギルドの建屋を描くとかでいいんじゃない?何回やるか知らないけどさぁ。」
「それだとただの棒線になりません?丸に縦の棒線、左右に中心線見たいに入ってる3本線はなんですかね?」
「この線は人やスィーパーを表したものらしいですよ?いろんな物が集まって調和するとかなんとか・・・。デザイナーがデザインしたから本人しか分からないですけど。」
確かに縦線にすると色々と文句が飛んでくるのでないにしても、他に何かないんかね?ドッグタグをシンボル・・・、回収=死だからよろしくない。しかし、ゲートだけでは味気ない。普通に絵の入らないはっぴって作らないのかな?
「まぁ、準備期間もないしデザイナーがこれって言うなら今回はそれで行こうか。しっかし、そのデザインだと祭りと言うよりはライブ会場とかのような・・・。当日はスタッフはそれ着るんでしょ?」
「その予定です。あと、可能なら襟が別色のはっぴを当日限定で売りたいって言ってましたね。」
「それは好きにして。もう、公式でもなんでも好きにして・・・。」
ふるさと納税とか前は返礼品目当てに他の県にしてたけど、これも財源扱いとかになるのだろうか?まぁデフォルメされた絵だしするなら好きにしてもらっていい。デザインや絵柄そのものは可愛いと思うし。そう、青山がはっぴ着てハチマキ巻いてペンライトを両手に持って嬉しそうに踊ろうとするから変に見えるだけなはずだ。
「夏休み期間も残り少ないけど学生行方不明者ってやっぱりいる?」
「喜ばしい事にいませんね。基本的にお金出し合って補助者着けたりして安全面は考えてますし。まぁ、怪我はこの際目を瞑りましょう。」
「それは仕方ない問題だしなぁ・・・。ただ、今回の事を踏まえると冬はギルド側からスィーパーに説明して、学生からの補助要請はある程度予算を組むとしよう。今は善意でやってもらう部分もあるけど実入りが少なければならない人や断る人も出て来そうだし。」
「金額面のゴタゴタはありますからね。ある程度納得出来る報酬体系を発表しましょうか。例えば箱の開封はせずに外で分配後にするとか、両者が複数人でも1対1で分配を規程するとか。」
「中で何があるか分からないけど、基本的にはそれがいいだろうね。ただ、奥に行ってる人でも上で新たなモンスターが確認されたら確認ついでに無料補助する人もいるし、自衛官や警官はは公務のうちって人もいる。まぁ、冬休みまでの課題だなぁ〜。うん?」
「俺は無料でもいいんですけどね。クロエさんの為に戦力増強!どんどん掃除をしてもらって至ってくれれば、それだけ暇が出来て俺とのお茶の時間も・・・。」
「分かった分かった、今日はここで飯食ってもいいしお茶飲んで話してていいから少し黙ってろ。電話だ。」
望田やニコニコしている青山と話していると固定電話に着信が。あんまりよろしくない。固定電話にかけてくるのはガチの案件のモノが多い。それこそこの通話は録音されてるので下手な事は言えないし、相手は政府の人間だったり自衛隊のお偉いさんだったり警察のお偉いさんだったりなのでそこそこ緊張する。安牌は他の本部長からだな。ラボが浮いた後に鬼塚からセーフスペースを大規模に掘って、外に土を持ち出してほしいって依頼があったけど大丈夫かなんて問い合わせもあったし。
その時は勝手に回復するのでどんどん掘って持ち出していいと返した。まぁ本当はどうなるか知らないが、仮にこのまま掘って土がなくなり階層面が剥き出しになるなら近道が作れる証拠となる。
「もしもし?特別特定害獣対策本部 本部長クロエです。」
「もしもし、松田です。今大丈夫ですか?多少込み入った話になりますが。」
「構いませんよ。今は地域貢献の話をしてました。それで込み入った話と言うと?」
「職に就いた獣人。これについて英国から問い合わせがありました。」
「ほう?問い合わせだけですか?誕生したではなく。」
「ええ。ただ、問い合わせがあるからには誕生したと考えるのが基本でしょう。向こうの狙いは情報交換であると見ています。それと、英国大使を日本に置きたいと。」
「あぁ、日本スタンピード以降日本にいるのって米国大使と、要請出しに加担しなかった大使だけでしたっけ?この前ガーナチョコレートが届きましたよ。これからもよろしくって。お返しに唐揚げ返してこちらこそとしておきましたね。それで、交換する情報内容は?」
「獣人の職についての情報や大使の設置要請、見返りは英国中位の職開示ですね。あちらの希望としては貴女と話す事を要望しています。一番詳しいからと。」
英国だと言語は英語か。確かクイーンズイングリッシュが主流でネイティブ・イングリッシュと多少の差はあるが通じない訳ではない。米国に行ったから英語が話せない事はないだろうと言う見方なのだろうがどうするかなぁ〜。ぶっちゃけ言うと中位の職開示が必要なのって国であって俺個人ではない。
しかし、どこかの獣人が職に就いたと公表したら日本もいると宣言するので丸投げも出来ない。さてどうするかなぁ。出せる情報はまだ神志那が調べた限りのものとなるし、深く話し合いをと言われても分からない事の方が多い。
「詳しいかは別として話はしないといけないですよね。そもそも英国の中位って誰なんです?いるとは聞いていますけど。」
「サイラス魔法省 長官です。」
「・・・、え?もう1度。」
「サイラス魔法省 長官です。」
知らない間にイギリスには魔法省なるものが出来たらしい。そうかぁ・・・、確かに妖精と魔法の国だけど本当にホグワーツっぽいものが出来ちゃったかぁ〜。それが出来るとどうなるって?イメージで戦うなら吸血鬼の様な肉壁とかワーウルフっぽい記者とかが生まれそう。
かなりメジャーな化け物だが、その反面イメージを作りやすいし、ルーマニアなんかはブラド公の話があるせいか槍師が多い。魔法の国が本格的に魔術を研究しだしたらかなり発展しそうだからパイプはあった方がいいのか。後から問い合わせてあの時蹴られたと言われたら関係は修復しづらいし。
「その会談は現地ではないですよね?」
「基本的にWebで行う方向です。対面を希望するなら統合基地となるでしょうね。」
「あ〜。相手の獣人にも会いたい気もしますが、こちらの有識者となると神志那さんなので対面は鑑定の面から止めておきましょう。画面越しの鑑定は精度が落ちますし。日本としては受けるつもりですよね?」
「ええ。会談そのものは受ける方向です。その中で貴女が大使にブチ切れていると言う現状が問題と言えば問題ですね。」
「なるほど、なら英国大使の件は政府に一任します。私としても預かり知らない誰かを怒り続けるのは面倒ですからね。獣人の件はWebでなら対面で話しましょう。」
「分かりました、その方向で話を進めるとしましょうか。では。」
「ええ、ではまた。」
到頭職に就けた獣人が生まれたか。話をすり合わせて確認すれば条件も見えてくるだろうし、あちらの獣人への接し方も見えて来る。まぁ、不当な扱いなら獣人は逃げ出し職に就くにしても他の場所でとなるだろう。
「職に就いた獣人が生まれたんですね。」
「うん、英国でね。多分公表したらまたゴタゴタしてくるよ。」




