372話 引っ掛かり 挿絵あり
「聞いてもそんなに面白い話じゃないよ?」
そう前置きするが顔には聞いてと書いてある。宇宙開発関連で何かしらの進展があったかな?つい先日は中露のロケット打ち上げが行われて急ピッチで進んでいる様だし。ただ、人工衛星は無人打ち上げなのでいいが、有人となると安全面が気になる所。使い回しするにしてもメンテしないと爆散するし、脱出装置を組み込むのも大変そう。
しかし、テレビで打ち上げ風景を観た感じ宇宙飛行士がロボテックスーツを着ていたので、人命優先を謳うなら内部からシャトルを破壊して脱出するとか?飛行ユニットの技術提供はないと聞くので、脱出したら後はスカイダイブからのパラシュート降下とかかな?
ただ、宇宙飛行士もそんなに訓練せずに良くなったらしいし、物資運搬も指輪があれば大丈夫なので、数撃ちゃ当たると言う具合にバンバン安全無視して打ち上げしそうなんだよなぁ〜。ソビエト時代は戦車のハッチに外鍵つけたり溶接して死ぬまで戦わせたりしたし、大事故が起こっても中国の死亡者報道は一定数から上がらないと聞くし・・・。
「そうなの?てっきり藤さんと斎藤さんがパリコレデビューして、遥がデザイナーとして世界に羽ばたくと思ったんだけど。」
「それはそれで面白い話の部類だろう?そうか・・・、遥は夢を叶えて世界に羽ばたいたか。」
「違うよ!確かに2人共身長もあるし顔も悪くないけど、そんな話じゃないの。最近服のデザインって言ったら宇宙服メインで思ってたんと違う状態なんだから・・・。盛り上がった話だというのは宇宙ステーションからの降下実験の話。あんまり外に漏らしちゃ駄目だけど、お父さんとお母さんならいいかな?」
「守秘義務に抵触しないならな。一応ここの大株主だけど、漏れると拙い話は極力しないように。」
「そうね・・・、お仕事の事だし話したいのは分かるけど大丈夫?」
色々手を伸ばしているのでガチで知らない話もある高槻製薬。いつの間にか宇宙開発をJAXAとNASAを巻き込んでやっているので、本当にやばい話もあるかも。もしかして早々に宇宙人見つけちゃった?無い話とも言えないのが怖い所なんだよな、俺達は宇宙人に出会ったわけだし。
「う〜ん・・・。そのうち、多分年内にはお披露目あるから大丈夫だと思う。盛り上がった話っていうのは飛行ユニットって言ってお父さんは知ってると思うけど空飛ぶ機械の話。アレの有人上昇降下実験がこの前成功してそれで盛り上がったんだ。」
「飛行ユニットってなに?司は知ってるんでしょうけど私は知らないわね。」
「一応国として伏せたい物だから一般人は知らないかな?今まで空を飛ぶって言ったらプロペラだったり、タービン回すエンジンだったりで気流を捕まえて飛んでただろ?ジェット機の原理だって滑走路を突っ走って羽の下に揚力溜めて浮いた後に900km/hの速度で落ちない様に飛んてるし。」
乱暴な説明だがベルヌーイ定理とか言い出しても分からない人には分からない。大雑把に考えるなら羽で空気を捕まえて、その捕まえた羽根を操作して空気を下に押し出した反発力で飛行機は飛んでいる。だから、ジェットエンジンがぶっ壊れれば力がなくなり墜落となるし、高度とパイロットの腕が良ければグライダー方式で滑空して着陸出来る。
「そうなんだけど、飛行ユニットはタービンとかプロペラいらないし、力場を固定して足場にしてるからイメージ的には走ってるって感じかな?それを使っての空中歩行による降下と上昇が成功したの!凄かったよ〜!浦城さんって人が試験したけど上昇と降下の速度もかなり速かったし、上手く行けば人単体で宇宙ステーションに行けるかも!」
かなり娘のテンションが上がっているが、外務省が嫌がる物が形になったな。前に音もなく空から人が歩いてくると言ったが、飛行ユニットの関係上パラシュートもいらないし、本人が着地出来るならどの高さからも自由落下で降りてこれる。
戦略兵器として考えた時にレーダーを無効化された上で大量のスィーパーが一気に投入出来ると考えたなら、軍人ではないがたまったものではない。それに、人が単体でホバリングしながら地上も狙撃出来るんだろ?拠点防衛にしろ、潜入阻止にしろかなり頭の痛いものだ。
