418話 マニキュア 挿絵あり
「経済的な自立はいいけど精神的な自立はあんま期待しない方がいいにゃあ。」
「何か問題が?」
「単純に人といるのが好きだから人のいる所に集まるって話
し。いろんな国の学者とディスカッションしたけど、扱いとして人と同等なら獣人は反乱を起こす気はないみたい。もちろん身に危険が迫るとか、不当に食べ物や報酬が貰えないならこの限りではないけどね。フェリにゃんも観察した限りだと現状に満足してるし、サボる事はあっても今以上の待遇を望むって言う思考は低いみたい。」
「それは単純に今の生活に満足しているからではないですか?自ら力を得て稼ぐ事が出来れば、人からの施しを得ずに離れる事も可能だと考えますが・・・。」
「増田さん、それを言い出したら獣人になった時点でどっかに走っていくよ。元々動物。なら、野生が爆発して野山で勝手に生活すれば済む話だにゃあ。でも、獣人はそれをしようとはしない。なんでかわかる?」
「それは・・・、満足しているからですか?いや、それでは明確ではない?」
「クロにゃんはどう思う?」
「単純に文明を知ったからじゃないですか?そりゃあ野山で鳥でも魚でも捕っても生活も出来るでしょうが、それは狩猟民族同様土地や自然に左右される。何日間も空腹にあえぐ事もあれば・・・。まさか、燃費が悪いから人から安定供給される食料を欲している?」
「正解。ゲートの馬も食べられるけどフェリにゃん的には味が単調で飽きるみたい。それこそキャットフードと比べても飽きるらしいから相当だね。味覚も発達して人と同じ様に食べる事に楽しみも覚えた中でそれは拷問だし、フェリにゃん達はクーラーやらの電子機器は作れない。つまり、人に優しくして寄り添うと同時に人の生活の便利さに代価を払ってるって感じかにゃあ?心当たりない?」
ないどころかありまくる。暑さに強い猫なのにクーラーを所望して暑さを嫌い出したし、ご飯も何々が食べたいと要求する。そもそも獣人になった初日にキャットフードのカリカリは不味いと言って吐き出したし、猫の時に食べこぼしたであろうキャットフードの少し浮いた水も不味いと言った。
その上ごちそうと言う言葉には敏感で、うまいものが食えるなら協力すると言う態度も取れば、食べた事のない物にはチャレンジと言うか、食堂でウェイトレスする時に一口よこせとねだっている。
服についてもそうだ。ゲートに入り装備品として渡した服はお気に入りなのかよく着ているが、そもそもフェリエット含め獣人の髪は長く身体にまとわりつかせればそのまま毛皮にも出来る。しかし、人の服を得てからは短くする獣人もそこそこいるし、場合によっては自ら切る事もある。
そんな中でフェリエットが自ら何かを作っている姿を見た事はない。2本の手もあるし、指も人と同様に器用に動かせるのにだ。別に火を怖がるなんて事はないし、食べたければ料理をすればいいのに、腹が空いたならねだって出来合いの物を食べようとする。多分生活していての見落としなのだろうが、フェリエットは料理しないでも出来ないでもなく単純に結果の想像がつかないんじゃないだろうか?
料理と言うのは化学である。ここで塩を一つまみ。その一つまみって何g?数学は出来るが国語は苦手。なら、料理は鬼門だろう。料理が下手な理由の1つはよっぽどの味音痴でもない限り味見をしない事。俺だって何かを作るなら区切りで味見をするし、出来上がる前にはこれでいいかと味見して判断を下す。
だが、動物から獣人になったフェリエット達にその文化はない。知っているのは不味いと言ったキャットフードの味か、生の食材の味。人の食べ物は味が濃いからと犬猫には出さないし、昔なら猫まんまとして出した味噌汁ご飯も、塩分が多いからと今は出さない。
まぁ、残飯を出す出さないは家庭にもよるが、ウチでは長生きして貰う為にキャットフード一択だったな。外に出るのも運動の為として出していたし、夜には勝手に帰ってくるのでそこまで気にならなかった。なるほど、獣人が人に優しくする根底にはペットとしての絆もあると同時に便利さから離れられないと言うのもあるのか。
「あり過ぎますね。人類が優秀で良かったし、美食の国に生まれて良かった。少なくとも自分達で何かを作り上げて人を超えたと思わない限りはパートナーとしていてくれそうです。」
「待ってくださいクロエ。その発言だと超えたら裏切る可能性を示唆している。」
「裏切るも何も共存共栄は対等だから成り立つんですよ?仮に獣人達に人類全体を引っ張ってくれなんて言い出したら、今度は人が愛嬌振りまいてペットになる番です。」
「だねぇ〜。ペットまでいかなくても無償の愛なんて母親しかくれないにゃあ。それまでの接し方や関係性で獣人達も考えてくれるけど、人だって会社なら無能はリストラするでしょ?仲良くない相手なら獣人はドライだし他の国で同族が死んでもなんとも思わないからにゃあ。」
「確かにそうですね。テレビで事故で獣人が死亡したって報道があってもそうか程度にしか思ってなかったですし。ドライと言うよりは人と似た感性と言った方がいいような。」
「人と似た感性・・・。確かに人臭いと言えばそれまでなんだけどね・・・。」
「えっ、もしかして増田さんってテレビで大災害の映像見たら泣く人ですか?私はテレビの向こうは別世界と考えているのでそこまで感情移入が出来ませんが。」
