416話 送り出した後の話 挿絵あり
望田が旅立ち約半月。パワードスーツを作るので先発してラボにいた期間を含めるのでそれだが、実質は10日ほどゲートに籠もっている。通信環境が微妙な中で送られてきたメールでは49階層まで進みキャンプをしてモンスターを狩りつつ次へのゲートを探している様だ。元々45階層付近でモンスター狩りをすると言っていたが、何か予定が変わったのだろうか?
文章を読む限りでは全員無事で負傷はあったものの元気にやっている様だ。職の組み合わせを見るのも面白いらしく、帰ったらその部分もレポートにまとめてくれるらしい。実際回復する水?を操れる奴がいるらしいので、それもまた新たな切り口の組み合わせとなるだろう。
そんな中で季節は8月に突入し、日々の暑さが猛暑から酷暑となって外を彷徨く獣人も少なくなった。寧ろ、スィーパーにセーフスペースで涼まないかと申し出る獣人多数。ギルド内も空きスペースはあるものの多数の獣人を待機させる場所もないし、最近はフェリエット効果かタブレットで積極的に勉強する獣人も多い。
政府との話し合いでフェリエットの職の詳細が分かってから公表すると言う話になっているのだが、お祝いした獣人組が積極的なのだろうか?まぁ、法律課を手伝ってる獣人なんかはタブレット使わずとも頭は良くなっている様に思う。そんな中で専属してフェリエットの職を調査している神志那から上がる報告書では、やはりと言うか引っ掻きや噛みつきはお手の物で、マニキュアを塗る様に武器を爪や歯に塗って戦うのでヒットアンドアウェイ方式になる様だ。
そして出せない魔術はと言うと、最初に出せたと言うか操作出来たのは水だったのだ。ソフィアと庭の水やりをしている時に遊びで暑いだろうと水を掛け合い、顔にかかるのが嫌で遠ざけようとして水を弾いた所から始まる。ただ、慣れないからか操作と言っても飛んできた水を弾くくらいで攻撃としては多分そこまで強くない。
だが本人からすれば操作出来たのが嬉しかったのか、最近は魔術師配信者の動画をよく見ている。得意な魔術がない分魔術師としても中途半端になるかもしれないし、身体能力のレベルとしては追跡者程度。ゲームで言うと魔法剣士とか?ただ、特化していくかバランスよく行けるかは本人次第だし、個人的な話をするなら魔法剣士であって欲しい。せっかく両方使えるのにわざわざどちらかを捨てる必要性はないし、両方出来ると言うなら引き出しは多い方がいい。
「それでわざわざ増田さんがこっちに来るなんて・・・、暇なんですか?」
「現地視察です。見えないものが視える。コレの検証と何がどこまで視えるのかを正確に判断する必要があるとして松田さんから頼まれました。実際の所諸外国への通達をするにあたり先に検証を重ねられると言うのは大きなアドバンテージになる。」
「確かに空港や港に配備出来れば水際対策に役立ちますからね。ただ、神志那さんと意見交換も行いましたが透視能力の様に何でも視えると言うわけでもありません。例えば段ボール箱に入っていてもその箱は視えても中身は分からない。」
「それでもです。手荷物検査ならぬ指輪検査に多大な労力を払おうとも、危険物持ち込みに対して大きな抑止効果があります。クロエも分かっているのでしょう?」
「まぁ、中身ゼロなら危険は本人だけですからね。でも、その危険物のやり取りも統合基地が増えれば容易になる。例えば小型核爆弾なんて最たるものでしょう?」
「それは理解出来ますが、それに対しても職に・・・、妖怪と言う職に就く獣人ないし人が増えればゲートの出入り時に検査すればいいと考えています。それにまだ確定ではないですが、獣人の雇用の1つとして政府側からギルドでの検査要員にあててはどうかと言う意見も早々と出ています。」
「出たからと言ってその資金はどこが持つんですか?雇用と言うなら支払いはしないといけない。それがパートナーとなるスィーパーに対してなのか獣人本人になのかは分からない。」
「その点は何パターンか案が出ています。1つは金銭はスィーパーへ獣人にはギルド食堂の食券でどうかと言う案が1つ。そのまま日当として本人へ日割りで払うと言う案が1つ。最後は全てパートナーに任せると言う案が1つ。オフレコで話すならパートナーを無くした獣人の生活支援の名目でギルドに一任すると言うのもあります。」
