425話 対戦前 挿絵あり
「サクサクのトーストにバターとあんこは背徳の味がするなぁ〜。これにも少々塩をかけるかなぁ〜。」
「掛けた量によってはやめられない止まらない味になる。塩大福なんてのもあるしな。それと、ここだけの話だがお祝いに来た獣人全員にごちそうするからお前が職に就けた事を口止めして欲しい。」
朝焼けを見つつギルドの食堂でモーニング。時間的にほとんど人がいないので話しても大丈夫だろう。そもそもこんな明け方からギルドに来るくらいならここで飯食わずにさっさとゲートに入れ。法律課も鍛冶師も装飾師もまだ出勤じゃないし、夜勤でいる治癒師も眠たいだろう?まぁ、子供の急な病気で駆け込んでくる人もいるけどさ。
「どれくらい広まってるか分からないなぁ〜。猫人も犬人も職に就いてモンスターをプチプチしたいと思ってるなぁ〜。」
「獣人達の中で話すのはいい。それを人から隠しておけと言う事だ。報酬ありきの契約なら守ってくれるだろう?」
増田に報告漏れがバレた後に公表までは隠してねと言ったが、無報酬だったのでいまいち話されそうで怖い。今の所ゲートに無理矢理入ろうとする獣人はいないので『今はまだその時ではない。』と考えているのかも知れないが護衛と位置付けるなら秘匿した方が良いし、ゲートに入るなら本部長用の入口を使えばいい。
実際神志那が連れて入る時もそこを使う様にしているので簡単にはバレないと思うが、不特定多数が出入りするギルドなのでどこで話が広がるやら。ソフィアの件もノートから幽霊として浮かび上がってきたし、人の好奇心はバカには出来ない。
「う〜ん・・・、その報酬ってどうやって渡すのかなぁ〜?」
「報酬をどうやって渡す?それは・・・。」
金銭NGニコニコ現物払い推奨種族。まぁ、一応金銭でも大丈夫は大丈夫だがそれよりもはるかに飯の方が喜ぶ。寧ろ金銭渡すとパートナーから『そのお金なに?』と突っ込まれかねない。スィーパーなら指輪へそくりが出来るが、獣人には無理だからな・・・。そうなると集めてどこかでパーティーでもする?いや、名目なんだよ?功労者ならそのまま讃えるお祝いとかでいいのだろうが、パーティーを開くほどの功労者は獣人にいない。なら、個人的なパーティーだとするなら今度は人数が・・・。
フェリエットのお祝いに来た獣人は多かったし、獣人のネットワークで話が広がったならどれ程知っている獣人がいるか・・・。家でパートナーと話していて、もうその話が人に漏れている可能性もあるな・・・。そこまで行くと隠蔽は不可能?う〜ん・・・、要は1号であるフェリエットの能力が隠し通せればまだマシなのかな?
「職の内容は話したのか?」
「話してないなぁ〜。スィーパーになったとしか言ってないなぁ〜。」
「なら、内容は伏せておけ。フェリエットがスィーパーになったと知っている獣人に対しては・・・、祭りで支払うとか?」
商工会議所と市議会から来た案件に地域との交流会として、ギルドてお祭りを開かないかと言うものがあった。あまり乗り気ではなかったが、内容的には市長の挨拶もなければマスターの挨拶もない。櫓立てて花火上げて芸をしたいスィーパーが何か出し物して盆踊りを踊る程度。普通の祭りと違わないのだが、ただ1つ違う点はギルドの敷地内は職を使用しても良い事になっている。
つまり、芸と言っても流鏑馬ではなく海割りとかが出来るし、職を絡めた催し物も出来る。来年行われるギルド職員採用試験の事もあるしここは1つギルド職員と話す場を作っては如何か?と言うオファーだったが、要は偉い人が採用基準とかパイプを作って子供をギルド職員にしたいという話だったな。学校に対しての説明は政府から以上にする気はないのでスルーしていたが、スィーパーを労うと言う話ならその話しに乗ってもいいかも。
実際老若男女問わずにギルドに人は来るが、全員仕事として来るのでそう言った機会はない。なら、1日くらいゲート封鎖の話を出してみるのもいいかも。個人のスタイルで潜っているので何とも言えないが、ギルド職員に対する福利厚生として確定の休みを出すのもいいだろう。
シフト組んで休んで給料面もかなり優遇しているが、残業が多い所は多いしな・・・。縁の下の力持ち達に休みを出すと言えばスィーパーとしてもダメとは言わないだろう。ただ、割りと急な話だし仮に祭りをやるとしても8月末が最短かな?9月に持ち越して新しいシフトで祭り休みを入れてもいいし、そこは各部門との話し合い。盆休みとかも欲しいが、そこは各部署のシフトに任してるしな。
「話は出来るけどあんまり期待しないで欲しいなぁ〜。」
「そこそこ時間が経ったし仕方ないさ。」
「そう言えば私は魔術が使えたけど増田に勝てるのかなぁ〜?」
「勝てるかどうか?」
さて、フェリエットがソワソワしながら聞いてくるが勝つ確率で言えば分が悪い。増田は狩人となり卓や雄二と共にゲートに入りモンスターと戦っているし、フェリエットよりもスィーパー歴は長い。その中で勝ちを拾うとするなら意表を突いて押し切るくらいかな?
