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街中ダンジョン  作者: フィノ


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40話 卵と君 挿絵有り

 慰労会も終わった次の日、俺は高槻の所に来ていた。捕まらないと思ったが、連絡をするとトントン拍子に話が進み、こうやって彼と向き合っている。望田も付いてくると言ったが、流石に休みの最終日に付き合せるのも悪いと断った。今回の診断は俺と妻と、高槻の秘密になるだろう。

 

 明日からまた助言役として、講習にも参加しないといけないし、MRIの話もかなり前、約1月前から出ていた。それに、こっちに来てからも会うと催促されていたので、漸くという感じだ。

 

「それで、人払いは済んでますか? まぁ、してなくても、結果さえ秘匿してもらえれば、余り気にしませんが。」

 

「貴女がしなくても、こちらはしますよ。前は信頼できるメンバーとしましたが、こちらに来て色々と機材が扱えるようになりましてね、殆ど私1人でやりますよ。と、では寝てください。」

 

  患者衣を着て話していたが、MRIのべッドの上に横になる。初めて受ける機械での診察だが、見た感じSF映画の転送装置のようにも見える。MRIでの撮影の後もレントゲンや血液検査、検尿と様々な検査を受けるが、採血と検尿は出来なかった。

 

 検尿はそもそも出ない。水を沢山飲んだり、利尿剤を飲んだが効果は無く、腹囲を測ったが膨れも減りもしない。献血の針は刺した針先が消失し、素早くやってみたが何も抜くことは出来なかった。

 

 MRIやレントゲン、CTスキャンは輪郭は出るものの、内部は全て空洞を示す黒。ここまで来て業を煮やしたのか、全身の身体測定を行ったが、地元で受けた時とほぼ代わりはなく、変わったとしても衣類の違いによる誤差程度。中身を捧げたのでやはり体内に当たる部分は剥奪されているようだ。

 

「ふーむ、ここまで清々しくUNKNOWNだと、調べがいがありますね・・・。」

 

「そんなもんですか。仮説とか立ててみたらどうです?」

 

 そう言うと椅子に座った高槻は、レントゲン写真を1枚手に取り俺に重ねるように見る。仮説と言ったが、医療に関して俺は素人。高槻が思いつかないなら、後は適当な事を挙げるしかない。割と、その適当から真実が見えてくる事もあるのでバカにはできない。そんな事を思っていると、高槻は重い口を開いた。

 

「クロエが言うように、仮説を立てるとしたら、身近な類似品に酷似してるとは思いますよ?」

 

「類似品に? こんな摩訶不思議なモノありますか?」

 

 何かあるだろうか? いくら食べても腹は膨れない。入ったものはどこに行ったかわからない。妻と致したが、行為は出来たし妻の指は無くならなかった。

 

 ん~、見方を変える? 代える? 輪郭は有るんだよな、細い線だが俺がそこに居るという線は有る。姿は魔法を使っても変えられなかった。それは魔女は面倒と言って変えるのを放棄したが、多分変える事が出来なかったのだろう。しかし、外付けの物、例えば服は変えられる。当然と言えば当然だが、外側はあるのだ。

 

 身体は傷付いても元に戻る。それこそ瞬時に。これはソーツがそうすると言ったから、他は? 死を知らない彼等は死=休眠状態として、死を捧げたから活動時間は無制限。引っかかるのは休眠状態? ん〜、食べる事は出来る、食べる事は・・・。口から入って食べ物は何処かへ消え・・・。

 

「まさか、類似品ってゲート? 或いは、体内で還元変換されてると?」

 

 そう言うと、高槻は大きく頷き俺を見る。流石に身体にメスは入れられていないが、入れたそうな感じはある・・・、止めてくれよ、知り合いが高潔? な医師からマッドドクターとか。

 

「類似点は食べたものが消える。造影剤も無くなって虚無を示す影のみ。貴女の証言から、体の変化は無いが服は着れる。これはリングと固定具のようですね。なんなら、輪郭を固定具としてもいい。性交渉は・・・、ここでは割愛しますが、入って退出しているとすれば消失は無い。」

 

「俺は歩くゲートだった?」

 

