405話 進化の兆し 挿絵あり
「いってきまーす。」
「はい、いってらっしゃい。どうせギルドで・・・、会いに行ってやろうか?」
「混乱の元だからやめてくれ。」
「暑いから熱中症っぽくなったら救護室に来るのよ〜。今日は生徒受け入れ可にしてあるからね〜。」
「このクソ暑い中よく歩く気になるなぁ〜。人は拷問されるのが好き?」
「拷問は嫌いです。でも、ピクニックは楽しいですよ?」
「前に瓦で肉球火傷したから私は嫌いだなぁ〜。」
学校に行く息子を見送りながらソフィアとフェリエットが話しているが、一時期肉球を舐めまくっていたのはやはり火傷したからだったか。にゃん太の時は割とドジをしていたがフェリエットになってからはあまりドジをしたと言う話を聞かない。寧ろ優秀な部類で手広く獣人からも人からも頼られている。
ただ、万能文化猫娘と化したフェリエットは冷房の魔力に取り憑かれ暑い日はあまり外に出ようとしない。元々猫は暑い所の生き物なのだが、野生が枯れていくとこうなるのだろう。身体能力も高いのにもったいない。
「おはようございます。そろそろ行きますか?」
「行こうかカオリ。ほら、フェリエットもソフィアも乗る。莉菜〜、戸締まりは任せた〜。」
「は〜い、すぐ準備するから乗って待っててね〜。」
車に乗り込みエンジンをかける。冷房が効くまで多少時間はかかるものの指輪から出したのでそこそこ涼しい・・・、と思ったら大間違いで冷房と太陽のチキンレースが始まる。
「私も車買い替えましょうかね?4人乗りの普通車だと毎回車借りる事になりますし。」
「別にいいんじゃない?私はバイクあるしカオリはスポーツカー好きでしょう?プラスで乗ると考えるとスポーツカーで十分。ソレよりも増えたらもうマイクロバスだよマイクロバス。」
「ハイエースでドナドナコースもありましたけどね。」
「増田さんにそれ言うとものすごく嫌な顔されるよ?」
「誰か攫われたですか?」
「ん〜、私が昔ハイエースで攫われた。無論やっつけて勝鬨をあげたけどね。」
「お父さんはパワフルです。やっぱりいっぱい食べると強くなれるですか?」
「クロエが食べるのは腹にたまらないからだなぁ〜。イヌがずっともぐもぐするのと一緒だなぁ〜。」
「フェリエット、お父さんの胃袋は宇宙ですか?底はあるです。」
「さぁ〜なぁ〜。冷房をもっと強くしてほしいなぁ〜。」
「フェリエットちゃんってもしかして?」
「分からん。モンスターを敵視したり妙に鋭かったりするし、下手したらゲートに入れたら職に就けた獣人1号になるかも。おつむのレベルを考えるとそれくらいはありそうだしな。」
後ろの席でどうにかして座席で丸まれないかとしているフェリエットを望田と見る。ギルドに着いたら賢者に聞いてみようかな?前に一度考察したけど明確に短縮出来たかは分からないし。
「おまたせ、戸締まり完了であります。」
「了解、なら行こうか。」
車を走らせギルドへ。昨日買った服を着ているがそんなに見ないといけないもんかね?本能的に見たくなるのは分かるが、慣れると言う事は・・・、無理か。本能が培われた分の年月を超えないと新たな価値は生まれないだろうし。そんな事を思いながら妻と別れワイシャツとスラックスに着替えながらギルマスへ。
書類もメールも多いが捌けない量ではない。代わりと言っては何だが新しく稼働したギルドマスターからここどうするの?メールが稼働しているギルドマスター全員に送られている。まぁ、稼働したてはかなりごたつくから悩みは多いよなぁ〜。
「法律課との連携は不可欠。蔑ろにしたり軋轢があるとかなりヤバイよ〜っと。」
「何のメールですか?」
「新しく稼働したギルマスから。」
「法律課には頭上がりませんからね。最終決済はマスターや副長でもいいですけど、それをする為の根拠が必要ですし。」
「有事ならある程度超法規的措置って言葉でどうにかなるけど、平時にそれ言い出すとただのワンマン自己中だからね。過去を引用するにしても時と場合で違うってぇの。」
