閑話 88 小さな約束 挿絵あり
「久しぶりだなカオリ、よく来てくれタ。」
「お久しぶりですエマ。最後は赤峰さんの結婚式ですかね?そう考えると約一月ぶりですか。」
「そうなるナ。副長に就いて腕が鈍るかと思ったがそんな事はないナ?」
「あれば今頃私は蜂の巣ですよ。」
パワードスーツの要望を出して調整しつつ数日。当初は完全オーダーメイドと言う話だったけど期日の問題で現行品のオーダーメイドで手を打つ事になりました。基本的な話をすれば私のパワードスーツは機動力を補うものでしょうか?中層がジャングルならそこを進む為の足。
当然と言えば当然だけど、装甲を厚くして防御力を高める方向は最初から考慮してない。なにせ私は防衛職、その職に就いた者がガチガチに防御を固めては名折れもいいところだろう。飛行ユニットはラボを浮かせて以降、鋳物師を集め増産体制でそこそこ増えてるけどまだまだ数は足りない。
そんな中で私のパワードスーツにソレを回してくれたのは素直にありがたいと思う。まぁ、ラボに行く前にモンスターの素材や要らない武器を手土産にしたのが良かったかな?
「しかしセーフスペースに統合基地を作るという話だったがそこそこ形になったのだな。」
「海外の方との連携を取る時の中継基地は必要だと言う話でしたからね。それにここならこうして久々のお遊びも出来ますし。」
「まァ、やった私が言うのはなんだガ、お遊びと言うには過激だったかもナ。」
統合基地から少し離れた所で再会を祝して握手しているけど、その握手をしている中でも弾丸は飛び爆発は起こり矢も振り子もギロチンも飛んてくる。それを全て受け止め一切のダメージは出さない。見る人が見れば嵐の戦場で仲良く話す奇異な光景に目に映るだろう。
「でも納得できる光景でしょう?」
「そうでなくともカオリの名は広まっていル。特に砂漠を戦い抜いた兵の間ではナ。こっちに来てくレ、今回のアタックメンバーを紹介しよウ。」
そう言って歩き出したエマの後を追うけど、多分メンバーはあそこで見ている人達かな?逞しいと言って差し支えない迷彩服を着た兵士が4人とコスプレして顔の分からない人。当初はエマ含めて5人と言う話だったけど1人増えた?
兵士達に近付きエマの整列のの号令で兵士達が並ぶ。階級章はなく胸ポケットの辺りに名前が刺繍されただけの装備。でも、事前の情報で全員中位と言うのは聞いているし、顔の分からない人の眼球は忙しなく動いている。多分鑑定術師だろう。なんとなく探られていると言うのは分かるけど、それに対する対策も神志那さんと行って完璧とまでは言わないけど出来ている。
「紹介しよう。ゲート内では階級を省略するので名前だけとなるが、グリッドを次席としてダレス、ハミング、ディル。そしてそこのアメリカンヒーローだが・・・。」
「鑑定術師の方ですよね?事前情報はありませんでしたけど大丈夫ですか?」
「う厶、米国側と日本側で話はついている。存在そのものを秘匿されているが今回同行しないのも不味いと言う話ト、有事とは言え米国に橘が来た事によりゲート内限定での接触ならと許可が出タ。鑑定されるのが嫌なら目を潰そうカ?」
「おいおい、大佐。盲目でモンスターと戦えってか?流石に俺も死んじまう。アメリカンヒーローのドゥだ。出来るだけ見ない・・・。」
「手袋を外して握手しましょう。それで鑑定されたらそこまでですし、されないなら保証にもなります。さぁどうぞ。」
「・・・、マジか?」
「カオリいいのか?」
ドゥと名乗る人とエマがオロオロしているけど私は手を差し出す。先に紹介された人達は面白そうに見てるけど、そんなに変化もないし面白いものでもないんだけどな。ただ、ここに鑑定術師がいるなら試しておきたい。神志那さんと訓練して鑑定阻害をどうにか形にできたかを。
差し出された手に観念したのかエマが顎で指示しドゥが手袋を外す。そして確かに握手された。作るイメージは南京錠。エマに会う前からカチャリと掛けられ、頭の中で響いた音は確かに機能し今も解錠しようと鍵穴を探している。ただ、この南京錠にそれはない。鍵の形は私しか知らないのだから。
