354話 ドキッとする1言 挿絵あり
望田を残し先に大分へ。たまの休みくらいゆっくり羽を伸ばしてくれればいいな。別に休みがないわけではないが、離れに住んでいる関係上誰かがその前を通る。中は見えない様にカーテンをしているが、パーソナルスペースを考えた時にどうしても人がウロウロしていると感じても仕方ない。
慣れの問題だし普通に母屋にも来るので、そこまで気にしていないかもしれないがその気持ちは本人しか分からない。まぁ、見た感じ結構満喫している様ではあるが・・・。
「ただいま〜、お土産買ってきたよ〜。」
「おかえりなさーい。結婚式はどうだった?」
「おかえりなぁ〜。」
昼頃の帰宅だったが妻が出迎えてくれてキスを交わす。フェリエットは縁側で日向ぼっこしているのか寝転がったままだが、尻尾だけはパタパタ動いている。向こうで買い込んだお土産を出しつつ結婚式の引き出物なんかを広げてみるが、流石に2人がプリントされた皿はなしか。昔は定番だったが今の時代はほとんどなく、代わりにカタログギフトが主流。
放置して頼み忘れる事もあるが、その辺りは妻がマメなのでパラパラとめくって特段欲しい物がなければ、そのまま妻の欲しい日用品コース。別の人の結婚式に出た時はミキサーとか貰ったかな。ただ、指輪があればある程度かさばる物も引き出物に出来るので、これからはまた何か変わった物が引き出物になるかも。
「テレビでも放送されてたけどドレス似合ってたわよ〜。」
「俺じゃなくで新郎新婦を・・・、式も披露宴も撮影はなしか。ロビー映像と、2人の姿は流れた?」
「芸能人の結婚って訳じゃないから放送はなかったけど、米国の方は盛り上がってたわよ?向こうでも救国の英雄結婚って明るい話題で持ちきりみたい。」
「確かに大統領からの祝電とか来てたしなぁ。米国スタンピードで活躍もしたから、あちらとしてもお祝いしないといけないんだろう。まぁ、それを抜きにしてもあの人の性格だと下手したら押しかけてきてもおかしくないし。」
「若くなったジョージさんって押しが強いタイプなのね。そう言えば結構お腹目立ってたわね新婦さん。」
「井口さんは今だと6ヶ月くらいかな?順調に行けば10月頃に産まれる予定。なんだか俺達の結婚式を思い出して懐かしい気分になった。」
「ふふっ・・・。確かに似ているシチュエーションよね〜。結婚する、挨拶はしてるけど正式に改めて結婚の挨拶するって言う時に遥がお腹にいる事わかったしね。」
「あれはなぁ〜・・・。」
向こうの両親にも付き合っていると報告してウチの両親も知っていて、俺の気持ちを妻の両親から聞かれた時に結婚するとは答えた。ただ、その解答をしたのがたまたま妻の実家に行った時だったので、後日正式にその申し入れをすると言う時に遥の妊娠が発覚。
おめでたい話で悪い事ではなかったのだが・・・。まぁ、妻に婚約申し入れ後の事なので責任も取るつもりだったし、常々妻には結婚すると言っていた中での出来事だったが若干順序が逆になってしまった。それでも結婚式も挙げたし新婚旅行にも行ったなぁ~。
「赤峰さん達は新婚旅行行くのかしら?本部長の仕事って大変だけど。」
「国内を何県か旅するそうだ。海外は流石に視野に入れてなかったし、沖縄とか北海道にでも行くんじゃないかな?」
「いいわねえ、私達も久々に旅行とか行きたいなぁ〜。」
「東京ならぼちぼち行ってるけど他の県となると中々な。そう言えばフェリエットって何料金になるんだろう?」
獣人を飛行機では見なかったし、外見で判断するなら同年齢でも大人と子供ほど体格差もある。獣人一定料金とかにすると何かとうるさそうだし、かと言って小柄だから子供料金としたらそれはそれで文句が出そう。いや、獣人の時点でギルドとしては成人扱いしているので、その流れが一般化してしまえば成人料金かな?
進む世界では外見で物を言うとかなり手痛いしっぺ返しを貰うかも。若返りがあると言う事は極端な話、子供にも戻れるし夏目なんかは中学生くらいの体型にも成れた。つまり、外見小学生実年齢数百歳と言うガチロリババは爆誕する訳で・・・。その筆頭は俺なのか・・・。ま、まぁ?今は体型問題!
