383話 綺麗になったらしい 挿絵あり
大丈夫と言うので鏡の前に立たせてみる。本人の意志を汲んで作ったがコレばかりは気にいるかどうか。生前?を知らないので見たままを再現出来てるとは思うのだが・・・。流石にどこどこにホクロがあったとか、タトゥー入れてたとかは出来てないしな。
「クラシーヴィなったです・・・。」
「そうなの?」
「ダー、もう少しそばかすとかホクロ?あったです。」
「輪郭的には?」
「小顔なった。クラシーヴィ!クラシーヴィ!モデルみたい!すごくバランス?良くなったです。」
「それはよかった。ここで1つ質問だけど前と今だと同じ人物・・・、ソフィアだと分かる?写真とかで見比べてだけど。」
綺麗になったと喜んでいるが、それを喜ぶのは後でいいかな?女性としては優先するんだろうけど問題はソフィアとして見つかるのか?その点になる。仮に全く違う顔なら最悪日系ロシア人とか永住権取得者として言いくるめも出来るんだろうが、写真なんかと見比べてソフィアと断定出来るならハードモードになる。
何せ何処に出るか分からないのだ。最悪外でもロシア側と日本大使館でやり合う必要性がある。確かに亡命申請書は書いたものの、まだ逃げおおせると決まった訳でもないしな。
「多分分かります。ゲート入る前、いっぱい写真撮られたよ。それに血も採られたし指紋とか声とかも採られたし。」
「生体データは確保済みか。追跡者とか探索者を動員すれば捕まえるのはかなり容易になる。書類は確かに受理されたけど今度はどうやって安全に連れ出すかか。」
流石にソフィア自身にあちらで協力者を探せと言うのは酷だな。不自由だがほとぼりが冷めるまではラボで匿うとして、問題はうろうろしているスパイ達。かなり気を使っているがこの辺りと目星を付けていればその分、不用意な行動も出来なくなってくる。
「迷惑かけます・・・。」
「子供がそんな事を気にするもんじゃない。そもそも悪いのは大人だ。始まりの悪意がなければこんな事にはならなかった。」
「それでもです。私はいらない子てす。」
「それを決めるのは他人じゃなくで自分だよ。自分で自分が必要だと思えば他人の言う事なんて聞かなくていい。それが過酷な道のりでも、辛い道程でも少しくらいはいい事もある。何せ世界は殘酷で理不尽で叫び声を上げても、誰にも届かないかもしれない。でも、歌う自由は残されてたからね。」
「歌う自由?」
「覚えているか知らないけど、君は私達が見つけた時にカチューシャを歌っていた。その歌声で私達は君を見つける事が出来た。ほら、歌う自由はあっただろう?」
あの声がなければソフィアを見つける事は出来なかっただろうな。そして、歌っていなければモンスターとして処理をしていた。闇の中で1人歌う勇気。それが今回の件を繋げた希望だったのだろう。
「スパシーバ・・・。声を拾い上げてくれて。」
「最初に聞いたのは莉菜だから妻に言ってあげて。さてと、私はもう一仕事してくるかな。お菓子をあげるから適当に食べながらゆっくりしてて。」
何やら名残惜しそうにしているソフィアを置いて部屋の外へ。自衛隊方面の荷物はエロ本を除き中野に渡し、本は直接本人へ・・・。中学生じゃないと言えばそれまでなのだが回し読みする訳じゃないのか何人かいる。各個で名前を呼び『例の・・・。』と言うと察したのか恐縮しながら受け取っていった。ただ、1人受け取る時に中身がちらりと見えたが赤いカラコンと白いカツラかつら被った色白な人のエロ本って・・・。
個人の名誉の為に見えないふりをしたが、ガッツリと視線が交差したのでなんとも。流石に『今度見せてね!』とは言えなかったよ・・・。何が悲しくて似た姿の人のエロ本見ないといけないんだ・・・。互いに無言で気まずい中の別れとなったか・・・。