歌人となって出来る事は増えたし、それに伴って聞こえる音も増大して、静寂と言うものが簡単には手に入らないものだと私は知った。それこそ本気で聞こうと思えば打ち上げられたロケットから放出された人工衛星が軌道修正する様な音も聞ける。そんな中で唯一の無音を体現するのはツカサだ。深く深く聞こうとしても音は聞こえず、話し声や寝息さえ発さなければ真の無音を手に入れられる。
当然自身で聞かないと言う選択肢は取れるけど、それでも無音があると知っていられるのは心の拠り所になる。なにせ聞きたくなくても人の声は聞こえ、それが美しい話ばかりではないと知ってしまったのだから・・・。
「すげーな、全く持って読み取れん。カオリさんだったか・・・、私の最上級の感謝を貴女に。こんな職に就いて中位に至り、能力を切ったとしてもこの先人と生身で接触出来ないと思っていたが、こうして再び直接人の温かさに触れられた事に感謝を。」
「いえいえ、この程度の事が出来ないとクロエの副長は務まりませんからね。まぁ、イメージは人によるので同じ事が出来る人がいるかは分かりませんけど。」
「大佐、ありゃとうなってるんで?」
「さぁナ。米国では檻を作る方に全力を注ぎカオリは戦闘シーンは見せなかっタ。しかシ、私が敵として戦いたくない相手は今も昔もクロエとカオリだ。お前等も暇なら体感してみるカ?」
「なにか試す方法があるのでありますか?」
「前は赤峰が攻略しタ。しかシ、お前等が攻略出来るかは知らン。カオリ、リンゴを頼めるカ?防御力に疑いはないが体感させた方が早イ。」
「いいですよ〜。でも私はリンゴ持ってませんけど?」
「統合基地の昼飯でリンゴが出タ。それに頼みたいが一度手に取るカ?」
「いえ、そのままでいいですよ。」
エマが出したのは瑞々しい赤いリンゴ。それは食べるモノで潰したりするものじゃない。少なくともリンゴは地面に落ちるけどその衝撃で粉砕される事はないし、握られるリンゴが簡単に圧壊される事もない。それに、真球ではないにしてもリンゴは丸いのだ。エマの手に持つリンゴに音を重ねていく。かん高い反発音にガリガリと言う鉄を削る音、打撃にはノコギリをポヨンと鳴らした音に蹴られたならボールの様な反発音。頭の中で流れる音は取り留めもなくどこかで聞いた音だけどリンゴがリンゴとして出す音以外は別の音に置き換えていく。
「〜♪さあどうぞ。」
「相変わらずだナ。力自慢どもそれをどうにかして割ってみロ。それの硬さがカオリの硬さダ。前に35階層で昼寝していいと言われてか面食らったガ、それを言ってのける硬さはあル。」
「誰からやるでありますか?」
「ダレス、ちょっとそれ持っててくれ。最初は俺がやってみる!」
「グリッドさんお手柔らかに願えますかね?流石にあんたの全力だと俺が吹っ飛ぶ。」
「いいじゃねーかダレスよぉ。そうだ!ディル賭けだ賭け。俺はリンゴが割れねぇに100ドル。」
「えぇ~。ハミングさん自分もそっちに賭けたいてあります!どう考えても分が悪いであります!」
「ば〜か、同じ方に賭けたら賭けが成立しないだろ?」
「なら俺とグリッドさんが割れる方に賭けてやる、こい!」
「おう!砂漠でなくした腕は生えた!なら、生きてりゃ出来ない事はあんまりない!」
そう叫びながら突き出されたグリッドさんの手は拳ではなく貫く為か人差し指が突き出されている。でも、それではリンゴは貫けない。あたった瞬間リンゴが波打ちそのまま点での衝撃を後ろに流し、持っていた人が吹っ飛びリンゴは地面に落ちる。リンゴは岩じゃなくて果物だ。寧ろ、指で弾いてコンコンと音がするならシャキシャキ食感の美味しいリンゴだ。
「ダレスが吹っ飛んだ!」
「城壁なら大丈夫でしょうが再生は必要でしょうか?ドゥもリンゴ割りに参加するでありますか?」
「いや、割れん事もないが今は大和撫子の温もりを優先させてもらおうか。」
「いててて・・・、グリッドさんリンゴは?」
「ダメだ。砲弾だろうと鉄板だろうとブチ抜ける方法を取ったがビクともせん。ダレス、パワーを上げたとしてお前気合いで耐えられるか?」
