341話 その笑顔 挿絵あり
サウナで温もり水風呂ダイブ!汗はかかないが数回もすれば整った気持ちにもなる。次いでにコリもしないがブルブルする電動マッサージ機を肩にあててコリをほぐす。動画の検証は勝手に学者やら偉い人達がするのでいいとして、目下の問題はあのジャングルとモンスターをどう攻略するかだな。会議室を借りてグテっとしながら話し合い・・・。
俺が言うのも何だが2人共元気だな。回復薬漬けになったとして、身体は良くても精神の方は早々回復しないんだぞ?今はまだアドレナリンが出ているからいいかもしれないが、ガス欠を起こせばやる気が失せる。適当に指輪からお菓子を出して糖分取りながら話すとするか。
「ざでど、どゔじまずががが・・・。」
「取り敢えずマッサージ機を止めてからがいいと思うゾ?行くメンバーの再選定を考えるのはどうだろウ?回復役がいないのはやはり心伴イ。薬でいくらしのげても弾丸や破片が残ればロスも多イ。」
「自分としてはもう少し中層に対するイメージを作ってからがいいですね。確かに木は焼けるしモンスターも焼けるんですが、規模を上げる都度に位置取りやらを考えないといけないので個人の動きを含めてイメージするか、最悪ソロの方がやりやすい場面もある。」
う〜む・・・、話していけば意見が割れると思ったが最初から割れたか。エマは役割分担と回復役の増員片や宮藤はイメージ作成からの個人強化か或はソロでの探索。両方いいたい事は分かる。治癒師がいて虚を上手く結合出来れば簡易的な避難所にも出来るし、今回は貫通したが切断なんかへの対処も出来る。
ネックとしては戦う治癒師として候補に上げられるのが、小田と夏目なんかの中位に至った人物と言う事。海外ではディルだったか?その人もカウントに入れたとしても日本メンバーはギルド稼働で大忙しだし、ディルがどこまで進んでいるのか分からないし、出会った事もないのでどこまで背中を預けていいか分からない。
逆に宮藤の言う様に個人強化が出来ればモンスターとは戦える。寧ろ戦って生きて帰ってきた。ただ、ソロであるが故に致命傷を受ければそのまま死亡と言う流れになる可能性が高い。今回のムカデは回避出来たが失敗すれば足からボリボリ食われておしまいだろう。
仲違いとまではいかないが、多分職の特性による食い違いかな。魔術師は大群を相手にする方が得意な場合が多いし、その分周りを巻き込む危険性を知っている。だからこそ、気絶したトリガーハッピーみたいに即ブッパはしないし限定的且つ効率的に物事を進めようとする。
逆にエマなんかの職だとピンポイントで狙いやすい分、大量殲滅を狙うよりも確殺思考になるし大群相手だと補給を気にする。どの部分で噛み合わせていくか考えると、手っ取り早いのは宮藤をエマが護衛する事だが、近くのモンスターに手を出さず遠距離ばかり狙えと言うのもまた酷な話だ。それに2人が2人共多数も単体も攻撃できない訳じゃない。その上で意見が違うからからなぁ・・・。
「クロエはどう考えル?」
「過去に学ぶなら押して引いての掃討戦ですかねぇ?囮を用意してモンスターを集めて大火力で焼き払う。その間雄二じゃないけど魔術師を護衛する。まぁ、攻撃範囲が明確ならバカスカ攻撃してもいいけど、横並び一直線とはいかないでしょ?要点はフレンドリーファイヤーをどう回避するかだし。」
単純に考えるなら攻撃範囲が分かる様にするか、攻撃範囲が見える指揮官を置くのが最適だろう。今回のメンバーなら橘がそのポジションに就きやすい。鑑定すれば魔法の範囲も見えてくるだろうし、インカムで連絡を取り合えば危険地域から撤退しろと言う司令も出しやすい。
俺も出来るがメイン火力が遊撃もせずに後ろに引っ込んでいるのは駄目だろうし、美味しい所だけかっさらう気もない。寧ろ、囮=俺と言うのが最適解なのではないだろうか?死なないし、惹きつけられるし、場合によっては同士討ちで数も減らせる。ソーツがそこまで知って残って掃除した方が効率的だと結論を出したのかは知らないが、現状を考えると確かに死なない1人が彷徨うのは悪い話ではない。
「クロエさんは何か変な事考えていませんか?1人で先に行こうかとか。辞めてくださいよ?探しに行くの大変なんですから。」
「先に行くかは別として囮は私かなと。」
「それハ・・・。しかシ、モンスターは誰にでも襲いかかってくるだろウ?」
あまり言いたくないし、はっきり言えば俺はこの能力が嫌いだ。そりゃあ欲しい人は欲しいだろうし、悪用しようと思えばいくらでもやり方はある。なんなら悪用せずとも自発的にそうさせる事も出来る。そうでなくとも目立つのは苦手だ。わざわざ人の視線にさらされるのも嫌なら、根掘り葉掘り自分の事を聞かれるのもあまり好まない。