飼い主が夫婦で犬猫を飼っていると言うのはよくある話で、特に可愛いペットの子孫をまたペットにしたいなんて言う人もいる。なので薬を両方に飲ませるなんて事もあるのだが、その中で極端な体格差の夫婦が誕生したりする。
ウチも人の事をあまり言えないが、本人達がそれでよければいいのかな?ただ、獣人同士で繁殖したら・・・。いや、したらと言うか夫婦だから子供も出来るのだが出生届とかどうするんだろう?その辺りは松田と言うか政府が決めるからいいか。
「大人料金でいいんじゃないかしら?そう言えば那由多が何か話があるって言ってたわよ?しょうらいの方向性を決めたんじゃないかしら、この前進路調査票も貰っても来てたし。」
「進路か・・・。学生の時『この紙一枚で決まるのか。』ってなんかをしみじみ思ったのを思い出すな。」
「転職も出来るんだけど何だか就職選ぶと、そのままその会社に骨を埋める気持ちになるのよね。まぁ、私は結婚したかったから寿退社って事も頭にあったけど。」
「俺は取り敢えず貯金だったかなぁ〜。親から良く『お金がないのは首から下がないのと一緒』って口酸っぱく言われて漠然と貯金してた。実際それで転職とかも余裕持って出来たし。」
「それで結婚式のお金とかは『俺が全部出す。』って言って本当に出しちゃったのよね。自衛隊の時の退職金とかその後勤めた会社のお金とかで。」
「趣味がないわけじゃないけどギャンブルしないからね。パチンコ屋とかに行ったけど、うるさくて頭痛くなってやるのも液晶眺めながらレバーひねるだけで面白さが分からなかった。」
「それでいいわよ。凝り性だからハマると財産溶かしかねないし。そう言えば東京図書館には行けたの?行きたいって言ってたけど。」
「いや、時間なくて行ってない。ただ、神保町で古本屋巡りはしたよ。なかなか面白そうな本が多くてそこそこ買った。」
「貴方のそこそこって数十冊単位でしょ?指輪があるからって買いすぎないでよね?前は買った本を実家に送ったりしてたし。お義父さんとお義母さんからも送ってくるなって怒られてたでしょう?」
「ゔっ・・・。この前もLINEで本回収しろって送られてきたな・・・。まぁ、たまには顔見せろって事だろうけど今年はどうしよう?精霊流しとか見に行ってもいいけど・・・。」
「まぁ、その時それは考えましょ。そう言えばエステ券いつ使う?期限はまだあるけど。」
「お互い休みが合えば行こうか。」
そんな話をしていると息子が帰ってきた。妻はそれを見計らい夕食の支度を始め、フェリエットはバイトが散歩に行くと言うのでそれについて行った。ただ、フェリエットは割とナンパされるが大丈夫だろうか?獣人同士でハグするのは挨拶のようなモノらしいが、嫌いな人は極端に遠ざけるから大丈夫かな?
帰った息子は一旦部屋に荷物を置いて着替え居間に。手荷物1枚のプリントは多分進路調査票かな?東京に行く前にもらった様だがようやく決心がついたとか?まぁ、息子の人生だ。ここでどちらを選ぼうとも応援しよう。
「父さん・・・。責任ってどうやって取ればいい?」
「・・・、何のどれに対しての責任か正確に言わないと判断できん。」
「その・・・。」
「タバコ吸うからついてこい。」
何やら責任を取りたいらしいが千尋ちゃんの件かな?若いし興味があるのは分かるが、するならちゃんとあるものを使いなさい。いきなり責任の話をするって、もしかしてもうお腹に子供がいるとか?いやいや・・・、そうなれば一旦息子を佐伯さんの前でボコボコにした上で結婚のお願いを・・・。いや、その前に病院か?せめて高校卒業資格までは取らせてあげたいし、今が6月として来年4月の卒業・・・。ぎりぎり自由登校の時に出産?
