396話 オンエアー 挿絵あり
「分かった。その決断は勇気のある自分の為の行動だと思う。後はシナリオか。なんでソフィアがここにいるのか?基本的に未成年をゲートに入れない方向で日本は動いてるけど・・・、嫌味チックにロシア側のデータの再検証としようかな?そうすればあちらにいるスパイの人も無関係って言い張れるし。」
今更検証いると言われればそれまでだが、詳細なデータ検証と言う名目で家族を連れてきた事にすれば、そこそこ文句は出ないかな?ロシアはデータを疑うのかと抗議してきそうだが、抗議してきたならそのままブーメランを投げ返せばいい。そもそもソフィアの外見は日本人からすれば高身長でナイスバディなので大人と言われてもあんまり違和感はない。
寧ろこれで中2の方が色々と問題出そうな体付きとも言える。う〜む・・・、中学には通わせるが悪い虫は寄ってきそうだ。それこそクラスメイトだけではなく教師とかも。まぁ・・・、まっすぐ家に帰れとしか言えないかな?せっかく出来た友達なんかを切り離すのも可哀想だし。
ただ一つ言えるのは出来た友達と言っても、その友達は選べと言う事くらい?朱に交われば赤くなると言う様に悪友と関われば悪い道が見え、オタクと関わればアニメが見え、勉強出来る子と関われば宿題が見れる。誰と関わろうとも自身と言うものをはっきり持って正しい途を進んで欲しい。
多分ソフィアと・・・、叡智を意味する言葉を名にした親ならそういった願いもあると思いたい。そう、会った事もない誰かの思いは分からないから、きれいなもので塗り固めるに限る。そうじゃないと知らない誰かを勝手に嫌いになるだけだから。
「それも話すの?それとも共有情報?」
「共有情報。話しても意味はないし、学校に通うようになれば年齢もバレる。だから、さりげなく娘は検証で来ていますくらいかな?無関係な未成年で検証するよりも実の娘を守りながら検証しているって方がまだ理解が得られる。ソフィアがその話を辛いと思うなら何も話さないけどね。」
「大丈夫です。私は光を見てお父さんに付いてきた。それだけです。」
「ソフィアちゃん・・・、ソフィアその光って何?確か司にも光って言って言われた司も納得してたけど。」
妻が首を傾げながら聞いてくるが・・・、話すの小っ恥ずかしくない!?いや、悪い事ではないが面と向かって何よりも大事で譲れなくて、自分の行動指針の中心にあるものって重すぎない!?確かに普通に妻には愛してるとか好きだよとか言うし、行ってきますのキスとかもするし、唇を突き出されたらキスを返すけど、言葉にするのって恥ずかしくない!?
「一番大切なモノです。私はお父さんの一番じゃないけど一緒に居れれば嬉しいです。お父さんの一番は既に決まってました。」
「司の一番?」
妻がにまぁ〜っとしながら顔を覗き込んでくる。絶対イタズラとかいじめっ子モードの時の顔だ!この顔をした時にはぐらかすと後々何されるか・・・。質が悪いのは確信を持っての行動だから逃げ場もない事。
「〜〜〜。」
「お、お父さんは情熱的です!」
顔を覗き込んだなら何かを言われる前に物理的に口で口を塞いでしまえばいい。フレンチではなくディープ。頬に手を添えてがっちりホールド。数十秒はキスを交わしたと思うがあんまり続けるとムラムラしてくる。名残惜しいが口を離す。
「これが答えだけど不満?」
「ううん。行動に不満はないけど・・・、言葉も欲しいかな?」
「私の一番は莉菜。それはきっと2人が分つ時まで変わらない。」
「はい。分つ後はちゃんと恋をするのよ?子供や孫はいても好きな人はちゃんと作って私を安心して眠らせてね?」
「・・・、善処する。」
「お母さんは浮気OKなのですか!?」
「違うわよ?これは子供が入れない夫婦の話。私と司の約束事。ちゃんとしておかないとこの人多分、ずっと意地はってるからね。」
自分でも顔がムスッとしているのが分かる。でも、その話はお互い納得しているので心は穏やかだ。俺は死ぬまで妻を愛するが、死ぬ妻は先を見て新しい人を好きになれと言う。永遠を生きる俺と死を選んだ妻との悲しみの先を見つめた約束事。
「私は浮気しないよ。道理は通すし約束は守る。さてと2人が配信に出るなら衣装どうする?別にそのままでもいいけどネットにアーカイブとして残ったら中々消えないよ?」
「お風呂は入ろうかな。衣装って言っても普段着しかないし、ソフィアも今着ているの以外ないでしょう?なら、親子揃って普段着でいいわよ。」
「そうか、なら私も普段着でいいかな?2人が普段着なのに私だけ変に着込むのもおかしいし。」
「お父さんの普段着?」
「コレよ。」
妻がスマホからいつ撮ったか分からない写真をだしてくる。座ってタバコ吸ってる写真だが、気だるそうな顔をしているので仕事終わりかな?多分最近のもので間違いないと思うが、いつ撮られても代わり映えしないので下手したら去年のかも。相変わらず長い髪がこうして見ると暑苦しい。
糸もダメ髪ゴムも滑り落ちるのでどうしたものかと思っていたが、最近煙ならどうにかなると発見したので本当に邪魔な時はアップの時もある。ただ、写真ではおろしているので本当にやる気のない時のヤツだろう。
