350話 交渉材料? 挿絵あり
「な~んもいないね。」
56階層に来て早4日、判断に迷うとは正にこの事。と、言うのも来た当初はかなり警戒しながら調査していたのだが全くモンスターは見つからない。だが、それならセーフスペースかと聞かれるとクリスタルが落ちている。馬はクリスタルを内包していないし、魚や鳥にも入っていない。
つまりクリスタルが有る=普通の階層と言う図式が成り立つはずなのだが、今度はそのモンスターが見当たらない。油断させてガブリがない訳でもないので、来た当日と次の日の朝まで警戒していたが、誰の索敵にも引っかからないし、それならと空を飛んでアピールしてみたが全く何も引っかからない。
最終的に煙を突風でどんどん広げて見たがやはりモンスターはおらず、次へ続くゲートもあった。これから先のセーフスペースは茶も飯もなしか。全く!次会ったら遠路遥々やって来て人は丁寧にもてなし丁重に扱えと文句を言おう。
ただ、こんな事態は今までなかったので話し合った結果入念に調査しようと言う事で留まっている。実際セーフスペースか否かを判断する基準って今まで馬だったんだよなぁ〜。それがいなくても安全ならセーフスペースで間違いないのだが・・・。
「ないナ。だが水場と樹の実はあったゾ?」
そう言って水浴びする横でエマが樹の実を食している。上にあったワラビとは違い今回は皮付きだがご多分に漏れずそのまま食える。そして、ある事を知らせる為か色付きである。見た目真球、色は虹色。明らかに人為的に作られたもので食った感じは旨味のあるグミを食った感じ。或いは硬めのコンニャクとか?
鍋に入れて出汁が出ればいい食材になりそうではある。因みに種はなく増やすのは無理そうだ。ここまで来た代価に見合うかと聞かれると迷うが、一応樹の実と言う事だからなのか絞れば果汁も飲める。
「進んで食べるかは悩むけどね。私はやっぱり肉が良い。」
「見た目はこんなに細いんだがナ。それもやはり最初の交渉のせいカ?」
「肉好きは元々。よく食べるのも元々。基本的に姿が変わった以外は変わらないかなぁ・・・。こんな事を言うのも今更何をって思うかもしれないけど、私はそんなに持ち上げられる様な人間じゃないよ。」
「それでもここにいル。米国は救わレ、日本も救われタ。それは誇れる事じゃないのカ?」
「う〜ん・・・、誰かがするであろう仕事の誰かとは、自分で有っても問題ない。だから私は私の始めた仕事を私のやり方で全うする。まぁ、全うするにしても終わりが見当たらないから探さないといけないんだけどねぇ。」
交渉が年1で権利を手放さなかった関係上、何処を目処として終わりにすればいいのやら・・・。1つ思い付くなら次のEXTRAが出れば交渉権の話は別として一線は退けるのかな?
現時点でゲートの旅を辞める気もなければ奥に行くのを投げ出す気もない。そりゃあ、見られたくない事も知られたくない事もあるがソレはそれコレはこれ。行ける人間が限られているのならその中で1番死から遠い俺が行かない訳にもいかないだろう。
「終わりカ・・・。表面上はまだどの国も行動を起こしていなイ。しかシ、宇宙に出る手はずが整えば何かしらの妨害工作はあるだろウ。きな臭くなったら早急に連絡すル。」
「ありがとう。私はいいけど家族に手を出されたら流石に看過出来ない。そして、それを一度始めれば歯止めはない。未然に防ぐに限るよ。臭いものに蓋をする様なものだけどね。」
「そろそろ上がりますか〜?ちょっとした気になる事が〜。」
「今行きま〜す。」
宮藤の声がしたのでさっさと服を着て木の上へ。モンスターがいない事は分かったが、最初にそこを拠点としたのでそのまま使っている。まぁ、警戒は立てるにしても流石に地面で寝るのは怖いしね。
「捜索範囲を広げに広げて見ましたがやはりモンスターは見当たりません。セーフスペースとして宣言してもいいと思います。」
「ふむ・・・、それは喜ばしいですがクリスタルが転がっていた理由は分かりましたか?あれがあるだけで簡単に安全とは言えない。モンスターの食べ残しである可能性は?」
「その点も踏まえてこれを。宮藤君とクリスタルのあった地点を再度捜索して見つけた物です。」
橘から渡されたのは金属のようなガラスの様な不思議な材質の破片。モンスターの物・・・、ではないな。モンスターもクリスタルが抜ければ消えていくので、こうして破片が残る事はない。それを考えるとこれはモンスターの物ではないのだろう。
手にとってペンライトで光を当てたり、コンコンと叩いてみるが破片は鈍い音を返すだけで、やはり何で出来ているかは分からない。透明度を考えると石英ガラスとか?普通のガラスよりは硬い。しかし、角度を変えると透明度はゼロになり真っ黒になる。
調べるなら持ち帰ってラボじゃないと無理かな。或いは橘は鑑定してもう目星はついている?多分これがここをセーフスペースとしていい根拠なんだろうし。
「この破片は何なんダ?この少量の破片でクリスタルが有った理由を説明できるのカ?次にまたここに来るとしテ、セーフスペースと安心して足を踏み入れて蜂の巣にされてはたまらなイ。」
「今から説明します。湿気が多くて水が若干溜まっていますがすぐに乾くので座りたい人は座って下さい。少し話とすり合わせで長くなるかもしれません。」
橘がそう言うので適当に座る。確かに中層を歩いていると湿気がすごいし、木が大きいせいか所々で時折滝の様に水が降ってくる。多分、何処かに溜まった水が降ってくるんだろうが、何でまたここはこんなに湿気が凄いんだろう?