仕事の事やら付き合いならいいよ?親しい人なら話すよ?ただ、話すタイミングは自分からであって探られる様にされるのは居心地が悪いし、少ない話だと自分が薄っぺらく思えて嫌になる。はっきり言おう、平凡な人間にどんなドラマチックな過去を期待しているのだと。ただ、同時にその平凡な誰かが他の人の明日を作っている事実を忘れてはいけない。
「そのぉ〜、私って綺麗じゃないですか・・・。」
「・・・、そんなに居心地悪そうにはっきり美貌を自慢する人は初めて見ましたね。」
「だガ、それは事実だろう宮藤。人を何人も並べたとして、その中でもクロエを選ブ。そう言う美貌だろウ?」
「そうなんですけど、自分としてはちょっと複雑なところがありまして・・・。」
そう言えば宮藤はエマが俺の正体を知っている事を知らないのか。オフレコでココだけの話にするならバラしてもいいが・・・。まぁ、それよりもここまで話したなら話さなければならない事がある。
「そういった次元の話ではなく職としての・・・、有り体に言えばポスターとか写真集の話です。」
「おォ!第2弾はいつダ?作るなら大統領もお喜びなル。」
「ジョージは奥さんとなかよくしてろ。そうではなく講習会の時に見せたでしょう?人を惹き付ける魔法。あれ、モンスターにも一定の効果があるんです。ただ、それを使うと周りがどうなるかわからない・・・。」
「自分は見てないから分からないんですけど、具体的にはどうなりそうなんですか?」
「エマは見た事あるから説明して。私じゃその感覚は全くわからない。」
何かしらスイッチが入った様になるが、それがどう言う感情なのかは分からない。少なくとも不快感ではないと思うがどうなのだろう?魔女の説明とかを考えるとコレクションしたいとか?手放したくないとか欲するならトロフィー的な感覚だろうか?
「一言で言うなら差し出す事を是とする様な感じだナ。見て欲しイ、見ていて欲しイ、見守っていて欲しイ。タバコが欲しいならカートンででもそれ以上でも渡そウ。そうすればその瞳に少しの間でも見てもらえるかラ。そんな感覚ダ。」
いや・・・惹きつけるとしては合ってるんだろうけど、面と向かってここまで言われるも恥ずかしい。そしてなんでエマはドヤ顔してんだ?言われた俺も困るが、聞かされた宮藤も困った顔してるし・・・。
「それが本当ならモンスターも寄って来そうですけど、モンスターに人間の醜美って分かるんですかね?少なくとも言葉だけでは・・・。」
「なら見せてもらえばいいゾ?本人がいるからナ。それの試しも含めての話だろウ?」
「そうなんですけどねぇ・・・。言い方が合ってるか分からないけど、出力?を上げるとやばいらしい。」
「う〜ん・・・、取り敢えずどこまで大丈夫か試してみませんか?幸い高槻先生もいるのでどうにかしてくれるでしょう。呼んできます。」
そう言って宮藤が出ていった深夜3時の会議室。わざわざ起こさなくていいし、寝た子は起こすなと言う言葉もある。俺達は帰って風呂入ってサッパリしてから話しているからまだいいし、今日の予定も休みなら休みと出来るからいいのだが、高槻なんかは会議とか研究上のやり取りとかあるんじゃなかろうか?
睡眠不足は舐めてかかると後々響くし、エナドリでどうにかなるとしても寝溜めは出来ないので寝る時はちゃんと寝た方がいいのだが・・・。まぁ、前より薬で若くなっているので無理の利く年齢と言われればそれまでだが・・・。実年齢的に言えば宮藤が一番下だが、それでも身体的には二十代後半に入ったので身体の元気さの度合いだけで言えば俺が1番なのかな?
そんな事を考えながらエマとあーでもないこーでもないと話していると、宮藤とパジャマに白衣、ナイト・キャップを付けた高槻に何故か藤が来た。どうでもいいが初めてナイト・キャップ使ってる人見た。寝辛くはないのだろうか?個人的には寝る時は薄着に限るので裸族でも下着でもいいのだが・・・。
「何やら面白そうな事をされると聞いて!」
「新しい魔法のお披露目と聞いて!水臭いでござるぞクロエ殿。事と次第では宇宙服の頭の部分のデザインを弄る必要があるではござらんか。」
「あ〜、デザインはあのままでお願いします。しかし、なんで2人共そんなに元気なんですか?」
ノリの良い高槻は藤と一緒にかっこよさげなポーズを取っているが、なんで深夜にこんなに元気なんだろう?格好的に高槻は寝てる所を起こされたはずなんだが?