「いや、グリッドさん俺にもやらせてくれよ!」
「リンゴで遊ぶのは後からにしロ。そろそろ基地でブリーフィングを開始すル。」
エマの声でゾロゾロと歩き統合基地内へ。中はまだ完成とは言えず所々剥き出しのフレームが見える所もあれば、存在証明実験と書かれた壁には壁紙や塗料が塗られたりしている。ラボと統合基地の最大の相違点は一部民間企業が携わっている事かな?ラボは駐屯地と共に空に飛び立ち、ランダムに飛行しながら今もセーフスペースの何処かにある。目印と馬を使わないとほぼたどり着けず、更に言えば何らかの形で飛行能力を持っていないとたどり着けない。
ただ、ラボで久々に山口さんに会ったのには驚いた。米国回復薬製造工場にかかりきりだと思ってたけど、私のパワードスーツを作っている時にぷらっと現れて飛行ユニットを観察したり扱い方を習ったりと動いて回っていた。
多分米国で製造ラインを立ち上げる際にそのまま技術者として携わる為だろう。相変わらずよく話す人だけど、最近は回復薬製造と並行して中位を目指して多数の護衛と共にモンスターと戦っているのだとか。米国側からすればやめてほしいのだろうけど、至ろうとする歩みを止める事は多分出来ない。でも、最初からあった鍛冶師を目指すと言うのはどうなのかな?
確かに本人が進みたい方向は明確なのだろうけど、それに決め打ちして行って大丈夫なのかは分からない。なにせ追加される1つが更に本人の願いにそう場合もあるのだから。
「今はここの部屋を間借りしているル。寝泊まりもブリーフィングもこの部屋で行っているから何かあればカオリもここに来てほしイ。」
「了解です。しかし、中を歩くと結構広いですよね、ここ。」
「ディル迷子になるなよ?」
「それはハミングさんです。来たばかりの頃に見物すると言って見に行ったらそのまま半日くらい帰ってこなかったのであります・・・。」
「まぁ、色々と売られたりして見ごたえはあったからな。俺も面白い武器がないか見て回ってたし。」
「椅子と机の準備は出来タ。ホワイトボードも出したが使うかは分からン。さてト、私語は慎メ。これよりブリーフィングを開始するガ、先に伝達事項を話して情報共有といこウ。メールでも送ったが我々は45階層より潜り中層を目指ス。可能なら中層のセーフスペースを目指したいガ、消耗度合いによりこの目標は変更されル。たダ、カオリも来てくれているので最低でも中層のモンスターとの交戦は体験しておきたイ。ここまでで質問ハ?」
「中層のモンスターの傾向は?話を聞く限り密林に隠れたプレデターと聞いていますが、その認識で?」
「間違いなイ。クロエ達と潜った限りでは安全地帯を探すなら木の上ダ。当然そこにもモンスターはいるガ、土の中から丸呑みにしようと現れるムカデよりはまだ倒しやすイ。更に付け加えるなら木々が邪魔で視界は悪ク、切り倒そうと穴を開けようと直ぐに復活すル。木を過信するなヨ?実弾や爆発物の破片は防いでくれてもビームで木ごと貫通する事もあル。」
「観測された次へのゲートが地上にないと言う話は確実と思ってもいいのでありますか?」
「その点についての確証はなイ。私が体験した限りではゲートの殆どが木に埋もれる形で固定されていタ。なので次へ進むゲートを探すなら巨木が推奨されル。因みに上空にも大型モンスターがいる可能性があル。基本的に戦闘が開始されたら立ち止まるナ。チーム間のフォローは可能だガ、立ち止まればそのまま物量で押し潰される可能性が高イ。これは45階層も同様だと思エ。」
「クロエから聞いてましたけど運動量半端ないですね。そう言えばラボから中級回復薬とエナドリ、後はインナーも貰ってきました。個人分配でいいですかね?インナーは使い慣れたものがあるならそのまま継続使用の方が効果は高くなりますけど。」
