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街中ダンジョン  作者: フィノ


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365話 発見した! 挿絵あり

(それは加工して器に入れるモノと練り込んで器になるモノを作れという事か・・・?確かに同一のモノで中身も外も作れば違和感はなくなりそうだが・・・。)


 壺に水を入れれば、それは水と壺の2つのモノとなり隔たりは埋まらない。だが、例えば氷の器に水を入れたらどうだろう?溶ける時間はかかるかもしれないが、いずれは1つのものに混ざり合い違和感は消える。それを俺の精神モデルと合わせていくと成長限界まで氷が溶けていき、最後には器と水の均衡が作られるのでは?


 問題は本人の精神がどれくらい残っていて、器となるモノを上手く作れるかか。サイズ感をイメージするなら器が大きく中身は小さくか?う〜む・・・、それだと赤子になりそうだが記憶はどうなる?


 混ざって行けばフラッシュバックの様に思い出して激しい苦痛を感じる?それ以上に幼ければ精神が耐えられず、更に減らした精神が摩耗すればやはり行き着く先は死か。なら、魔女の言うブローチ・・・、飾りか。受け入れられるまで封印し受け入れられる時期が来れば外れるようにする。


 それがいつかは分からないし、永遠に来ないかもしれない。多分、松田辺りはその情報を欲しがって記憶処理とするかもしれないが、深い深い封印された記憶を簡単には暴けないだろう。方向としてはこれでいい。後はどうやってこの異形の精神にアクセスするのか?


 異形が知っているかは分からないが神智学方面から攻める?あれって人を7つの目に見えない身体に分けてるけど役割が多いんだよな・・・。大きくは4種類あるが信仰を司るゴザールは不要。どの信仰も再誕やら生き返りの話は抱えている。エーテルも不要と言うか、身体のバランス以前に身体が結合してボロボロ。なら、やはりメンタル体か。ここにアクセスできればいいがどうしたものか・・・。


(どちらがアクセスする手段はあるか?正直ココまで考えたがアクセス手段がない。)


(いや、君は既に持ってるよ。コードでアクセスすればいい。精神体になった者も見た。僕や魔女から精神に攻撃されて精神の痛みも知ったし、君は精神体で自由に動いていた。)


(いや、それは自己の内面だからだろ?あれは他者だ。)


(犬を使いなさい?アレに乗って進めばいいわ。なにせ犬って臭いに敏感なのでしょう?貴女と違う臭いを覚えさせて追わせればいい。)


 アヌビスか。死んでいる訳では無いが黒い犬の頭を持ち死の世界に導く導き手。再誕させるなら一度死んで生き返ったとしたほうがいいのだろうか?確かに精神を封印して新たなる子供として再誕させるなら一度は死んでいないと辻褄が合わないが・・・。


「大丈夫?押し黙ってるけど。」


「イメージを固めてる。人は宗教的な動物だと言ったのは誰だったかな・・・。確かにそれがなければ人は産まれない。」


「そんな事ないわ。私がいて司がいる。だから子供達は生まれたし家族にもなった。それは宗教なんて関係なくとても自然な事よ?」


「なるほど・・・、なるほど確かにそれは自然な事だ。」


 違う2人がいれば確かに子供が生まれる。成長した姿はどうであろうと、産み落とされれば後は本人の足で歩き経験を積んで成長する。ふむ・・・、イメージはだいぶ固まってきた。仰々しく考える部分とあやふやで済ませる部分。身体は大げさだろうと緻密にイメージし、精神の加工はあやふやに行って成長させる。


 アクセスは宗教をごった煮にしてファンタジーでいけばいいし、俺は宗教の経典やらの内容をファンタジー小説だとしか思っていない。だって石をパンにするとか実にファンタジーだし、海を割るとかもう大魔法の極みだろう?


 後はそれを本人が受け入れるかどうか。それが問題になるが、摩耗していると言う事は擦り減ったりしているのだろうから、当然減った分の空きがある。それは隙間だ。普通なら入り込めない精神でも隙があるなら入り込めるだろう。悪いセールスマンの様に、心の隙間を埋めに黒い服でやって来て帰り際にはホーホッホッホとでも笑えばいいか?


  挿絵(By みてみん)


 禁忌を破らない限り再会する事もないし、相手次第では禁忌がそもそもないかもしれない。最悪、摩耗していい悪いも無い状態なら、いっその事まっさらにした方がいいのだろうか?