そんな受け渡しを終え会議室に戻り目を閉じてキセルをプカリ。音声は聞こえないが流石にあの偽増田も帰り着いているだろう。渡した魔法を少し拡散させて周囲を視る。指輪に収納されていたらどうしようもなかったが、件の人物は真面目に魔法も報告しているようだ。
見えてきたのはどこかの会議室?或いは前線基地かな?テーブルの上に置かれただろう魔法を囲む様に軍服を着た人達が見える。読唇術の心得があれば唇を読めるのだろうが、そこまでは万能さを俺に求めないで欲しい。
________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「確かに荷は渡したな?これはそのお礼なのか?」
「いえ、増田と言う人物はファーストに近い人物であると推測されていました。その中で我々が知らない所で魔法を貰っていたと口ぶりから推測出来ます。これで我々の義理は果たせたとしていいのでは?」
「義理は果たせた。しかし、ロシアが本当に我が国からの出資者は名簿を消去したかは分からない。確実性を狙うならロシアの言う結合体を殺害ないし確保する必要がある。」
「先に我々がロシアを叩き、それを手土産にファーストと交渉すると言うのは?我々はまだその結合体を確認していないし、ロシア側としても反応して行動を起こしたものの確証は得ていないのだろう?」
「東京ギルドのノート挿絵。これについてロシア側からは結合体の姿と酷似しているとあった。現状この結合体の状態は分からないが、仮に何らかの方法で分離されたなら実験の事を話されるかもしれない。」
「そこまでの大物が関わっていると?」
「知らぬ方が良い。永遠を求める人間は偉ければ偉いほど多い。」
「周辺観測班からの報告ではファーストが魔術師と戦闘したと報告が上がったが?」
「我々の接触後の話だ。会話の内容までは分からないが、その人物をスパイと判断したのだろう。先に接触出来て良かったと喜ぶべきか、泳がされていると考えるべきか・・・。」
「この魔法の取り扱いはとうする?祖国としては選出戦時に貰ったもの以外国内ではまだ生産に漕ぎ着けていないと聞く。研究行きか?」
「それが妥当でしょう。モンスターのビーム対策はどの国も頭が痛い話題です。量産とは言わないまでも祖国の魔術師に見せれば何かしらのイメージが出来るかと。」
「ならば研究よりも先に軍部で預かる。ゲート内調査は民間以外は軍の管轄だ。我々が先に進みその後国民が来ればいい。」
「民間の。わざわざ呼ばれたワシも民間じゃが?」
「老師、我々は安くない寿命の薬を貴方に売った。それは武術を指南する者として最適だと考えたからだ。格闘家ではなくサバイバーである貴方にね。戦闘はしなかったと聞くが見立ては?」
「遊ばれとるよ、誰も彼もの。戦うとした時、人は相手を打ち倒す術を考える。しかし、ファーストは多数の雑念しかない。魔術師とはそう言う者か?」
「いや、魔術師は使う魔術に対してイメージを膨らませ成立させる。それを老師が雑念と呼ぶなら雑念かもしれないが、少なくとも軍に属する魔術師はモンスターを倒すイメージを持たせている。」
「ならばアレは化け物よ。ワシ含め誰も脅威と考えとらん。だからこそ・・・、一手やり合いたいものよの・・・。最強とされる娘との試合・・・、そう呼ぶのも烏滸がましいほどにワシは負けるやもしれぬし、違う土俵で戦うならそもそも指さえ触れる事は出来ぬやもしれぬ。だが・・・、やり合いたいのぉ・・・。」
________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
何やら会議と言うか雑談?をしているようだ。最後に見た武人もここにいるから敵側で間違いないだろう。ただ、他の人間がある程度組織立っているのにこの人だけ別の考えがあるような・・・。急に目を細めて拳を握ったりしているし。何にせよここがどの辺りか割り出せれば対策もしやすくなるんだけどなぁ・・・。




