347話 その話は聞いてなかった 挿絵あり
飛んで走って木の上を飛び移って!背後で起こる爆風を追い風に逃げますとも!やってられるかあんな怪獣大決戦!ゴジラか!ガメラか!まともに相手なんかするわけない!そりゃぁ、あれが外に出て街を壊すと言うなら戦うさ!でも、ここでは逃げても許される!
「後ろ!ついてきてますね!?」
「漏れなし!宮藤君は参戦したそうに見ない!」
「宮藤はアレを落とすつもりカ?」
「いやぁ~、やってみたいとは思いますよ?でも、隊長からバカって言われましたからね・・・。確かに残って殿務めるより全員で撤退した方がよさそうだ!」
チラリと後ろを見ればムカデが数体出てきて魚を食おうと奮戦している。直下の1体は取り付いたが随伴機の様な小魚が大型魚を守る様にムカデを啄み破壊しようとしているが、そのムカデも魚をアチラコチラと這い回り決定打はない。
その上でアソコは巣穴でもあったのかワラワラと地中から姿を表し、取り付こうと伸び上がるが最初の1体のみ取り付きに成功して後はビームや砲弾、ミサイルで地面毎吹き飛ばされている。あぁ、今も1体吹き飛ばされて露出したクリスタルを小魚が食った・・・。
相手がデカ過ぎると言うのも考えものだな。あの巨体を剣士が倒すとすれば並大抵の労力ではないだろう。かなり確率は低いとは言え武器は壊れもすれば、なくしてしまえば指輪と違って戻っても来ない。馴染ませるにもそこそこ時間がかかる。
そんな戦いを尻目に逃げの一手。巻き込まれればただではすまないだろうし、硬い木もへし折れたりしているのであの場にいなくて本当に良かったと思う。ただ、ムカデはやはり問題だな。
魚はある程度止まったりコチラに興味を示してくれていたようだが、ムカデは興味を示すよりも先に魚に襲いかかった。惹きつける者の条件が視認する事となると地中に潜まれると厳しい。
「どれくらい離れられました?体感では5kmはないと思いますけど。」
「魚から約4.5km地点の木の上ですよ。そこそこ大きい木なので下からは攻撃されないでしょう。」
「魚が圧倒的に有利だナ。最初の奇襲こそ受けたようだが続くモンスターは討ち取られていル。たダ、宮藤ではないが倒せない相手ではないだろウ?」
なーんかエマまでバーサーカーへの道を歩きだしているが、そんなに倒せる根拠ってあるもんかね?確かに倒せない相手ではないとは思うけど、ここで消耗すればまた足止めを食らう。優先度合いとしては今回は調査なので無用な戦闘は避けてさっさと進みたいんだけどなぁ・・・。
「エマさんもそう思います?確かに図体はデカいですけど倒せない相手じゃないと言うか、逃げの一手を打つほどの相手ではないかなぁと。」
「橘さんはどう考えます?」
「私ですか?ここから観察してますけど微妙ですね。落とせない相手でもなければ武器で解体出来ない相手でもない。まぁ、ビームやら砲弾は厄介ですけど、それはいつもと変わらないでしょう?」
武器で解体ってどうする気?鱗はないが装甲を1枚ずつ引っ剥がす気だろうか?なんか認識に違いがあるような気がしてならない。入る前にマスターとしても仕事をこなして上がってきた資料やら情報やらにはある程度は目を通しているはずなんだが・・・。何か見落としがあったのだろうか?
「そもそもあの魚はバイトよりも弱いでしょう?その時点で対処できない相手でもなければ、喋ったり空間を捻じ曲げる様な攻撃もない様です。なら、大きかろうとこちらの武器の性能も上がってるから倒せるでしょう?」
「バイトやら喋るモンスターと比べるのはいいとして、武器の性能が上がる?なんですがそれ?」
後ろの魚とムカデの大戦も気になるけど、武器の性能が上がるってなに?確か前に簡単には砕けないと聞いたけど、それ以外何かあるの?自分が使う武器はずっと伸び縮みするキセルだから他の人の武器となると馴染みがないんだよなぁ。
保有量は確かに多いし開けてない箱も多数あるから、それを合わせると一財産と言わない程ある。ただ、使うかと聞かれるとキセルで済むのでほぼ使わない。俺が剣とか盾を使いだせば透明になるのだろうか?