「ありがとウ。インナーは全員装備しているが変えとして使ウ。回復薬は均等分配でいいガ、エナドリはディルが多めに持テ。流石にチームとして復元師を死なせるわけにもいかン。個人で持ち込んだ回復薬や装備は好きにしていいガ、基本はディルの治療を推奨すル。基本的なペアはグリッドとダレス、ディルとドゥ、ハミングはそれの援護として動き私とカオリは遊撃手となル。奥は通信状況が悪イ。はぐれた場合は信号弾等の使用を許可するガ、同時にモンスターにも発見される可能性が高イ。使う際は考えロ。さテ、他に何かあるものハ?」
「なら紹介しておきましょう。バイトちゃんおいで〜。」
「むッ、バイトが来ているのカ?」
「ええ、クロエに頼んだらたまには暴れたいだろうからって貸してくれました。かなり煙を詰め込んでたみたいなんで暴れてくれると思いますよ?」
ここに来て一匹でうろついていたバイトを呼ぶと直ぐに現れた。なんとなく意思疎通も出来るこの子は貴重な戦力だ。煙をまとい戦う姿を見て同士討ちされても困るから先に紹介しておかないとね。最悪パワードスーツが壊れたら足にもなってもらうし。
「そのワンコロ・・・。」
「ドゥ、これはクロエの飼い犬ダ。我々に危害は加えなイ。更に言えバ、今は黒いが戦闘時は大型化し煙を纏ウ。みんなにも言うガ、お前達はバイトに一度助けられていル。」
「この犬に?ダレスが小さい頃に尻を噛まれたのを助けられでもしたか?」
「俺は噛まれてない。そもそも全員助けられたと言うならお前のロケットパンチの時だろ?あの時に確かに白い大きな犬がいた。」
「ファーストの飼い犬は凶暴なのでありますね。」
「凶暴で済ませるあたりお前も肝が座ってきたな。俺はグリッド、よろしくなバイト。望田さんこれは個体成長薬を飲んだと考えても?」
「いえ?その前からバイトちゃんは私の足になってくれたりした信頼の置けるパートナーですよ。どこから連れてきたかはクロエに直接聞いてください。」
ドゥと言う人は見抜いたのかもしれない。でも、その先は話さない。米国にこの情報が漏れたとして同じ芸当が出来るかと問われれば疑問に思うし、バイト以降こうした事をしていないので次が出来るかも分からない。
ただソフィアの事を考えると出来ないわけではなく、したくないと言う方が正解なのかも。色々と面倒事に巻き込まれる人だけど、その中でも誰かの為に動いている。莉菜さんがたまに話してくれる『あの人は意地っ張りで自分勝手な所があるけど、それでも誰かの為に働いてる。』その言葉は確かに偽りはない。
仮に本当に自分勝手で独りよがりなら今頃ツカサはギルドマスターなんかじゃなくて、世界を相手に魔王にも成れるだけの力があるのだから。前に夏目さんと2人で組んでクロエとR・U・Rで戦ってみたけど勝ち筋は見えない。道理を通す所も空想を通す所もあるけど、事魔法を使っての搦め手では上を行かれ苦手な接近戦をするなら離れようとしない。
まぁ、肉壁の変化を乗っ取ろうとしたのはやりすぎたと後々反省していたけど、先ず他人の身体を乗っ取って自壊させようと言う発想が既に常人とは違うような・・・。ま、まぁ?何にしても出来てもしないと言うストッパーが本人の中で作動するから被害はないのだが・・・。
「バイトについては後で戦闘形態?を見せてもらうといイ。殺意は向けられないにしても中層のモンスターと対峙する気分は味わえル。他になければ解散し明朝0700を出発とすル。以上ダ。」
声は上がらずバイトを連れてドゥ達は外へ。残ったのは私とエマだけどどうしょうかな?積もる話もあるし、基地も見て回りたい。ゲート内セーフスペースにギルティタウンと言う犯罪者なんかの集まって出来た街はあるけど、それとは打って変わって基地周辺や内部には企業が作ったワンオフモデルの物品が多数売られている。
政府と企業のジレンマとでも言えばいいのか、外でA級品を研究するのには法律が関わってくるけど、治外法権のセーフスペース内ならそれは考慮しなくていい。その代わりなにか問題が起きても誰も手を貸してくれない。
ラボの様に駐屯地が真横にあって守ってくれるならその限りではないけど、民間企業でセーフスペース内に研究施設を作った場合、警備員としてスィーパーを雇うのが主流となっていた。でも、それでもデータを盗まれる事もあれば企業同士の潰し合いなんて事もある。それに首輪を付けた犯罪者もウロウロしている事があるので、安全だったセーフスペースは人の手で若干の危険性を孕むものとなった。