「お母さんの理性は鉄壁ですか?」
「豆腐だから夜は仲良くしてるのよ?」
「教育上よろしくない事は言わない。そう言うのはもっとこう・・・、秘め事としてだな。」
「む、娘はだから大丈夫です・・・。寧ろ海外はもっとちゃんと教えてた?」
「その疑問形はなんとも言えないが、とりあえず服は私服だな。生憎化粧道具もないからその辺りは任せるよ。じゃあ、向こうとも打ち合わせしてくる。」
何やらそのまま風呂に連れ去られそうな予感がするのでさっさと部屋を出る。妻が女風呂に慣れろと言っていたが、その辺りの事情は説明するか悩むな。家族になるならどこかで告白する必要もあるが、年齢的に多感な時期だし折を見て話そう。
そう言う事を考えながら歩き斎藤達の所へ。警戒解除はされていないのかパワードスーツの自衛官はまだうろうろしている。ただ、警戒半分片付け半分と言った所かな?特に壊れそうな物はないが駐屯地やラボの外壁なんかを固定して回っているようだ。そして斎藤達のもとで最終打ち合わせを行い電力調整も完了して後は配信のみ。このまま何もなければ配信開始でもいいだろう。
「もしもし松田さん?そろそろ始めますよ〜、ライブですけど後でアーカイブとして残します。」
「もしもし?始めるのはいいですけどソフィアさんの米国ホームステイシナリオ丸投げしませんでした?」
「違和感なく不備なくとは言いましたけど?」
「貴方とウィルソン氏が旧知の仲になりそうなんですが構いませんか?それとソフィアさんのご両親が米国人で日本国籍保有者とか。」
「最終的に日本国籍保有者で私の娘となるなら構いませんよ?シナリオはシナリオなんで、それに沿った行動はしてもどこかで拒否することも出来る。そのうちロシアでの実験の事は情報共有するんでしょう?日本ばかりが殴りだしたら違和感がありますし。」
「殴らない為の無視だったんてすけどね。追うよりも追われたい、話しかけるよりも話しかけられたい。国としては先に何か言い出した方が弱い方が多いんですよ。」
「その割にはリーダーシップとか叫ばれてますけどね。」
「早い話が生贄ですよ?それ。政治家の発言には責任が伴う。馬鹿な事を話すよりも無口な方が余程賢い。要はどこで何を話すかのタイミングです。まぁその辺りの深いシナリオは両国の友好と言う形で処理しますが、お願い権忘れないでくださいよ?」
「分かってますけとあんまり無理難題はやめてくださいね?私だって出来ない事の方が多いんですから。では。」
電話を切り機材の準備も進み後は配信開始を待つばかり。長かったがようやく目処が立った。妻達にも連絡を入れてさっさと俺も私服に着替えたが、集合したら思いもよらぬ所から待ったがかかった。
「本部長殿!ここは着飾るべきでござる!そうでなくても盛大に着飾って大々的に発表するべきですぞ!」
「ですぞ言われても服がない。私はドレスがあるけどさすがに他の人はねぇ。先生達はスーツでいいんだろうけど、莉菜とソフィアは持ってないし。」
「拙者が!拙者が出すゆえ着てほしいでござる!ここどう考えても攻殻機動隊風に整列してからのスタートじゃないと嫌でござる!」
「そう言われてもなぁ・・・。普段着の方が日常になり得る技術って事でいいんじゃない?」
「いやいや、クロエ殿。ここは威厳と秘密結社っぽさを出してガッツリとやるでござる!」
「シナリオもないから適当に喋るだけなんだけどね・・・。直談判して2人がOKするならいいよ〜。」
そう言うと藤は妻とソフィアに賭けよりナニやら話しだした。衣装とかどうでもいいんだが、そこにこだわるのは付喪としてのポリシーか、はたまたオタクゆえの性か。ただ、2人は了承したのか物陰に隠れていった。
「飛ばす時は煙を解除してもらえますか?」
「いいですけど、切り離し位置ってこのあたりですよね?上昇風景も撮影するので最初は集合映像撮影後私は飛んでいきますよ。」
「それは構いません。流石にこの煙の中を飛ばすのはちょっと怖いですからね。」
煙の解除か・・・。下手するとまた中国軍とか現れそうだが、その時はインタビューしに飛んでいこうかな?ガッツリと嫌がらせしながら国籍も人種も丸裸にしてやれば松田も美味い酒が飲めるだろう。ゲート内の敵対行動とは言え世論的にはかなり厳しい目がそこに向くし。そうこうしているうちに妻とソフィアが帰ってきたが・・・。
「中々大胆なドレスを選んだね。てか、化粧した?」
「藤さんが持ってたから薄くね。無いなら仕方ないけどあるならするのは女性の嗜みよ?どう?」
「いつも通り奇麗だよ。そのうち何かのパーティーに2人で出るものいいかもね。さてとそろそろオンエアーだ。みんな準備はいい?」
藤が指定する場所に立ち配信開始!煙は晴れそれでも薄暗いゲート内だが、風海が上空からライトを当てているのでそこそこ明るい。流石に暗い中浮いてもいまいちインパクトには欠けるしな。みんなの応の答えで藤の持つカメラのランプが点く。
「久々のゲリラライブ配信。クロエ=ファーストです。今回は高槻製薬の最新技術をお見せしましょう!」