「少し前に報告書として上がったはずなんですけどね?あまり関係ないとしてクロエの所に行かなかったか、或いは検証不足としてまだ止まっているのか。まぁ、それはいいとして中位の使う武器は使用者にある程度答えてくれます。」
「答えてくれる?まさか思いを込めて大切にすれば切れ味が上がるとかじゃないですよね?」
「違うゾ?米国でも書類はないが話は聞いタ。私は出来たがディル達は出来なかったからトリガーは最適化だろウ。」
「ほう・・・。で、具体的には?」
「この中だと誰が何をしても信憑性に欠けますが、例えば雄二君の剣。あれは限界があるものの物理的に本人の意思で伸ばせます。」
「私の銃はショットガンからライフルにも出来るゾ。着剣も出来て便利ダ。」
「自分は話だけですね。武器と言っても最初のロッドですから。」
地味と言うかなんというか・・・。劇的に強くなるわけではないのだろうがかゆいところに手が届く的な?確かに剣身が届かず切れないというのは剣士にとって致命的である。それにさっきの魚を切ろうとして剣の長さが足りないというのも、やはり問題である。なら、確かに伸びればおおよそ剣士にとっての問題点はクリア出来る。まぁ、好みの長さはあるのだろうが、それはそれで好きな長さで近寄って伸ばせばいいだけだしね。
「すると、武芸者の玉も何か出来るようになったんですか?元々多彩な玉でしたけど。」
「飛道具は出せる様になりましたよ?元々近接系で銃身は出せても弾はガンナーの武器を使ってましたが、今ならそれがなくとも弾がでる。」
橘は更にオールマイティー路線か。何にせよ知らなかった事が聞けてよかった。確かにムカデも魚も相手を攻撃しているがごっそり削り取るような事はない。米国で出た中層のモノは例外なく重力湾曲と言うか空間攻撃で辺りを蹂躙したと言うし、当たったモンスターはゴッソリ削り取られたとか。
流れ弾に当たった兵士も抵抗のしようもなく削られたので、要注意攻撃の筆頭の様なものだが、確かにまだそれをされて来ていない。う〜む・・・、あの犬は進化を見せずにそれをしていたと言う事はかなり深い所にいたのだろうか?
てか、初手でそれってかなり優しくないな。下手すれば本当に人類全滅の可能性があった訳で・・・。勝てなかったらどうするつもりだったんだろうか?
「決着がついたようですね。」
「おっ、どっちが勝ちました?」
「魚です。高度を上げて一方的な蹂躙で幕引き。ムカデが魚を空から引きずり降ろせればムカデの有利だったかもしれませんが、最初の一匹取り付いて以降は駄目でしたね。」
「自分としてはその決着で良かったと思いますよ?仮にムカデが空を飛び出しても面倒でしょうから。」
「決着がついたならいこウ。時間は切られていないが長居したいわけでもなイ。」
「そうですね。引き続き囮を務めます。ただ、それなりに高い所を飛ぶのでゲート捜索速度は落ちますがついてきてください。」
木の上から飛び立ち高度調整。ムカデの長さはマチマチだが、先程の魚と同等の高度なら大丈夫だろうとかなり高い。エマはいいとして宮藤は大丈夫かと心配したが、エマのドローンに便乗しているので大丈夫だろう。
先程の魚とは反対方向に飛んだが、空の上は雲もなく見渡した限りではモンスターはいるものの、惹きつける者のおかげで特に攻撃はしてこない。ただ、捜索用にエマが飛ばしたドローンはモンスターに撃ち落とされ、宮藤の兵達もその熱のせいかモンスターの興味を引いて削られる。
煙を撒いても範囲を広げるのには時間が掛かるし効率を謂うなら最悪だろう。そうなると・・・、ここでバスターランチャーを使うかな?アレを使えば木が薙ぎ払えるし。後から聞いて怒りそうになったが、バスターランチャーの試し打ちの的として最終試験でゲート内のゲートを撃ったと聞いた。
結果としてはゲート壊れず焦げ目も付かず、綺麗なままだったし当初算出火力からすれば壊れない事は分かりきっていたらしいのだが、仮にそれでぶっ壊れたらどうするつもりだ?この件は本部長として厳重抗議させてもらったので二度とそんな用途に使わないと思うが、そこから分かる事もあると言うのも事実。
バスターランチャーはクリスタルを使用して発射しているわけだが、減衰率もあればまっすぐ飛ばす為には外から磁場やらの計算も必要になる。そんな計算をしていくとクリスタルリアクターを橘の様に2個連動させても、人類にはゲートを壊す程の出力は生み出せないらしい。
らしいと言うのは、その火力に耐えられる砲身やら機器がないから。モンスターの素材を集められればそんな物もいずれ作れるのかもしれないが、現時点では収束させようとした時点で不安定になり自爆する可能性が高いとか。まぁ、卓上理論なので真実は分からないが分かった時点で下手すれば地球が滅ぶとかゲート内に入れなくなるとかになるのだろうか?
・・・、ゲート最奥でゲートをぶっ壊せばもしかしてソーツの願いって叶う?離脱どうする問題はあるが、少なくともゲートが壊れてブラックホールが出来上がるなら、その時点で無限のゴミ箱って完成してないかな?