「まぁ仮説ですよ、仮説。そもそも貴女の会った高次元の存在が、何をどう考えたかなど、我々では及びもつかないでしょう? 現代医療の限界を越えているんです。」

 

 高槻はおどけて言うが、他にも気になる所は実はある。ソーツと交渉した際、あいつ等はこう言った。『職業システムの設計が定めた法の為我々では介入出来ない』と。言語知識が固まってない、あいつ等の言う事と軽く流していたが、今にして思うとソーツと職業システムを作った奴は、別なのではないかと・・・。あの、物を創る事に拘る奴らが? まぁ、そこが別だとしても問題は今の所多分無い。

 

「とりあえず、この結果は極秘でお願いします。」

 

「分かりました、主治医には守秘義務もありますからね。傷の巻き戻しも見てみたいですが、それはゲートに一緒に行って万が一負傷した時に確認しましょう。今日はこれで大丈夫です、ありがとうございました。」

 

 そう言って高槻は立ち上がろうとするが、こちらにはまだ用事がある。この機会を逃すといつ会えるかわからないし、ゲートに潜る者としても防具は必要なのだ。

 

「待ってください。調合師の職の内容を教えてもらいたい。1つ依頼があるので。」

 

「構いませんが、貴女が私に依頼ですか?」

 

「ええ、調合師に糸の作成が可能だと。」

 

 35階層付近で集めた繭の様な草や他の植物を、机に並べて出していく。どれから作れるのか分からないので、とりあえずある分だけ種類を出していく。高槻はその出した物に目が釘付けだが、話は聞いてくれていると思う。

 

「調合師は配合 成分 作成ですね。何かを作る系の職の方には大体作成の説明が入っているようですよ? 鍛冶師の方にも作成が説明にあると言っていました。」

 

「それはありがたい情報です。作成は大丈夫そうですか? 一応魔法職なら糸は紡げるようなのですが、中々どうして、こちらでも頑張るのでお願いします。」

 

「分かりました、お互い頑張りましょう。」

 

 そう言ってお互い握手をして、自衛隊病院を後にする。久々の1人行動、さて何をしようかな。帽子にサングラス、黒いTシャツにジーパンとラフな格好で当てど無く街を歩く。そうして、ここにたどり着いた。願われていた、そうして欲しいと。拒んでいた、その時はあの時では無いと。献花台に花や御供え物は未だ多くある。掃除も行き届き、近くの看板には、いずれここに慰霊碑と銅像が立つと記されている。

 

「遅くなりました、貴方がたの献身は忘れません。次が無いよう全力で努めます、ありがとう、さようなら。」

 

 近くの店で買った花を献花し、手を合わせてそこを後にする。いずれの先に会う機会はないが、どうか安らかに眠ってほしい。・・・、済まない。文句も語らいも、貴方がたの来世でしようと。俺はここで待っているから。

 

 献花台から見通した先には、見慣れた秋葉原ゲートがそびえ立つ。赤光の灯りはない。いつ溢れるかわからない代物だが、少なくとも今では無い。大丈夫と胸を張るには余りにも脆弱だが、少なくとも歩みは止まってないよ・・・。

 

 あくる日。望田の迎えで目黒駐屯地に出向き、宮藤達と今後の訓練について話し合う。全員で20階層を目指すにはやはり、今の状態では厳しいとの結論が出た。現状でも行ける受講者は居る。しかし、安全を考慮するなら再度班分けをして先行組と、15階層付近での訓練組に分ける方がリスクはない。

 

「問題はどう分けるかですね。クロエさんはもう、目星はつけてますよね?」

 

「それはまぁ、初期は私含め講師陣とカオリで先行して、危険を体感するのがベストかと。」

 

 行った事がある無いで、攻略に対するイメージが変わる。それはモンスターに対する、倒せると言うイメージも然ることながら、仲間へのフォローの方法もまた変わる。5階層潜るだけと言えばそれまでだが、そもそもモンスターの質が変わってくるのだ。

 

「赤峰のおっさんとか、兵藤さん達は残りっすか? 十分行けると思いますけど?」

 

