406話 平凡だといいなぁ 挿絵あり
(それは教育の質的に?)
(いや?扱いとしてかな。はっきり言えば新しい種族と言うモノを迎えたとして、それに何かする必要性はない。高度に発達していればそもそも労働力と言う物には何一つ困らない。ソレは自身でやってもいいし、何かに代替えさせてもいい。ただ、代替えさせるモノに意思はいらない。そんなものがあればミスする確率を引き上げる。例外とするならソレを壊したくないとか、そもそも壊せないとかになってくるよ。君が見た外の世界の住人は何もせずにいる様に見えて、そのじつ無数のタスクをこなしていた。)
賢者は歌う様に言うが、確かに実体を捨てた者がわざわざ実体を有する者を使う必要性は薄い。捨てる過程で物理干渉はマスターしているだろうし、職を考えると距離もあまり関係ない。人は光速に近づくと時間の差が出ると言うがその差も物理的なもので、肉体を捨てた時点で無効だな。
前にゲート内でブラックホールを作れば色々解決と考えたが、仮に人類が全員精神体になった上でブラックホールを使ってモンスターを駆除するなら大丈夫なのだろうか?何せ重力とか全く効かないし。
でも、人類がその道を選ぶかと問われると微妙だなぁ。何処かでそんな選択を迫られたとしても一定数は肉体を残したいと考えると思う。まぁ、魔女の様に本体として残しておいて普段は精神体と言う流れにはなるかもしれないが・・・。
「フェリちゃんは・・・、獣人は獣人としての本能で計算してるにゃあ。自分が狩りをする時に効率性を求めたり怪我しない事を考えていくと数学は絶対的に必要だし、空間把握能力が優れて身体能力が高ければ世界は数字で溢れてるにゃあ。例えば、猫を抱えて胸の高さから落としてもちゃんと着地する。それが屋根の上からでも出来る。普通の猫の視力はあんまり良くないし、夜だと車のライトで目が眩んで轢かれる事もあるけど、それが人と同じ様に見えてるなら獣人の危機察知能力や計算力はかなり高いにゃあ。」
「それって人類敗北フラグですかね?職があるから私達は獣人を制御と言うか対等な関係として迎え入れましたけど、仮に職がない状態で獣人がいたら負けません?」
「う〜ん・・・、一応いろんな国が調査やアンケートを実施した結果から言えば現時点では勝負にならないにゃ。」
「勝負にならない?」
「ペット、日本語で書くと愛玩動物。虎に固体成長薬を飲ませても獣人にはならないしイヌ科のコヨーテも無理。獣人に対するアンケートでは100%、満場一致で自分で稼ぐよりも人から何か貰う方を好むし、余程の害意がない限りは触られてもOK。むしろ自分から擦り寄っていく。獣人はそもそも本能的に人と戦いたくないんだにゃあ。」
「歴史の重みですね。一緒に狩りすれば安定して餌がもらえるし、撫で回されるだけでもご飯にありつける。犬と猫で方向性は違えど猫もネズミ捕って持ってくるし。」
残念なにゃん太はそのネズミ捕り用の罠にかかって逃れられず、か細く鳴きながら救援を待っていたが・・・。まぁ、フェリエットになった今ならそんな事はないだろう、多分。後は固体成長薬がいつまで出続けて行くかだな。人とのベイビーはDNA的に無理だが、海外のニュースでは獣人の妊娠なんて話題もあった。
一応お腹の中の子供は人型っぽいが耳は頭についているし、尻尾も形成されているらしい。まぁ、人の手がグローブにならず指が形成されるのは不要な細胞が死滅してくれるおかげだし、当初からこう言う形とプログラムされているなら、その形成に何ら不思議はないだろう。
「性格は色々あるにゃあ。ラグドールとかは猫人になってもツンデレだし柴犬は一途だったりするにゃあ。最近は血統書と同じくらい性格を重視する人は増えたにゃぁ。」
「理想の相手がぼちぼち手に入りますからね。って、神志那さんも何か飼う気ですか?この前固体成長薬を探しにゲートに入ってましたけど。」
「柴犬を犬人にしたら身の回り世話をずっとしてくれないかにゃあと思って・・・。生活の大部分を獣人に任せて私は仕事しつつ好きな事をするっていい住み分けだと思わない?」
神志那が真顔で話しているが割と本気っぽく言う。確かに片付けとか苦手だしPC使って集中して仕事をするなら生活の色々が煩わしくなることもある。関係はそれぞれなのですると言うなら口出しは出来ないが、それってもうパートナーじゃなくて母親なんじゃ・・・。或いは神志那が稼ぐから主夫とか?