(浅はかね。)
(やっぱり駄目?)
(駄目だね。エネルギーにエネルギーを注ぎ込んでも意味はない。寧ろそれをすれば君達は滅亡へのスタートスイッチを押す事になる。)
(滅亡へのスイッチ?もしかして・・・、)
(ゴミではなく、それが外に飛び出してくる。そして、飛び出したそれに対処する法を貴女達は有していない。貴女が吐く同様、何もかもなかった事にしたいならやってみなさい?少なくとも、貴女も私達もその程度では死なないのだし。)
(ただ暇だね。逃げ切れればいいけど、出来なければ延々とそこを彷徨う事になる。悪いけど精神を壊して発狂とかさせないよ?喋り相手は多い方がいい。)
俺の考えつく程度では駄目か。最奥と言わずともその付近のゲートを壊せば行けるかもと思ったが、掃除のしようがなければやはり溢れるらしい。流石に排出します→ブラックホールでは対処のしようもないな。なんかこう・・・、楽に奥に行ってサクッとどうにかする方法はないもんかね?
どの階層でも頑張ってゲートを集めてみる?駄目だ。それは奇襲してくださいと言っている様なモノだ。失敗したと言ったがまだ正式には試していない地面をぶち抜く方法は?はい、地中からムカデの大群がお出ましします・・・。
なら、バンカーバスターは?飛べるのなら航空機は必要ないし指輪から出したバンカーバスターを自由落下させて掘り進めれば地殻まで行けないかな?流石にボーリングマシーンではないから定速で掘れる訳では無いが、それでも掘って行く事は出来る。
問題は厚みと硬さとか?だが、採掘家なら掘れるんじゃないか?武器も穴掘りに使う物が多い様だし。この時点の問題点と言えば・・・、はい。眼の前の木でしたね・・・。地下茎があるから何発バンカーバスター撃ち込もうとすぐに元通り・・・。クソ!近道がねぇ・・・。いや、作り変えたらいける?
「押し黙ってどうしたんですか?能力を使うと喋ったら駄目とか?」
「いえ?近道を考えてたんですが何も思いつかない。嫌らしいくらい逃げ道を塞がれてますよ。ゲートありました?」
「宮藤君とエマさんは駄目みたいですね。意地でも下を歩かせたいのか、さもなくば楽せず真面目に仕事しろと言っているのか・・・。クロエの方はどうです?煙でなにか燻り出せません?」
「煙は漂う物。気流もなく湿気が多いなら広がる速度は遅い。バスターランチャーで木を焼き払いたいですけど、どう思います?」
「出来なくはないですが木の再生速度を考えると、4人で薙ぎ払って数キロ先が見える程度ですよ?焦らずじっくり行けばいいんじゃないですか?それともなにか懸念事項が?」
「懸念事項なら今晩妻と夕食が食べられるかとか?まぁ、数日空けると言ったので冗談ですが、モンスター見ながらニコニコするのも結構疲れるんですよ?こう・・・、プチッと潰したくなる。」
通り過ぎるモンスターはこちらを見ている様な気がするがイラッとする。何をする訳でもないが、やはりモンスターは敵だ。後先考えずにここで撃墜しまくってやろうか?そうすれば多少はスッキリすると思うし。
「堪えてくレ。確かに私もモンスターは倒してしまいたいガ、下手に均衡が崩れれば窮地に陥るのは私達ダ。今はまだ喋るモンスターも出てきていなイ。出たらそれを貰っていいからナ?」
エマの言葉で多少溜飲が下がる・・・、溜飲が下がる?いや、何でこんなにイライラしている?確かにモンスターは倒すべき相手だが、優先すべきは安全で確実な調査だ。惹きつける者を使いだしてから変にモンスターにイライラするようになった気がする。
魔女の能力を使ってそれが馴染みだした?表面が変わらずとも内面が変わってきている?そんな遅効性の毒の様な能力なのか?考察は後にして、分からなければ魔女達に聞けばいいか。これを使うと決めたのも自分なのだし、これを使おうとも目標や願いは・・・、光は変らない。
(ちっ・・・。)
(何か舌打ちしたか?)
