399話 退出前 挿絵あり
配信終了後は激しくバタついた。襲撃とかではなく口裏合わせにだが・・・、ソフィアを養子にするにあたり戸籍とシナリオは出来たのでそれの暗記から始めたのだが、自称おバカなソフィアは黙読で躓きタブレットとにらめっこを始め、どこが読めないかと聞くと漢字とカタカナを指差すので、そこを読んだ後に朗読させると言う流れが始まり、俺も付きっきりとは行かず妻に任せる場面多数。
ただ暗記力は悪くないのか、何度か読めばスルリと覚えてくれたのは助かった。助かったのだが、シナリオが中々に複雑だと言うのも覚える手間に繋がったのだろう。
ソフィアのバックストーリーとしては施設からの引き取りがスタートとなる。息子や娘も一応そのストーリーがあるので不自然な所はないのだが、留学と言う部分で何歳から留学したのかでごたついたとか。一応夏休みとかを利用したホームステイは小学生からかのうなのだが、どこかの時点で帰国していないのはおかしくないのか?
と言う部分に突っ込まれると弱いとの事。確かに姉弟が日本にいるのに1人だけ長期間海外にいるのはおかしい。そして、友人とは言えウィルソンの所に預けっぱなしと言うのも、今度はウィルソン邸の周りの人間からすればそんな人はいなかったと言われてしまう。
ならどうするのか?解答は病気の治療の為という話で落ち着いた。俺の外見からソフィアもアルビノとなり遺伝子治療を受ける為に長期間で米国に駐留、帰れなかった理由としてはこの治療が週何回施術を受ける為となり、宿泊先はウィルソンの家だが殆どの時間を病院で過ごした事になっている。
それならば回復薬の出現により健康体と成り、こちらに帰ってきたと言う話にも納得出来るし両国の家の近くの人間が見た事ないと言っても言い訳が立つ。ついでに言えば入院先はペンタゴンと言うか、米国のエージェントか入り込み何かの際はその人が『黒江 ソフィアは入院していた』と証言する手筈となっている。
ソフィアの件はそれでいいとして、残るは俺達家族の方。正確には俺と妻だが、渡航歴がないので適当に改ざんしてもらった。英語話せないと言う話は闇に葬られ、俺は英語ペラペラになったらしい。まぁ、ペラペラなのでいいのはいいのだが、松田が信憑性を持たせる為に英検とかの資格を保有している事になったらしい。う〜む・・・、今の世の中資格の信憑性ってどれくらいあるんだろうか?まぁ、くれるなら貰っとくか。
あれだけ英語出来ないと言った手前、どこからともなく文句が飛んできそうだが、それは適当にでまかせを言うとしよう。実際自己保有の資格を確認する機会なんてほとんどないし、日常的に使うバイクやら車の免許があれば問題ないしな。
「ワタシはベイコクにイマシた。ワタシはベイコクにイマシた。ワタシはベイマックスにイタです。」
「ベイマックスにどうやっているの?さすがに頭がパンクしだしたか。ちょっと休憩する?」
「休憩・・・、ポテチ・・・、コーラ・・・、アニメ鑑賞?」
「ソフィア?それはしてもいいけど昔の藤さんみたいになるわよ?」
「昔の藤?前はスラッとしてなかったですか?」
「ソフィアは知らないのか。本部長選出戦のアーカイブで・・・、あったあった。コレが昔の藤君だよ。」
「コーラとポテチは敵でした!私はスリムを目指します!」
「まぁ、寒い所の人は中年になると太りやすいし、食事も結構ハイカロリーだからね。サーロとか日本人からしたら油にしか見えないし・・・、」
「サーロ?なんでしたっけ?サーロ?懐かしい気もするです。」
「平たく言うと豚の脂身の塩漬けだよ。」
「あぁ、司が酒の摘みにって少しづつ食べてたやつよね?」
「惜しい!私が食べてたのはパンチェッタ。豚肉の塩漬けだよ。一時期君が間違って覚えてマチェットって言ってただろ?食料品店でナタくれって言われた店員は焦ったと思うなぁ。」
「いいんですぅ〜、コレですよね?って持ってきてくれて司の胃袋に収まったんですぅ〜。」
「サーロは危険なので食べないです。寧ろ葉っぱ食えば痩せる?」
「今は育ち盛りだからちゃんと食べる。私なんか食べようと思えば無限に食べるんだから。さてと、莉菜はそこそこバックストーリー覚えた?」
「ええ、どんどん大きく記憶を結合してるから1回読めば忘れないわよ。ふっふっふっ・・・、コレで言い間違いをイジられずに済むわね。」
「スィーパーは卑怯です・・・。私も職に就ければ簡単に覚えられる?」
「下地としての知識は必要だからスィーパーになるなら勉強は大事。実際教育が行き届いてない所の国は独自進化路線みたいだし。」
