346話 人外魔境 挿絵あり
今日まで短いです
背後から炎が上がり銃弾がモンスターを叩く音がし、風切り音とともに切り裂かれる音がする。拾えるのは音と煙を通しての視界のみ。預けた背後を直接見る事は出来ない。多分、振り向けばその瞬間に下手すれば撤退する事になるかもしれない。
幸いと言うか喋るモンスターはいないようだ。仮にアレがいれば一瞬は惹き付けられても自身を取り戻し、いずれ動いて襲いかかってくるだろう。検証出来ていないので効果の程は分からないが、多分喋る者に長期間効果を出すにはまだ足りない。
しかし、その一瞬で勝負が決まる時は決まる。う~む、仮に魔女の本体を直視したとして、それに対抗できるモノはどれくらいいるのだろう?不快感と敵対心、怒りなんかを持ち続けるのは人としては難しい。何せそれに人は慣れて適応するから。魔女が剥奪するのはもしかすれば揺るぎない自己の隔絶を持たせるためかもな。
なら、ソーツが焦るのも何となく分かる。会っただけで自己が揺るぎかねないものなど会いたくもなければ、揺らいでしまえば後は疑念が残り続ける。
「一体倒したが本当に動かないナ。」
「いえ、動かないんじゃなくて私達よりもクロエに興味を奪われているんです。背中撃ちは好きじゃないですが、どんどんこの隙を利用して進みましょう!」
背後を見ずに刺股に横座りで座りゲートを探す。なんだかんだでこの刺股とも1年近い付き合いか。投げたり飛んだりと元々は警視庁の備品だったがよく壊れない。しかし、モンスターを倒すのと穏便に行くのはどちらが良かったのだろう?
倒して進む前提で話していたが、もしかしたらこっそりと合間を縫って進む方が良かった?別にモンスターを倒したからと言って経験値が入るわけでもないし、囮に気を取られたモンスターを倒しても猶予を稼ぐ役に立つくらい。
まぁ、その猶予も大切なので稼ぎたいが、今回の目標はそこではないので迷う。ただ、そんな俺の気持ちとは裏腹に橘達がどんどん処理しているようなので止めるのも違うだろう。ついでに嫌な事と言えばこの力が広まれば、またスタンピードで呼ばれる理由が増える。米国よりも更に被害者を減らし、雑魚を一網打尽に出来る力・・・。
自身で始めた事だが流石に世界を飛び回るのは疲れるな・・・。いや、次を起こさなせればすむのか。どの程度狩ればいいのかは分からない。だが、狩れば狩るほど猶予がもらえるなら、どんどん稼げるうちに稼いだ方がいいだろう。
「しかし・・・、上空からはやはりゲートが見つけづらい。橘さん達の方でゲートは探せませんか?」
「後で探していますがまだですね。しかし、これの持続時間はどの程度だと考えますか?」
「さぁ?攻撃とも言えないものですよ?それの持続時間なんて個人によるとしか言えないでしょう?例えば橘さんが美しい花に心を奪われたとする。その奪われる時間はどの程度ですか?」
「分からないですね。一瞬かもしれないし永遠かもしれない。・・・、了解しました引き続き捜索するとしましょう。」
「お願いします。」
視線の先は前しかないが、その先も森なのでどうしたものか。先に進みたいが進む道がないんだよなぁ〜・・・。地道に探すにしても指針もないし、この前の奴が地中から出てくればやはり被害は出る。流石に地中からこちらを見る事は多分出来ないだろう。そうやって彷徨い歩き55階層に続くゲートを発見したのは数時間後。今回は木の腹にゲートが固定されていたよ・・・。
ファンタジーは好きだよ?ツリーハウスとか憧れるよ?ただ、実際にギミックもなく探す指針もなく、ひたすら歩き回るっていうのは疲れるんだよ!別に厳しい探索がしたい訳でもないし、楽が出来るなら歓迎する。特に先を急ぐなら大歓迎だ。
それに、モンスターを見ながら微笑むというのもまた精神的にキツイ。魔女ではないがモンスターとは敵でありゴミである。そんなモノの為に何で微笑んでやらにゃならん。腹踊りとかするならまだ面白みもあるかもしれないが、ただボーッとされてもねぇ・・・。いや、これは傲慢だろう。上手く行って気が緩んだか?流石にこれはよろしくない思考だ。
「55階層に突入しますよ!」
「ええ、引き続きお願いしますね。」
「囮と言うよりもなんだろうナ・・・、聖域とかカ?いるだけで戦いもなく凪ぐなら神聖なものを感じるガ。」
「まぁ、自分達は前から見られないんですけどね。知ってますかエマさん。日本では神を見ると目が潰れると言う言い伝えがあるんですよ?」
「背中ならいいというものなのカ?」
「さぁ?でも橘さんの言葉を信じるなら見ない方がいいでしょうし、引き続き囮をお願いするしかないでしょう。」
「そこ、聞こえてますよ。人を変に神聖視しない。前に巫女とか言われて嫌気が差してるんですから。このままだと本当にそんな面倒な存在に祭り上げられる。」
「いいじゃないカ。神なら自由だろウ?」
「エマは神に願う人だからいい。願われる側は無視しても叶えても文句を言われる。もっと叶えてほしい、何故叶えてくれない、何で彼奴は叶えてもらって俺は叶えてもらえないとね。自身で願いを叶えず願う限り、感謝と同等に不満が出る。」
「そんなものなのカ?神話なんかを読んでも神は自由だと思っていたガ。」
「神も化け物も王も倒すのは無力な人です。束になった人に勝てる者は少ない。」
そんな話をして踏み入れた55階層。相変わらず木が生い茂り視界は悪い。それに、何だか湿っぽい。おかしいな?ゲートの中でこんな体験は初めてだ。36階層で水場があった時も水音はするのに湿っぽいと感じなかった。それなのに何故?
「橘さん何か視えます?変に湿っぽい気がするんですが。」
「いえ、感覚は間違ってません。フェムが分析した結果ここはかなり湿度が高いようです。」
「ゔっ、湿度かぁ・・・。まぁ燃やす分には問題ないかな?水蒸気爆発とかは怖いですけど、流石にこの規模はどうともできないでしょうし。」
「う〜ム、じっとりするのは気持ちが悪いが耐えられないわけではないナ。有害な蒸気という訳では無いのだろウ?」
「ええ、有害なものはない純粋な水です。」
「それよりも上見て!」
入って早々お出迎えだな。巨大な白いモンスター。それは魚のように見え、随伴機の様に小型の魚を従えている。米国の蝶の魚版?蝶よりも魚の方が群れるイメージがある分更に随伴機は増えるのだろうか?仮に戦ってアレを落せと言うならかなり大変だろう。やれないとは言わないが、どの程度の硬さか強さかも分からない。
他の面子も息を飲むようだが、そんな中魚を食うつもりか地中から上で見た様なムカデが飛び出してきた。当然といえば当然だが大物狙いで魚の直下からの襲撃。そこには卑怯もクソもない。食べたら勝ち。いや、勝ちなんて概念もなく日常なのだろう。
「離れろーーー!!」
「どっちダ!」
「私につい来て!!」
怪獣大決戦というのも斯くや!辺りはビームやら実弾の嵐が!惹きつける云々よりもまずは食事かよ!どちらが勝つとか見届けなくていいからさっさと避難!
「殿は務めます!」
「いらんバカ!逃げろって言ったんだよ!巻き込まれる前に逃げる!タイマンじゃないんだから、漁夫の利とかいらん!」




