36話 航空機 挿絵有り
忙しくて遅れました。
しかし、AIで絵を書くのは楽しい
千代田と話していて、すっかり遅くなってしまった。配信の収益の話や、35階層まで行った時の箱の話。収益は全て遺族基金にでもしてくれと伝え、箱は数も中身も知らないので、追々橘含めて開けようという話になった。千代田は箱の話をした途端嫌そうな顔をしていたが、俺も何が出るか分からないびっくり箱は開けたくない。
しかし、薬や武器はあればあるだけいいので、開けない訳にもいかない。願わくば、おかしなものが出ませんように。後は、ゲート内で採取した植物を箱に詰めて渡したが、かなり量があり運ぶのが大変そうだった。白いふわふわした繭っぽい物は、後で取りに来ると言って返された。昼食の時間も過ぎてしまったので、適当にタバコを吸って午後の準備をする為に、着替ようとした時に部屋の扉がノックされた。ここに来ると言う事は宮藤かな?
「どうぞ、いいですよ。」
「お邪魔します、午前はランニングとビデオ鑑賞で終わりましたが、午後はどうします?」
「そうですね・・・。15層まで行ってない方は、どれくらいいます?」
「約半数ですね。治癒師や他の戦闘に不向きだと、考えられる職の方は軒並5層です。」
約半数か、15層だと小骨や鉄球がいるな・・・。ここは1つ宮藤に任せてみるか。彼も負傷したものの小骨は倒した。赤峰も指を駄目にされたが、経験はあるし戦ったら多分勝てる。卓と雄二はコンビなら問題ない。兵藤はお留守番になるが、リーダー2人、1班最高15名で組めば、そこまで被害は出ないと思う。問題なのは、いつ帰ってこれるかという事だけ・・・。
本当にそろそろ各層の広さが知りたいが、ソーツも把握してない拡張空間。レーダーとかは使えると思うが、そもそも設備がない。しかし、配信が出来たと言う事は電波は届く。潜ってどこまで届くか分からないのが痛い。
ネット動画は軒並録画配信でライブの物は少し、あっても階層が浅い、5層以降のライブ配信は見た事がない。まぁ、5層より先でライブ配信なんかやったらかなり危ない。前に見たパルクール動画も録画だったし。
「宮藤さん。5層までスキップして15階層まで行くのに、どれくらいかかると思います?私としては、20階層辺りを練習場所にしたい。その足がかりとしての15層。どうです?」
「10階層潜るとして、各層のゲート配置場所が分からないのが痛いですね、最短距離が辿れない。軽く見積もっても5日、休み無しで、薬を飲んで眠気等を排除しても、それくらいはかかります。」
宮藤の見積もりで5日、さてどうしよう。後追いが出来ないというのが痛い。出来るなら何らかの方法で追いつけるが、ゲートに入ると稀にしか誰かに会えない。確率だけを考えるとそれこそ、星を掴むようなものだ。
ん~、橘なら何かわかるかもしれない。彼はゲートその物を鑑定している。見舞いに行った当初は頭がハッキリしていなかったし、その次は中位に至ってグロッキー。しかし、時間も経ったし、なにか思い出しているかもしれない。
「宮藤さん。采配は任せますが、4〜5層マラソンでどうでしょう?あの辺りならザコがそれなりに出て、怪我をしても退出しやすい。それ以降に行きたい方は自己責任です。一応、これを渡しておきます。緊急退出アイテムです。」
2個貰った脱出アイテム、活用するならここだろう。チャージ式で規模で人数が変わるが、小さい怪我なら薬で回復出来る。しかし、それは最後の手段として治癒師の訓練もしたい。ギリギリを見誤った場合の保険を考えると、2個とも渡して使ってもらう方がいい。それに、何人まで運べるかの検証としても使いやすい。
「使い方は?」
「手に持って退出と考えて下さい。入ったゲート付近に出ます。運べる人数が分からないので、最後に検証してください。一応、どの階層からも脱出可能なはずです。」