(暴れられない不満よ。ここにいるのはザコだからいいわ。)
ザコね。魔女基準のザコと俺達基準のザコってアレだろ?全力で課金しまくってラスボスにタイムアタックとかしている人のザコって言うレベルと、無課金初心者或いは今日始めたばかりの人がザコと思うくらい乖離してるんだろ?度合いが違いすぎる。
ただ、そんな魔女達が頼みの綱である事もまた事実。悪いがそのザコでも付き合って貰う時は付き合ってもらうぞ?何せ俺達はおっかなびっくり未知の場所やモンスターと戦っているんだからな。及第点を盾にする気はないが、出来ない事を出来ないと言う根拠としては最上級だろう。まぁ、出来ないなら出来ないなりに出来る様に努力を怠る気もないのだが。
「もう一つの方法でモンスターに話を聞く事は出来ないんですか?」
「絶対嫌。知らないんですか?彼奴等口を開けば死ねだの殺す言い出すんですよ?興味の方向性は解体して調べるとかなんで相互理解は不要です。」
「いや、知ってますけどそこまで明確に殺意は・・・。えっ、クロエはそこまで憎まれてるんですか?」
「さぁ?憎まれるほどモンスターは倒しましたが彼奴等同族意識とか皆無でしょう?何せおんなじ様なモンスター毎撃ってくるんですよ?」
「う〜ム・・・、殺意が高いナ。モンスターに話が聞けないなら降りての探索になるガ・・・、ちッ!また壊されタ。」
「自分もその案ですね。兵達も行軍には慣れていますが流石に毎回かき消されるのは見てて辛い。宛もなく飛んているなら降りましょうか?先程の魚からかなり離れましたし。橘さんは燃料保ちそうですか?」
「リアクター式なんで燃料は心配いりませんよ。宮藤君の方は?」
「自分はアシスト面フル特化なんで動力は殆ど無いですね。水とか飲ませてくれるシステムは多少積んでありますが、見た目よりもずっと鎧ですよ。」
「なら、一旦木の上にでも降りましょうか。流石にあのムカデを見てから地面に降りる気がしない。」
そんな話をして木の上へ。座れる程太い枝に降り立ち辺りを警戒するが特にモンスターはいないようだ。気を抜きすぎるのも問題だが、ゲートが見つからない以上一旦休憩として飲み食いする。しかし、やはり進むなら地上かなぁ・・・。危険度を考えると上空だが、発見速度を考えると地上を進んだ方が早い。
まぁ、モンスターがいるから必ず早い訳でもないし、前の様に地面からムカデが出てこないとも限らない。相変わらずエマと宮藤は捜索してくれているが、表情を見ると芳しくないようだ。被害はないが時間の浪費を考えるとどうなんだろうな。少なくとも生きて帰ると言う目標には1番確実な道を歩んでいると思うが・・・。
「やはり駄目ダ。どんどん落とされル。」
「この木にはないですか?結構な大きさですけど。」
「ないですね。火の鳥を出してみましたが、見た感じそれらしいものは見当たらないです。」
「鑑定してもこの木にゲートは含まれていません。・・・、多少時間はもらえますか?」
「時間を?まぁ、3人で警戒すれば大丈夫だとは思いますが、なにかするんですか?」
「結構難易度高い方法なので・・・。」
「気絶するくらいなら別の方法探しますよ?」
「いや、この木は地下茎で繋がっているんです。なら、一本の樹としてではなく無数の網目をイメージして行くと言う鑑定方式ならゲートと言う異物が見つけられる。」
言いたい事は分かるけどそれってかなり大変なんじゃ・・・。無数にある木を単体ではなく、総体として見て異物を見つけるって話だろ?情報量だけ見ても相当だろうし、何より脳の方はやって大丈夫なだろうか?
フルフェイスのヘルメットのせいで顔は見えないが、声からは自信があるように感じる。何かしらで練習してきたと言う事かな?流石にぶっつけ本番でそれをしようとは言わないと思うが・・・。
「練習は?」
「竹藪を少々。個人的な意見を言うなら多分外よりもゲートの中の方が不純物は少ない。ただ、これは時間がかかるんですよ。何せ縦横無尽に伸びるモノを鑑定するんですからね。」
「う―ん、その竹藪の時は反動とかありました?」
「多少の頭痛でしたね。薬で回復出来るので大丈夫だと思いますよ?ただ、安牌取ると更に速度は遅くなる。」
「分かりました、やみくもに探すより何かしらの指針があった方がいいでしょう。エマと宮藤さんは一回捜索を打ち切って警戒態勢、私は煙でこの場所を出来る限り隠蔽しつつ風に乗せて煙を蒔きます。」
声を掛けると二人は周囲にドローンや火の鳥を飛ばしつつ警戒し、俺は俺で煙を出して枝の周辺ごと覆い隠す。ついでにこの場から煙をドンドン広げていく。煙とは高い所から低い所に流れ広がるものだ。
そんな中、橘が武装解除して両手を木に着けてる目を閉じる。多分集中しているのだろう、誰も話さず周囲を警戒しだして数十分、フラリと橘が立ち上がり回復薬を一気飲みして口を開いた。
「見つけました、ここから約10km地点にあります。」