「雄二、先発で20階層までを体感できれば、それはそのまま20階層まで行く時のリーダーになるって事だぞ? 今名の上がったメンバー以外で、後続をまとめる人は彼等しかいない。それに、僕達にもしもの事があったら、後を任せられる人は残さないといけない。」

 

 卓が雄二を諭す、概ねその通りだ。それに付け加えるなら、職の優劣ではなく経験の差がある。単身での小骨撃破。これができるなら、20階層付近でも十分対処出来るが、出来ないなら死ぬ危険性が高い。

 

 一度何処かで経験の差を埋める場面を、作らないといけないな。腕っぷしで集まったメンバーなので、やってやれない事はないが、安全管理は必要だろう。

 

「卓君の言う事は正しいよ。宮藤さん、決定権は講師である貴方に預けますが、どうでしょう?」

 

「望田さんは防人で防衛力は高いですし、それはスイカ割りでも証明されちゃいましたからね。まさか、あれ程巧みに防衛するとは思いませんでしたが・・・。彼女なら全体フォローもできるので、その案で行きましょう。期間はどれくらいを想定しますか?」

 

 そう宮藤が聞いてくるが、どうするか迷う所ではある。キャリーして最速を取るなら長くて2日程度。1人なら更に早いが、問題は速度ではなく経験、戦わずに行って帰るのでは意味が無い。最悪でも20階層は自力で攻略すると想定するなら、それくらいはかかるだろう。

 

「最短で約2日、20階層まではキャリーしましょう。経験を積む場を20階層とするので、それまでは私が対処します。残ったメンバーは、14〜15階層辺りで赤峰さんと兵藤さんをリーダーにして実戦訓練です。行く方は箒か絨毯の持参をお願いします。」

 

 (軽く言えるのがすげぇな。)

 

 (その先をピクニックしてるんだ、余裕なんだろう。)

 

「分かりました、各人に通達して準備に入りましょう。」

 

 話は纏まり、教場で通達。行きたそうな顔はするものの特に反発はない。流石にそこは大人だ、ここで異議申し立てしても意味がない事は理解している。そう言えば、兵藤にはあれを伝えておくか。朝のランニングを終えたメンバーから、探し出して動画の事を伝える。簡易でも作れれば動きやすくなる。

 

「兵藤さん、海外配信者のセスという方の動画を見てください。その中で、簡易では有りますが、家が建ってます。多分、材料は箱です。」

 

「・・・、その情報は上に伝えましょう。後追いやパーティーが組めるなら、組織として動きやすくなる。」

 

 お互い認識は同じなのか、兵藤は軽い足取りで幹部がいる部屋に向かったようだ。自衛隊なら陣地構築は十八番、危険がない場所に立てるなら、検証も含めて早いだろう。宮藤と話していた望田や他のメンバーに声をかける。

 

「カオリ、準備はいい? 他のメンバーも。」

 

「大丈夫です。しかし、本当にこれで飛ぶんですか? いまいち実感が湧かない・・・。」

 

 毎度優先権を使うのも悪いので、今回は業者しかいない秋葉原ゲートより入る。卓は手に持った箒を頼りなさそうに見ているが、あまり不安なイメージは抱かないでほしい。流石に自分でも飛んだし、他の人も飛ばしたから大丈夫だと思うが、20階層からは更にモンスターも強くなる。墜落はないにしても、モンスターを怖がれば、そちらに注意が持っていかれる。

 

「必要なのは、安定して飛ぶイメージ。何なら箒の掃く部分からロケットよろしく火でも出すといい。無論、燃やしたら駄目だよ?」

 

 そう眼鏡からコンタクトに替えた卓に言葉をかけてなだめ、他のメンバーも見回す。望田は最初に俺が飛んだ時、間近で見ていたのでリラックスしてるし、宮藤は落ちた所でどうとでもなると思っているのか、泰然としている。面白いのは雄二でレジャーシートを出しては、固さを確かめるようにポスポス殴っている。絨毯と言ったんだがな・・・。

 

「さて、行きましょうか。」

 

「そうですね。皆さん、15階層までは一緒ですが、その後は兵藤さんと赤峰さんに従って下さい。危険を感じたらすぐ退出してくださいね。」

 