「もう何個か有りますか?あるなら先に行きやすいんですが。」
玉を指輪に収納しながら聞いてくる宮藤の目は、先を見据えているように見える。強くなりたい、先に行きたいそんな思いがあるのだろう。多分、宮藤も5層までしか潜っていない。その先に行ったのは、知っているだけだと兵藤や、あの時の自衛官、他は海外の配信者達。
秋葉原が悔やまれる。スタートは一緒だったが、刈り取るには早すぎる芽を刈り取られたツケが、今更の様に回ってくる。しかし、泣き言は言ってられない。まだ、半月だ。たった半月で、そこまで差を着けられた訳では無い。宮藤にしろ赤峰にしろ、実力だけなら15層まで行ける。なら、まだ芽は枯れていない。
「残念ながら、2つのみです。他は箱から出るのを祈るしか・・・。チャージ式なので、使用回数等は気にしないでください。宮藤さんから見て戦力が厳しいと思うなら、行かせるのはなしです。」
「分かりました、先に行くメンバーがいた場合は貸し出します。クロエさんは見守りですか?」
「いえ、やる事があります。兵藤さんを残してください。後、望田さんは必ず連れて行ってください。彼女は近すぎてどうも守ってしまう。それでは成長出来ませんから。」
彼女はかなり俺に近い位置にいる。その為、過保護になりやすい。ここは、目の届かない所に置いて、自身の強さを持ってもらおう。心配だし、行かせるのは怖いけど・・・、うん。このままでは取り止めそうだ。妻からも言われた事がある。無頓着なのに、執着すると凄いと。・・・、あれ?俺は望田に執着してる?ん~、友人としては認めてるし、この身体になってからは、初めての異性の友人だから仕方ないか。
「なら、午後から自衛隊に搬送を要請して、ゲートに行ってきます。準備中に各人用意はできるでしょう。兵藤さんはここに呼びますね。」
「それでお願いします。」
宮藤が退出して、キセルでプカリ。スマホを取り出して橘に連絡する。数度のコール音の後に出たが、声からは元気がない。多分、馬車馬の様に鑑定させられているのだろう。そろそろ橘の頭皮問題が深刻化しそうだ、育毛剤とか送った方がいいのかも知れない。
「もしもし、大丈夫ですか?」
「・・・、ゲートの薬は偉大です。ここ数日寝てない・・・。どうしました?」
「その、ゲート構造の事で聞きたいのですか、今大丈夫ですか?」
「もちろん!貴女からの電話なら休みの名目になります。みんな!休憩だー!」
電話越しに雄叫びが聞こえる・・・。公務員は基本的に残業代が出ない。流石にこの激務なら、なんちゃら手当ぐらいあると思うが、出た所で使えるのだろうか?鑑定術師がアイテム使って大暴れとか考えたくもない。後で千代田に連絡でもして、職場環境改善を進言しよう。
「それで、どんなことが聞きたいんです?」
「ゲートに入った人間を後追い出来ないかと。講習で全員ゲートに入るにしても、後追いができないのは厳しい。」
まとまって入るすべはある。仲良く手を繋いで入れば事足りる。しかし、問題なのは後追いができないし、あの広いゲート内各階層で、互いの位置が分からないのも困る。稀に遭遇出来るのだから、多分階層は単一フィールドだとは思う。魔女も俺が仕切りを付けたと言っていたから、本来は階層さえ分かれず、ひたすら中を歩き回る様な構造だったんだろう。
「クロエ。ゲートに入る際、手を繋ぐと同じ所に出る。これはいいですね?」
「それはまぁ、何度もやってます。」
「なら、次の階層に進む時手を繋がないと、どうなると思います?」
ふむ、それは何度がやったが同じメンバーの所に出た。どの階層でも一緒で、最初さえ手を繋げば後は大丈夫だった。しかし、退出はみんな一緒に出てばかりで、1人で出て後から入った事はない・・・、まさか!