塹壕足ではないがそれなりに対策しないと少しつらいかも。一応、靴を脱いで足を外気に晒せばすぐに乾くし、回復薬を使えばどうとでもなるのだが、流石にその為だけに薬を使うのも躊躇われる。
「クロエ、服を着なさい服を。」
「夏服ですよ?ちゃんと下着も付けてます。」
水浴びしてすぐにドレスとか拷問だろう?フリルやらレースがふんだんにある分、湿気が多いと重くなる気がするし、脱いで触ると若干湿ってるんだよ。そんなじっとりした物をサッパリした後に着たくない。
「橘さん。クロエさんは講習会の時も平時はあんな格好です。」
「・・・、どれほどの健全な男子の性癖を歪ませようとしているんですか?」
「男が女性を好きになるのは自然な事です。何も知らない人に罪はない。割と妻とかには好評なんですよ?涼しい服くれって言ったらダボダボのTシャツよりはこっちと。」
「それは油断して色々見えるからじャ・・・。」
「見てもどうせ布でしょう?惹きつける者を使うなら気をつけるけど、普段はそんな事ないからなぁ・・・。」
下着と中身なら中身を取るよな?脱がす楽しみやらと言う人がいるが、最終的には脱がすならそこまで気を使わなくてもねぇ、どうせ脱がすのは妻しかいないし俺を脱がすのも妻しかいない。それに、外を歩いていても若い子はこんな格好普通にしているし、高校生くらいの子がへそピしてたりと本当に女性の普通は分からないんだよなぁ。
やはり進められて似合うと言われる物が総合的に見て正義だろう。黒でダボダボなら尚良しだが、少なくとも今着ている服は黒なのでおかしな色でもない。
「服の事はいいです。それで?」
「先ず、あったクリスタルはモンスターの物で間違いありません。」
「ならセーフスペースではなくモンスターがいるのではないカ?」
「いえ、それがすり合わせと言うやつです。ガーディアンと言う物を私は見た事がない。宮藤君はガーディアンを見ても最終的にどこに行ったか知らない。そこで知ってそうなクロエ。ガーディアンはどのあたりに行ってどうなったんですか?」
「詳しくは分かりませんが中層で多数のモンスターと戦い爆散したはずです。」
「やはりですか・・・。破片はこれだけではなく多数ありました。それの続く先をたどるとゲートに繋がる。」
「と、言う事はクリスタルはガーディアンが倒したモンスターの残骸って事ですか?」
「おそらくはそうでしょう。ガーディアンがクリスタルだけではなく、モンスターも纏わりつかせて飛行していたなら、ここにもモンスターがいた可能性もあります。ですが宮藤君と手分けして探しましたが一切見つかりません。」
「潜んでいると言う可能性はないカ?地中にムカデがいた様ニ。」
「その可能性はかなり低いかな。ガーディアンの目標はゲートから持ち出されたモンスターの殲滅。今はもう持ち出せないけど、それを差し引いてもガーディアンがモンスターを見逃すとは思えない。それに、セーフスペースは私が要求した安置だから、そこにモンスターがいたら流石にソーツも・・・、えい!モンスターを探しましょう!」
「ど、どうしたんだ急ニ!」
「日が空いたからモンスターが恋しくなりましたか?」
「そんな訳ないでしょう宮藤さん。交渉材料ですよ、交渉材料!裏技とこじつけですが、ここで私達がモンスターを発見出来ればソーツに文句が言える!」
安全な場所よこせと言ってそこにモンスターがいたら完全に契約違反だ。確かにゲートの中にソーツは関知しないと言っていたが、それはモンスターの生息やらに付いてであって作れといった物に瑕疵があればソーツとしても看過出来ないだろう。
何せ作る事が意味なのだ。その意味に失敗の文字を刻むというのは存在を否定されるに等しい。問題は結局祭壇を探さなければならない事だが、それを差し引いても交渉材料は多い方が良い。
(魔女か賢者、モンスターを発見したら証人になって欲しい。)
(別にいいよ〜。)
(私はパス。会う気はないわ。)
賢者はOKか。まぁ、どうやって証明するかは別として証人になってくれるならありがたい。揚げ足取りのようであまりいい方法ではないが、ユーザーとして作成者にクレームを入れるのは正当な権利である。特にここは命のかかる場だしな。