「材料は用意出来ましたが、どういう方針で治療する気ですかな?」


「対話しない事には何とも言えませんね。手は尽くすとして結果は分からない。先生の分析としてはどう見えます?妻からはお手上げと聞きましたが。」


「お手上げ・・・、そうですな。コレを人として見た時に再生医療も対処療法も意味をなさない。結合された為に皮膚は常に爛れ剥離し再生よりもダメージ速度が上回り、内部を確認しようにも機器は宇宙線で狂いまともな数値は出さない。触診を試みましたが鎧が皮膚の代わりなのか剥がせずそれも駄目。音には微かな反応を示すので、加納さんに骨伝導で話してもらいましたが要領は得ないし、目と鼻は脱落しているので感覚器官としては意味をなさない。仮に結合を解除したとして、臓器の復元や脳へのダメージは相当なものになるでしょう。」


 医者の見立てを聞く限り絶望的・・・。ただ、要領を得ないにしろ音は聞こえている?骨伝導と言う辺り接触していればどうにか対話は出来そうだ。まぁ、まともな思考が残っているかは別としてだが・・・。さて、マイナスに考えても仕方ない。


 犬を使いエジプト神話風に再誕させるなら鼻がないのはプラスだ。ミイラを作る時に脳を取り出すなら、鼻から棒を突っ込んでズタズタにして取り出すし、今はもうやらないがロボトミー手術も鼻から脳への管を通す。


 耳からどうにか侵入をとも考えたが、それでは聴覚を塞いでしまうから呼びかけはできないだろう。イメージで事を成すなら邪魔するイメージは徹底的に排除したい。後は・・・、声は聞こえて目が無いから暗闇しか見えないのは恐怖心を和らげられる。最初に作るのを目ではなく、最後にはそこは作るとして鼻かぁ・・・。プルースト効果は使える?


 コレが子供だとして臭い記憶なら・・・、帰る家は見つけられそうだ。なら、ミルクや母乳はやめてピロシキやボルシチか?この子が生後間もないならそれでいいが、その期間よりも普通の飯を食った期間の方が長いだろう。なら、家か或いは施設で食わせてもらった料理の香りは帰るべき場所の記憶として残っていそうではある。


「すいません、誰でもいいので半田さんにピロシキとボルシチを至急作ってもらって来てください。プルースト効果で家を作ります。」


「家?それで家になると?」


「子供の頃に飯を食う場所は家でしょう?本当なら生活臭なんかも欲しいですが、この子の生活環境は分からない。精神を復活させても路頭に迷ったんじゃまた霧散しかねないですからね。それが届いたら・・・、加納さん。出来る限り生活会話のロシア語を教えてください。呼び掛けられないんじゃ意味がない。」


 危ない危ない。いざ助けに行っても言葉が通じなければ逃げられる。スマホで調べてもいいが、それでは発音がきれいすぎる。あくまで人が話しかけていると言う風にしないとおかしな事になりそうだ。


「なら私が注文してきます。ビーツがあればいいですが、なければ用意させましょう。」


「ありがとうございます松田さん。」


「なに、最近はポチ君のおかげで子供にも興味が出てきました。有権者でない子供は家庭と教育くらいしか力を入れなくていいと思っていましたが、元気に遊ぶ子供は見ているだけでそこそこやる気を出させてくれる。久々に孫に何かおもちゃでも買おうかな。」


 天邪鬼なのかなんなのか・・・。まぁ、本音っぽい事を言う分マシかな?しかし、松田は孫がいるのか。歳的にもいてもおかしくないが、松田の影響で胡散臭くなければいいが・・・。


「私に出来る事ってある?」


「ある。最後の結合解除は莉菜にしてもらう。この件をこれ以上大っぴらにも出来ないし、ここの職員で子供にも接する機会が多い人もいないしね。」


 高槻製薬は別に結婚したら駄目な決まりとかはないが、趣味人が多いので結婚や育児よりも自身の研究やら開発にウェイトを置く人が多い。出会いもラボから出ない限り少ないし、出会ったら出会ったで引き抜き対策で相手の身辺調査が行われるとか。


 別に秘密結社でもなんでもないのだが、国としては技術が流出するのは見逃せないらしい。そのうち結婚相手を国が連れてくるなんて事もあるのだろうか?退職すればそこまで監視の目は厳しくないらしいが・・・。そもそも今までに退職したって人を聞かないしなぁ。


 さて、料理も届き日常会話も賢者に覚えてもらって伝言ゲームの要領でどうにか話せる。更にスマホを操作している時に電気を流して電波を波乗りしていたようだが、ネットサーフィンと言うくらいだからイメージは間違ってないだろう。それよりもピロシキとボルシチがいい香りを漂わせるので腹が減った気がする。


  挿絵(By みてみん)


(イメージは大丈夫だと思う。帰る場所もはっきりしているし・・・、精神の巻き戻りって行ってすぐに引き戻されるって事はないよな?)