「パーティー登録されると?最初に一緒にさえ入れば、途中で抜けても後で追える?」
「認識は合っています。モンスターの個体管理がクリスタルであるように、我々の管理は指輪です。接触して入る事で指輪内の異空間が引かれ合い、そこからパスができます。」
俺はソーツに人の在り方をコピーして渡した、そこから考えたのだろう。掃除を効率的にやらせるには、どうするといいか?悪意のない効率化。その先で考えたのは、同胞が残れば、何時か迎えに来るという単純な考え。多分、彼等もそうなのだろう。総量と言っていいか分からないが、群体なら減れば効率が落ちる。なら、仲間を取りこぼさないだろう。
「離れられる範囲は分かりますか?」
「指輪の鑑定結果だと、概ねゲートから4km以内なら問題有りません。」
橘がまた無茶してるような気がするが、倒れたとは聞いていないので大丈夫なのだろう。4km以内、それはゲートから退出出来る最長距離。つまり、ゲートから4km以内は同一空間という認識で多分いいのだろう。
と、言う事はその範囲内なら、電波もどうにかなる?そうなれば、目印はないが連絡手段はかなり改善される。何なら、各人に打ち上げ花火でも持たせれば、遠くにいてもかなりわかりやすい。薄暗いせいで、狼煙とは行かないが有用性は高いだろう。
「分かりました、ありがとうございます。このお礼はいずれ。」
「では無く、今ください。」
珍しく橘が何かを寄越せと言ってきた。しかし、送るにしてもUber Eats?だったか。デリピザとか送ればいいのだろうか?流石に酒は送ったら怒られるだろうし、夏ももうすぐ、暑いのでアイスとかいいかもしれない。
「分かりました、アイスとか送りますね?」
「クロエ、それはいりません。ここには私の他にも男女3名の鑑定持ちがいます。4人・・・、たった4人で来る日も来る日も鑑定、鑑定、物次第では胃が痛くなっても鑑定。聞きます?有機物分解エネルギー銃の話とか?完全犯罪待ったなしですよ・・・。女性が誤って発射して、バナナが消失とかね・・・ははっ!」
おぉ・・・、病んでらっしゃる。事態はかなり深刻なようだ。しかし、鑑定職4人か。国もかなり頑張って掻き集めたんだろうな。出る確率は低いし、出ても選ぶとは限らない。そんな人材を4人確保。探せばまだ、いるかも知れないが協力してくれるとも限らない。何なら、今の状況を聞くと協力したくない。缶詰で薬飲みながら仕事とか、ほぼ奴隷だろそれ?
「取り敢えず、何がいいんです?」
「・・・、・・・、・・・、話し合いの結果。激励してほしいそうです。」
激励?応援すればいいのか?それでいいならいいが、それで大丈夫なのだろうか?まぁ、やれと言われれば吝かではない。彼等も頑張っているのだ、ここは1つ。懐かしの名台詞を。
「頑張れー、負けるなー、ちっからーの限り生きてやれ!」
「嬉しいですが違います。チアコスでポンポン持った感じがいいそうです。まぁ、衣装もないでしょうが、ポンポンだけでも・・・。」
「クロエ、貴女は持ってるはずですよ?」
帰ってきた千代田が、兵藤と共に入口に立っていた。俺はそんなもん持って・・・、有志服?あのコスプレまがいの服の中にあると?いや、千代田なんで今さらそれを言った?いやまて、まだ橘に聞こえたとは限らない。
「あるんですね?なら、お願いします。じゃないと鑑定師がストライキ起こします。もしくは暴走?」
「まて!それは卑怯だろ!」
「えーと、どんな状況ですか?」
「さぁ?」
千代田め!なにが「さぁ?」だ!仕返しか、箱の話の仕返しか!?兵藤もいるし、こんな所でコスプレなんてしたかない。しかし、鑑定師の暴走とか考えたくもない、くそ!死な安じゃなくて、恥安じゃないか!クソ!
