455話 どう証明するのか? 挿絵あり
「あの馬中層にもいるのかな?前に赴いた時には全然姿見なかったし・・・。もしかして森だから馬じゃ移動できずに他の移動装置があるとか?」
望田達の報告で何かしらの話があると思う。実際中層の滞在時間だけなら俺よりも長い。セーフスペースたる退出ゲートを発見で来たと言うなら移動手段ないし木の実や樹木以外の収穫や発見もあるかも。しかし、森で速い移動手段となると・・・、猿とか蜘蛛とか?
安定性を取るなら猿よりも虫型だが蜘蛛かぁ・・・、決定しているわけでもないが他に人を運ぶのに適した形とはなんだろう?いや、最適化までされたから三輪車的な馬は卒業しろとか?鳥は無理だな。その場から滑走路無しで飛べるならいいが、羽がある時点で幅は取るしなぁ〜。航空力学考えると小回りと言うか曲がるのに旋回する必要があるだけで、あんな枝やら木が生い茂る所で乗りたいものではない。
「しかし、私としては山口女史ないし他の責任者になりうる人材を連れ帰らないとならんのです。米国でも回復薬は作られ精度も悪くない。だが、人の命に関わる物なら検品や責任の所在も明確にしないと怖いですからね。一応、本人には迎えに来る打診はしてるんですが・・・。」
「米国では半オートメーション化してないんですか?ウチだと原液を外で封入したりしますけど。」
「その原液の最終確認が問題と言うか、高槻製薬の社員がOKを出したものに限るって協定があるんです。まぁ、それを破れば粗悪品が横行する可能性もあるんですけどね。ただ、この協定は品質保証と言う面ではかなり高い。今回山口女史がラボに来ているのは協定内容としての緩和を社長に進言すると言う側面もあります。」
「向こうの人で責任者を誰か立てると?」
「ええ。それか米国でスカウトされてラボにいる誰かを責任者として出してもらうかですね。少なくとも正式な管理者が増えれば山口女史としてもやりたい事が出来る。」
「やりたい事?確かに多才な方だとは思いますけどなにかしたい事があるんですかね?」
「建築や建造方面と聞いてます。新しく米国ラボを拡張し生産量の増加や今回日本から開示された飛行ユニットをいじりたいとも・・・。」
「飛行ユニットの反響が半端ないですね・・・。ただ、NASAとは既に宇宙ステーションの共同開発を行う手筈だと聞いていますが?」
神志那から聞いたが斎藤と山口が宇宙エレベーターの建設方式を話し合ったとも聞いたし、噛みたいのは噛みたいのだろう。ただ、山口は調合師なので鍛冶作業は誰かに任せるとか?斎藤がうちに入る前は山口がラボの骨組みを組み立てて建設したとも聞いたし、何らかの手段があるのだろう。
「NASAもそうですがパワードスーツ方面です。宇宙空間で作業するなら飛行ユニットの扱いをマスターしないといかんでしょう?実際の運用は鑑定師がやって教えればいいとして、先ずはその組み込みと作成からです。」
米国だとアイアンマンとか作りそうだな。日本のヒーローはフルフェイスが多く、口元が見えると言うとライダーマンくらい?その反面アメリカンヒーローは何も被らないか、口元を出すが口の動きが見えるものが多い。例えばバットマンとかサイクロプスとか。これは日本人と違い外人が口元の動きで表情を見るからだが、リアルアイアンマンチームが出来たらどうするんだろう?
地上やゲート内ならいいが、高速移動を考えるとフルフェイス一択となるし声色で違いを感じ取るとか?スィーパーなら声から相手の表情をイメージ出来そうだが、視覚情報が最初に来るので目隠し訓練とかするのかな?
ドゥとか言う奴は仮面つけていたが、アイツだって多分目は見えているし常時鑑定もしているのだろう。そもそも統合基地には防音室や食堂に風呂、通信室なんかはあるが機密事項に当たるものは一切ない。これは他国からも人が来る事を見越して推定スパイを無くす為。ゼロの証明ではないが機密事項に該当するものがなければ取られたと言う事もない。
なのでここには鑑定師はいないし、いるのは食堂で料理する人と言うかS料理人や掃除や建物の管理者なんかをするスィーパーと獣人達。ラボをモデルケースに行き先のない獣人を雇い入れているが、フェリエットの件以外で職に就く者は聞かないのでここにもいないのだろう。
蛇足となるが料理人はモテる。それこそもう獣人にこれでもかと言うほどモテる。年齢や容姿は関係なく男女も関係なくモテる。ラボで見た半田の時は食堂から出て散歩と言うか気分転換していただけでほとんどの獣人から声をかけられたり抱きつかれたりしていた。女性獣人のアプローチにはまんざらでもなさそうだったが、ガチムチ野郎の方は若干引いてたな。
まぁ、距離感の分かるやつは横に座って話していたりもした。そんな中で獣人達も気の合う奴を見つけたりちょっと物陰へなんて事も・・・。ゲート外でも獣人ベイビーは注目されているが、先にラボでなんて事もあるかもな。まぁ、そんな中で半田はオヤツを小型の獣人に渡したりしていたのだが・・・。
それを加味するとここの食堂の料理人も獣人からはモテていたようだし、そもそもS職なので料理人は弱くない。寧ろ半田は1人でゲートを歩いて食材探索もするので強い。聞いた話では藤達と36階層にも行って魚を仕入れたりしているのでそれなりに腕前もあるな。
獣人の相手を選ぶ基準が強さと飯だと言うなら、同族は別枠だとしてもスィーパーを選ぶ時に料理人に勝てる奴が何人いるか・・・。そう考えるとうちのフェリエットは現時点だと相手を選びたい放題になる?ここだと風紀やら風俗問題がないのでたまに外人がいくら?とか獣人に聞いてる姿も見るし・・・。
「あれはコツがいるらしいのでこれからですね。私もパワードスーツ自体を使った事がないので何とも言えませんが。」
「え?何も所有してないんで?」
「自前で飛べますしゲートを潜る時には常に最前線なんですぐに壊れそうですからね。まぁ、ビームを無効に出来たりすると言うアドバンテージもあります。ただ、宇宙服は依頼しているのでそのうち完成品が届くかもしれないですね。」
そう言えば獣人の服って誰が支給してるんだろう?ラボだと好きな人が好きな服を注文して着せたりしていたが、ここも着る物はバラバラなのでそう言う有志からかな?或いは食堂や売店の売上で賄ってるとか?