「拙者はここの警備員も兼ねている故、アニメマラソンしつつ人形達を巡回させておった。その折宮藤殿と高槻社長を見つけて面白そうだと野次馬しに来たでござる。」
「私は寝る前に1杯飲んだ直後に宮藤さんが来たのでそのまま来ました。精神系の魔法を使うとか言うおもしろそうな事態にアルコールも早々に分解してしまいましたな。それで、どの様な魔法ですか?」
「魔法・・・、魔法かぁ・・・。単純に惹きつける者と言います。軽くやるのでヤバいと思ったら目を逸らすか瞑って下さいね?約束ですよ?」
全員頷くが信用出来ない・・・。ただまぁ、やるからには少しくらい小道具を用意するかな。キセルをプカリ。周りは蝶と花とかでいいかな?服は湯上がりでTシャツに短パンだったが流石にそれでは格好がつかない。早着替えでドレスに着替え、これで準備はいいだろう。
「もう始まっているのでござるか?」
「いえ、これからです。では先ず・・・。」
笑顔を作るが難しい。昔俳優が面白くもないのに笑えるかとオーディションで言ったらしいが、それは事実で表情とは感情で現れると思う。つまり、特にこれといった感情もなく笑う笑顔は薄っぺらいのではないか?愛想笑いでさえ相手の機嫌取りと言う意味があるのにただ笑うのは・・・。
ここは威嚇の意味を込めた方がいいのか?いや、敵対する者もいないしなぁ。なら、暗示をかけるか。笑顔とは威嚇であるらしいが、感情ではなく意識して美しい顔を作ると言うならどうだろう?笑顔とは様々な意味がある。失笑、嘲笑、微笑に照れ笑い。それだけの意味を含んでいるのに一口で笑顔と言うから作りづらくなる。
なら、美しい顔とか表情と定義した方がやりやすい。口角は?目の開き具合は?表情筋は?口は閉じよう。歯を見せる笑いはイメージと違う。スィーパー科学と言うモノから言えばイメージが先行して身体は動かせるらしい。なら、美しいモノをイメージして顔に写す。
美しいもの・・・。美しいもの?さてそれは何か?このまま魔女を模していいものなのか?醜美の話をするなら魔女は美しい。それは間違いない。間違いないのだが、今の魔女は俺のイメージを着ているに過ぎない。なら、その根本は?ふむ。莉菜か。
(そこは私でいいんじゃなくて?)
(・・・、なんで?)
(なんでって、貴女は私を美しいと思ったのでしょう?)
(あぁ、思った。)
(なら、私でいいでしょう?)
(いや?美しいと思ったが好きだとは思ってない。なんで好きでもない相手を真似なきゃならんのだ。顔は俺の顔だし笑い方さえ真似れればいいから別に魔女じゃなくていいし、それなら好きな人の笑顔を真似たいだろ?)
賢者か腹を抱えて爆笑しているが何だと言うのだ。私じゃなくていいのって言われてもなぁ。仮にイメージが固まれば次から魔女風に笑い出すんだろ?表情なんてものは女心並みに変わるものだが、笑顔を選べると言われて真似るなら妻がいい。
何せその笑顔やら生活やらを守る為にここまでやっているのだから、今更他の要素はいらないだろう。それに、妻の気持ちも知っているので後どれくらいその笑顔と出会えるか分からない。天寿を全うするとして後50年くらい?科学が進歩して医療技術が上がれば更に増えるかもしれないが、見られる笑顔はその時々で違う。
似た笑い方をすれば莉菜から何を言われるか分からないが、それを心に留めるくらいは許してくれるだろう。何せ死が2人を分けた後の膨大な時間はきっと君の事を忘れさせてしまうから。ゔっ・・・、納得して受け入れたけど悲しくなって来た。
笑顔笑顔、今は惹き付ける者の調整をしてるんだ。下手に考え出すと表情が崩れる。すまし顔でいいかな?爆笑は違うしやはり控えめに微笑みかける感じでいいのかな?
鏡はないが多分大丈夫。魔女はどこかへ行ってしまったが、急に来て話して立ち去るのはいつもの事なのでいいだろう。何せ俺の中からは出られないのだから、なにをどう取り繕おうと顔を合わせる事になる。それに、モンスター倒したり人の記憶を漁ったりと、結構好き放題しているので今更退屈には戻れない・・・、よね?
「多分ポスターの1歩か2歩先です。どうでしょう?」
誰も話さない。そんなに見つめられると照れるので辞めてほしい。辞めて欲しいが自身で使ったので見るなとは言えない。でも、顔を隠すくらいなら許してくれるかな?手で顔を隠そうと左手を持ち上げる。エマが抑えた。ならばと右手を持ち上げる。宮藤が抑えた。ならばと首を捻ってそむけようとすると高槻と藤が顔を抑えようとして辞めてそれぞれに肩を掴まれた。いや、何か話せよ。
「あの〜、そろそろ辞めていいですか?」
「辞めるなんてとんでもない。いえ、辞めるなら辞めてもらって結構です。ただ、体調に異変を感じていませんか?中層と言う過酷な場所に貴女は行きました。なら、主治医としてメディカルチェックを提案しますがいかがです?」
「拙者もお供しますぞ!」
「私も行こウ。中層は大変だったからナ。」
「なら自分もいかないとですね。」
「やめろ。怪我はない。ちょっと頭冷やして正気にもどれ!」