「千代田さん、鑑定師達の職場環境改善を、至急お願いします。・・・、兵藤さん、これからの事を見たら、私のお願いを蹴れませんが見ますか?」
「・・・、見なくても蹴れないでしょう?見ますよ。」
「分かりました、着替えるので出てください。橘さん・・・、後でテレビ電話します。」
今度からホテルに衣装は置いてこよう。指輪を整理してなかったツケか・・・。まぁ、恥安だよな・・・。モンスターじゃなくて、人間が引金を引いた滅亡とか考えたくもない。シュルシュルと服を脱いで着替えて、ポンポンも持った。腹が見えるが、まぁそこは大丈夫だろう。さて、腹を括ってテレビ電話は繋いだ。
「どうぞ・・・。」
「失礼し・・・、フフ。」
「・・・、頼まれてるんで写真撮りますね。」
「まて!誰に頼まれた!」
兵藤は部下に頼まれたと写真を撮るし、千代田も娘さん用と写真と動画を撮る。スマホの画面には見知らぬ男女と橘。見知らぬやつならまだいい、一期一会だ。しかし、知ってるコイツラは嫌だ。後で必ず仕返しをしよう。必ず。
「では、お願いします。」
「がんばれ♥がんばれ♥ゲート行こっ♥」
「ありがとうございます。これでみんなやる気が出ました。では!」
橘はすぐさま電話を切りやがった。千代田と兵藤はスマホを構えたまま。顔を背け、口元を隠して震えている。このやろぅ、笑ってやがるな?声がなくても分かる。笑ってやがるな?腹が立ったので、ポンポンをペイっと地面に投げつける。落ち着け、復讐するなら冷静で無いと効果がない。
「取り敢えず2人共、撮影を止めなさい。」
「はい。」
「分かりました。」
2人とも、ニヤニヤしながらスマホを下ろす。よかろう。その挑戦受けて立とうではないか。相当な無茶を振ってやろう。
「兵藤、お願いを蹴れないと言いましたね?明後日の朝までに戦闘ヘリ10機手配してください。」
「は?」
「駐屯地にあるものなら、手配できるのでしょ?やりなさい。
千代田、即刻その撮影したものをネットに上げなさい。これで取引材料にはできないでしょう?それと、米国から来るのはちゃんと軍に在籍して大尉以上の者。前に出した条件に追加です。それと、橘さんに35階層までの箱を即刻送って、最速で鑑定させなさい。私からのプレゼントだとして。」
「な!?」
横暴?違う、これは正当な権利と必用な処置による行動。やるからには只では転ばぬよ。まぁ、本当にこんなアホなもので脅されるのも嫌だし、ネットに上げれば基金も増える。それに、希望的観測だがゲートに入る人が増えて、変に崇められないといいな・・・。前に巫女とか言われたし。
注目されるのも騒がれるのも、ある程度は慣れたけど流石に避けられるのは寂しい。35階層までの動画が上がっているなら、少なからず怖がる人はいる。なら、多少は道化を演じて、親しみやすさを出すのも多分必要だろうな。家族に、見られたら必ず笑われる未来があるが、その未来は未来の自分にどうにかしてもらおう。
「聞こえませんでしたか?特別特定害獣対策本部 本部長として発言します。・・・、オーダーだ、やれ。即刻やれ。」
一度2人を退出させて着替えた後呼び戻し、千代田には目の前で動画をアップさせた。終始渋い顔をしながらスマホを操作していたが、どこから上げるかの質問が来たので、上げる部分は応援している所だけとの条件でアップ完了。箱については今回の運転手がスィーパーなので、そちらの人員に千代田の前で箱に数を書いて目印を付けて渡した。流石に35層付近の箱に、何が入っているかは分からない。
先程の橘の話だと5〜15階層付近でも、危ない代物が出るようだし、用心するに越したことはない。千代田はそのまま橘の所に寄って、打ち合わせに行くと言って立ち去り、残されたのは俺と兵藤。さて、ヘリを10機ほど貰おうか。
「その、何に使うんですか?」