「戻ったゾ。」
「いい湯でしたね。落ち着いたのか危うく寝て死ぬかと思いましたよ。」
「ブクブク沈んだ時は焦ったゾ。ウィルソン、グリッド達は?」
「まだ来ないよ。どうやら彼奴等の方が長風呂らしい。」
「なら先に始めるカ。と、言っても私達としては行って戦った以外になイ。強いて言うならグリッド達は間違いなく最適化されたと言う話だろウ。」
「そうですね、間違いはないですね。」
望田とエマが首からタオルを下げて黒いタンクトップにズボン姿で部屋に入ってきた。望田もエマも薄っすらと腹筋が見えるあたりかなり鍛えられたのだろう。実にTheガッツ!流石にツルハシ持って工事現場に行けとは言わないが、武器持ってモンスターと戦って来いとは言いたくなる。そんな2人が適当に座って話し出す。
「言葉だけではなく。なんかこう・・・、変化はないのか変化は。出来れば目に見えるものがいいんだが。」
「ある訳なかろウ。最適化は頭の中で起こル。その辺りのデータは日本と共同で出ていただろウ?」
「確かに外見的にはなにもないんですよねぇ〜。強いて言うなら職の取り扱い向上とかモンスターの声がなんとなく理解出来るとか。ただ、それを証明しようにもウィルソンさんだと下手したら命がけですよ?」
「よしてくれお二人さん。俺はまだ死にたくない。なにかいい証明案があれば・・・。」
「それなら米国スタンピードの映像を見せては?どうせ資料映像はあるでしょう?」
「流石に無音声ですよファーストさん。兵達の声や爆音はしてもモンスターの声を収集するには至らなかった。」
「そこは大丈夫ダ。私達がなんとか集音したからナ。たダ、米国主力予定パワードスーツは軒並みぶっ壊れたゾ。」
「おい・・・、それはドゥの物もか?」
「あれは仕方ありませんよ。電磁パルスで辺りを焼き払おうとしたり、いつ尽きるのか分からないミサイルを乱射されたり、槍みたいな弾丸なんて足場を荒らすから踏み台にしたら足に穴開くんですよ?」
「ドゥがミスってたナ。みんなで馬鹿笑いをしたがふっ飛ばされて木に着地しながらケツにぶっ刺さってたゾ。」
「本人は背中だって言い張ってましたけどどう見ても穴から・・・。」
「あれは背中で頭にも尻にも新しい穴は増えてねぇですよお嬢さん方。串刺しにされた男を笑うかねぇ?普通よ。肉壁じゃなきゃ死んでんだぞ?」
「無傷ではいられない場所でありましたからね。その分回復速度は上がった様に思うであります。」
「だな、ディルの水に何回助けられたか。そんで望田さんの守りで何回生き延びたか。望田さん、ビールでいいかい?」
「あ〜・・・。」
「クロエ構わんカ?」
「祝杯を断りませんよ。それに荒くれ者にはビールなんてピスと一緒なんでしょう?話せる程度になら先に乾杯してもいいですよ。」
「ヒュー、ファーストさんは話がわっかるぅ〜。ずっと考えたが確かに娯楽だなありゃ。賭けるは命で得るは報酬、楽しむアトラクションはモンスターハントっと。」
「お前はメテオボーイでいいだろう?前線気にせず降らせまくりやがって。」
「そう言うなよグリッドさん。俺達は生き残ってこうしてロクでもない軽口が聞けてるんだからさ。ファーストさんはバター飴いるかい?貰ってくれたらシスター達も喜ぶ。」
デカいやつがバター飴をくれるがクリスチャンなのだろうか?確か日本だとトラピストが有名だと思うが、生憎と行ったことはない。ただ、喜ぶと言うなら貰うが酒の肴に甘いものとなるとウイスキーか。飴を口に入れてグラスを2つ出し1つはウィルソンの所へ。
「ストレートにロック、ハイボールも作れますよ?」
「いや、公務中なんですが・・・。ロックで。」
ウィルソンは拒否しようとしたが、帰ってきたエマ達の目が怖い。まぁ、祝杯やめろと言われたらキレるかもな。せっかく命懸けで戦って帰って来て飲む約束を反故にされそうなんだし。水球を出し握りしめて氷をウィルソンのグラスの中へ。
「すいません、いつものクセで。嫌なら私のグラスと取り替えましょう。」
「いえ、いただきます。」
グラスやビール缶が行き渡りエマに目配せすると缶を大きく掲げ口を開く。ここでの乾杯の音頭は俺ではなくエマだ。エマ達が戦い帰ってきたのだから、部外者となる俺ではない。代わりに出来るとすれば菓子でも出してもてなす事だろう。
「でハ、私ガ。私達は生き残って帰って来タ!このろくでもない世界乾杯!」
「「「乾杯!」」」