(煙を使っての有線接続だろ?電気信号をイメージに投影して流しているだけだから君自体の精神はここにある。言ってしまえば君の影法師がコレに入るだけだから大丈夫だよ。)


(本体と言うか、貴女が行くと言うなら私は止めるわよ。何でわざわざゴミの中に入らないといけないのよ。)


(分かった分かった、行くのは俺とバイトだけでいいけどバックアップは頼んだ。)


「では、全て準備も整ったので仮称カチューシャの再誕を開始します。集中するので出来るだけ静かに。それと、莉菜は合図したら結合を解除して欲しい。」


「分かったわ、どんな結果でも私も貴方も最善は尽くしてる。だから、丁寧にね。」


「分かったよ。丁寧に、ね。」


 妻と手を繋いだまま目を閉じてキセルをプカリ。煙をカチューシャに吹き掛けミイラの様に覆う。今は薄くていい。モンスターと分離した時に縛り上げていてはモンスターが離れられない。全身を覆ったら次はキセルから煙を吹き糸へ。これがカチューシャへのアクセス通路。ゆるゆると伸ばしていき欠けた鼻から中へ。首と背骨が繋がっているなら辿れば脳幹もその辺りにあるはず。確か成人なら太さは親指程度だったか?


 子供なら更に小さいが、発見できない程小さくもない。問題とするなら変形していないかだが・・・、多分これかな。何処をどう結合したか知らないが、クリスタルの横にそれらしき物がある。多分、コレのせいで意思かなんかもはっきりしていないのだろう。下手に触るとガチで脳死するが、幸い煙で作った糸なので下手な接触はない。


 そのまま脳幹に糸とも煙ともつかない半物質状態のまま触れさせる。よし、多分異形は暴れてない。ここからは精神的なイメージだ。道は出来た、後はその道を進み中へ向かうだけ。魔女と賢者は付いてこれないらしいが、声でサポートはしてくれるらしい。なら、後は生み出す者を理解出来る様に頑張ろう。


「バイト、これからこの道を進みカチューシャの本体に向かう。出来るな?」


「お任せを。」


 犬の背にのり進む。イメージのせいか今は明るいが道の先は暗く、どこまで長いのかは分からない。道自体はしっかりしているので崩れる事はないと思うが、その道を見失えば奈落に引きずり込まれそうだ。多分、黄泉比良坂とかこんな感じなのかな?行って帰るだけで誰も連れ帰ろうとは思わないのでいいのだが・・・。


 どれくらい進んだのだろう?精神的な時間と実際の時間は流れが違う。それは楽しければ時間が早く進む様に感じるのと一緒で、不安感があれば同じ長さでも体感時間は長くなる。幸いなのはモンスターがいない事とか?モンスターに精神があるかは知らないが、興味を示すのでないとも言えない。


「後どれくらいか分かるか?」


「?主が分かるのではないか?」


「いや、闇雲に走ってるんじゃないだろ?カチューシャの匂いであったり、感覚であったりは脳幹の匂いで分かると思うんだが。」


「かなり混じっている。いや?共にあるのか?片方は離れようと、もう片方は何もせずに留まるような・・・。」


「場所は分かるか?多分カチューシャとモンスターだろう。そこへ行こう。」


「そこへ・・・、無理だ。行く道もない。我々が来ている事も知らない。拒絶されたなら拒絶地点も、受け入れられたなら招かれる道もあるが、今ここにはなにもない。」


 道がない・・・、ないのかぁ・・・。まぁ、摩耗してるって事は可否の判断も付けられないし、するだけの判断材料もないのだろう。普通、人には人に言えない秘密なんかがある。例えば妻に隠れて買った高いプラモを隠してるとか、或いは莫大な借金があるとか。何にせよそれは拒絶になるし、反対に褒めて欲しければ晒せだして承諾して受け入れる。