そのうちキャニスター弾が都市防衛の主流になりそうだな。航空機を落とすのにはそこそこ大きな散弾が必要だろうし、戦闘機の様にマッハで飛んでいれば風圧で意味をなさないかもしれないが、人が対象ならパワードスーツやらロボテックスーツの装甲を抜けるだけの貫通力があればいい。
下の人の被害を考えるなら軽くて丈夫で降ってきても刺さらない物。液体金属を使えば高高度なら金属だが地上に近づくに連れて液体化する。ただ、5種類確認されている液体金属はどれも毒性が強いので使えないかな?まぁ、人を殺す事ばかり考えるのは止めよう。されたら嫌な事をするのは戦の基本だが・・・。
「到頭人は歩いて宇宙に行ける様になるのね。どれくらいかかるのかしら?」
「ずっと徒歩なら月まで約11年。ただ、飛行ユニットで宇宙に行くだけならそこまで時間はかからないかな?まぁ、もろにGを受けるから最高速度は出さないだろうけど。それでもかなり早いかな?」
今だと対G訓練とか加圧スーツとかを使えば10Gまではブラックアウトせずに済む。たた、そこにスィーパーが絡むと更に上を狙えるんじゃないかな?まぁ、1個人で宇宙に行ってもする事が無いだろから大多数が使える物を作るのであって、1人に全てを任せる気ならその人は嫌気が差したら国外逃亡待ったなしだろう。なにせ宇宙から他の国に亡命出来るんだし。
「うん、かなり早いけどまだ色々と問題点もあってそれで話が盛り上がっちゃった。例えば酸素どうするとか。」
「苛性ソーダ使用の半循環式とかやめろよ?伏龍じゃないが口呼吸で失神したくない。」
「流石にそれはないかな?圧縮装置使って高圧縮酸素を装備させようって話で今の所話が進んでるよ―。ゲート内の酸素を使えば実質ただで酸素は賄えるし。」
「それもそうか。確かにゲート内は酸素があるか・・・、ら?」
「どうしたの貴方?」
「いや、下がジャングルなのってもしかして酸素作るためかなぁ〜と。」
考えてみれば宇宙人で酸素を絶対に必要とする奴は多分少ない。仮に木星に木星人がいたとして、そこで呼吸するなら水素とヘリウムが主なモノとなるし、地球人は到底呼吸出来ない。う〜む・・・、あれがやたらと頑丈で駆逐出来ない様な仕組みなのってもしかして、なくなると掃除出来なくなるから?
毎日森を焼こうと思ったが放置するのがいいのかな?あれが1個の原子で何にでも結合やら変換できるなら水から酸素作ってそうだし、化学廃棄物もバンバン吸収してそうだし。もしかして、核廃棄物を循環させてるのもあれで、不要なモノを有用な物に変える材料だったりして・・・。
「その辺りは私は知らないかな?斎藤さんがもらった植木も何人か研究したいって言ったけど、アレも鉢を壊したりしたらヤバそうなんでしょ?」
「植木ってあのなんとも言えないやつよね?実はなるのかしら?見るだけなら退屈そうだけど、どうせくれるなら花とかがいいわね。今時季だと紫陽花とかきれいだし。」
「莉菜、彼奴等に美的感覚はない。あるならモンスターはもっとファンシーになってたかもしれないしね。」
ファンシーかどうかは別として、エジプトを攻める時に盾に猫を括り付けて戦ったなんて話を聞いた事がある。エジプトで猫は神聖な生き物で攻撃出来ず結局国が滅んでしまった。彼奴等がそこまで理解して何かを作ると言うなら、モンスターがバニーガールだったりハーピーだったりしても驚かない。まぁ、それでも現代人ならバンバンぶっ殺すのだろうが・・・。
「それだとやりづらいわね・・・。モンスターが子供の姿とか小人とか嫌よ。」
「同感だ。と、結構話し込んだが遥はなんな予定もなかったのか?」
「予定・・・、そう言えは酒井本部長達と潜る予定だった。準備があるからそろそろ行くね。服は後で何着か持ってくるよ〜。」
「どこまで行くかしらないが気をつけるんだぞ〜。」
料理を食べあげお冷を飲んで食堂を出て行くが、どこまで潜るのやら。酒井と合えば大会で本部長になった装飾師だが、遥の方が位は上でも戦闘面では酒井に分があるかも。まぁ、達と言っていたので2人ではないのだろうし、あの子なりに考えて潜る事を決めたのだろう。
「行っちゃったわね・・・。元気な顔が見れたのは嬉しいけど、改めてひとり立ちしたんだな〜って気になっちゃう。」