 その宮藤の号令で皆で手を繋いで入り、すぐさま1人で16階層へ入り辺りのモンスターを殲滅して、行くメンバーを呼び込む。スマホが使えるのは楽だ。道中のクリスタルや箱の回収は任せて俺は先を目指すのみ。さて、後は煩わしい魔女の機嫌でも取るか。この前は受講者に任せて、ほぼ倒せなかったのでご機嫌斜め。命令すれば問題ないが、人の中で勝手に拗ねられても困る。

 

『魔女、話は聞いてるな?』

 

「ええ、19階層までは貰うわよ?」

 

『どうぞお好きに。危険のない範囲なら任せる。』

 

「えぇ、えぇ、それでいいわ。」

 

 人の身体で勝手に表情を作っているが、多分魔女は笑っているのだろう。気分が高揚するのがわかる。うむ、娯楽だな。キセルを取り出してプカリ。さぁ、来たら行こうか。

 

 ________________________

 

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 僕はきっと屈折している・・・。それも、醜く折れ曲がり絡まり合って解けない。人が羨ましい、嫉妬。他人が邪魔、妬み。手に入らない、羨望。小さな自分が怖い、怒り。本心を語れない、空虚。解こうと努力したが結局無理だった、諦め。20階層を目指すメンバーに選定されたが、今も思う。僕でいいのかと。

 

 両親は女医者と外洋船のクルー、子供の頃からほぼ家にはいない。大学生になって一人暮らししないのも、そもそも実家がすでに一人住まいの様なものだから。両親の記憶など、ヒーローショー以外何もない。むしろ、顔さえ曖昧だ。彼等がどう表情を作っていたかなど、それこそ思い出せない。

 

 食事も1人、寝るのも1人、たまにくる連絡は勉強の事ぐらいで他はない。スィーパーになった事など知らないし、知った所で多分、何もしない。言うとすれば、大人なのだから自分で決めなさいだろう。

 

「おい、卓どうした?」

 

 レジャーシートにあぐらをかいて座って横を飛ぶ、雄二から声が上がる。出逢ってまだ日は浅いが、過ごした時間では今まで・・・、居なかった友人より、余程濃密な時間を過ごしている。当然だ、いなかったのだから。

 

「いや、少し考え事だ。凄いなクロエさんは・・・。」

 

「さぁみんな、虚ろい果てて、朽ち果てて、姿が崩れて、保てない。」

 

 僕達を20階層まで連れて行くといった彼女は、優雅に刺又に腰を掛けキセルから広がった紫煙は、モンスター達をゴミクズの様に倒していく。既に16と17階層は彼女が僕達の飛行補助をしながら、目の届く範囲のモンスターを確殺してここまできた。羨ましいと思う、あの在り方が。初めて配信を見た時、僕は醜く嫉妬した。美しい少女はPC画面の中で現実味の無い事を言いながら、しかし、リアルタイム配信だと言う事が僕を現実に引き戻す。

 

 僕は何故、あそこにいないのだろう? 僕は何故、彼女の立場に無いのだろう? 僕は何故、彼女を眺めるしか出来ないのだろう・・・。何故、何故、何故・・・! 元々捻くれていた性格はこの時、自覚するほどに確かにネジ曲がって屈折した。そして、配信で言った通りゲートは開き僕は単身で中に入った。

 

 驕りがあった。少女が出来るなら自分も出来ると。蔑みがあった。モンスターなど、ゲームと一緒で最初は弱いのだろうと。優越感があった。職選びで彼女と同じ魔術師が出たと。最初の魔法は何も出なかった・・・。説明は単語で、何をどうすればなどの説明もなく、全く持って魔法は出なかった。

 

 激しい苛立ちを覚えたが、モンスターはゲームの様に待ってくれるはずもなく、みっともなく逃げながら、彼女の事をがむしゃらに考えてやっと1つ火の玉が出た。それからは調子付いた、配信の彼女は火の玉を無数に出していた、なら僕はそれよりも上手く扱えると。

 

