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街中ダンジョン  作者: フィノ


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364話 採寸する? 挿絵あり

「助ける・・・、日本の政治家として話すならいらぬ火種はけしたい。貴女や奥方の意見は個人としても人としても真っ当なものでしょう。困っている人を助けたい、怪我人を治したい、それが子供であるなら最善を尽くしたい。ですがね、世界は目に見えない壁で分かれて交流こそあれ、政治家でなくとも何となく一般市民レベルでその違いを感じている。」


「闇に葬りたいと?」


「出来ればそうなりますね。ロシアのスパイでしたか?それを動かそうにも不用意な接触なら怪しまれ、亡命させるにしてもスパイと言う立場が露見すればアチラからの批判は免れない。それを考えた上で助けるだけの根拠を提示できますか?私としては助けたとしてもラボないし、政府の管理下でゲート内生活をさせるのがいいと思いますが。」


 根拠か。まぁ、このまま死亡させて何もなかった事にしたいと言わないだけマシかな?助かればそれだけ松田としては国としての外交カードも増えるだろうし、公表と言う手を取ると言えばアチラとしても止めに来る。当然だろう、自国民を使っての秘密裏に行われた人体実験。しかも、献体を使うのではなく生きた人、それも子供を使って行われたと言う証拠。


 生きて証言されれば窮地に追いやられるのは明白で、最悪本気でこの子の命を取りに来る。戦乱の火種になり得る個人なら・・・、大元は他国民でその他国民を匿い自国を危険にさらすと言うなら、国を守る政治家としては切り捨てたいだろう。悩ましい。コレが日本人なら何も考えず真っ直ぐ進めるが、国が!国籍が!選べなかった生まれが違うだけで問題が山積みだ。


「生活環境は・・・、まだ助かると決まった訳ではないですが、私の方向としては助けたいと思います。誰がやった、何をしたかは別としてこれにはゲートが関わっている。」


「そうですか・・・、なら出来る限りその方向で動きましょう。助かれば助かったで外交カードは増えるし、やり方次第では牽制も黙らせる事もできる。人の命の重さを私は個人の地位や影響力と考えています。なら、助かり証言が出来こちら側として動いてくれるなら最大限の手助けをしましょう。」


「尽力感謝します。さて、一旦私達も様子を見に行きませょう。話してばかりいても肝心の人物が助からなければどうしようもない。」


「ええ、助からなかった際は政府としては静観の構えです。それだけは揺るがせない。」


「仕方ないでしょう。証言も何も固まらない、必要な情報は何1つ分からない。誰の願いかは別としてそれを願う方もいるのでしょうね。」


 そう話しながら会議室を出て医務室へ。すれ違う職員も何かを感じ取ったのかどこかざわついている様に思う。まぁ、ここに俺達が着いてから社長の高槻にしろ集まった人間にしろ空気が重苦しい。いつもならユーモアは大事と軽口も言えるが、今はそんな気分でもない。


 寧ろ、どうしようもない場合はイメージを固めて人を1人再誕させるなんて言う荒業を行わなければならないのだ。再誕ね、再誕。さて何からイメージしたものか・・・。子供を産むのとは多分違うんだよなぁ〜。摩耗したとは言え人格もあるし身体もある。つまり1個人の人格を残しつつ新たな身体を与え、それを受け入れてもらったうえで人間とする・・・。


 えっ!?それってほぼ神の御業じゃね?クローンを作るのとは訳が違う。子供を産むのとも違う。どちらかと言えばこれは永遠の命を与えて産み出す様なもの?人である以上死ぬ事もあるのだろうが、新たな身体を作ってもらって受け入れられるって、つまりは精神の乗せ換えが可能になると言う訳で・・・。


 う〜ん・・・、その前に先ずは精神からか?魔女達の話を総合すると精神が駄目になると肉体も引きずられるか、或いは精神的な死で肉塊と判定しているのかも。まぁ、モンスターを掃除出来ない時点で無用の長物と考えている可能性もあるが・・・。何より対話出来ないのが痛いな、炉に焚べるとか剥奪とかも言っていたから材料になるのだろうが、残り少ない精神から剥奪すると本人の人格ごと消える様な事も考えられる。


 なら、肉体から作る?何も全てを煙から賄わなくてもいい。人の体のお値段は?大人なら約合計5万7000円分の元素があればいいし、子供なら更に値段は下がる。ついでに言えば馬を使って作れば更にリーズナブルになるが、流石に馬人を作る訳にもいかないので元素から集める?いや・・・、それは元素配列を混ぜ込んで作る場合であって・・・。


 魔女め!人を炉とか色々言っていたけど鍋じゃないか!確かに最後に完成品が飛び出てくれば間違いはないのだろうが、どんな速度で肉体作ればいいって言うんだよ!モンスターを分離しつつ新たな肉と骨を作り、臓器を造形してまともに動く様に血液を循環させつつ精神を残して摩耗を元に戻す・・・。


 ヤベー、妻に格好良くもしもの時はって言ったけどそのもしもの時ってかなりヤバくない?取り敢えず、人体錬成の話とか見て必要元素を思い出す事はやっておこう。精神や魂を繋ぐのは21gの糸でいい。それは既に糸を出す時にイメージしたし、産むのも糸やアブサの経験がある。


 問題は本当にその先で、相手が無垢なる者では無い事か・・・。せめて相手が純粋であればいいのだろうが、仮にストリートチルドレンだとすると、生きる為にバリバリ悪事を働いていたギャングだった可能性もあるわけで・・・。いや、摩耗しているならそんな感情も残ってない?