ただ覚えておけよ?猫はPC使ってるとキーボードの上に寝そべるし、犬は真横で一緒に画面を見てたりする。飼ってどれくらいの期間で獣人にするかは知らないが、一途な構ってちゃんだったらずっと側をウロウロしてるかも・・・。
「それが出来てる事例があるなら関係性に口出しはしませんよ。でも、くれぐれも野放しにはしないでくださいね?海外の失敗事例では捨てると言うか迷子になった獣人が野生化してターザンになってたなんて事もあるみたいですし。」
「アレは人が悪いですよ。多頭飼してた人が住む場所とか考えずに全部の犬に薬飲ませて山の中で寝かせてたんですからね。食べ物とかは用意してたみたいですけど日中はずっとゲートに入ってて管理も出来てなかったみたいですし・・・。」
「コレばっかりはインフラの問題があるからね。本来は飼い主が管理しなきゃならないし、獣人としてもなったばかりだとそこまで人の暮らしに詳しくない。イギリスとかでは獣人用の学校作ってどこかの時点で人の学校と合併しようかって話もあるみたいだし。日本も今の所アプリで勉強してるけど、本人か家族の意思で学校に通わせてもいい事にしようかって話も出てる。」
松田から聞いたが少子化で定員割れする学校があるなら、そこに補填として獣人を任意で入学させ運営費をせしめ取ろう作戦。まぁ、早い話が獣人になりたてで家に一人で置くのが不安な人は学校に預けようと言う話。強制ではなく日割りでもいいし給食代を持たせれば預かってタブレットで勉強する時間と一般知識を教えるらしい。
そして、そこの管理は教諭でなくともよく地域のおじいちゃんおばあちゃんを置く。これは獣人と言う物を今まで観察した中で学者達が導き出した答えで、人がよほど害意を及ぼさない限り獣人は人に対して敵対行動を行わないと言う所が起因する。ついでに言うと本人から見て弱者に対してはかなり優しいらしい。
だから最適解としてスィーパーでない老人を管理者に置き、やんちゃな奴にはスィーパーの先生等が厳しく怒りに行く。そんな構想が浮かび少しづつ詰められている。現状預かる所がギルドくらいしかないのでありがたいといえばありがたい話だな。
「どうですフェリエット!私の答えは!」
「正解率7割だなぁ〜。不正解箇所を自分で見つけて訂正するなぁ〜。」
「・・・、全部正解ですよ?」
「違うなぁ〜。連立方程式で-と+が入れ替わるのを忘れてるなぁ〜。上の問3はまだ分解出来るなぁ〜。他も似たような間違いだなぁ〜。」
「ちょいソフィにゃんタブレット貸して。」
「どうぞ・・・。」
話している横で勉強していたがソフィアがダメ出しを食らっている。ただ、今度は方程式を横に書いた上で計算しているのでケアレスミスの部類だろう。学生ではよくある事だ。まぁ、そんなミスでもミスなのでテストだと容赦なくバツにされてしまうのだが・・・。
「うん。フェリにゃんが言うのが正解。しかし、フェリにゃん頭良くなったにゃあ。苦手は?」
「国語はゴミだなぁ〜。文字が書けて読めればソレでいいなぁ〜。たかしの気持ちはたかししか知らんなぁ〜。毒入りスープくらいさっさと飲めばいいなぁ〜。」
「ソレは助かったって後から分かったから言えるからにゃあ。フェリにゃんスープ飲む?」
「最初に投げ捨てるなぁ〜。」
「脱出の糸口が消えた!アレ飲んで夢から覚めるから投げ捨てたらダメだろ?」
「でも、毒見ながら起きている世界が現実だなぁ〜、夢とか知らん。」
理系猫は物語の夢を見ないらしい。まぁ、種が分からなければ回答のしようもないか。実際気持ちを推し量る事は出来ても真実とは限らない。感動的な物語を読んだとしても後から作者が加筆してドロドロの愛憎劇になるかもしれないし、主人公とヒロインの視点では大恋愛でも恋敵からすればクソ憎い相手である。
「そこが獣人のドライなところだにゃあ。人間だったらピンチの時助けてくれるけど、獣人だったらどうする?」
「知らんやつならさっさと逃げるなぁ〜。逃げ遅れたり巻き込まれた方が悪いなぁ〜。人なら助けたら何か見返りがあるなぁ〜。差し当たって勉強見てる私に何かよこすなぁ〜。」