 それが功を奏しモンスターを倒した僕は、魔法を使いこなせると自惚れた。自惚れて増長し他を蔑んで街を歩いた時、彼の小さな呟きに出会った。そして、互いに叩き潰すつもりで対峙したが、結果は彼女に2人共簡単にあしらわれた。

 

 はっきり言う。この時僕は初めて笑った。だから、同じ経験をした相棒に素直に話せた。ここから、僕は少しずつ解けた様に思う。そして、旧秋葉原での戦があって目標が変わった。宮藤さんという人は、何と言うか頼りなさげだが、芯のある人だった。しかも、極太のガチガチの芯が。

 

 病室で彼に師事したいと申し出たが断られた。それは、幾度も幾度も・・・。理由は簡単な事だった、弟子を取る余裕などないと鬼気迫る顔で言われた。秋葉原で彼女に後を任せ、知り合いを亡くし、屍を超えた先に永らえた命は、生きる為の力を鍛えるのだと。

 

「あらあら、そんな姿は受け付けない、自覚なさい? ひしゃげた、身体は真っ二つ。」

 

「クロエさん、このまま19階層ゲートへ突入ですよね?」

 

「ええ、誘ってあげる。」

 

「いくぞー。卓、集中しろー。」

 

「分かってる! 気を抜けるか!」

 

 そんな折、病室に彼女が偶然現れた。そして、打算的に宮藤さんの下につき、政府主催の講習会に参加した。彼女は何と言うか普通だった、寧ろ色々と無頓着だった。そして、誰でも出来る雑務をしていた。例えば、教場の椅子を机の下に入れるなど。誰も気にしないし、しても感謝してもらえるかも分からない、けど、彼女は気にせず何気なしにやっていた。何となく、大人だと思った。

 

「ひらりひらりと、舞い踊り、星は彼方へ消えていく。残念ね、捕捉した。クルクル回って、固まって?」

 

「卓君大丈夫か? 様子がおかしいようだけど?」

 

「大丈夫です、宮藤さん。もうすぐ20階層ですね。」

 

 今もまた、無数のビームは1つも当たることはなく、歪曲したように遥か彼方へ飛んでいき、撃ったモンスター達は圧縮されて倒された。すべて事も無げに行い、結果には目もくれない。出来て当然、結果は分かっているとばかりに前を向く。その顔は多分、微笑んでいるのだろう。

 

 こうして後を付いていくと思う。僕はここにいて、いいのかとか。雄二は色々な人と話し、自らの糧として前へ進む。宮藤さんは自身の想いの強さ故、モンスターを見れば顔は微笑むが、その目の奥は何処までも冷酷だ。望田さんは、彼女の事を疑う素振りさえ見せずに、ただその背中を純粋に見つめる。駄目だ、集中しろ。例え、今は彼女の守る揺り籠の中にいるとしても、気を抜くな。

 

「少し、小骨が多くなってるわね?」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。カオリよく見てなさい? 音は貴女の中にある。感じれば、それは響く世界に轟かせ、跳ねっ返りを、押しつぶす。」

 

「よくわからない言い回しですね・・・、タバコ吸います?」

 

「それは後でかな? さて、柏手を、1つ打てば、鳴り響く、百鬼夜行恐れ成す、さてさて、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい? 聞けば、軋む、骨の音。」

 

 先頭を行く彼女が両腕を大きく開き、パンっと勢いよく手を打つと紫煙の中にいたモンスターが、不協和音を奏でてグジャリと潰れる。彼女自身は打った手が痛かったのか、両手をプラプラしているが、これは多分、望田さんに技を見せる為にやった事だろう。

 

「流石に慣れないわねぇ、次はやらないわ。」

 

「もう一度、もう一度! アンコール!」

 

「嫌よ、手が痛いもの。さて、物足りないけど20階層よ? サービスでゲートの周りのゴミは掃除したわ。前と違う所だから、地形は変わってないわねぇ。」

 

 かなり長い間飛んだと思う、体感時間だけなら半日以上は経っただろうか? 不思議と尻は痛くなく、多少の疲れがある程度だ。皆で回復薬を飲み、辺りを見回す。山岳地帯の様な地形は渓谷の様に変わり、落ちれば飛べない限り命はないだろう。