悪阻が出だすのって確か妊娠して2〜3ヶ月くらいで、妙に気持ち悪くて調べたらって言うケースが多い。なら、時期的にはそうなるな。大きなお腹を抱えて登校すればそれだけで周りからは好奇の目で見られるし、母体にはそのストレスは悪い。
しかし、この前BBQした時は普通に飲み食いしてたし・・・。回復薬か!アレを飲めば悪阻も大丈夫だと井口や赤峰が言っていた。つまり、体調悪い→回復薬→なんかまだ悪くなった→回復薬→なんか同じ感じで悪いから調べよ〜→妊娠発覚!とか?それなら妊娠して既に6ヶ月とかもあり得る?いや、カラオケで会った時はお腹はぺったんこだったが・・・。
と、取り敢えずまずは息子を信じて話を聞こう。あまり息子の前で吸う機会はないが、こう言う時に自然に連れ出せるのはいい。多分、妻にも聞こえてなかっただろうし。
「そのな、俺と千尋は付き合ってる。」
「それは知ってる。」
「責任ってのは結婚とかの話なんだけど・・・。」
「妊娠させたなら今すぐ佐伯さん所に行くぞ。事実を隠しても何も始まらない。高校3年生で卒業資格の話もある。休学させるにしてもダブればそれだけ話も広まるし・・・。」
「は?いや、妊娠って話が飛びすぎだ!俺が言う責任ってのは卒業して結婚するにしても、一緒に住む所とか結婚式の費用が出せないから、その責任をどうしようって話だ!結納金も安くないだろ!」
「おっ、おう!そうだな。学生だから貯金のちょの字もないしな。そうか、結婚費用や独立費用の話か・・・。う〜ん・・・、ウチに住むか?気にしてるのは夜の音とかだとは思うが・・・。」
「生々しく言わないで欲しいけど・・・。まぁ、新婚なら2人で住みたいし、一度は一人暮らししろって父さんも昔言ってたろ?」
「そうだな・・・。一人暮らしすると生活費やら食費、親がやってくれてた事でどれだけ助かってたかなんかがよく分かる。いくら目算でこれくらいだろうって思っても、現実を話すならそこから車買ったり就職先で何かの資格を取ったりすれば更に出費はかさむしな。それで、お前は就職って路線でいいんだな?」
「あぁ、色々考えたけどギルドの鍛冶師を目指そうかと思う。来年募集があればそれに申し込むし、なければスィーパーとして働きつつ露店や今の師匠の所で修行しようかと思ってる。」
「ふむ・・・。民間からのギルド職員枠は確定である。少なくとも今年の夏休み前迄には各教育機関に通達が行く。今父さんが言えるのはそれしかない。それ以上言うのは不平等になるからな。」
「分かった。共働きなら安いアパートとか借りれるかな?」
「一緒に住みたいのは分かるが・・・、金銭面はスィーパーとしてゲートに入れば早期解決はできる。ただ、そこには危険もあるから安全性を取るなら、就職して半年を目処にすれば、暮らすだけならそこそこ余裕は出来る。共働きだろう?目算で行けばそれくらいかな?」
「母さんって専業だったよな?今は違うけど。」
「母さんが専業なのは俺が望んで母さんが受け入れたから。お前がそれを望んでも千尋ちゃんが受け入れるかは知らん。それは私じゃなくて千尋ちゃんと話し合いなさい。そもそもな、責任の話の内容は私じゃなくて千尋ちゃんとするべきモノだ。同居も結婚式も1人じゃ挙げられない。相手を大切に思うなら思うほど、相手にしっかりと考えを伝えてどうしたいのか、2人でどうありたいのかを話し合ってだな・・・。」
「卒業後結婚する。その話はちゃんとしたし、千尋もその話は納得した。ただ、俺が言うのもなんだけど貯金も無くて就職もしてない。結婚するって言葉は確かに素敵なものなんだけど、それの意味が重くて。」
息子が大人になった。まだ若いけど、話した内容は責任に向き合うにはどうしたらいいかと言うものか。うん。ならやはり相手と話せしかないな。
「その点も踏まえて千尋ちゃんと話せ。それが一番円滑な解決法だ。仮にお前1人で働いて金貯めてってして行くうちに千尋ちゃんと会わない時間が増えれば本末転倒だろう?何か目標に立てるなら2人で共有して同じ方向を向く。それが出来て初めて夫婦だ。」
「そうか・・・。分かった、また千尋と話し合ってみるよ。」




