382話 着々と準備は進む 挿絵あり
「もしもし松田さん?書類は受け取って署名は貰いました。これで亡命完了でいいですね?」
「ええ、神崎本部長にお願いしましたが思いの外早かったですね。彼はそちらに?」
「いえ、とある事情により帰ってもらいました。周りに人っています?」
「・・・、場所を移しましょう。」
部屋を出て松田に連絡するが、やはり偽増田はスパイで間違いなかったか。肉壁の変装だとは思うがどこの国のやつかは分からない。ただ、中国系の武術家の事も考えると相手はロシアだけではないのだろうな。その辺りもなにか分かってるのかな?
「さてと、何がありました?」
「1つは偽増田さんが接触して来ました。肉壁の変装でしょうが顔は似せてありましたね。合言葉の確認でミスしたのでそのまま逆スパイになってもらいましたよ。2つ目は中国系の武術家がなんか手合わせしようと言いながらやってきました。今回の件って中国絡んでます?」
「難しい質問ですね。加納本部長と私が探し回ったのは外務省関連。表向きは入国審査の不備がないかの徹底調査としています。その過程でホングヌス構成員の背景を探しましたが、大半は密入国者で中々洗えませんね。まぁ、大臣更迭は閣議で決定するでしょう。本人も了承済みで、そもそも密入国者も監視の為に泳がせていた者が大半なので更迭後は別の部署別の役職に配置転換です。公にするシナリオは大臣の汚職。前にクロエさんが武器密売と言っていましたがその架空組織との繋がりです。」
「抜け目ないですね、去年の話でしょ?それ。」
「使えるモノは使っていくのが政治家ですよ?多数の秘書は身代わりなんですから。しかし、中国系の武術家ですか・・・。ホングヌスの構成は聞いています?」
「直接は知りませんね。海外マフィアの話とかゲートには関係ありませんでしたし。」
「それなら増田君に聞くといいでしょう。しかし、中国も噛んできましたか・・・。流石に海外政府の方の流れなので何とも言えませんが、この件に噛んでいてもおかしくないか・・・。引き続きそちらの警戒とどうやったか知りませんがスパイの方はお願いします。」
「了解です。私も増田さんに連絡してみましょう。そう言えば書類の提出は?内容を見た限り署名さえすれば完了だと思いますが。」
「後からでいいですよ。本部長は各省庁のトップと同等の権力を持つ、クロエさんにしろ神崎本部長にしろ受け取った時点で大臣が受理したのと変わりません。今はまだ省庁が分かれていますが、今回の件で内閣と言わず抜本的な政府構造の改革があるでしょうしね。では。」
部屋から出て松田に連絡するが外もゴタゴタしている様だ。ただ、外務大臣はそこそこ話の分かる人と考えていいのかな?汚職関与の疑いとか本来なら否定するのだろうが、飲み込んで別の役職に就く辺り政府としても守るつもりなのだろう。
しかし、ソフィアの件は中々根が深そうだな。人体実験の時点で仄暗さしかないが、国を越えてやっているとなると文句を言うに言えない事もある。内々で処理出来るならお互い口出ししないで手打ちにして、今後こんな実験をするなと国際法を作るとか?
はい・・・。トップは中国でしたね。ただ、今回は法律なんてない中でやったグレーゾーン。やらかしたのもゲート内なので咎める事も出来ない。仮に咎める権利があるとすればソフィアが権利を持つが、ソフィア自身も再誕の事をぼかして伝えてもらわないといけないので痛み分けかな?
