423話 断食
話は分かったがフェリエットも入学か。別に私立に入れるつもりはないので入学テストがある訳では無い。ソフィアの日常的なサポーターとしても理想的と言えば理想的だし頭も悪くないので中学の勉強についていけない事もないだろう。
懸念があるとすれば獣人故のスキンシップとか?健全な中学生相手に抱き着いたり触っていい発言をする未来が考えられるが、獣人と同居する生徒もいるので大丈夫だと思いたい。松田が前電話した時に早めに学校を決めてほしいと言っていたが、それはここに繋がるのか。フェリエットの件は誤算だとしても守りは固めてくれるらしい。
「モデルケースとして獣人の授業態度等を教諭から報告してもらいますが大丈夫ですか?」
「扱いが成人である以上、テストの点にとやかく言うつもりはないのでしょう?おバカではなく聡明な方ですが、獣人用のカリキュラムがないなら仕方ありません。それに、人と同じ形式の授業に溶け込めるならそれでも構いませんしね。」
これで獣人用の学習ルートが増えるなら問題ないな。現状ではタブレットと空き教室や公民館等預かりしかないしな。イギリスの方は専用学校を作る流れだが共学化出来るならそれでもいいのだが、体格考えると中学からとか?無論義務化するつもりはないのだろうが独り身の人は通わせそう。
獣人の自立を考える上でも助けになるだろうし、これから出産して文字通り子供の獣人が増えるなら保育園なんかも視野に入るだろう。何にせよ後数年で無学習で成人と言うのも変わるかも。成長度合いや本人達の意向もあるのでなんとも言えないが・・・。
「獣人の学習要綱はこれから作成と言う形になります。基本は人ベースですが、逆に今使っているタブレットのアプリを人に転用するかもしれません。」
「それは構わないですが、海外の様に飛び級とかも意識してそうですね。」
「それは確かにあります。基本的に職に就けるのは16歳からですが、それ以下でも就ける方がいるのも事実です。その点を考えると平均的に学力を上げつつ、タブレットによる自己学習の進捗次第で飛び級も可能としていこうかと言う話も出てきています。」
「子供は自由に学び遊んでいる方がいいんですけどね。無邪気が邪気を知れば大人になる。子供は早く大人になりたいと背伸びしますけど、その伸びた背は縮めようと思っても縮まない。」
「そうも言っていられないのが現実です。スィーパーは増え続け出土品は日夜持ち出されている。モンスターは狩ろうとも減少と言う言葉はなく、新型と取れるモノも多い。新たな力を手に入れた上で人類が戦争をしないのは、共通の敵がいてその力を試す場があるからだとされています。」
確かに小競り合いはあるが表立っての侵略の話は聞かない。良い悪いは別としてスタンピードが発生した事が一番の要因だろう。仮にスタンピードが発生せずにゲートのみ設置されていたなら、中に入る者は少数に限定され育たないスィーパーはモンスターに対抗するだけの力を持てない。
スタンピードで死した兵士は本当に礎となってくれた。忘れないよ。本当に君達の尊い犠牲のお陰で地球は今の所高いコストを払ったとしても正常に回っているのだから・・・。
そんな事件がなければ誰も彼も報酬があるからと言って高確率で死ぬ場所へは行きたくないし、どこかの国の様にゲートを売り渡してしまったり封鎖する道を選ぶだろう。異世界に行って魔王を倒せと言われて『はい』と回答できる人が現実的にはどれくらいいるだろうか?俺は少なくともパスさせて貰う。こんな身体や職がなければ殴られたら痛いし、旅先で病気してもどうやって返せばいいか分からない。
現代人とはハイテクや学力があるから凄く見えるだけであって、人間単体として見たなら貧弱極まりない。例えば江戸時代に戻ったとして一切のハイテクとチートがなければ何が出来るのだろう?少なくとも電池くらいなら作れるな。果物と鉄があれば作れるし。しかし、それを作ったとしても下地がないのでゴミでしかないな。
「高いコストですね。平和は莫大なコストを消費しますが、それを支払って明確な平和を得られるなら取引としては悪くない。」