「たこ焼きと骨どっちがいい?」
「昨日から見てるから両方で釣り合うなぁ〜。」
フェリエットが俺の方に手を差し出すので昨日買った骨と、何時買ったか忘れたたこ焼きを指輪から出して渡す。まぁ、忘れたと言っても未だに湯気は上がるし鰹節は踊っているので、出来立てと言っても差し支えない。今年の祭りは荒れるかもな。事前に準備して備蓄した料理の量が明暗を分ける。
「熱い球体がその姿で私を誘惑し、鼻腔を抜ける鰹節に青のり、酸味のあるソースの香りが猫舌と言う事実を忘れさせ、突き立てた牙を押し返さんと大ぶりで弾力のあるタコががが・・・、中トロトロで熱いなぁ〜!!でも、魚粉はイケナイ魔法の粉の味がするなぁ〜。」
「水をどうぞ。」
「勉強頑張ってる私に1つ進呈してもいいですよ?」
「100点じゃないからご褒美はないなぁ〜。」
「ガッデム!」
「国語は苦手として語力はあったね。」
「クロにゃんまた現実逃避してない?あれってもうグルメレポートだにゃあ。う〜ん・・・、一度戻ってアプリの進捗率を確認してみようかな。」
「進捗率?」
「アップデートした時に全体的な学習速度を見れたら便利だと思ってどの教科が何%回答されてるか見れるようにしてるの。フェリにゃんを見た時に天才って言ったの覚えてる?」
「ええ、たしかにそう聞きましたね。DL数に対する学習速度で獣人の知能指数が可視化出来ると?」
「やってない獣人もいるし能力があっても使ってない子もいる。隣人として立った獣人だからこそ、人間が仕事を優先させるならその仕事に理解を深めていくし、フェリにゃんみたいに総合的に学習力が高まる子もいる。・・・、クロにゃん。フェリにゃんって職に就けそう?これ以上の総合学習力が必要って言われたら他の要因を探した方が早いかもしれないよ?」
「私もその事は考えていましたよ。何もなく日常に溶け込み個人差が開く中で特定の個体が勉強に興味を示して独学で学習して2年が目安。でも、私達は隣人として接して平均的に学力を上げられる様にアプリを作ってもらってネットに流した。なら、短縮されてもおかしくはないと思いますよ?」
「フェリエットちゃんをそろそろゲートに入れるんですか?」
「入れてもいい頃合いだとは思う。ただ、職に就けるかはゲートが決めるし・・・。」
職のシステムとして獣人に興味を示してもらえるのか?魔女達の様に暇にしている同族とやらがいれば答えてくれそうだが、そうでなければ何時になるやら。まぁ、意志が宿る宿らないはどうでもいい事か。問題はどんな職が出るかとか?獣人に適性のありそうな職とかあんまりイメージ出来ないんだが・・・。変に突拍子もなく無難でいいんだよな、無難で。
でも、剣士とかの武器を使う系は多分ないだろ?だって今まで犬も猫も道具なんて使わなかったし。なら、魔術は?出来なくはないが動物からすればソレは脅威としてあるモノとした方が分かりやすい。なら、追跡者とか?確かに獲物を追うと言う意味ではありそうだが・・・。人なら適性を考える時に指針が立てやすいが、獣人となると全くの未知だ。だが、職に就けたならソレはモンスターと戦う明確な戦士になったと言う事でもある。
そうするとまたゴタ付くな。スタンピードを考えると戦力は多い方が良いし、獣人でも補充出来るなら補充する。そこで問題なのが種族の壁。戦場で獣人を見捨てた見捨てられたなんて話が出だすと軋轢が生まれる。人にその気がなくとも人は人を優先するだろうし、獣人は人を助けてくれるかもしれないが本当に危なければ逃げる。
生存本能と言う面では何1つ間違っていないのだが、フェリエットはたかし君の気持ちは知らないと言った。なら、それを戦闘後に言った場合人としては憤る場面がある。流石に戦った功労者に面と向かって文句は言わないだろうが・・・。
まっ!獣人だけでスタンピードを封じ込めるなんてバカな事を考えるやつはいないだろうけどさ。そんな事をすれば人と獣人の立場は逆転するだろうし、人が愛玩動物にされても文句は言えない。だって戦ってもなければ戦えるほど職を使いこなせていないと言う事だろ?力で勝てず戦う時に肩も並べない相手なんて適当に愛でて要らなければ捨てるだろうし、もっとドライに何もくれない相手には見向きもしないかもしれない。