増田の性格を考えると型に嵌めてくるタイプだと思うが、戦っている姿は見たことない。武器も銃とボールペンの様なスイッチとしか聞いていないのでエマの様にベアトラップを使うのかも、それとも肉弾戦主体でトラップを織り交ぜてくるのかも予測がつかない。
経歴から考えるなら身体能力が上がっている分、何かの武術を修めているなら使うと思うがどうだろう?少なくとも剣道と柔道は出来るかな?公安と言っても大きな目で見れば警察だし。少なくとも棒立ち射撃はなしと考えて、銃で牽制しながら罠でじわじわ攻めてくるタイプ?
フェリエットの妖怪と言う職は格闘戦も出来れば魔術戦も出来るのだが、昨日の今日で出来たのはコンロの火を付けたような火が出せるのと水の操作。水源がなければ水は操作出来ないのでそれは要練習として勝つなら後一手欲しいな。だが、風と土は今からイメージを作るにしても中々難しい。そうなると雷か・・・。
「フェリエットちょっと座ったままでいて。」
指輪から取り出すのは塩ビパイプ。下敷きが良かったが生憎入ってなかった様だ。確かに下敷きを最近使った覚えもないし、下手したら手書きならぬ煙書きなのでいつ文字を書いたやら・・・。そんな事を考えながらフェリエットの頭に塩ビパイプを押し付けてスリスリと擦る。どんどん擦り付けたまに塩ビパイプを引き離すと少しづつ髪の毛が逆だってきた。
「いつまでスリスリしてるのかなぁ〜?」
「使えるかは別としてイメージだよ。こうして髪を擦ると・・・、そろそろいいかな?はい、私を指さして。」
「?」
「E.T〜。」
差し出された指に俺の指を近づけるとバチッと言う音と共に静電気が発射される。たかが静電気と侮る事なかれ、痛みを感じる静電気のボルト数は3千〜3万ボルト。家庭用の電圧が100ボルト〜200ボルトなので、静電気は約15〜300倍の高電圧。まぁ、抵抗や放電量、相手の身体の状態もあるのでそれで怪我をする事はないが、今フェリエットが体感出来てギリギリイメージを作れるとするならこれだろう。結構痛かったのか手をブンブン振っているし。
「今のは電気だなぁ〜。私の身体からも電気が出たなぁ〜。髪を擦り合わせると出るのかなぁ〜?なら、武器を付けてどんどん擦り合わせる?」
「動物には基本的に電気が流れてるからイメージ出来れば扱えない事はない。今使える魔術を考え自分としてどう戦いたいのか?相手が何をしたくて何をさせたくないのか?戦いの基本はどれだけ相手の嫌がる事を堂々とやれるかだ。勝ちたいなら恥とプライドは最初に捨てればいい。」
名誉にしろ報酬にしろ称賛にしろ勝たなければえられない。そして、勝者はその勝利を使う権利がある。具体的に言えば相手がどんなに強くて真正面から挑む高潔な武人だとしても、ずる賢く卑怯な罠に嵌まって死亡したなら、後の歴史では敗将は猪突猛進バカと言われて勝った方が神算鬼謀の名将とされる。
現代では映像もあるし、あまり卑怯な事をやると自国でも卑怯と叫びだす勢力が出てくるが、そんな輩はすぐに戦場に送って戦う兵の盾になってもらえばいいよ。勝つ為に行動している中で卑怯でも合法を通しているなら叫んでいる輩は不穏分子である。そもそも叫ぶだけの体力があるんだ、弱ってるから前線に行けませんは通用しないよ。
「恥もプライドもないなぁ〜。そんなもんで腹は膨れないなぁ〜。」
「ならいい。人よりも獣人の方がその辺りは弁えてそうだしな。さて、本部長室で少し寝るといい。」
目をクシクシしていたので眠さもあるのだろう。頭を使ったと言えば使ったし時刻を見ると7時少し前。9時くらいまでは寝れるかな?R・U・Rを一台クローズドモードで待機させフェリエットと部屋に戻りキセルで一服。仕事用のPCにあるメールをチェックすると案の定松田からの獣人の職内容の公表を控えてほしいと言うメール。ただ、これは護衛ばかりではなく保険として置きたいらしい。