なんでもそうだが過去に勝ったから今回も勝てる。そんな絶対はないんだよ。こちらが努力する様に相手も努力するし、こちらが怠ければその隙に相手は先に行く事も。そんな事を考えつつ連れてきたソフィアとフェリエットの勉強風景を見るのだが・・・。
「ソフィアはダメダメだなぁ―。全く分かってないなぁ〜。これは昨日の午前中にやったなぁ〜。唐揚げもらった分は覚えないとダメだなぁ〜。」
「こ、これは難しいですますよ?」
「難しくないなぁ〜。式も解き方も一度やってるなぁ〜。・・・、ならちょっと頭を柔らかくするなぁ〜。」
連立方程式か一次関数をやっているのだろうが、フェリエットからダメ出しをくらっている。う〜む・・・、そもそもソフィアの習った範囲ってどこなのだろう?海外と日本では進み方も違えば教える内容も違う。究極的に言えば生きるのに数学はいらないし算数で足りる。
「コレに出来る計算式を書けるだけ書くなぁ〜。出来たら起こしてなぁ〜。」
「フェリエット寝てはダメです!って、もう寝てる・・・。」
「宿題だな。とりあえずやってみなよ。」
フェリエットがノートの中心に書いたのは32と言う数。考えられるとすれば・・・、いやそもそも知ってる公式を書く作業か。回答は固定なので本人の知識量が物を言う。多分、フェリエットの狙いは今のソフィアのレベルを知る事だろう。どこだったかなぁ・・・、確かフィンランドとかで算数する時は似た様な方法をとってたな。
「30+2で32ですね。」
そう言いながら足し算をノートに書き入れる。そこから引き算割り算掛け算と書き足してそこでカツンと止まる。そこから以降となると微分積分、連立方程式に因数分解や関連図と言うか図を使ったもの等々増やそうと思えばどんどん増やしていけるのだが・・・。
「これ以外はないですよね?」
「う〜ん・・・、私は昨日何を習ったか知らないからなぁ。少なくとも計算式だし数学のお約束を考えて増やしていくといいよ。」
「頑張ったらお姉さんが昼にはアイスを奢っても上げますよ。」
そんな励ましを受けてさらに何個か捻り出す。一応、タブレットを使っていたおかげか基礎は大丈夫な様だ。そうなると基礎のおさらいをざっくりやった後に中1レベルからかな?朗報といえば分数では躓いていない所か。
「フェリエット出来たです!起きてください!」
「う〜・・・、足りないと言えば足りないなぁ〜。連立方程式とか入ってないなぁ〜。仕方ないからもう一回教えるなぁ〜。」
紙に難しそうな式を色々と書き込んでいるが・・・、えっ!中学生レベルの数学ってこんなに難しくなってたっけ?log使うのって対数だったよな?てか、数学のレベルを考えると普通に高校生レベルをフェリエットは軽くこなしている様な・・・。
『もしもし、神志那さん?ちょっと時間あります?』
『あるよー、斎藤っちとの話し合いもぼちぼち終わったぜ!マスタールームでいい?』
『ええ、お願いします。』
「神志那さん呼んだんですか?」
「気になる事があってね。カオリはフェリエットが書いてる式を見てどう思う?」
「どうって・・・、数学得意な人くらいはバンバン書いてますよね?うわぁ〜、あの式とか習ったけど忘れてるなぁ〜・・・。ん?あの式なんですか?」
「さぁ?私も流石に数学書は読まないから知らないよ。だからこそアプリ作った神志那さんを呼んだんだけどね。」
「ソフィアは数字をよく分かってないなぁ〜。回答に繋がる道は無数にあるなぁ〜。だからこそ、必要な式は本当は1つでいいなぁ〜。でも、渡された武器は多い方がお得で下手するとそれしか通用しないかもしれないなぁ〜。数学はそんな一本道を飛び跳ねて進むゲームだなぁ〜。」
「ゲームが難しすぎます・・・、何かもっとこう簡単なゲームはないですか?」
「武器持たない怠け者はどんなゲームも攻略できないなぁ〜。コレが難しいなら・・・、面積パズル?」
「面積パズルはやめとけ。ハマるとずっとやるから。」
「なんですか?面積パズルって。」
「あたいが来たーー!!なに?面積パズル?四角でいい?それとも変化球に丸とか星とか入れちゃう?」