これは一旦松田辺りと話し合ってからだな。出来れば大井と黒岩も呼んで話さないと足並みが揃わずに余計ヤバくなるかも。そうなると、アライルもいるなぁ〜。実例が出てから話すよりも出る前に話を固めた方が混乱も少ないだろうし。
「話し合いかにゃあ?」
「それが最善でしょう。人は一人の世界で生きてませんから。」
「耳の痛い話だにゃあ。じゃあ、私は学生さん達が来る前にノートPC持ってゲートに逃げるぜ!」
シュタ!と手を挙げて神志那が走っていく。快挙だ。あの神志那が走ると呼べる速度で逃走したのである!前はのたのたと歩く速度で進んでいたあの神志那が!本人の努力は実を結びちゃんと体力や筋力はついた様だ。と、感動してる場合じゃなくてそんな時間か。
「おっ、那由多君達の声がしますね。」
「そりゃあ遠足で来てるからね。」
「お兄ちゃんが来てるですか?」
ーside 那由多 ー
スィーパーになって遠足なんて余裕だろう?そう思っておた時期が誰にでもありました・・・。高校生と言う事でジャージに体操服なのはいい。荷物もユビワに収納して身軽なのもいい。しかし、遠足だ。早い時間から昇り始めた太陽は出発前時間にはアスファルトを熱し、一歩また一歩と歩く度に吹き出す汗はいつしか乾き切り身体に熱がこもる。
普段は走ってギルドに行くからいいけど遠足なので歩く。その歩いた時間分走った時間よりも太陽にさらされる。最初に走ろうと言ったのば誰だったか・・・。先生に注意され列に戻されたが、あの時暴徒の様に全員で走り出せばまだマシだったんじゃないかな?
途中で魔術師:水の女子生徒が怒りの放水をして全員水浸しになったがその事に誰も怒りはせず、魔法を使ったとして先生に連れて行かれる様を全員無言の敬礼で見送った・・・。
「那由多・・・、ここが僕達のアルカディアか?到頭僕達はたどり着く事が出来たの・・・、か?」
「しっかりしろ結城!お前言ってたじゃないか!美人な水着のお姉さんと波打ち際で遊ぶんだろ?こっそりとビキニの紐がはズレて流されるハプニングを期待してたんだろ!?」
「那由多、親友だが自分の欲望を人に押し付けないでくれるかい?いくらこの後ご飯を食べて海に入れるからってさ。」
「てめぇ・・・、いい度胸だな?」
「バカ二人は何を騒いでいる。さっさと昼食をとって海に入ろう。暑くて敵わない。」
「そうですね、私も暑さからは逃げられませんでした。」
校長から全体挨拶された事を要約すると、羽目を外しすぎるなと言う長ったらしくてありがたくもない言葉を貰いそれぞれに解散。つわ者はビーチパラソルを使ったりどこから持ってきたのかスポットクーラーに自分で電気を流して涼を得ている。
ウチは結城がさっさと屋根付きのテントを魔法で作ったのでそこに避難。遠足と言いつつ行った先ではサバイバル推奨なのは高校としていいのか?まぁ、卒業してスィーパーで飯食う奴はこういったサバイバル能力も必要なんだろうし、ギルドの敷地は職を使ってもいいので安全にやるならここになるんだろうけどさ。
「黒江君黒江君、時にここで全力で君が父君を呼んだら天使は舞い降りると思うかい?」
「父さんは仕事中。呼んでも来るのは先生だ。出発前にも言われただろう?働く人の邪魔はしないことって。てか、人の父親を気持ち悪い呼び方するな。」
飯を食い終わった後にクラスの佐藤がバカな事を言って来るが、その辺りは厳しいので余程の事がないと来ないだろう。そして、その余程の事はここではそうそう起こらない。そう、起こらないはずなんだ!
「スッゲー美人だけどあれって・・・。」
「配信のソフィアちゃんだよな?」
「えっ、ホットな有名人いるの?」
ソフィアがキョロキョロと辺りを見回しているが、多分誰かを探しているのだろう。まかり間違っても俺ではないはずだ。俺であるはずがないんだ!多分母さんとか父さんとか望田さんとかフェリエットとか・・・。
「那由多お兄ちゃんどこー!身体をしっかり見てもらいに来たですよーー!!」