そこで統合基地を作り民間人を犯罪者から守ると言う方針が出た。ギルドにいるスィーパーの一部は仕事として統合基地周辺の治安維持を仕事とする人もいるし、中には企業に雇われて他企業と技術を賭けたR・U・Rを使わない模擬戦をする人なんかも・・・。基本的に統合基地内部へは許可のある人しか入れないけど、その周辺には治安を求めて今もどこかの企業が研究施設を作っている。
流石に人体実験は倫理の観点からセーフスペース内でもタブーと言うお触れが出ているけど、それが通用するのは日本だけ。それはソフィアの生い立ちを聞いた時に身にしみてわかり、更に言えば治験の募集は後を絶たない。回復薬がメジャーになりラボがその大きな利益を我がモノとする中で、どこの製薬会社も医療機器メーカーも生き残りを賭けた戦いをしている。
まぁ、ギルドとして出来るのはスィーパーの管理とスタンピード対策に新しい出土品の検証等々、やる事は多いけどゲート内でまで出来る事は少ない。多分全てを管理して安全を作ろうとも、その安全は作ったそばから波に攫われて消えるのだろう。
「カオリはこの後何か予定はあるカ?」
「いえ?まだ少ないとは言え多少企業の販売ブースがあるのでそこを見ようと思ったくらいですね。ゲートでモンスターと戦う事はあってもセーフスペースを歩くのは久々なんですよ。エマは?」
「私も似たようなモノだ。米国初の中位でグリッド達の教導官でもあル。机と友達ゲートが彼氏、ただグリッド達が至ったおかげで最近は多少落ち着いタ。それよりソフィアとは何者なのダ?ウィルソンが古くからの友人になったと喜んでいたガ・・・。」
「う〜ん・・・、なにか摘みながら話しましょうか。統合基地内なら防音施設も多数あると聞いてますし。」
売店で適当につまむ物を買い込む。全てタブレットで商品は在庫管理されて0なら物はない。入荷日が記載されてるけど、お酒なんかは殆ど0だけど売店の横にいるUber Eatsを頼めば外に出てここまでで持ってきてくれる。割高な気もするけどエマ達からすれば外に出る=米国に帰る事になるし、ここに来るまでの時間を考えるとそこそこ繁盛しているみたい。
「商品の売れ行きを考えると私も商人になろうかと考えるナ。」
「中層まで運んでくれるなら需要はありますね。そうでなくとも奥のセーフスペースはまだ未開の場所が多いですし。」
「米国もそこには頭を悩ませていル。電波塔を早期に設置したいが今の所6階層のみダ。日本の様に安定して通信が出来る方が稀だヨ。」
「ガンガン進んで建てましたからね。まぁ、私達は既存品を建てて後はリアクターで電力賄う方式でやってるから人が増え出すと盗難とかも怖いんですけどね。そこまでたどり着いて盗むかと聞かれると疑問に思うけど、破壊工作と言う話なら大打撃ですし。と、この部屋は空いてるのでここにしましょうか。」
使用中の防音室の中で空き部屋を見つけて中へ。カチャリと鍵かけると外の喧騒は聞こえず特に盗聴器がある様な様子もない。癖みたいになっちゃったけど、話す内容が内容なだけに仕方ないかな?防音室と言っても中はガランとしたなにもない部屋。固定処理された机や椅子は貸し出し式で私達には必要ないと借りなかった。それに、さっき使った机と椅子がエマの指輪の中にあるしね。
「とりあえず椅子と机を出ス。真っ先に防音室を整える辺り日本政府としてもここを色々と使い回すつもりなんだナ。」
「そうでしょうね。本部長様の会議室はラボにありますけど、あれって何時もふらふら飛び回ってるみたいで到着時間は未定になるみたいなんですよねぇ。」
「ふ厶。配信を見て流石に驚いたガ、本気で宇宙開発ヲ・・・、宇宙での生活をするつもりで作っているのだナ。共同開発するNASAはJAXAに鬼の様に資料請求をしたと聞ク。実際あの計画はいつからあったんダ?」
「あれの計画ですか・・・。ソフィアちゃんの件とリンクしますが・・・、いえ語弊がありますね。ラボが浮いたのはそもそもソフィアちゃんがいたからなんですよ。」