「何やら考え込んでいますが問題でも?」


「いえ・・・、多分私的な事なので大丈夫です。」


 医務室に着いたので扉をノックする。多分そのまま入っても大丈夫なのだろうが状況が分からないからな。ノックに反応したのか中から扉が開き妻が招き入れてくれた。そこまで広い部屋ではないが、中には機材が持ち込まれ心電図や脳波なんかも取っている様だがほぼフラット。いよいよ生物学的には死んでいるという事か?一応、加納がロシア語で話しかけているが反応もないし・・・。


「どんな感じ?」


「どうもこうも・・・。ほとんど反応がない状態かしら?先生曰く神経がないから痛覚もないらしいし、波形もフラットのままなのよ・・・。ただ、時折歌うから生きてはいると思うけど・・・。先生もほとんどお手上げたって。」


 悲しそうに妻が言うが痛覚がないのはいい。下手に痛みを感じれば暴れ出す可能性もある。俺達で拘束出来ない事はないが、モンスターの力で暴れれば被害が出る。しかし、高槻もお手上げか・・・。何かしらの情報があればやりようもあるが、とっかかりもなければなぁ・・・。


「ふ〜む・・・、見れば見るほど鎧を着た白骨体ですね。高槻先生触っても大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。松田さんとしてはこの方をどうしたいと考えていますかな?医者として最善を尽くしますがかなり厳しい。もはや奇跡や魔法の領分だと私は考えていますがね。」


「私としては・・・、前程クロエ本部長と話しましたが、助かったなら日本国としてバックアップします。ただ、手の施しようがなく看取るしかないとするなら静観する他ないでしょう。私は医者でも魔法使いでもないのでそれ以外の方法を取れませんしね。」


「そうですか、ではクロエさんの意見としては?」


「何をするにしても先ずは材料を集めて下さい。人を構成する物質やら肉やらをね。名前や性別が分からない以上、歌から名をとってカチューシャとして性別は女性。年齢は職に就けない事から16歳未満。身長体重は平均値でいいでしょう。」


「どうにかするおつもりで?」


「生きるか死ぬか、まだ死んでいないなら死ぬまでは手を尽くしてみましょう。先生の言う様に魔法の領分だとするなら私の仕事になります。まぁ、かなり難しいので失敗したなら・・・、莉奈。先に言う。任せろと言ったけど初めてやる事だ必ずの成功はないし、手を尽くしても駄目かもしれない。このまま安らかに死ぬのではなく、さらなる異形に成り果てるかもしれない。それでも私は出来る事をやろうと思う。」


「分かったわ・・・、結果がどうであれ責めないよ。だから、貴方も変に背負わないでね。」


「・・・、分かってる。」


 さて、格好いい事を言ったけど精神ってどうやって見るの?或いは扱うの?椅子に座り一服。出来そうなのと言えば藤だけど、あくまで藤がやったのは橘の精神の一部を加工してフェムに渡しただけなので、摩耗したものを増やした訳では無い。それに、橘は喋れもすれば希望を伝える事も出来るが、目の前の異形はそれすら出来ないからなぁ・・・。


 高槻は材料を探しに行ったし、それを手伝うと加納も行った。松田はまだ異形を見ているが、それも進展がないと思ったか脇の資料を見ている。妻は横に座って何も言わないが、若干震える手で俺の手を握ってくる。


(ちょいとお二人さん。何かこう・・・、精神をどうにかするってどうすればいい?お前達は精神体とかもどうにか出来るんだろ?)


(君のイメージがないと指示も何も出来ないよ。ただ出来ると言うだけなら失敗する。だって経験もなければ成功に繋がるイメージもない。それは目隠ししながら満漢全席を作る様なものだよ。)


(大根を皿に乗せて満漢全席と言えばいいわ。有無を言わせず、全てを取り上げてしまってそれしか残さない。それなら残った大根は満漢全席でしかないし、見れない人からすればそれは立派な満漢全席。)


(いや、見えないけど精神が摩耗してるんだろ?壺とかみたいに修復したりとかさ・・・。)


(そうねぇ・・・、服を身体に合わせるのと、身体を服に合わせるの。どちらがお好みかしら?)


(それは・・・、どっちがマシなんだ?)


  挿絵(By みてみん)


 服を身体に合わせる・・・、着せ替えて合う物を探すなんて楽しみもあるだろうが、大きければ動きづらく下手すればコケてしまう。それに服に埋もれて本人が見えないなんて事も。


身体を服に合わせる・・・、大きな服でも成長すればピッタリになるなる事もあれば、少し大きいままの余白を残す事もある。しかし、小さければ窮屈で最悪服が裂ける。


 程々、最適、丁度いい。なんの判断材料もなければ目安が作れない。勝手に作っていいならそれでいいのだろうが、本人が本人と自己認識できなければその違和感は一生付きまとうのではないか?


(ならスパイスを入れるかブローチでも作りましょう?本人の残骸でね。)


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― 新着の感想 ―
[一言] ブローチ? 時間しかり人は認識出来ないものに干渉できないから精神も難しいだろうな
[一言] >本人の残骸でね 元の人間部分が本人の残骸なのか結合された部分まで含むのか 改造改良修復されたものは元のものと同一かってテセウスの船と言われる哲学的命題だな ワシントンの斧等とも言うな 今…
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