多分増田が詳細な状況を聞き取り松田に送ったのだろうが、妖怪と言う職が稀有ならその内容も希少なのでカードを伏せたいのだろう。実際政府の聞き取りにも出なかったし、指輪の中身が見れると言うアドバンテージはでかい。
ただ、この事は隠しても仕方ないので一部の獣人達は職に就ける事とフェリエットが職に就いた事を知っていると返す。人数は不特定多数だが今の所ゲートに詰めかける事がないので、現時点ではまだ要件を満たしていないと思われると言う考察も添える。至ると同様これも根気のいる調査かもな。職に就いた時の状況を聞くと無理矢理感もあるし。
まぁ、この件は2号が誕生してその獣人と比較してからしか分からないし、比較しても分かるか分からない。ただ、イジられた存在だとしてもその後をよりよく過ごす事は出来るだろう。そんなメールチェックをしつつ他を漁ると望田からのものがあった。
49階層でモンスター・ハントをしつつ訓練しているようだが、割と被害が出たらしい。死亡はないものの喋るモンスター3体を相手に殺り合って米軍側に被害が出たとか。まぁ、それも復元師がいるので回復して50階層に向かうそうだ。米国の復元師も腕は良いみたいだな。米国としても今回の遠征で鍛えられれば戦力増強と言っても過言ではないし、大井辺りはまた日米合同演習とか言いそう。
まぁ、演習しなくても統合基地集合な!の一言で合同訓練は出来る。ゲート内なので文句は言われないだろうが、それに乗っかろうとする国は多いかも。どのみち俺を指名されても忙しいのでパスは確定かな?望田が戻ればゲートを進みたいしソフィアの入学の件もあるし・・・。学校を指定していないせいか勧誘が多いんだよな。身バレと言うか住所は市内ならそこそこ知られているし、ダイレクトメールも増えた。ほとんどはゴミ箱行きとなるが、ピザ屋のチラシは食べなくても見ていて楽しい。
そんな感じにメールを返したり、各課の募集人員をまとめていると時間は過ぎていき9時。食堂なんかを別として基本的には9時にはギルドがフル稼働状態になるのでそれに合わせて出勤してくるスィーパーや企業の人もいれば、露店はもう少し自由で昼から開くところと様々。夏休みに突入して高校生も増えてるみたいだし、息子も走ってギルドに来るので家は空っぽ。
ソフィアはまだ1人は若干不安があると言うか、本人が1人は嫌だと言うので妻と共にギルドで勉強している。普段ならフェリエットと一緒なので留守番でもいいのだろうが、フェリエットがゲートに入る時は仕方ない。元々どこかの施設にいた様な事もあり子供達と遊ぶのは楽しいらしい。まぁ、それでも入学準備の勉強は進めているのだが・・・。
「おはようございます。」
「おはようございます増田さん。すぐに始めますか?一台朝から待機させてますが高校生が増えて順番待ちが発生するんですよね。」
「普通にゲートを潜らないのですか?」
「潜る人もいますけど親としては・・・、ね。せめて高校は出てほしいとか成人までは危ない事をして欲しくないとか。それに、高校生側としても夏休み明けに減ったクラスメイトの事を聞いたら気分は沈むでしょう?」
「それは重々承知しています。それでももう止められる流れではないでしょう?」
「言う相手を間違ってますよ。私は今も流れる無駄な血はよしとしません。自身で決めて自身で赴き、自らの判断でゲートを歩く。怖ければ逃げてもいいし、無理な階層だと判断するなら帰ればいい。ゆっくりでいいんですよ。さて、朝から湿っぽい話はやめましょう。」
「そうですね。フェリエットさんの魔術はどうでした?」
「それは秘密です。出せる様になったかもしれないし、全く進展しなかったかもしれない。手の内を自慢するほど愚かな事はないでしょう?」
「分かりました。寝ている様ですが起こしてしまっても?」
「構いませんよ。私はR・U・Rを管理する方に回るので2人は準備してください。」
「分かりました、起きてくださいフェリエットさん。」
「・・・、なぁ〜ぉ・・・。」