「ゲート内で飛ばします。政府からの要請でタグだけでも見つからないかと・・・。地形を考えると、空からの捜索は有効でしょう。問題は防御面ですが、今回は講習の人員がいます。後追いの道筋も見えてきたので、補給にしろ救護にしろ制約はありますが、やらない事には始まらない。」
兵藤も俺も飛べる。いずれ飛べる人間が増えたとしても、空の有用性は揺るがない。問題は高度がどこまで出せるかだが、それは俺か兵藤が飛んで確認すればいい。できる事、できない事、これから出来るようになる事。色々あるが、これはまず一歩だ。
兵藤に連れてこられたのは駐屯地司令室。平たく言うとこの駐屯地のボス部屋。兵藤がノックをして先に中に入り、程なくして声がかかったので部屋に入る。中には星2つ、陸将補がいた。
「お初にお目にかかります黒江 司さん。いや、黒江士長とお呼びした方がいいですか?」
「ふむ、どの名も受け付けませんね。クロエ=ファースト。今はこの名です。一般市民に対して階級を持ち出すとは、自衛隊病がお進みのようだ。」
たまに自衛隊にいる輩。一般の兵でもなりやすくガチガチの階級社会、しかも防衛大学校からストレートで家系も自衛隊だと更に倍率ドン。まぁ、自衛隊以外にもいるのだが、部下を顎で使っていると、その他もそう使えるという思い込み病。会社と外では区別が付かなくなるあれ。この人もそうなのだろうか?兵藤は立場上彼の肩を持つだろう。
「まさか、あなたがそう望むなら、ファーストさんと呼びましょう。それで、お話とは?」
「戦闘ヘリ10機の借用。特別特定害獣対策本部長として要請します。」
にこやかだが、印象は良くない。そもそも、名前知らないし。待たされたという事は話は通っているはずだ。それをわざわざ掘り返す意味もないし、時間も惜しい。見限る云々は後にして、要請が通らないなら他に行くか。
「いきなりですね、それを出すメリットはありますか?我々も遊んでいるわけではない。何かしらの利がないと、そうそう武器を貸し出すのは・・・。」
「分かりました、自衛隊は今後ゲートに関わる気がないという認識でよろしいですね?」
誰とも知らぬ陸将補の肩がピクリと震えた。事この期に及んでメリット?冗談ではない。彼の言うメリットが何なのかは分からないが、国防を旨とする組織が今それを語るのか。まだ現場の兵卒の方がモノを見ている。
兵藤も嫌そうな顔をしているし、引き時か。踵を返し扉に向かう。一応これでも公務員、かなり上のクラスの階級も貰ってるし、ゲートに対する発言権もある。なら、内閣経由でもそもそも、陸自だけでなく空自にも要請できるわけで・・・。
「まっ、待って頂きたい。交渉の余地は?」
「交渉?こちらは欲しい物を提示しましたよ?そちらは何を提示しましたか?メリット=誠意の様な交渉では蹴るしかないでしょう?先に言いますが、階級は意味がありませんよ?見た目が小娘だからと、侮らないで頂きたい。」
「・・・、こちらとしては、ゲート内で部隊活動及び、自衛隊の有用性を確保したいと考えています。」
「有用性?」
秋葉原を見なかったのだろうか?誰も彼も戦った。そこに優劣はなかったし、全力だった。利権・・・、と考えるにはなにか違う。自衛隊を辞めて長いし、そもそも下っ端で幹部の考えなんてわからない。有用性も何も普通に仕事してくれればそれでいい。組織としても大きいし、そもそも一般人と違って・・・。
「・・・、航空兵器をゲート内で運用するなら、貴方がたしかいないでしょう?兵藤さんからは、今回の件を聞いていないのですか?」
いらん。組織のしがらみとか面倒だ。陸海空、この場合1番割食うのは海だよな・・・。ゲート内には海はないし、空は今回は頑張ればヘリが使える。陸はまぁ、考えずとも戦える。そもそも、陸海空仲悪いのは幻想で区分わけがある分逆に関わりは希薄だし、陸自の武器を海自や空自が運ぶなんてこともある。上になれば派閥とかあるのかも知れないが、少なくとも現場・・・、ヒラからは仲の悪さなんて感じなかった。なら、なにに対しての有用性?