「頭の痛い話を・・・。確かにパートナーを無くした獣人を一部ギルドで雇用していますが、現実的な話をするなら家がない。自衛隊の様に官舎を建ててくれるならまだ考慮出来ますが、それもないのに丸投げは困りますね。」
「分かっていますよ。ただ、何分この国は土地も少なければ、隣人となった獣人個人での賃貸契約と言うものにも慎重な方が多い。パートナーと住んでいた所にそのまま住みたいと名乗り出るものは東京でも多いですが、その契約変更だけでも膨大な数になる。」
「それこそ雄二が集めた弁護士を使えばいいでしょう?法律がお手の物ならギルド名義を使ってでも住ませればいいし、住むための仕事はギルドで用意出来る。まぁ、あまりにも高級なアパートに住んでいたら引っ越しは仕方ないですし、ローンなんかの問題もあるでしょうが・・・。」
「ええ。だからこそ松田さんの学校へ通わせようと言う案も現実味を出してきている。義務教育ではないですが、最低限自身のパートナーと死別した場合の手続きや遺産についての扱い方などを教える必要があるとしていますし、何より獣人が出産した場合は職に就けるなら人と同様の教育は必要なのでは?と言う話も出ています。」
「ふむ、それは当然必要でしょうね。」
望田がゲートに潜りフェリエットの検証をしている中で昨日増田が大分ギルドに来た。目的は本人が言うように指輪の中身が見える事を実際に確かめる為だが、それ以外にも色々と聞きたい事もあるらしい。
フェリエットの件を知らせた後に増田と松田の所のポチ君とでゲートに入り職に就けるか?と言う検証を行ったが就けなかったとの事。年齢的にはにゃん太時代の時が人間換算で高齢だったが、人基準だと概ね14〜15歳くらいだったはず。ただ、それも推定と付く。元々にゃん太はペットショップで買ったわけではなく迷い込んで住み着いた猫なので正式な年齢は分からない。
ポチ君に関して言えばペットショップで買って正確な年齢も分かっている。人基準で13歳、人間換算をするとこちらも高齢。なので就けるかもと言う事だったが、年齢的なもので弾かれたなら残りは学力かもと言う事で今は勉強にウェイトを置く日々だとか。前に見た感じ元気な子供の様だったので勉強を真面目にするかは分からない。
ただ本当に獣人が職に就けるトリガーかは分からないんだよな・・・。フェリエットから芋づる式に増えるかと思ったが、今の所そんな報告は誰も受けていないと言うし、増田達もなんの情報もないと言う。増田の裏目標と言うか実際に大分に来た事の1つに生でフェリエットと話し私見的な印象を踏まえた上で学力や対話能力を見るというのがある。
性格が様々な獣人は人懐っこいが同時にその種の性格もあるので気難しい奴は気難しい。まぁ、それをツンデレと言えばそれまでなのだろうが、人の方もそれの好き嫌いはある。ネットで苦労話を読むと野良を捕まえて、そのまま薬を飲ませて拳で語り合ったなんて話も・・・。人として考えれば拉致されて変な薬飲まされた上で変身しているのだから身の危険と感じても仕方ない。
「簡単に言いますが1号を家族として抱えている上で、クロエ=ファーストとしての発言はかなり重いのですよ?」
「増田さん、それは間違いですよ。私は一般的な常識の範疇でしか話していません。子供に教育をする。他の子と遊ばせていい悪いの判断基準を養う。そして、パートナーを自ら探すだけの自由と責任を受け取ってもらう。今は若い種族なのでおんぶにだっこは仕方ないです。なにせ私たちは霊長を名乗ってるんですよ?ルーキーに手を差し伸べるくらいわけないでしょう?」
「汝、隣人を愛せよですか?」
「まさか。私は仏教徒ですよ?差し伸べられるなら手ではなくて蜘蛛の糸です。仲良く登ってくるならそれは切れませんが、どちらかが問題を起こせば切れてしまう。今は仲良く一本の糸を登っている所ですが、職に就けて人と同じステージに獣人が来た時に人は戸惑うでしょう?なら、その戸惑いを先に消す事が目標ですよ。」
「気の長い話ですね。」
「生憎と先の長い目標を少しでも持ってないと暇になりますからね。さてと、神志那さんと潜っていたフェリエットが出てくると思いますが迎えに行きますか?」
「向かいましょう。戦闘後の観察も行いたいですからね。」