「元々君は県外の学校に行くのも反対してたからなぁ〜。やっぱり寂しいかい?」
「ああ見えて遥はまだ20よ?それに、何歳になっても子供は子供、指図する気はないけど心配するのは親の特権。そうじゃないとあの子が好きで、遥を好きになる人が出て来るまで誰も心配しないじゃない。」
「それもそうか。行くにしても来るにしても、どちらにせよその間は俺も心配させてもらおう。」
娘の子供より先に息子の子供の顔が見られそうだが、そこは本人達次第だしな。取り敢えず娘が元気で楽しそうに過ごしているならそれでいいか。
「さてと、私達はどうしようか?那由多の事もあるし一旦大分へ戻る?」
「そうね、ソフィアちゃんがいつ起きるか分からないのが心残りだけど・・・、貴方の見立てでは数日寝てるんでしょう?」
「いや、あれは言葉の綾で普通通りに起きるかもしれない。再誕して寝るまでに何も食べてないし、寝た時間が時間だから直ぐとは言えないけど・・・。」
スマホを見るとAM11時。寝たのが多分7時頃なので仮眠と言うにはいいかもしれないが、そうじゃないなら寝足りないだろう。まぁ、ショートスリーパーとかなら足りているかもしれないが。何にせよ今ソフィアに足りないのは栄養と睡眠とか?健康ではあるのだろうが、疲れは別物である。
「ギルドの方は私が望田さんに事情を説明したから大丈夫だと思うけど、貴方の方は何か急ぐ用事がある?」
「いや、カオリに話したなら向こうは大丈夫だろう。取り急ぎの用事となるとソフィア関連がメインになると思う。君の方は?」
「取り急ぎって訳じゃないけど救護長だからね。あんまり不在にするとか不味いかも。一応雪城先生に言って今日いっぱいはお休みって事でお願いしたんだけど、明日以降がね・・・。」
なんだかんだで妻を頼る人は多い。救護所を立ち上げた人間でもあるので、その頃からお世話になっているスィーパーもいれば腰や膝を治してもらった老人もいる。そうでなくとも託児所の子供達の所によく顔を出すので、女性スィーパーの事は下手したら俺よりもよく知っているかも。そんな妻が長期で不在になるのは確かに多少まずい。
「なら一旦帰るといい。私の方はノートPCもあるから対面じゃなくても仕事は出来る。」
「そう?ソフィアちゃんは気になるけど大分の方も手放しには出来ないし・・・。分かった、昼過ぎまで待って起きなかったらお願いするわ。貴方はどれくらいラボにいる?」
「そうだな・・・、明日の朝まで待って起きなかったら大分へ戻る。」
流石に開けっ放しは問題が出るしタイムリミットとしてもその辺りだろう。目覚めた後に何かあればまた来ればいいだけだしな。妻はソフィアの様子を見ると言い、俺も仕事をするとして一緒に食堂を出る。仕事場は会議室でいいかな?妻に会議室の場所を教えて移動し、ノートPCを取り出して望田へ連絡。
ペーパーは後で処理するとしてデータのモノを送ってもらい、確認やら内容に指示を出していく。事の発端となったスィーパーの大怪我については望田とやり取りして注意喚起とボールを使った対処法を受付に張り出すと共に、頭上に気を付けろと呼びかける事で決着が付いた。
まぁ、先手を打てるならそこまで脅威を感じないが、アレが他のモンスターを食うと面倒だ。下手したら頭上から狙い撃ちされる可能性もあるし、他の感覚器官を手に入れたらバウンドしながら乱射なんて事も考えられる。
モンスターは逐次駆逐するに限るが、アレがどのくらいうろついているかも投入されているのかも分からない。R・U・Rで訓練して意気揚々とゲートに入ったら未知のモンスターに遭遇して即退場なんて事もあるかも。人の血で支払って手に入れた情報は有効活用しよう。
望田:他のギルドにも情報共有しますね。
それ以外に何か気になるモンスターっていました?
クロエ:そこは青山に聞いて。補助者する分未知の
モンスターに出会う確率はアイツが一番高い。
簡単には負けないから今日も補助しながら
潜ってるんじゃないかな?
望田:了解です。
そう言えば増田さんからギルドに連絡があったので
まだ、ラボにいると伝えておきました。
電波悪かったんですか?
クロエ:いや?そんな事はないと思う・・・。
増田さんはなんか言ってた?
