351話 アテが外れた 挿絵あり
更に2日。全員で4方に別れてモンスターを探すが結果はよろしくない。と、謂うのも何時もなら呼んでなくてもうじゃうじゃ湧いてくるモンスターが全く姿を見せず買い込んできた食料にまだ余裕はあるものの今度は時間が押している。既に1週間ゲート内に滞在しているので外の人間からすれば心配だろう。
一応、51階層セーフスペースに簡易電波塔は設置しているのだが、電波の状況はすこぶる悪く通信出来ない事はないが約1〜半日遅れで単文の通信が出来る。こちらは捜索と送りアチラは帰還と返してくるので早う帰って来いと言う事だろう。
実際成果自体はガーディアンの破片を見つけたのでそれでもいいかな?階層をくまなく探すと言うのはかなり無理があるし、いるかもしれないモンスターがどう言った形状のものかも分からない。クリスタルが残っているなら来た時点でボロボロで活動停止して消えた可能性もあるしなぁ〜・・・。
「モンスターがいねぇ・・・。やっぱり交渉材料を簡単にくれるほど甘くはないか。」
(過去を読み解こくとも出来ないしね。あったかも知れない、いたかも知れない。希望とは不確定なモノをオブラートに包んだ飴玉だろう?)
「甘露を欲して彷徨って、含んでみれば味はなしか。確かに希望はあったけど含んだら消えてしまったな。捜索する努力はしてもそれが実るとは限らないし・・・。」
残念な事に努力は基本報われない。いつかは役に立つかもしれないが、その何時かは永遠に来ない方が多い。まぁ、学生なら勉強すれば試験ではいい点とれるよ?ただ、努力しても他の人に負ける事の方が多いけど。
学校で何を主として学ぶのか?或いはなんでテストでいい点を取ろうとするのか?大人になれば微分積分や化学式を知らなくても全く問題ない。下手すれば足し算引き算掛け算とある程度の漢字が読めれば生活出来る。なら、なんで面白いとも思わない勉強をほぼ1日かけて勉強するかと問われれば選択肢を増やす為だろう。
勉強出来ずになりたい職業に就けないと言うのは悔しいが、その職業に就けるのに選択しないと言うのは本人の自由だ。いい大学出てニートもいれば勉強とは別の方向性で努力して起業する人もいる。何にせよまずは知る所から始めないといけない。
(諦めて戻るかい?それなりに飛び回ったけど。)
「そうだな・・・。木の上を飛んで回って煙を引き連れたりばら撒いたりしたけど全く反応もない。直前で相当距離を移動したけど端は見えないし、流石に迷子はゴメンだ。」
上とは違い何時も明るいので時間の感覚は更に狂い、おまけに太陽もないので1日と言う単位を知らせるのはスマホしかない。そのスマホも指輪に収納していて気がついた時に見るので狂いっぱなしだな。一度拠点に戻った時にエマが仮眠を取っていたので単純に昼寝かと思ったが、スマホを見ると深夜3時だった事もある。
自由な時間に自由な探索は出来るが、集団でない限り本当に活動時間はその人の采配に委ねる事になるな。そんな事を考えながら枝の上を飛び移り、時に飛びながらそう言えばまだ残骸のあった場所を見ていなかったと思い出した。
エマも見に行き橘達から話を聞いたので見た気になっていたが、やはり1度は自分の目で見ないとな。話によれば単純に破片があっただけで木が折れたり辺りが更地になっている訳でもない。目印としてフェムが操作する予備のロボテックスーツがウロウロしているらしい。
「フェム、私が近くに来たら合図して。」
「了解しました。」
インカム用の中継機を設置したので通信も出来る。回収する予定はないから電池が切れればそのままゴミになるが、固定処理しているので消えるのはいつになるやら。まぁ、次来た時に通信が楽になると思って諦めよう。しかし、ここならヘリも飛ばせるので次来るときは何処かで調達してくるかな。発着起点は限られるが使えない訳でもない。
ノーマル装備とでも言えばいいのか飛行していると銃声がして、止まって辺りを見ると次は照明弾が打ち上がった。多分フェムの合図だろう。これがモンスターからのものならそれはそれでありがたいが、モンスターなら狙撃なのでわざわざ外す事はない。
「お待ちしておりました。」
「ありがとう、破片を見つけたのはこのあたりで間違いない?」
「はい、このあたり周辺です。」
コックピット?に座るフェムが答える。大型化していないから立っていると思ったが、どうやら座るスペースはあるようだ。藤と橘が設計したのでフェムから座る場所をよこせと文句でも言われたかな?それはそうと橘達が言う様に辺りは森で何も無い。上を見上げてみるが、木になにか引っかかっているような形跡もないし、引っ掛かっているなら先に来た宮藤や橘が発見しているだろう。
破片の類も見当たらないしここにはなにもないかな?今までなら退出ゲートはセーフスペースの手前に設置されていたが、ここでも次に行くゲートはあっても退出ゲートが見当たらない。可能性を考えるなら前後が逆になって次の階層にあるのだろうか?
(ガーディアン作ったのが賢者達だとして、この辺りに何か形跡とか見て取れない?単純に飛行したとかの話だけでもいいけど。)
(奥に行って壊れるまでモンスターと戦えとしか指示してないからね〜。ただ、破片があるって事は修復システムも壊れてるんだろうし、長くは戦えない。少なくとも60階層までの何処かにあるんじゃない?)