 

「では、ここからは自分達だけでゲートを目指しますね。」

 

「・・・、ええ、私は見守るわ。危なくない限り。」

 

 残念そうな顔をする彼女は、しかしクスリと笑うと、また刺又に腰掛けて浮かび上がって見えなくなった。彼女の言葉通り周囲にモンスターは居ないようだ。

 

「ここからは卓君、指揮をお願いします。」

 

「なっ! 宮藤さんがするんじゃないんですか?」

 

「望田さんと話しましたが、経験を積むのに今回はいい機会です。これ程保険のある状況もないでしょう?」

 

 そう言って笑顔をこちらに向け、他のメンバーも頷く。期待されている・・・、嬉しいが重い期待だ。ここは命が軽い場所。ミスをすれば、そのまま死ぬ事もある。彼女が見守っていると言うが、姿は見えない。まるで、夕闇を引いてくれていた手が離れたようだ。しかし、指揮権は渡された。

 

「分かりました、雄二を先頭に望田さん真ん中、僕と宮藤さんは後列でいきましょう。望田さん、ゲートの方角は分かりますか?」

 

「ちょっと待ってね。」

 

 彼女はS職、防人と言うが笛が武器で防衛が出来る。スイカ割りは直接見ていないが、聞いた話ではその防衛力はかなり高い。音を扱うので探せるか聞いてみたら、笛を取り出してソナー音のようなものを響かせる。

 

「方向はあっち。距離はかなりあるけど、それが1番近い・・・。どうする? 他のゲートにするならかなり距離があるけど?」

 

 彼女が示す方向は渓谷を越えた先。今更ながらに彼女がキャリーしてくれて、どれだけ助かっていたのかと思い知らされる。誰も飛べない、誰かを飛ばす事など出来やしない。なら、後はこの溪谷を自力で超えて行くしかない。他のゲートもあるようだが、前に聞いた話だと最短のゲートを外すと、次のゲートまでの距離は下手すると良くて数日、悪いと数十日かかる事もあるらしい。

 

「渓谷を越えましょう。望田さん小まめに方向指示をお願いします。後は、先程の通りに。」

 

「いいですよ。」

 

 そして歩き出したが・・・。

 

「雄二! 前から更に6!望田さんは雄二を守って下さい、宮藤さん援護入ってください!」

 

「おう! まかせろや!」

 

  挿絵(By みてみん)

 

 雄二が飛び出し2体の敵を斬り伏せ、反撃を望田さんが笛の音で弾き・・・。

 

「火の粉舞い散り、燃え尽きる・・・、帰る家はもう無いよ・・・、火葬。」

 

 宮藤さんが残りを灰にする。渓谷を降り始めて、既に何度目の襲撃・・・、いや、まとまって来る訳では無い。少なければ1体多ければ10体と現れる数も、種類もバラバラで多分小骨だろうモノもいる。

 

「望田さんありがとうございます、すげぇっすねそれ!」

 

「ふふふ、褒めなさい雄二君! なんだかんだで、クロエは中々褒めてくれませんからね・・・。」

 

「あー、クロエさんは無理は言わないけど、無茶な事は意外と平気でしますからね・・・。多分基準が違うんですよ。」

 

「皆さんお疲れ様でした。」

 

 3人に声をかける。心の中にドロリとしたモノが流れる。雄二は突っ込んだ時に出来た傷に、回復薬をかけている。望田さんは、笛で辺りを索敵し、宮藤さんはモンスターを倒した数なら1番・・・。

 

「お疲れー、指示サンキュ!」

 

「ああ・・・。」

 

「?」

 

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[気になる点] 「嫌よ、手が痛いもの。」 「さて、物足りないけど20階層よ? サービスで、ゲートの周りのゴミは掃除したわ。前と違う所だから、地形は変わってないわねぇ。」 連続クロエの会話文です…
[気になる点] タイトル 50話になってます!
[一言] 感想書くのは最新話に進んでからにしようと思ったけど一言 危険ランプが点灯したスタンピートはその時点で回避不可能なのでしょうか? 猶予期間に間引きをして回避可能だとしたらファーストさんの文字通…
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