シャーマンは魔術師らしいけどやはりと言うか火が多いらしい。地域性にもよるし、どう言った事をしていたのかでも変わる。インディアンの流れをくむメディスンマンとかなら治癒師とか調合師も出てくるとか。アフリカだと槍師が多いらしいし、やはり地域性と教育は必要なのだろう。
「とりあえず、夏休み明けから中学校に編入予定だけど駄目そうなら冬休みまで延ばすかなぁ・・・。自宅学習でどこまでやれるか分からないけど、出来れば学校には行った方が良いし。」
「学校の勉強大事ですか?」
「勉強はまぁ、学生の本分だけどそれよりも友達作らないとね。勉強してお小遣いもらって、ゲームして漫画読んで友達と駄弁る。人生はクソゲーって言う人もいるけど、それは一人じゃ攻略出来ないからであって、大多数が接続するオンラインゲームだとすらなら当然レイドは数揃えないと。いい人も悪い人も含めて色んな人と話して自分で考える力をつける。学校で学ぶならこれが一番大事じゃないかな?」
ペーパーで覚えられる事は、はっきり言えば一人で覚えられる。確かに誰かを師事して教えてもらえば楽かもしれないが、それはあくまで速度の問題であって考えると言う事には繋がりづらい。まぁ、教える人がそう言う教え方をすればその限りではないが、解き方と解答を貰ったらその通りに誰でも解いてしまう。
それは決して間違った事ではないし、効率を考えるならそれは最善かもしれない。しかし、世の中数学の様に全てに明確な答があるわけでもないし、むしろ不確定なモノの方が多い。それにぶち当たった時にとうするかと言えば、多くの人の考えから自分にあったモノを選ぶ方法でもいいし、多くの考えを元に新しい選択肢を作ってもいい。結局自分がどうしたいかを決める為の視野を広げる作業。それが学校で学ぶモノだろう。
「中2・・・、中2って何してるです?」
「時期的に修学旅行は終わってるかな?早ければ2年の5月頃に行ってるはずだし。残りの行事だと体育祭とか文化祭とか?翌年が高校受験だから、かなり気合い入れないと勉強は追いつけないかも。」
「取り残されたら大変です!」
そう言いながらソフィアはまたタブレットに齧りついた。実年齢が分からないが、仮に今15歳だとすると来年には職に就ける。そうなれば受験はかなり楽になるし、下手すればソフィアが受験する頃には受験そのもののあり方が変わるかも。
言っては悪いがヤンキーだって大学に行けるし、職の扱いが上手ければ勉強自体が教科書を読めば終了と言う状態にもなる。受験の為にスクリプターになるかと言われると迷うが、人間とは現金なもので確実に合格出来ると言われたならなる人はいる。まぁ、その辺りは文部省がどうにかするだろう。
「クロエ殿〜、クロエ殿は何処か〜?」
「いずこも何もいる場所は分かっているでしょう?どうしました?まさか落っこちるとか言いませんよね?」
「それは言わないでござるが、ちょっと話し合いに参加してほしいでござる。」
「話し合い?いいですけど議題はなんです?」
「うむ、ここへの乗り降りの件でござる、初期の案としてはゴンドラで引き上げると言う話でござったが、思ったよりも今は高高度。ケーブル自体の強度は問題ないと言う見解なのでござるが・・・。」
・・・、それって俺いる?要はここの改造計画だよな?好きに改造して要塞化してもいいし、本当にテラリウムの様に植物を植えてもいい。実際宇宙空間で運用するなら酸素の供給問題もあるが、大気成分分析装置の設計図はあるのでそれから酸素も作れるらしいとは聞いている。ついでにいえば、箱開け大会やった時の特殊条件下におけるエネルギー生成装置の設計図とかも死蔵してるな。
「取り敢えず呼ばれたからには行きましょう。じゃあ、ちょっと行ってくる。」
2人に別れを告げて部屋の外へ。藤に先導されて着いたのは社長室。中に入ると高槻と斎藤が言い合いをしている訳だが・・・。
「長期的な目で見ると外殻形成時に隔壁を作り離発着スペースを作るべきですね。初期運用としてウインチによる巻き上げ式のエレベータースペースとし、あとから改修工事を行うのが妥当だと思います。」
「避難所と言う活用方法を考えるとゴンドラの撤去は許可できませんな。例えば飛行ユニットを使用したエレベータータイプの物は建造できませんか?」
「出来ますけど外部からの侵入者を考えるなら、多少面倒な方がいいと思いますよ?誰でも簡単に扱える物と言うのは裏を返せば簡単に侵入出来る入口ですし。別プランなら自衛隊の方達に人力で運んで貰うと謂う手があります。それを採用するなら離発着スペースだけで済ますけど?」