その辺りはソフィアの意思を尊重するしかないが、出来ればゲート内戦争とか国際対立とかは避けたい所。交渉権を持つのは俺しかいない訳だが、それを盾にして話をすればまた軋轢を生む。なのでコレばかりは盾に出来ない。最悪するにしても今年はアチラは、来年はコッチなんて言う話になるだろう。そして、その成果次第ではまた文句が出る。
アッチの意見は通ったのにコチラは却下された。それは俺の交渉努力が足りないからでは?配信を見れば無理なものは無理と分かるかもしれないが、それでテストでいい点が欲しいと神に祈り、幽霊が出れば仏に祈り、宝くじが当たって欲しいと一生に一度のお願いという言葉を何度も使う様に人は願う生き物だ。他力本願ではないが、それでも夢見る以上願わずにはいられない。その願いの先が発展であり夢想する未来なのだから。
「もしもし、増田さん?そちらはどんな感じですか?寧ろ本物ですか?」
「藪から棒になんですか?電話を受ける私に本物と証明する手立てはないでしょう?それとも真田君か五十嵐君に代わりましょうか?」
「その2人を外に出してるんですね。と、言うか鑑定課って人増えてます?」
「増えていると言うか独立組織化されつつあります。橘監査官を長としつつ出土品だけではなく、遺留品から犯罪者を割り出す組織として管理運用する方針として骨組みが出来つつありますね。それで、どうされました?この番号はクロエしか知らないはずですが。」
「いや〜、ゲート内で増田さんの生霊と出会いまして。お土産渡してお引き取り願いました。ところで今回の件って中国も動いてます?」
「表立ってはロシアとなります。ただ、同盟国と言う事で何かしらのアクションはあるでしょう。アガフォンのいた組織は中露の共同組織でしたから。私が掴んだ限りの情報ですと実験の狙いは何歳から職に就け、特定年齢以下で職に就くならどういったケースなのかを調べようとした様です。」
「・・・、は?待ってください!それが主軸なら結合体は生まれない。生み出す意味がない。」
ヘイ!子供達。これからみんなでゲートに入って職に就けるか実験するよ!・・・、はい、結合体が出来ました!どこをどう繋げればそんな話になるんだよ!職に就けるか調べるのにモンスターと戦う事は遭っても合体する事はないだろう?仮にモンスターも職に就いていると言うなら可能性の話として実験する意味はまだある。
しかし、モンスターはビームやらは撃ってきても、何かを改変したり火の玉を飛ばしたりはしない。寧ろモンスターが職に就くと言うなら魔女達に取っては苦痛だろう。暇で職になって観覧しているのにやる事と言えば殺戮だけ。それならまだ原始人の生活を見た方が面白い。
それに、魔女が賢者達の長とするなら魔女の方針にはある程度従うとしても、わざわざ虫酸が走るなんて言うモンスターに力を与えていたも思わないだろうしなぁ・・・。
「その辺りは確証も何もありませんが、内通者の主観的な考えでは金持ちの道楽と思ったようです。」
「道楽って・・・。中世のコロッセオじゃないんですよ!?人の命をなんだと思ってるんですか!?」
「いえ。スナッフフィルムの様に楽しむ道楽ではなく、資金提供者の一部が永遠の命を求めた様です。」
永遠の命欲しいからモンスターになろうぜって事?確かにモンスターに寿命があるかは分からないが、モンスターと同化してクリスタルを取り込み、推定モンスターになったら退出出来ないんじゃ・・・。次の定住先をセーフスペースとしてそこで永遠に暮らす?無理だろう?数多の娯楽やら美食を体験した上で暇なセーフスペースに引き籠もるとか暇で死んでしまう。
いや、ギルティタウンがある事を考えると、追々娯楽は用意すればいいとして先に命を求めた?年老いて先が見えた中で生きる事を優先して成果を求めた?どんなに著名で資産があって崇高な意思があろうとも、死んでしまえば本に載ればいい方でただの金持ちならそれさえもない。
だからと言って他人で試すなよ・・・。人の命が平等ではなく金で買おうと思えば買える事も理解しているが、それをしていい理由にもならない。ソフィアは仕事があると言われてゲートに入ったのだろうが、詳細は聞かされていたのだろうか・・・。
「永遠を求めたのは分かりました。それの主導はやはりロシアで?」