ハイテンションで現れた神志那は面積パズルと言う言葉に、引っ掛かりを覚えたのか楽しそうにパズルの案を出してくる。オーソドックススタイルな物はいいが変化球にされると難しくなるし、四角が多すぎても面倒なんだよな・・・。
「いえ、それには及びませんが・・・。」
「おっ!君がソフィにゃん?お姉さんは神志那って言うからよろしくね〜。帰国子女って話らしいけど・・・、てか用って何?」
「フェリエットについてですよ。学習アプリって確か普通に小学校とかの入試問題とかの寄せ集めでしたよね?」
「スタートはそうだにゃあ。ただ、ロック解除式で最終問題まで解いたらアプデされてどんどん難しい問題が追加されるにゃあ。じゃないと面白さはないしね。」
「追加ってどこまで追加されるんですかね?」
「もっちーいい質問だにゃあ。海外の飛び級をモデルにしてるから・・・、既存大学の入試問題レベルは最終的に入れたかな?なに?難しくて泣きそう?」
「いえ、そう言う訳じゃないんですけどね・・・。」
「神志那さんフェリエットが書いたノート見てみ。」
先程の32の周りに数式が書かれたノートを見せる。かなりの量の数字が書き込まれているが、字はきれいなので不思議と見づらいと言う印象は受けない。ただ、結構細かく書き込まれているし、他にもあるだろう?と聞いたら更に書き足しそうな気はする。
「!?!?!?・・・、マジ?えっ!これいつ書いたの?てか、なんでこんなの書いてるの?」
「ソフィアの勉強を見させている時にフェリエットの指定で書いたものです。文字の違いで分かると思いますがきれいな方が・・・。」
神志那が驚く辺り凄いんだろうな。どう凄いかは凡人には分からないが、少なくともただの猫から猫人になりそこから更に理系猫人になったようだ。下手すると猫人に数学を教わる日が来るかもなぁ〜。昔、猿でもわかる◯◯と言う本が多かったが、これから先は猫が教えるとかも増える?
いや、回答はしてくれても解説はしてくれなさそうだし、どちらかと言えば受験のサポーターとか?或いは獣人は全員成人扱いだから家庭教師とか?何にせよ他の獣人もフェリエットと同程度の知能があるのだろうか?
「式の傾向からみると運動とか慣性・・・、後は地点移動系が多い?フェリちゃん式ってこれ以外も書ける?」
「書けるなぁ〜。でも、それ以外はあんまり必要ないなぁ〜。それがあれば小鳥を捕まえて食べるのは楽になるなぁ〜。」
「いや、フェリエットちゃんはもう小鳥食べないでしょう?・・・、食べてないですよね?」
「いや、私としては食べてないと信じたいけど元は猫だしな。京都とかだと雀の串焼きって普通に売ってるし・・・。」
「ちょっ!なんでそこで弱気なんですか。下手したら口の回り血で汚して帰ってくるんですよ!」
「それは困るけど何気に猫ってきれい好きだから顔洗って帰ってこられたらわかんないよ。まぁ、人間の料理を食べてそれが継続して手に入る中でわざわざ鳥取る?」
「それを言われると確かに取らなさそうですけど・・・。」
「多分、その野生は数学に生きてるにゃあ。」
「どう言う事?」
「数学をパズルって言うけど、そのパズルってどんなパズルだと思うって事。」
「平面じゃないんですかね?」
「いや、立体だよ。そうじゃないと数学をパズルとして見たら行き詰まる。数学の範囲には奥行きなんかが出てくるし、それを考えるとマイナスとプラスは斜め線じゃなくて正面から見たらただの縦線なんて事もある。」
「そうだにゃあ。フェリちゃんだけがこんなにスラスラ解けるのか、それとも猫人や犬人全体がこういう感じなのかは正直まだわかんない。ただ、地域性を言うならフェリちゃんは今1番教育を受けてる猫人ってのはあるかな?」
タブレットに齧りついたり仕事させたりしていたが、潜在能力はかなり高いようだ。寧ろ、おつむのレベルは中卒レベルを超えているので職に就ける?
(賢者〜、フェリエットは職に就けそう?)
(決めるのは僕じゃなくてゲートだよ。気になるなら入れてみればいい。そして、僕の見立てを上回ったならそれは誇れる事だと思っていい。)




