379話 たれ? 挿絵あり
普通物が飛ぶなら轟音と言うかエンジン音がするのだがあれは何一つしない。誠に静かにその場に浮いている。UFO飛ばして次の段階はアレで外部工事をする予定だったのかな?見た感じ武装っぽい物はないし・・・。両腕とスィーパーが武器といえば武器だが足がない分その腕が異様に大きく見える。
しかし、到頭脚は飾りが採用されたか。ノイエ・ジールとかドラッツェがディテール的には好きなのでポイントは高い。ただ、高いだけで的になるならもっと後方にいてもいいような・・・。なんか知らんが兵士達の前にいるので本当に盾というか誘蛾灯扱い?実戦投入するにしてもかなりもったいないと思うのだが?
「後方援護機じゃないんですか?アレ。」
「性能的には真逆ですよ?アレも基本的にはレーダー等にシステムは全振りして、より早く接近物を知覚出来る様にしています。基本武装と言うか専用装備はないですけど、飛行ユニットを各所に搭載した次世代思想機とでも言えばいいのかな?使用者次第でどのレンジでも戦えますが今のパイロット的には最前線の盾かな?」
盾はいいとしてその巨体で受け止めるのか?スクリプターなら編集すればある程度弾丸は無くせるにしても、接近されると流石に相手の身体をなかった事には出来ないのでダメージを貰う。そうなるとやはり弾除け的な物だろうか?
「浦城さーん、配置はここでいいですか?」
「配置も何も索敵なら好きにしてくれー。俺は目視専門だー。肩借りるぞー。」
そう言った浦城の後を追い機体の肩に降りる。曲線的だが歩けない事はないな。流石に飛行ユニットは目立つのか見える範囲には装備されてないようだ。ただ、スーツ着た浦城が降りても大丈夫だからバランスも重量耐性もいいと思う。
「始めましてファーストさん。風海です。ここでは階級も秘匿されてるのでそう呼んでください。」
「始めまして風海さん。え〜と、女性の方ですよね?」
「ええ、そうです。職と技量を買われてパイロットになりました。モンスター以外とは初の実戦なので至らない点はありますがよろしくお願いします。」
「いえいえ、私も対人戦は専門外なのでよろしくお願いします。」
電子音声だがなんとなく性別は分かる。そのうち音声も合成音声オンリーで性別も分からなくなるのかな?こう言った物を使って戦うなら性別は関係ないし変に気を使わなくても済む。男女平等と言うならその方が平等だろうしな。
「風海、何か感知出来るモノはあるか?」
「レーダーに感なし。誰も来ないならそのまま演習でいいんですけどね。」
「それは私もそう願ってますよ。」
「平和な時代を生きたいですからね。モンスターは別ですけど。」
「だな、自衛官ってだけで人と戦って死ぬのも殺すのも納得はいかないけど、モンスターなら気にしなくていい。まぁ、攻めて来られたら戦うしかないんだがな。と、誰か来る!」
「サーチします!」
「距離は?」
「ここからだと・・・、約10kmはあります。煙の向こう側、この煙って中は見えないんですよね?」
「ええ、外からみると煙が漂い周囲に同化したような感じになり、それでも無理に進もうとすれば悪夢を見る。格好とか分かります?」
「黒いビジネススーツで馬乗ってますね。」
「増田さんかな・・・?戦う格好ではないですね。書類が届いたか。」
「書類?」
「どうしても入り用の書類で原本じゃないとまずい感じのやつですね。ちょっとばかし行ってきます。」
「1人で大丈夫ですか?必要なら付いて行きますけど?」
「いえ。飛行ユニットつけた機体と言うか、空飛ぶパワードスーツが量産されているのを見られてもまずい。流石に橘さん1人が飛行スーツを持っているとはどの国も考えてはいないでしょうが、既に量産出来る状況だとバレればまたゴタゴタする。」
飛べる魔術師は増えたが、それはあくまで人が飛んでいるのであってロボが飛んでいるわけではない。人とパワードスーツ、どちらが潜入を発見しやすいかと言えば大きさは変わらないし、生存率もそこまで変わらない。問題はどこで使うのか?ゲート内の出来事は外では批判も何も出来ないのだろうが、ある事は分かってしまう。なら、何かしらの交渉で技術を抜き取りに来るかもしれない。
それとは別に共産圏は宇宙ステーションの建設をスペースシャトルで行っている関係上、莫大な費用もかかっているし地上から宇宙へ行く技術に関心は多く、その宇宙空間で作業する方法もまた注目を引いている。
先日打ち上がったスペースでの船外作業はパワードスーツを使ってやっていたが作業時間は長くて6時間半、これは昔と全く変わっておらず圧縮装置を海外に出していないので酸素供給の問題もある。問題もあるのだがパワードスーツの姿勢制御に何かしらのガスを使っているようで、たまにパシュッと音がしていた。二人一組で酸素供給さえ上手く出来れば作業時間は伸びるのだろうがまだまだ問題もある様だ。そんな中、飛行ユニットと言うか空中で音もなく静止しているスーツが見つかればどうなるか?