「いえ、泣きはしません。悼む程度ですね。しかし、人と同じ感性と言うなら何かを作る事も、それこそ人類を超える事も可能なのでは?」
「可能だけどそれがいつかは分かんにゃいよ?飽きっぽいから人よりサボるし報酬がなきゃ動きたくないし、部屋で待ってるだけでご飯ごもらえるならその道を選ぶ。モンスター退治や職には興味あるけど、その他は人寄りな所が多いから、仮に工場のラインで働かせたとしても、その仕事はしてくれてもついでに何かしようって気は薄いかな?」
「あー、身に覚えあるなぁ・・・。フェリエットに晩飯食べるから用意してって頼んだら、自分の皿だけ用意してテーブルに座ってた。全員分用意しないとご飯出さないって言ったら準備してくれたけど、見逃してたらずっと自分の分だけだったんだろうなぁ。」
良く言えば指示待ち系で無駄な労力は嫌う。悪く言えば気が利かない。まぁ、今までとは全く違う扱いなので、それもまた関係性次第だろう。個人的には指示待ち系は悪いとは思わないので構いはしない。企業の屋台骨がぐらついてるので神志那が前に言った様に住み分けと言う話しもあながち間違いではないのかも。
仕事して勉強して職に就いたら1人前なんて事をそのうち言い出しそうだな。フェリエットのお祝いに来た獣人はかなり多かったし。ただ、このままのペースで獣人が増え続けると本当に土地問題が出てくる?海外なら砂漠でもジャングルでも開発すれば宅地には出来るだろうが、日本は元々土地面積が少ないからなぁ・・・。
「増田さん、獣人の増加具合ってとうなんです?」
「日本だけなら薬の発見当初が一番爆発的に増加し、現在は緩やかな増加傾向です。人口比率を考えた場合なら人を10とした場合獣人は4〜5割と言った所ですね。」
「つまり薬が出続ければ来年には同数の比率になると?」
「そう予想はできますが・・・。」
「薬の出土率減ってる感じなんだよにゃあ。ギルドは日本にしかないからそれだけの検証しか出来ないけど、稼働したギルド間で話しても個体成長薬は誤差程度だけど減ってるよん。」
「う〜ん・・・、考えられるとすれば種として繁栄可能な数に達したとか?飲ませてない薬や実験で消費されたものは考慮しないと言うか、作る数決めて出荷分に達したから生産ラインから外したのかな?元々必要かと聞かれれば必要性は薄い薬と考えてもいいし。」
「否定も肯定も出来ないにゃあ。私も会ったけど趣味人全開みたいだし、飽きたらそのまま作るのやめそうだし。」
減少傾向って事は値上がり案件か。本当になくなるかは別としてそこそこ確保しておこうかな?何かの際に交渉材料に使えるかもしれないし、せっかく隣人になったのに絶滅されても後味が悪い。それに、人に対して5割の獣人がいるなら急にいなくなるとまた混乱が起こる。
なんだかんだで獣人の働き口も少しづつ増えてきてるし、いると思ってタスク割り振った相手が急にいなくなっても困るんだよ。それに、今回職に就けたと言う事で需要もさらに高まるだろうし。
「大まかには理解しましたが頭の痛い話しか出てきませんね・・・。土地問題は現状空き家や未入居のアパートもあるので潜在的には大丈夫だろうと言う話ですし、統合基地が周辺を開発されば郵便等の配達も可能であると政府は考えています。そうでなくとも飛行したラボの動画で新天地を空とする人もいる。」
「アレは私も現地で弄りたい!飛行ユニットの話も聞いてたし、輸送機で外宇宙まで行ったけど余裕なくて惜しい事をしたと思ってるしぃ〜。」
「そう、そこですよ!神志那さんは宇宙人の言葉わかりました?あの浮かんでたクリオネみたいな奴の言葉。」
「う〜ん、あの時点で鑑定術師ではあったけど未だに最適化はされてないからにゃあ・・・。橘さんが分かるなら分かる可能性もあるけど増田さんは聞いてない?」
「橘監査官からも分からないとしか。流石に言葉は見えないとしか言われませんでしたね。なのでまたクロエの所にボールが帰ってくる。なにせ言葉を理解したと取れる言動を取ってしまったのですからね。」
「・・・、宇宙語わっかりませーんで通用しませんか?」
頑張れよ鑑定師!見えないものを見ようとして宇宙の深淵を覗き込めよ!俺だってフィーリングで感じただけで本当の意味はわかんないんだよ!魔女がそんな感じとしか教えてくれなかったし。
「でも、宇宙語ってなんかあったの?」
「国家機密です。」
「真面目に笑えない冗談言うにゃあ増田さんは。取りあえず後何か気になる項目ってある?」
「私は直接話せるからいいよ。増田さんは?」
「では一点。武器が塗布タイプのモノであるとして人は使えますか?仮に人がボディーペイントの様に全身に塗って戦えば、安全性が向上するのではないかと言われましたが。」
「ボディーペイントて、ゲートでストリーキングする気ですか?魔界村みたいに。」
「槍師なら出来る!!リアル魔界村配信はよ!!」
「お馬鹿な事は言わない!どうして頭のいい方々は遊びに走るのですか?斎藤博士も神志那さんもクロエも。」
「そりゃあユーモアは必要ですからね。」
「ずるしても真面目でも発見はあるからね〜。実際ふざけた末に発見するなんて事もあるし。塗ってもいいけどあんまり防御面は期待できないかにゃあ。フェリにゃんは髪の毛先に塗ってモンスター切ったり刺したりも出来るけど、ビームとかぶち当たると剥がれるし。まぁ、誰でも使えるかも防御刻印と考えるならそこそこありかな?」