「そこまでは分かりません。ただ、多額の出資があったようですが・・・。」
「多分中国からでしょう・・・。この際言い出しっぺが誰かは別として中国側も動いている様です。生霊と言いましたが私は増田さんに変装した誰かに会いました。似た体型の肉壁を用意したのか、それとも・・・。」
「中位を動かしたのか?ですか。公に肉壁中位が居るとしているのは中国ですね。」
「ええ、それの変装ではないかと。更に言えばその後中国系のサバイバーにも会いましたからね。偶然か必然かは知りませんが。」
点と点が繋がりだしたがあの人は結局何しに来たんだろうか?暗殺しに来たなら話しかけずにサクッと攻撃してきそうなんだが、先に声かけてきたしな。武人としての誇りとか言うものだろうか?武術は嗜んでないし、勝てる方法があるならそれを優先する俺としてはイマイチピンと来ないがそれを尊ぶ人もいる訳で・・・。
「中国には信用出来るスパイがいないので完璧な内情把握とは行きません。特にゲート内の出来事はどの国も関知しない。苦しい状況になるかもしれませんが対応の程お願いします。」
増田との電話を切るがロシアには信用出来るスパイがいるのかな?日本はスパイとか作らないイメージだったけど知らないだけで結構いるのかも。それはいいとして中国が噛むだけの理由はあったのか。
どこまでがロシア主導でどこからが道楽かは知らないがふざけた事しやがって・・・。モンスターと戦う中で何が悲しくてモンスターなんかにさせられなきゃならんのだ。変に財団名義とか個人名義の出資は今度から厳しく審査しよう。不死や寿命を売買するのはビジネスたが、人の命を売買するのは違法である。
「クロエさんちょっといいですか?」
「どうしました中野さん。なにか問題が?」
「いえ、鏡やらを買い付けに行った組が帰ってきたので入れたいのですが、魔法がですね・・・。」
「ふむ・・・、受け取ったらその人達って帰しても支障ないですか?集団行動でしょうが既にスパイらしい人もうろうろしているので人の出入りは避けたい。」
「それは大丈夫でしょう。物品検査もされますか?」
「量的にはそこそこ多いですよね?鏡にしても嗜好品にしても・・・。」
「少なくはないですね・・・。枚数が不明だったので鏡だけで数千から下手すれば万単位。嗜好品にしてもタバコやお菓子、ネットを使わないアナログ的なゲームまで様々です。それに、既存の鏡の手配が間に合わず高槻先生にガラスを渡して鏡にしてもらう物もあります。」
確かに高槻と藤がいれば電気メッキでも薬品塗布でもガラスがあれば出来る。なんならゲートの土と言うか、地面はケイ素が豊富なのかビームや卓の炎なんかでガラス化する。高槻と藤がソフィアの所にいないと思ったらそっちの準備をしてたのか。しかし、物品確認の量が尋常じゃなさそうだな。ガラスはいい。流石にそこに発信機を付けようともバレる。鏡は全て裏を隅々まで見ないと不味いかな?何かしらの方式で電波出せればそれから辿られそうだし。最後のは難関は嗜好品。配給制よろしく中野に全部渡して取りに来た時点で検査するとか?
「持ってきた物って外でも検査してますよね?」
「ええ、金属探知機及び目視。更にECMまで使って電子機器は破壊出来ているだろうとの見立てです。」
「大井さんも本気だなぁ・・・。分かりました、検査は行いませんが人員の方は受領後駐屯地に向かってもらいましょう。帰隊後に不審な行動をしないか確認が取れればスパイ容疑も晴れますからね。」
疑う訳では無いがあの変装を見ると、姿だけならいくらでも変えられそうなんだよなぁ・・・。買い出しに行った人には悪いが、どこかで入れ替わっていないとも限らない。疑いの芽や不安の芽は育つ前に刈り取るに限る。
「分かりました、引き続き輸送班として行動する為駐屯地に向かう様指示しましょう。買い出しの組は3名です。」
「分かりました、もう近くにいます?」
「外からだとここが分からないのか、多分近くにいるとしか連絡を受けていません。」
「了解しました。名前と格好、後何か合言葉って決めてます?」
「格好は私服で名前は清原、大谷、松坂です。合言葉は・・・、名前にちなんで球団名でいいでしょう。2人はメジャー、1人は日本のね。」