「彼等に対して私自身はなんの権限も持ってませんな。協力要請は出せても顎で使う訳にはいきません。特に今回は社員の回収ですからな。」
「どちらにせよ今は飛行ユニットの在庫がないんですけどね。全部使ってここが飛んでる訳ですし。」
「呼ばれてきましたけど、結局何がしたいんですか?」
途中から聞いたせいか何がしたいかよくわからない。離発着施設を作りたいのか、それともエレベーターを作りたいのか。一応、箱はいっぱいあるので建材は大丈夫かな?地上は既に穴が埋まってしまったので着陸すると転がる可能性はあるのだが・・・。
「社員の回収問題ですな。タラップでも縄梯子でもエレベーターでもいいのですが、安全性を考えると飛行ユニットを搭載した大型ボードが最適なのは最適です。しかし、肝心の飛行ユニットが在庫切れでして・・・。自衛隊側に協力要請を出すか自前で建設するか、建設するなら何を作るかと話している所です。」
「まぁ、自衛隊の人にもかなり助けてもらいましたからね。警戒とかかき混ぜとか。う〜ん・・・、引き上げるのって何回くらいですか?」
「回数ですか?社員の集まり具合にもよりますが・・・、斎藤君どう思う?」
「集まった中に鍛冶師がいれば並行作業は可能ですね。最低回数を言うなら1回。いなければ続行です。」
「ふむ。後どれくらいで集まります?」
「第一陣として集まりそうなのは後1時間とかですね。社長が配信終了後帰る方法を提示したので、それくらいで来る人はいると思います。人数的には10〜20人くらいかなぁ」
「つまり総重量1.5t程度の物をここまで運んでくればいいと?その程度なら私が運びますよ。」
「「えっ!?」」
「いやぁ〜、私こう見えても力持ちなんですよ。前はゲートを一本釣りした事もありますし。それよりは軽い軽い。」
ポカンとしているがその程度なら軽い軽い。なんなら子供達の様に直接飛ばしてもいい。しかし、配信終了から半日もたってないのに趣味人とは恐ろしい。流石にここに来るまでに中国軍に捕まる事はないと思うがどうなんだろう?
「人の管理ってどんな感じです?ここにつれてくるのはいいとして、どこかで入れ替わりとかあったら怖いんですけど。」
「その点は大丈夫ですな。ラボ独自のマイクロチップがスィーパーのライセンスタグに入っています。それの照合が取れれば本人としていいでしょう。この話も知っているのは私と斎藤君、後は藤君ですな。読み取りは藤君がするので行くときは連れて行ってください。」
「了解です。藤君って飛べたっけ?」
「飛べぬ事はないがかなり危ないでござるよ?降りるだけなら落雷となって降ればいいのでござるが・・・。」
「なら帰りは他の方達と一緒に飛ばしましょう。わざわざカゴとか移動用のプレート作るのも面倒ですし。」
そんなこんなで帰って来た社員達を確認しラボへ。生身で飛んだ事ある人はいなかったので結構テンションが上がっていた。ただ、上につくと辺りを見回したり地面をイジったりとそれぞれの興味の惹かれたものを見ているようだ。
ラボの方は取り敢えずコレでいいだろう。残りの社員は今いる人達の発明で引き上げてもらえばいいしね。どうするか迷ったが帰り際に設計図を高槻に渡し使ってもらう。俺が持ってても仕方ないし、権限的には渡しても問題ない。
「さてと、ソフィアコレ持ってて。」
「イヤーカフス?」
「そそ。それ持ってるともし違う地点に出たとしても探しに行ける。」
「それと私からはコーディネート。元がきれいで妹になるからにはそれ相応の服を着てもらうから。」
「おお!お姉ちゃんコーデです。きっと大人っぽくてびっくりされるやつです。」
妄想を膨らませている様だが遥と合流出来てよかった。一応電話で話はしているけど、中々会う機会も少ないし少しでも顔合わせした方がいいだろう。外見的には大人っぽいが中身はそれ相応っぽいので、どこまで現実とのギャップに戦えるか・・・。
「父さんも可愛い服着る。世界に向けて配信して新技術私抜きで発表したんだからそれくらいして。」
「はいはい。だからこうしておめかししてるんだろ?てか莉菜はいいのか?莉菜は。」
「お母さんは先にドレス着たでしょう?下手したら本部長として報道に囲まれるんだからちゃんとする。」
「確かにそれはあるわね。拒否って出来るのかしら?」
「取材は専属以外拒否してるから大丈夫だろう。さて、そろそろ行こうか。」