 しかし、その両方がないから道もなく延々と走っていたのか。いや、任せろって言うから任せたのに何で肝心な所を言わないかなぁ・・・。走り損だろうが光はかなり後ろで点しか見えないので、進んでいるのは進んでいると思うが目的は進む事じゃなくて辿り着く事なんだよ・・・。


「何か方法は?一応今回のお前ってアヌビスの代わりなんだけど。」


「アヌビスを知らぬ。それは何だ?」


「いや、私と繋がってるからイメージは分かるだろう?死者の導き手。死の淵にある者の元を訪れる者。この身体の持ち主は今死にそうなんだよ。」


「ふむ・・・、分かった進もう。死の気配をたどればいいのだな。」


 若干心配だったがそれは杞憂に終わり、辺りの風景がある時を境に移り変わる。なんと言うか・・・、ホコリの海?濃い所もあれば薄い所もあるし、真っ黒な所もあれば白い所もあるし。モノトーンの世界の様だが時折赤褐色も混じるので全く色が無い訳ではない。とても静かだが、どこかでゴリゴリと音がする・・・。なんの音かな?


「ここは?」


「カチューシャだったか?それの中だ。表面はズタボロでいくらでも入り込める余地もあった。ここはさらに進んで深い場所。博識なる化け物・・・、賢者曰く残された場所らしい。」


「残された場所・・・、もしかしてこのホコリって摩耗した精神の残骸?」


 摩耗ね・・・。本人が半透明にでもなってるかと思ったが、まさか本当に粉になってるとは・・・。これはかなりヤバいんじゃない?歌うくらいの感覚はあったからまだ大丈夫だと思っていたが・・・。


「闇雲に歩いても仕方ない。音のする方に行こう。」


「心得た。」


 犬の背に乗って進む。ゴリゴリと言う音は止む事なく響いてくるが、辺りはホコリばかりで見通しは悪い。俺の精神の壷やモニターがぶっ壊れたらこんな世界になるなだろうか?他人の内面世界モデルは分からないが、少なくとも自身を個とする客観視する人型はいると思うんだが。


 たぶん、それの頭がぶっ壊れたり取れたりした状態が精神的な死なんだろうし、もげた頭を再度挿げると言うのは中々難易度が高い。せめて身体はズタボロでもいいから頭は残っていて欲しい・・・。 


「主よ、アレか発生源だと思うが・・・。」


「多分そうだよね〜。でも、何あれ拷問?」


 モンスター2体と結合していると妻は言っていたが、あれは結合なんかじゃなくて搾取では?中央にグッタリした髪の長い・・・、女の子かな?それが臼に入れられモンスター2体がぐるぐる回りながら引いている。出た粉は舞い上がりどんどん拡散しているから・・・、もしかしてこのモンスター達って邪魔な女の子がいなく成れば自由だと思って好き勝手してる?


 確かに女の子が脱落してモンスターだけになれば後はどちらかがクリスタルを取り込めば済むし、モンスターからすれば興味以外の感情は不要っぽいから少女は邪魔でしかない。って、考察してる場合じゃない!


「ここで結合を解除すればモンスター達は消えて開放できるのか?」


「吾輩には分からん。」


「ちょっと賢者か魔女分かる?アレってモンスターの化身みたいかもんだろ?」


「そうだとも言えるし、違うとも言える。アレは本体の嫌な物を集めて作った像よ?ゴミを象っているのはそれだけゴミにいい思い出がないからでしょう。今ゴミを物理的に分離した所でアレは残る。」


「なるほど、アレはモンスターその物じゃなくてカチューシャが作ってるモンスターであって、悪夢とかフラッシュバックの原因物か。確かにそれなら引っ剥がしてもどうしようもないな。そうすると、あの臼は防壁で中身が本体。本体が削られてると思ったけど、防壁ごと削られていってると・・・。」


 嫌な事があって殻に引きこもるとは聞いた事があったが、実際こんな感じなんだ。頭が見えてる感じその防壁もかなり削られてるとか?あれが全てなくなって剥き出しの状態だと恐怖状態と言うか発狂するのか。


 なら、今ならまだ話せる?何をどう事を運ぶにしても話さない事には始まらないしな。賢者にお願いして通訳してもらいながら話しかけてみるか。 


「え~と・・・、聞こえますかぁ〜?助けに来ましたよぉ〜。」


「・・・。」


 反応がない。ゴリゴリ言う音のせいか、はたまた拒絶する気なのかピクリとも動かない。走っているモンスターは俺には目もくれないし、もしかしたら見えていないのかも。本人の悪夢なら攻撃対象は本人だけだし、本人が認識出来ていればそれで悪夢は見れるし・・・。


