385話 逆なで 挿絵あり
穴掘りは一旦やめるとして兵士達は休憩となった。石英ガラス化するにしても材料の地面をこれ以上減らすのは辞めたいかららしい。放っておけばそのうち勝手に穴は塞がるのだが、時間的に穴掘りで減らすよりも土を集める方に舵を切るかもしれないと。
まぁ、どの道掘った内部を固定処理するので装飾師組は休めない。ただ、ラボからのエナドリは豊富で24時間どころか数日は働きまわっても大丈夫。普通なら休めと言いたいが、現状では働いてもらうしかない。公務員なので給料は働こうが休もうが変わらない。だが、何かを個人的に渡すくらいはいいだろう。
余り物となるが武器や薬を渡す。宝石が欲しいと言う変わり者もいたのでキューブのまま渡すと、宝石で刻印を作る練習をするらしい。贅沢な話だが今だと宝石の価値ってきれいな石だしなぁ・・・。有名なホープダイヤで約46カラット、重さにして9グラム。しかし、今だと1立方メートルの純粋なダイヤから色付きまで色々と出る。
露天商が普通にホープダイヤよりも大きく、上質な加工のアクセサリーが子供でも下手したら買える値段で売られている。母の日にはピンクダイヤで作ったカーネーションなんてキャッチコピーもこの前やってたな・・・。実際鍛冶師と装飾師の手にかかれば作れてしまうのだからカット技術が廃れてしまいそうだ。
「クロエさんちょっと・・・。」
「ん?浦城さんどうしました?」
空から降りてきたか浦城が呼ぶので近寄る。何やら他に聞かれたくない話だろうか?身長差はあるものの耳打ちするように顔を近づけてくるが・・・。
(ここからが数キロ先に人らしきものが集まりつつあります。部隊行動とは断定できませんがどうします?)
(静観です。引き金を引くなら相手からでないといけません。喧嘩ではないですが、こちらから手を出せばいらない口実を与えてしまう。引き続き監視をお願いします。)
行動を起こすならもう少し猶予があると思っていた。しかし、その思惑はハズレ相手は動いてしまった。しかし、まだ何も起こっていない。相手が集まり俺達は静観。魔法で隠蔽しているのでラボそのものには気づかれていないと思う。そう思い浦城に続く様に空に上がると風海が無言でアームを動かす。
目を強化して遠視をすると、パワードスーツを着た数十名が卓と戦った地点を歩いて回っている。スーツ自体は全員バラバラのモノを着ているし、顔もフルフェイスのヘルメットで隠しているので性別も国籍も不明。体格だけならアジア系かな?ただ、背の低い白人黒人もいるので一概にそうとは断定できない。
ただ、この辺りをあんな格好でうろつく集団なんて状況から見ればあそこの人しかいないだろう。調査だけして帰るなら良し、何かしらのアクションを起こすにしてもだんまりでいいかな?下手に接触してバレるのは避けたいし、何よりも準備が終わっていない。
「どうしますアレ?」
「見て判断できる材料は少ないので放置です放置。何か話し声とか聞こえます?」
「目は良くても流石に音声は無理ですね。これにアナログな集音器とか付いてませんから。風見の方は?」
「ウチも無理です。流石に距離がありすぎますぅ。」
見守る中でやっているのは地面の調査。多分戦闘後の痕跡を調べているのだろう。かなり復元されてきているが、まだガラス化した部分もある。流石にこれだけで何処に向かったかを割り出すのは無理だと思うが・・・。
『誰か負傷者はいないかーーー!!』
拡声器による呼びかけなのか大声が響く。近くにいる人間はうるさくて仕方ないと思うが、あのヘルメットにはその辺りの装備もあるのかな?ご丁寧に合成音声と言うか電子音声でなのでやはり国籍等は不明。まぁ、負傷者はいないので無視だ無視。
「流石に善意の呼びかけってわけじゃないですよね?」