(それって、そこに行くまでにガーディアン壊したモンスターと俺達が戦うって事だよな?えぇ〜、かなり無理ゲーじゃない?)
(いや?別にガーディアンは殲滅モードでもないし普通に飛行して通常兵装でモンスターと戦ったから負けるのは当然でしょう?)
(ん?フルパワーではないと?)
(ここでフルパワー出したら穴開くじゃん。)
世間一般では被害なしだが本来は地下の施設ごとゴッソリと消失させたガーディアン・・・。確かにここでそれを使えば階層ごと穴開けるのか。なら、逆を言えばそれを使わずともこの辺りのモンスターと正面切って戦えるガーディアンが複数いると考えると中々背筋が寒いものだ。
(フルパワーでないのは分かったけど、仮にここにモンスターがいたとしてガーディアンはそれを見逃すと思うか?)
(可能性はゼロじゃない。損傷度合いを考えればフルスペックでない限り、必ず何処かに見落としは出てくる。それは僕達もそうだし、ミスしなければ学べない、ミスしても学ばない君達なら分かるだろう?)
耳の痛い話だが否定は出来ない。寧ろ、一回で学び取れるなら戦争は一度で済むし犯罪も一度で済むし。それが出来ないからこそ、歴史は繰り返されるなんて言う言葉が生まれたのだし。ただそうなると極小点の可能性を探して捜索続行なのかな?
う〜ん・・・、一度話し合ってどうするかの方針を決めるしかないな。外からは帰還と送られてきてるし。少なくともこれだけ安全なら、他の捜索隊を編成してどうにかこうにかここまで人を連れて来て人海戦術を取る事も視野に入れていい。
ここに来るまではかなり大変だが、中位の集団なら無理ではないだろうし、俺達だけでこの広大な場所を捜索しても埒が明かない。そう思いフェムを残して拠点へ。
「おかえりなさい。何かありました?」
「全く見当たりませんね。宮藤さんはどうです?モンスターとは言わないまでも退出ゲートでもいいですよ?セーフスペース内に退出ゲートがあればかなり攻略は楽になる。」
「自分も成果なし。次に行くゲートはありましたがそれ以外は何もないですね。流石に撤退ですか?」
「それを私も考えていました。流石にこれ以上私達だけで捜索しても限界がある。」
「引き上げはいつ頃にします?食料やらはまだまだ問題ないですけど。」
「帰還と短文が来ているので、何もなければ明日と言った所ですね。」
「セーフスペース(仮)が見つかったので成果ありでしょうね。ガーディアンの件は報告します?」
「迷いどころなんですよねぇ、それ。破片だけでは中々報告しづらいのでそれっぽいものがあったとだけ言いましょうか。実質本体も見つけてませんし。一応破片があるから消えてはいないと言う形なら納得すると思いますよ。まぁ、ここまで来れる人が地道に探すしかないとしてまとめましょう。」
他の国が確保していないのか?それは分からない。なにせどの国もどこまで行ったとは公表しないから。到達階層も国同士のガイコウカードになりつつあるのでなにかの際には公表するんだろうが、現場を考えるとかなり厳しいんしゃないかな?
まぁ、ゲート内でモンスター研究を専門的にしていれば何かしらの打開策を見つけているかもしれないが、方法を想像すると後ろ暗いものを感じる。前にロシアから出たデータの件もあるし、何をどうやるかは分からない。
「戻ったゾ〜、捜索しても何もなかっタ。やはりセーフスペースとして報告していいと思ウ。」
「お疲れさま〜。エマもか、撤退して報告どうするって話をしてたけど見解は一緒か。橘さんが戻って何もなしなら退出しようか。流石に外も首を長くしすぎてキリンになる。そう言えば、米国の資料でモンスターをセーフスペースに入れたものとかない?」
「帰って調べないと分からないガ、私が知る限りではなイ。外への持ち出しも極刑相当になったと聞いているシ、死刑のない州でも厳罰化されていル。」
エマは首を振りながら教えてくれるが、極刑相当ねぇ。日本同様犯罪者で一儲けと考えていないよな?日本では指定量のクリスタル以降は本人の私財として扱っているが、指定量のモノは国が持っていきそれ以外のモノで賠償をするので、それを考えるとかなりの量を集めないといけないんじゃないかな?
まぁ、これのおかげで財政はかなり潤ってるらしいと松田から聞いているし、刑の執行もゲートに放り込むだけなので、執行官さえ腕利きなら後腐れを考えてもかなり美味しいとか。ただ、ライセンス習得時に首輪カメラを付けている人は犯罪者と口酸っぱく教えているので、その人が困っているのを見つけた時、助けるかと聞かれると本人の判断による。
浅い階層ならそこそこ軽い犯罪だが、深い所では死刑クラスの犯罪者と出くわす可能性もあるので、誰も手を差し伸べないかもしれない。だが、それでも帰って来る人はいるので管理なんかの手間を全て省けるゲート刑は魅力的らしい。
「犯罪者は敵なので関わらずにいましょう。モンスターと人を相手にするなんで面倒ですから。それに、ここまで来た犯罪者なら私は逃げますよ?何をしでかすかわからない。」
「米国なら司法取引もありだナ。まぁ静かに従うとも思えないガ。」
そんな話をしていると橘もフェムを連れて帰ってきたが特に発見はなし。破片だけでも成果と言う事で退出。事前にラボには2〜3日後に顔を出すと言って分かれたので大丈夫だろう。ある意味これも出張や単身赴任みたいなものなのかな?