 モンスターがいるって事は悪夢は見ているのか。ふむ・・・、確かに精神に多大なダメージは負っているのだろうし、それは継続しているのだろうがまだ(・・)悪夢を作るだけの精神は残っていると。なら、そこから始めていくか。


「この悪夢がどういったモノを揶揄しているか、私には分からない。だが、その悪夢がなくなれば話を聞いてもらおうか。」


 起きているか寝ているかも分からないが、状態としては昏睡状態。つまりは寝ている。なら、あのモンスター達は夢であって記憶の整理が終わろうとも消去されずに・・・、いや。他の事を忘れたとしても残るくらい強烈な悪夢で、現在進行系で蝕んでいるモノ。


 なら、その部分から消去しょう。前に高槻から脳の話を聞いたが、記憶を司る海馬は大人でも小指ほどしかない。スィーパーなら大きくなるが、この子はスィーパーではないから子供である事を加味しても更に小さい。


「邪魔な悪夢だ。ちょっとあっちに行ってろ。バイト、その2匹をどうにかして追っかけ回せ。近寄らせるな。」


「えっ!?」


 犬が驚いた様だが好きにイメージを持っていけばどうにかなるだろう。それこそツクヨミでもモルペウスでも。そのものになるんじゃなくて、その人の力を借りるとでもイメージすればいいだろうし。


 話さない少女の前に立ち頭に手を乗せる。さて、ここで行き止まりなら今度はあのモンスターを力付くで倒す事になるだろうが、乗り越えるとか克服する事を考えるなら本人に動いてもらわないとな。


「深く深く、内へ内へ。見通す目は見え過ぎる。


 今は目を閉じ鼻を使え。そうすれば香るだろう?


 風が運ぶ懐かしい夕餉の香り。人の肌の温かさ。


 ここは夢である。君が抱えた悪夢の吹き溜まり。


 動き出すなら手を貸そう。目覚めを求めるなら手を引こう。


 暗闇にいるなら私がそこへ足を運ぼう。」


 殻に閉じこもったままなら最悪、分離して癒えるのを待つしかない。多分、そうしなければならない程に疲弊はしている。ただ、悪夢が残れば多分回復は遅い。心の傷が癒えて光にかざそうとも今度はその傷を見て思い出して舞い戻ってしまう。少しでも反応があればいいんだが・・・。


 最初の記憶・・・多分母の腕の中。

         男の声は聞こえず寒さがやけに染みる。

         ぼやけた世界はよくわからない。

         ただ、声は聞こえる。

         子守唄代わりのカチューシャ・・・。


 冷たい記憶・・・隙間風が寒い。

         どれくらいここにいるのか?

         腹が空きかじかむ指先は冷えている。

         過去に食べた料理はぼやけている。

         なんか赤い物だからボルシチかな?

    

 温かい記憶・・・友達と遊んでいる

         顔はぼやけて・・・、人の顔がない。

         多分すり減ってなくなったんだろう。

         登場する人はかなり曖昧な姿だ。

         ただ、誰かの手の温もりはあった。


 薄暗い記憶・・・多分ゲートの中。

         人数はいるようだが、判別出来ない。

         混ざって薄れたのか頭はあっても

         身体が分かれていない・・・。


 ここか!仲間が・・・、他の子供が死に自身も身体が爛れ助けを求めようとも押さえ付けられ、そこに瀕死のモンスターを無理矢理結合して更に増殖して、長引く苦痛と悲鳴で声も心もボロボロになったがまだ生きたいと願った。こうなる前の記憶は多分夢や希望があったのだろう、どこか笑っている様な感じさえある・・・。


「聞こえているか?私は助けに来た。辛くとも君が反応してくれなければとうしようもない。」


「・・・、だ・・・、れ・・・。」


「ファースト。クロエ=ファースト。」


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― 新着の感想 ―
[一言] 何故に喪黒コスのタイトルがセイル? このプロセスはある意味心療内科というか心療外科だよなぁ
[一言] 分からない言葉が多かったから神話に興味が湧いてきた バイト喋ってる!そして安定の無茶振り 助かって欲しいな
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