「見ず知らずの武装集団に呼びかけられてノコノコ出ていきます?ここがセーフスペースじゃなければ一考の余地はありますけど、ここで呼びかけに答えるくらいなら自前の回復薬を使いますよ。そうでなくとも襲うメリットも少なければ襲われた後に逃げ切れる確率も少ない。逃げ隠れするにも遮蔽物は少ないですからね、ここ。」
あのあとを見て戦闘の痕跡と取るか、それとも誰かが何かの練習をしたと考えるのか。そもそもそんなあとを見つけてわざわざやった張本人を呼ぶ意味もない。あるとすれば教えを請うとかだろうがあんな人数で来られてもねぇ。
呼びかけ後も地面をイジったり周囲を見回したりしているが、隠蔽しているので簡単には見つけられない。ただ、1名がやたら俺達の方を見ている様な気がするが・・・。
『この近くにいるのは分かっているーーー!一手手合わせをーーー!!』
思いっきり正体暴露してるけどいいの?武術家の人とあちらの軍って繋がりバレても問題ないの!?いや、電子音声だからブラフ?何か見落とした?う〜ん・・・、イメージを辿られたとすれば今ラボと駐屯地を隠している魔法は黄泉路からの帰路をイメージしている。
煙の中にあるここは常世で外は現世。だからこそ入ってしまい誰も答えなければ彷徨う事になり、振り返れば化け物を見る羽目になる。しかし、サバイバーなら撤退が使える。何から撤退するのか?生き残る事に長けていると言う事は危機感値能力が高いと言う事だろう。
なら、裏を返せば危険と判断する人物の居場所は、鬼門の方向とでも思えば大まかな方向として導き出せる?あちらって未だに道士は架空の職業ではなく現役でいるしゲート設置以降、職に付いた道士が魔術使ったりキョンシーっぽいもの作ったりとかなり手広くやっている。
仙術とか風水とか修めてたら、あの武術家の人も出来る?元々道士が流派作ったりとかもしたりしてるし・・・。う〜ん・・・、他人のイメージと言うか外人のイメージとか分からないよなぁ・・・。日本の常識は海外では非常識って事もあるし・・・。
「おっ、あわてて帰っていきますね。」
「そりゃぁそうでしょう。私達が聞いてる前提で話していたとして、友好を歌おうとする中で戦おうぜって誘ってるんですよ?しかも、直近でそんな事を言った人物なんて私は一人しか知りません。あちらとしても正体隠して来たのに、仲間からバラされたらたまったもんじゃないでしょう?」
「なんと言うか、自由人ですね。」
「でも、そこそこ地位はあるんじゃないですか?誰も怒って咎めようとしないみたいですし。」
他の奴が帰る中一人残り、誰もいなくなるとパワードスーツも脱いで何やら型をやりだした。そんな物見せられても良く分からん。功夫が足りないとか分かったような顔で言えばいいのか?分からんが型を見せればこちらもやる気になると思ったのかな?或いは日課とか?飛び蹴りと言うか、ライダーキックなら今なら余裕で出せるが武術の基礎なんてしらん。
「取り敢えず帰ったのなら良しとしましょう。」
「そうですね。引き続き監視は行いますけどそれでいいですか?」
「お願いします。流石にこれ以上なにもないでしょう。」
多分ないきっとないは、何かあるのフラグ。撤退した奴等を見送って数時間後。斎藤達が急ピッチで地面の下を石英ガラスにする中、帰ってきたパワードスーツの人物達はどうやら俺を怒らせたかったらしい。
『ファーストーー!交渉して欲しいーー!!』
「浦城さん。ここで暴力に訴えても誰も咎めない。間違いありませんね?」
「え〜と、あの猿ぐつわの人って誰です?」
「息子です。」
多分偽物。そう。スマホは鳴らず増田達からもなんの連絡もない。ただ、出て来なければ多分こうすると言う脅しの1つ。だが、こいつ等は配信を見なかったのか?妻を模したソーツに俺が怒った姿を。いや、ブチ切れてあの時も暴力には訴えなかったのか。そもそもソーツとはそう言うモノだと理解していたから。
「まさか拉致!?」
「多分違います。ですが、行くとしましょう。浦城さん。手出しは無用です。」