「聞いていますが、それで我々の優位性は保てると思いますか?・・・、いえ、今はこの話はいいでしょう。失礼しました。ヘリについては整備もあります。明日グラウンドに配備出来るようにしましょう。」
「分かりました、お願いします。」
部屋を出る。なにか釈然としないが、借りる事は出来た。取り敢えず、これでゲート内での航空兵器運用試験ができる。後は後追いの検証だが、これも橘と話した感じ大丈夫だろう。横を歩く兵藤を見上げると、どうも顔色が悪い。
先程の会話が彼の胃を痛めたのかもしれないが、本人が話さないからには、踏み込まない方がいいのかもしれない。さて、ある程度目処は立ったし、時間も15時とそこそこ残っている。
「兵藤さん、たまには模擬戦でもしますか?他の方はゲートマラソンしてますし。」
「えっ、いいですけど・・・、手加減してくださいよ?」
そうしてグラウンドにて対峙する。兵藤は迷彩服に半長靴と、陸自らしい格好。俺はそのまま女教師っぽい格好。さて、助言役とは言うけれど、これはどの方向に進むのか?キセル吸ってプカリと煙を撒く。
「水よ穿て、嵐のように!」
おいおい、それ殺しに来てるやつじゃん!距離は関係ないし数も関係ない。兵藤の魔法のイメージはかなり固まっていると思う。横殴りの水弾かと思ったら、全周囲からの水の槍。
「ふわりと雲に、飲まれると、たちまち、夕立降ってくる。」
煙で巻いて水を地面に流すが、これはまだ兵藤のフィールドだな。って、ボードなしで足の裏から水を出して飛んでらっしゃる。何なら水を撒いているせいで、彼のイメージはどんどん増幅されていく。
「クロエ、貴女近接戦闘経験ありませんよね?」
言いながら左足で蹴り上げて来るが、それウォーターカッター!切れるから、俺じゃなくて周りが!被害が!いや・・・、兵藤がするならいいのか?これくらい。
「乾きなさい?枯れなさい?貴方が触れるは砂漠。ほら、捕まえた、さてさて、ボールは投げて飛ばして撃ち落とす。」
危ないウォーターカッターをぬかるみごと蒸発させて砂にする、そして右足を砂の手で捕まえ、兵藤を投げ飛ばして、そのまま腕もロケットパンチよろしく発射。しかし、彼は飛べる。
空で姿勢を整えて飛ばした腕を、水で固めて蹴り壊してしまった。道理だな。砂なら水で固まり、簡単に崩れる。そして、彼は空から水を降らせる。これも道理。水は高きから低きへ流れる。
「潰せ潰せ!軽くはない!これは命刈り取る水壁よ!」
兵藤ハッスルし過ぎ!ゲート内ならいいが、流石にやばくない?仕方ないか、水は火よりも辺りに広がりやすいんだよな・・・。
「兵藤さん、続きはゲート内でしましょう、ここは狭い。・・・、揺蕩う煙は霧のよう、夏に見えるは蜃気楼、あらあら、それは本物かしら?」
兵藤の極太ウォーターハンマー。いや、あれは津波の再現か。それを煙で飲み込み有から無へ変えて行く。後に残るのは夏の蒸し暑さ。蜃気楼が見えるほどの暑さだ、気分はスチームサウナに入ったようなもの。
「すいません、つい嬉しくて。」
「嬉しいですか?」
「ええ。なんだかんだで、貴女は目標なんですよ。今日ゲートの攻略見て引いてる方も居ましたが、でも、出来るならああなりたいというね。」




