345話 囮作戦 挿絵あり
すいません、バタバタして短いです
「さて、ブリーフィングは終わりましたし行きましょうか。」
そう言うと各々が立ち上がり動き出す。1つ争点があったとすれば56階層セーフスペース説だがその場合は一旦引き上げるのではなく更に調査続行で話がついた。個人の意見とするなら撤退を推したのだが、3人は続行を推し多数決の結果そうなった。まぁ、怪我が酷ければその時点で撤退なのでいいだろう。
「今回も前回の近くに出られるといいんですけどね。そうすればもう少しはゲートの在り処が分かりやすい。」
「希望的だナ。毎回違う所に出るから攻略は手間取ル。もしかしテ、自動的にモンスターの密集地付近に送られているのカ?」
「否定は出来ないですね。待ち伏せを考えると運の要素もありますがモンスターがいないのはセーフスペースくらいですし。」
「当初から各ゲートに発信機を付けられないかと言う試みはありましたけど、広すぎるのとゲートがどれほどあるか分からなくて頓挫しましたからね。」
ゲート内に対する試みは色々されているか。移住もだし食料補給源としてもそうだし畜産やら農耕というのもある。まぁ、ほとんど成果がないのでなんとも。地球的に言えば微生物がいないと成り立たない環境のモノをゲート内で運用するのはかなり難しいようだ。ギリ植物はどうにかなったようだが、増えるにしても虫がいないので無理だしそのうち花粉発生装置とか作るのだろうか?
「中層でも数揃えてくれていいんですけどね。多ければそれだけ先に行きやすいのに!」
「まぁまぁ、それで実力もなくどんどん進まれると困るでしょう。自分達だって前回はそこそこ痛い目を見たんですから。」
「皆さんもういかれますかな?」
「ん?高槻先生どうしました?これから行く予定ですけど。」
ラボを後にしようとすると高槻が正面で待っていた。このタイミングと言うとお見送りだろうか?俺達が行く事は殆ど公表されていないので毎回見送りもないのだが。
「新型の回復薬を用意しました。それほど数もなく試作段階ですが、従来の物より効きはいい。マウスや豚で治験した限りでは欠損しても組織と同等の肉があれば緩やかに回復出来る。」
「ありがとうございます。緩やかと言うとどの程度?」
「なくなった範囲にもよりますが、数日は覚悟していただきますな。ただ、回復薬としては優秀ですぞ。」
治癒師や復元師程ではないが欠損に対応できるのはありがたい。必要な肉って馬でいいんだろ?ゲート外でこれを使うと感染症とか怖いから更に薬を飲む必要かあるのだろうが、ゲート内ならほぼ無菌室状態なので傷口の処理さえ間違わなければ大丈夫だろう。流石に小石が骨の中に埋まった状態で回復したら、再度切開する羽目になるだろうし。
そんな薬を受け取り54階層へ。奇襲はあったが各々で対処して凌ぐ、エマがセントリーガンが歩くと言っていたが、言葉に間違いはなく数も揃えて走り回っている。そんなセントリーガンを追うように、ロボテクスーツを身に着けた宮藤が自衛用だろう刀を抜いてついていく。
前回足が手ひどくやられたのを踏まえての装備なのか、結構足回りがゴツいようだ。前回は叫んで連絡を取っていたのはインカムが外れたら連絡が取れないと言う事態を防ぐ為だったが、今回はインカムを使い連絡を取ることとなった。まぁ、俺以外全員ロボテクスーツやら自前の装甲を装備しているので外れないからだろう。
「宮藤は橘みたいに空を飛び出さないよナ?」
「空ですか?ボードでも自前でも飛べますよ?エマさんだって今ドローンで飛んでるのに自分だけ仲間はずれは寂しいじゃないですか。ただ、今回は木の上を跳ねていきます。ボードだと直線は良くても小回りが、ね!」
走るセントリーガンの横でしゃがんだ宮藤が爆発的な速度で突っ込みモンスターを焼きながら切り払い、そのまま木の枝の上を走る。確かに生身でジャージの時よりも速く動きもいいのでかなりアシストされているのだろう。そんな宮藤の傍らを橘が追走し木の陰にいるモンスターを撃ち落とし、或いは罠を使い追い詰めていく。
「橘、武器選択が遅い。さっさと始末できるよう他の武器も使いなさい。遅ければ危ないじゃない。」
「はいはい婚約者様、最適解は?」
「クロエの囮を利用した殲滅。次は気絶させない。」
「だ、そうですよ?やって下さい!」
練習の成果を出すなら確かに今だろう。空に飛び立ち誰よりも前に出る。慈しみはない。ゴミだから。手加減はない。敵対者だから。目に映る端から惹きつけ俺は此等の的になろう。
「見なさい・・・、私を。映しなさい・・・、姿を。その姿が映る時、貴方達は奪われる!」
背中を仲間に任せゆるゆると姿を映すように飛ぶ。不思議ではなく、当然に攻撃は飛んでこず森には一瞬の静寂が訪れる。多分、これは成功だろう。鎧にしても城壁にしても敵がいれば打ち砕かれるのは当然だ。それから守る為の物だから。しかし、それを砕けないものとするならどうするか?
考えられる中で最もいいのは壊したくないと思わせる事。触れれば壊れる、多少でも乱暴に扱えば崩れる。しかし、それを崩したくないと思わせれば惹きつける者としては多分成功!合気道の達人も言っていた、相手と友達になってしまえば負けないと。
モンスターと友達になるつもりなどはない。ただそこで黙って眺めていればいい。そうすれば俺でなくとも仲間達が背を撃ってくれる。
「囮は成功カ?背中しか見えないのだガ?」
「エマ、前からは見ない方が良い。鑑定した限りアレは駄目だ。ヘタをすると私達は悲しみを背負う。今の彼女の瞳はモンスターしか見ていないのだから。」
「なら、その背中に答えましょう橘さん。」