外なら交渉だろうが中なら奪い取りに来てもおかしくない。最悪撃墜してから回収して調べればいいだろうし、調べられれば飛行ユニットに行き着くだろう。アチラは出土品をいじくり回すよりそのままで活用する方を優先してるみたいだが、調査しない訳はない。
そんな事を考えながら煙を抜けスーツの人物の前へ。顔は増田で間違いないな。なら、後は合言葉を貰えれば間違いないのだが、確か中国の中位ってリーとか言う拡張だったよな?テレビでもそう放送されていたしカマかけでもして見るか。
「お疲れ様です増田さん〜。外のゴタゴタは良かったんですか?」
「大丈夫です。だからこそ私が来ましたからね。では、こちらのブリーフケースを。」
「またまた、合言葉がまだですよ?西遊記、水滸伝!」
「金瓶梅、そちらの三大奇書を選ぶあたりやはり本が好きなのですね。」
「ええ、家にもたくさん本がありますからね。所でブリーフケースの中身ってなんです?書類とは聞きましたけど。」
「その大量の種類ですよ。知っているでしょう?役所仕事は何分書くものが多い。ここで書いては消えるかもしれないので帰ったらラボで書いてください。直筆でないとまずいものもある。」
「それは仕方ないですね。所で前に渡した魔法って残ってます?お守り代わりに上げましたけど、なくなったんなら渡しましょう。流石にこれから攻められるかもしれない中で追跡者として動くのは辛いでしょう?」
「何を言ってるんですかクロエ。私はS狩人ですよ?簡単には捕まりませんが魔法は切れてしまいました。いただけるならください。」
ブリーフケースを貰い魔法をくれと言うので魔法を渡す。内容的には弾むボールでいいかと言ったらビーム無効を所望した。まぁ、こいつ誰だかわからない犯人Xだから泳いでもらうんたけどね?しかし、金瓶梅を言えるあたり中々コイツは勉強家か読書好きかな?
日本で金瓶梅と言っても知っている人は少なく、内容を知る人はさらに少ない。奇書と言うが内容的には水滸伝からのスピンオフ作品なので水滸伝を知って更に気になった人は読むかなぁ〜程度。難なら金瓶梅の由来で潘金蓮、李瓶児、春梅の誰かの名前を抜いてもよかったが流石にそれは難しすぎる。
「ブリーフケースの中身の内容確認はしてもいいですよね?」
「見えないですがここからラボは近いのでしょう?ならば中でお願いします。先程も言いましたが一枚づつ確認しては時間がかかる。」
「内容確認の出来ないモノは持ち運びたくないんですけどね?それに、ラボがないのはここがかなり離れた所だからですよ?魔法で隠してますけど馬で来たせいで感覚鈍りました?」
「見えなければ感覚もなにもないでしょう?あぁ、ついでに長期戦を見越してタバコの差し入れです。」
「ありがとうございます。なら貰ったついでに一本吸うとしましょう。しかし、新しい薬が出来たからって大騒ぎし過ぎなんですよ。欠損も復元できる薬って言えばかなり助かるんでしょうけど、これから量産を考えるとね。まぁ、大株主なんで更に資金は集まりますが。」
「仕方ないでしょう。誰もが欲しがる薬ですから。では私は戻ります、クロエは?」
「吸い終わったら戻りますよ。」
プカリと1つ。ブリーフケースはどうしようかな?中身は書類であるのは間違いないと思うがなんの書類やら。この人物の目標はこの鞄をラボに持って帰らせるないし開いた場所を特定する事だろう。そうなるとこのブリーフケースの中かタバコには発信機か何かがついてると思う。犯人Xはそそくさと馬に乗って走り去ったがタバコを吸い終わるまでに考えをまとめよう。
闇雲に探してここを引いたのか、それとも狙い撃ち出来たのか?スーツにブリーフケース持って馬で来るあたりそこそこの目星はあったと思う。ただ、その目星を本人がつけたのかそれとも指示役がいたのか?どの道ここで拘束していらない捕虜を中に入れる訳にもいかない。
簀巻きにして適当に馬に乗せて帰らせてもいいのだろうが、それだと相手の警戒心があがる。合言葉が言えない場合は素直に追い返していい。それは本人の落ち度で勉強不足。追い返した後に調べて帰ってくるだろうし、再度同じ合言葉を投げかけて回答出来れば話を進めればいい。
とりあえず依然としてこちらを舐めている事は分かる。これをもらって俺が誰にも連絡を取らずに素直に持ち帰ると思っている時点で評価は低いのかな?う〜ん・・・、寧ろコレ自体が罠?同じような肉壁を多数走り回らせてどれかに引っ掛ければOKだったとか?それならいっぱい食わされた事になるのだが・・・。
「まぁ、持ち帰らなくていいか。」
適当に馬に括り付けて走らせる。地点割り出しと言う面ではこれを複数回繰り返されると面倒だし包囲網は縮まっていく。早めにラボを飛ばすに限るな。コチラが移動出来ないからこそ探しやすいのであって、空を飛んでフラフラと移動でもしていれば探しようがない。