「後でググるとしましょう。その手の話は疎いんですよ。松坂がエンゼルスでしたっけ?」
「それは前の大谷です。巨人、ドシャース、レッドソックス。クロエさんでも知らない事はあるんですね。」
「読書が趣味なだけでスポーツ系は読んでも忘れる事が大半ですよ。スクイーズと言われても一瞬イカかな?と思うくらいですからね。何にせよその合言葉でいきましょう。連絡は個別に指定してください。・・・、いや、松坂だけ俳優にしましょうか。奥さんの名前を指定してください。変に関連から推測されても困る。」
「奥さんは確か戸田さんですね、了解しました。」
中野と別れてまた外へ。行ったり来たりと忙しないが魔法を仕掛けた張本人として仕方ないだろう。増田がかなりスパイ組織は潰したと言っていたが、残党の影がチラホラ見える以上用心するに越した事はない。
外に出ると何やら指示している斎藤と穴掘り組が見えるが、飛行ユニットの調達はどうしょうか?筆頭とするなら鋳物師達だろうがあの職もまた、理解力をが求められる。ある分で賄えるならいいのだが、何分新しいものなので厳しいかも。
力場を形成して足場にするとして、その足場の広さって1つでどのくらいなのだろう?浮かび上がる力が足り無いと言う話なら、どうにかこうにか持ち上げられない事もないと思うが・・・。
空に飛び立ち上空の浦城や風海にそれらしい集団を確認していないかと問うと、ここから5km地点辺りで知った顔の三人組がうろうろしているらしい。風海の方もレーダーで捕らえ特にここで入れ替わる様な事もないと言う。言われた方向に飛び一度通り過ぎた後に背後から声をかけ、合言葉を確認し物資の受領完了。松坂だけ関連性のない合言葉で多少焦っていた様だが、それでも指定した合言葉は言えた。
中野からの指示も届いていたのかそのまま別れ、また迂回してからラボへ。大量の物資も指輪に詰め込めるのでかさばらずに済むな。ただ、黒いビニール袋に入った物について聞くと言葉を濁しつつ『男性隊員の必需品です・・・。平にご容赦を。』と返してきた。まぁ、うん。女性の少ないここだと溜まるもんも溜まるよね?
いる女性にその欲望を向けて問題を起こしても事なので不問。まぁ、元男だからわかるよ・・・。何気ない時に急にムラムラしたり、疲れている時に何故かそんな気分になったりするし・・・。生理現象なので仕方ないし、今回はモンスターではなく人が攻めてくるかもと言う中での活動だから仕方ない。
中野からの手渡されるのも・・・、上官からエロ本渡されるとか既に罰ゲームどころの騒ぎではないし、推定自衛隊とは部外者の俺からこっそり渡そうかな。名簿を見れば注文した人の名前も分かるし。
さてと、さっさと帰ってやる事を進めるか。先ずは高槻の所から。何処にいるか分からないが多分実験室の方かな?前に大型モンスター解体用に作ってそのままなんだかんだで残ってると言うし、薬品使って鏡作るなら多分ここだろう。そして、案の定高槻と藤はそこで藤の嫁やbot人形と共に作業を進めていた。電気メッキ式と薬品反応式を試すのかそれぞれの前に薬品が入ってるであろうプールがあるのだが・・・。
「電気メッキならば拙者に分があるでござるな。」
「ソレはメッキであって鏡作では無いでしょう?私には純粋に銀と銅を使っていますが?」
「どっちでもいいんで数お願いしまーす。ガラスは置いておきますね。」
何故か変なところで張り合っていた2人を尻目にソフィアの所へ。なんだかんだでソフィアはまだ自身を見てないんだよなぁ・・・。遥なら姿見とか持ってると思ったが、そもそも遥が着せる側なので鏡自体はあってもなくてもいいとの事。確かにモデルがデザイナーに文句つけるとか中々聞かない。それに最近は宇宙服関連が多く、コレもまた普通の服とは言えない。
そんな事を思いながら扉をノックして入ると、船を漕ぐ妻とベッドに寝ころびヘッドホンでアニメを見るソフィアが・・・。なんだかんだでゴタゴタが続いて寝てない妻も疲れたのだろう。そっと肩にジャケットをかけ、アニメに見ハマるソフィアの肩を叩く。
「!」
「はいはい、声は上げないでね〜莉菜が起きるから。鏡が用意できたから姿を確認して欲しいんどけど大丈夫?」
「ダ、大丈夫です。」