望田:いえ?単純にツカサがどこにいるか聞いただけですね。
クロエ:分かった、ありがとう。
残りの仕事を進めよう。
増田が俺の居場所を確認する?理由がないな。ラボで分かれて増田は公安やらアガフォンを洗っている。それに、居場所を知りたいなら直接電話をしてきてもいいし、出なければメールを使えばいい。それ以外で俺がどこにいるかを知りたければ直接ここを確認しにくるか高槻に電話すればいい。
望田の耳を疑う訳では無いが何やら引っかかる。取り越し苦労ならそれで構わないが、俺がギルドにいるとまずい人間が動いていないとも言えない。さてどうしようか・・・。望田に直に伝えたとして、相手は望田の能力を欺いた上で行動を起こそうとしているのかもしれない。
その場合かなり厄介だな。少なくとも電話越しだとしても望田を欺ける声帯を作れて且つ、不在確認まで済ませてしまっている。その上で相手の狙いが分からない。不在を狙うとなると金庫破りが妥当かもしれないが、真っ昼間にそんな事をすればすぐに気付かれるし、その場合邪魔なのは望田の方だろう。
金銭やら出土品狙いと言う線は、ゼロではないにしてもかなり薄い。なら、何かしらのデータ狙い?確かに本部長のPCには価値あるデータが多く入っている。しかし、不在確認して本部長室に殴り込みをかけるのか?確かにPCごと盗むなら考えられない話ではないが、データが欲しいならハッキングを先にするだろう。
つまり物理的に俺が不在であって欲しい状況で且つ、望田がいても問題にならない状況・・・。なんだろうな?一旦見方を変えてみる?例えば・・・、そうせざるをえない状況とか?動きたくはないけど動かないとまずく、動くにしても武力行使するなら最大戦力がいない間とか?
う〜ん・・・、スィーパー多数のギルドに喧嘩売るとか自殺志願でしかないし、望田がいる以上中に入れば籠の鳥、外から攻めれば骨折り損。中々現実的ではない。混乱に乗じて何かしたいとしてもかなり厳しいし、やはり考えすぎか?どちらにせよ増田に連絡を取ればハッキリするか。
カタカタとキーボードを打ちつつ増田に電話をかける。変に情報収集が難航していなければ、松田と合流しているかもしれない。何せ一番にここを出たんだしな。
「もしもし、増田さん?今どこにいます?」
ーside リーー
面倒な知らせとは何時入るか分からない。今日の予定と言えば授業を受けて対象達と友情を育みつつ、何かしらの情報を集めて流す事だがティ曰くかなりまずい状態に進展した可能性があるらしい。らしいと言うのは、まだ事態そのモノを私達が何も把握出来ておらず祖国から来たオーダーが理解の苦しむものだから。
「先に言うがティ。私はそちらとは無関係だ。しかし、この国では私とお前は親子であり親が疑われれば自然と私にも飛び火してくる。電話1本で何処まで掴まれるかは分からない。しかし、その電話1本で窮地に追い込まれる事もある。」
学校は病休としテイと地下の会議室に入り話を聞こうとするが、あの電話はまずい。確かに祖国の軍部からのオーダーだが、ファーストの所在を今すぐ確かめろと言うのは我々のやる仕事ではない。しかも、確実性の最も高い方法でと来たものだ。
ティ達はすぐさま家を確認し不在とし、血眼にって探した後に動向把握としてギルドへ直接電話する事を私に申し出てきた。突っぱねてしまいたかったがDNA採取が上手くいかず、上げた情報自体は有用なモノが多いにしても決定打はない。
私の本来の上司からも協力せよと送られてきたなら、下手に突っぱねてしまう事も出来ないじゃないか・・・。苦肉の策としてテレビで見た増田と言う男の声を真似してティの用意した番号にかけ、望田から不在と言う言葉をもぎ取るに至ったが・・・。
「分かっている同志リー。しかし、事態はかなりまずい方向に向っているらしい。無論、祖国がではなく協力国がだが。」
「・・・、バカか?祖国外の問題で我々を動かしたと?そんなふざけた事を容認しろと言うのか!?」
「言うな同志リー。私としても動きたくはない。しかし、とあるモノが発見された可能性がある。」
「とあるモノ?そこまで気を使うものなのかソレは。」
「ガーディアン騒動の時、日本のギルドは職に就けない子供をスィーパーで囲い避難させた。なぜだか分かるかい?」
「それは職に就かない人がモンスターに接触すれば著しく甚大な被害を受けるからだろう?祖国でもゲート開通の折に浮浪児なんかでそんな被害があったと聞いたが?」
「そう、それだ。どの国でも貧しい者がいれば多かれ少なかれその話は出る。しかし、この国はそれを出す前に・・・、被害が出る前に被害対象の出入りを潰した。」
「だからなんだと言うんだ?その程度の情報ならどの国からでも引き出せるだろう?」
「あぁ、その程度ならな。しかし、情報を日本に売ったのはロシアだ。そして、あそこはかなり仄暗い実験をしていた。」