「スタンピードを想定するならゲート内で活動しないと言う選択肢はないでしょう。さて、そろそろ私はホテルに戻りますがクロエは?」
「そうですね・・・、明日増田さんが模擬戦をするとして私がフェリエットに何か手ほどきするのはいいんですか?」
「それは・・・、どの程度レベルが上がると考えれば?」
「レベル?う〜ん、妖怪と言う職は魔術が使えるはずなんですが現状だとほとんど使えない。出来る事と言えばある水を動かすくらいですよ?それをもう少しマシにしようと考えてたのでその方面ですね。身構えなくていいですよ、別に勝とうが負けようが問題ない模擬戦ですし。」
人には必ず勝てと言うが、増田とフェリエットの勝敗はクローズドされているので公表される事もなければライブラリに残る事も多分ない。フェリエット育成計画は魔法剣士狙いなので魔法は使えないと困るんだよ。望田が旅立って仕事ばかりでその辺りはほとんど出来なかったが、これを機にテコ入れしよう。
理科や化学的な映像を見せて自然に対する理解を促していたので、そこそこイメージは出来ていると思う。なら、後は実戦をへて使い物に出来ればいいしやってやれない事はないだろう。その前準備は多少荒療治になるかもしれないが・・・。
「分かりました。私も本部長の方々と潜ったりしているので簡単には遅れを取らないでしょう。では。」
増田が帰り見るのはソファーで寝るフェリエット。気持ち良さそうに寝ているが、そのまま寝てていい。ちょっと明日の朝くらいまで縛り上げるだけだから。簀巻きにして浮かせて出土品の金庫に入れる。動物虐待?修行とは得てして理不尽なものだ。
「!?な、なんだなぁ〜?どこだなぁ〜?」
「おはよう。明日増田さんと模擬戦をするにあたって修行をしてもらおうかと思う。」
「面倒だなぁ〜。」
「そう言うと思った。寧ろ模擬戦も負けるつもりだろう?」
「戦う意味はないなぁ〜。人とは協力してモンスターをプチプラする方が効率的だなぁ〜。それはクロエも分かってるはずだなぁ〜。私が人に勝ったら面倒が増えるなぁ〜。」
「分かってるよ。でも、勝っても負けても力がある事は示さないといけない。先の話になるが獣人が職に就ける事は公表される。その時共にゲートに入るには真面目に戦うと言う前提が必要だし、自己防衛が可能と言う姿を見せないといけない。」
「それは人が勝手に欲しがってるものだなぁ〜。私達には関係ないなぁ〜。なんの見返りもないなら私達も返すものはないなぁ〜。」
「その話には一利ある。だから獣人だけのパーティーでも活動出来る様に代価として魔術の扱い方を叩き込む。それに、ウェイトレスから学生になって貰ってソフィアと学校にも行ってもらう予定だしな。」
「・・・、獣人が職に就いて魔術を使うのをクロエはやめさせたくないのかなぁ〜?獣人はこのままひっそりと職に就いて人と生きていくだけでいいなぁ〜。」
「対等であるなら下がる必要はなく横に立てばいい。だからこそ、今回の勝負は真剣にやってもらうし職を十全に使えずに負けたら心残りだろ?それに魔術を使える手本があれば獣人もイメージが作りやすいしね。」
「分かったなぁ〜。頑張るから簀巻きを解くなぁ〜。腹が減ったから腹ごしらえしてから頑張るなぁ〜。」
「いや?修行すると言っただろ?水を使える様になった状況を考えるに、意識を集中する所から始めないといけないみたいだ。だから、これから一晩全ての行動を魔術でやってもらう。まぁ、トイレだけは連れて行くよ。じゃあ、これを焼く所から。横にタブレットを置いて料理の映像も流そう。」
サバを取り出し皿に乗せて目の前に置く。生だが短時間では腐らないだろうし、金庫の中は空調が最小限とは言え涼しい。舟盛りを食べたとはいえ腹が減っているのでサバから目をはなさない。焼けたら食べていいが、焼けなければ目の前にあるまま。
方針としては本能を刺激した方が獣人は魔術を使いやすいだろう。そもそも猫は火が使えない。そして、獣人になっても何かを作ろうとしない。なら、両手があって何かを作れる様になるのは進化だろう。ここまでの成長は薬でした。なら、獣人にはその先を歩んでもらわないとね。