「ソフィアは技術者であるト?中国軍と言う言葉もでたし不当な扱いを受けた亡命者カ?」
「不当な扱いはあったとして区別するなら被害者ですね。ソフィアちゃんは込み入った事情の末にツカサと奥さんである莉菜さんに保護されたんです。そして、そこに絡んできたのが中国とロシア。まぁ、ロシア軍の方は来なかったのでいいとして、中国軍はツカサ、ソフィアちゃん、ラボ全てを手に入れようとしてたみたいなんです。そこで逃げる先として選んだのが・・・。」
「空カ、ラボの人間もよく調教されていル。やれと言われてやるのだから技術力は折り紙付きだナ。今ラボに行く方法はあるのカ?カオリは行った様な口ぶりだったガ。」
「行き方はあるんですけど口外は止められてますね。行き方を知っている人はかなり限定されてますし。」
「それでもドゥと握手する辺りカオリも剛毅だナ。そしてクロエはいつもの様に巻き込まれているト。トラブルメーカーではないにしろ数奇な運命ダ。今もまた何か事件に巻き込まれているのではないカ?」
「それはありそうなんですよねぇ。ちょっと前は各国に作る統合基地のシンボル写真を撮ったりしてたし。」
「あれカ。面白い話があるゾ?米国は新しい国で民族衣装に該当するものがなイ。なのでどうすると首脳陣で緊急会議が開かれタ。」
「首脳陣?」
「大統領含めたお偉いさんダ。私も知り合いという事で同席したガ、アメリカンインディアン風にマリリンモンロー風、カントリースタイルに果ては米国の国旗を水着にした物と言う意見も出たナ。まァ、水着は国旗ベースなので最初に却下されたがナ。最終的には殴り合いが発生してカントリースタイルで決定しタ。」
「アレですか・・・。下にタンクトップ着てるのに微妙に何もつけてない風に見える。と、言うか撮影する時大変だったんですよ?最初は着物で日本のものからって始めたのはいいけど、魔法使ってるもんだから目離せないし『モデルの着替えって確かどんどん着替えるからバンバン脱ぐんだったよな?』って言い出して見てる前で下着になっるから破壊力は上がるし・・・。」
「羨ましいナ!私達は背中しか見ていないというのニ!」
「なんかどっちが本音か分からなくなってるよ・・・。最近はまたキレイになったし苦手なカラオケも中層に行くって言ってたまに付き合うから約得ではあるんだけどね!」
「自慢だナ?宣戦布告だナ?受けて立つゾ?」
「ふふふ・・・、恨むなら国籍を恨むとよろし。と、言っても真横で奥さんといちゃつくから割と心はしんどい・・・。朝莉菜さんの顔見ると明らかに昨晩はお楽しみでしたね?って時もあるし。」
「それはナ・・・。まァ、出発は明日ダ。愚痴るなら飲もうカ。米国で食べ物も酒も大量に買い込んできタ。」
「ならちょっと飲もうかな?今は離れに間借りしてるけど白いワンピースでずぶ濡れになってバイト洗ってたり、ひんやりして気持ちいいから抱き着いても、そのまま髪に顔埋めても何もしないから誘われてるのかと錯覚する・・・。」
「やはり宣戦布告だナ!私なんて中層で一緒に水浴び下くらいしかないのだゾ!」
「でも下着姿は見たんでしょう!?」
「いつもの下着で眼福だっタ。能力使用後で尻に顔を埋めたくなっタ。小田や夏目達が講習会の時に背中や頭を洗っていたガ、私も早くから参戦すればよかったと思ウ。色々とクッションを買ってみたがあの手触りは他にはないからナ。しかシ、カオリは見ようと思えば下着も風呂も見れるだろウ?」
「この前一緒に皆んなで温泉に入りました!まぁ、ツカサはかなり悩んでたけど、何やら吹っ切れた感はあったよ?元々女風呂に入るのは仕方ないって事で諦めてたけど、息子さんの前でも堂々と女湯と言うか私達と家族風呂に入ってたし。」
「なラ、休暇で日本に行けばまた一緒に風呂に入れル?」
「それが目標なのはどうかと思うけど、入れるんじゃないかな?割と世話焼きだし。」
「よシ、中層から帰るた為の小さな約束だナ。休暇が取れて日本に行けたらその時は頼厶。」
「ええ、2人での小さな約束ですね。」




