332話　帰宅

　青山とフライトして大分へ。辺鄙で何もなく、話題になると言えば桜並木程度だった空港はやたら発着便が増えて、多くの店が軒を連ねるようになった。まぁ、ギルド特需を狙ったモノだろうが、他の県のギルドが順次稼働したらまた殺風景になるのだろうか？まぁ、引っ越しも楽だし解体も自力でやろうと思えば出来るのでいいのかな？

「東京出張お疲れ様でした。送りますけどどこへ向かいます？」

「家でいいよ。そこまで遅くないけどカオリも帰ってるだろうし、私も帰ったら時間合わず直帰するって言ったから。まぁ、何か急ぎの仕事があれば連絡貰う様になっててそれが来ないなら大丈夫かな。」

　東京で何があるか分からなかったのでこっちに戻ったら時間問わず直帰。向こうでも書類整理はぼちぼち進めたし、これと言って大事になる様な案件もなかったので大丈夫だろう。ただ、ギルド前が広場な事をいい事に遠足の目的地にさせてくれと言う話が何個か舞い込んでいる。

　別に目的地にして勝手に来てゴミを残さず勝手に帰る分にはいいのだが、ギルドの敷地であると同時にスィーパーや獣人が走り回ったりしてるんだよなぁ〜。貸し切りは流石に無理だと返すとして、一部を使うくらいならいいのかな？

　小学生が獣人と言う者に触れ合ういい機会にもなりそうだし、それ以上の年齢ならスィーパーと言う者を見るいい機会になるかも。自分の所の親がスィーパーと言う家も少なくないが、兼業でやる人も少なくないので子供達としては父親が急にランニングしだしたり、金貨持っていたりとよく分からない存在になってるかも。

　まぁ、疎開して子供としてもゲートやモンスターを朧気ながらも肌で感じているだろうし、一部使用許可と言う形で許可を出してもいいだろう。暑くなる季節だし熱中症になったら医務室に来てもらえばいい。次いでに言えば有志のギルド周辺人工ビーチ化計画は浮島の要領でほぼ周囲全部がビーチになったらしい。らしいと言うのは俺も完成形を見ていないから。

　許可は確かにした。戦闘区域外は好きにしても何も問題ないから。有志の連中も最初はぼちぼち作って、来年くらいに形になればいいかなぁ〜と話していたが人の欲望は凄いらしく、獣人の水着姿が見たいが為に男共が全力を出したらしい。

　突貫工事みたいだから安全性どうなの？と聞いたら、台風が来たら浮島は指輪に収納して、過ぎ去ったらまた設置するとか。まぁ、遠足に来た子供が落ちなければいいが・・・。犬人？勝手に落ちて犬掻きして帰ってくればいいよ。ただ、泳ぐなら水着は着ろよ？魔術師：水はシャワー要員にでもなって砂だけは落としてくれ。その後なら温泉入っていいから。

　いつの間にか温泉リゾート化している様な気もするが、嫌われるギルドよりも寄り添うギルドの方が、なにかの際に助力を願いやすいのでいいだろう。

「そう言えばお前の定住先ってどこ？」

「アパートは借りてますよ？今から来てお茶でもしますか？他の家具は殆ど指輪に収納してるんでかなり殺風景な部屋ですけど。」

「いや、お互い疲れただろうし帰ろう。どうせ明日も仕事だしな。青山は休むなら休んでいいんだぞ？体調を整えるのは何も薬を飲んで健康でいる事ばかりではないんだし。好きな事して羽根を伸ばすのも良いものだ。」

「なら一緒に出かけましょう！遊園地がいいですか？プールですか？それともバイクでツーリングですか！？」

「好きな事に人を巻き込むな。ツーリングには惹かれるものがあるが、私が走る時はおしゃべりなんかせずに風とエンジン音を楽しむ。」

　ナチュラルに人に運転してもらう事に慣れてしまって車に乗ったが、考えてみれば指輪の中にはバイクも入っている訳で・・・。いかんな、出来る事を人任せにすればいつか忘れて出来なくなってしまう。ただ、運転すると確率は減ったが相変わらず止められる事があるんだよな・・・。そんな青山に送ってもらい家に着き分かれる。外の犬小屋ではバイトが眠る様な格好をしているが、コイツは眠らなくてもいいので、どこかの犬を真似ているのだろう。

　もしくは連日のオーバーワークが効いてる？普通犬のペースに合わせて動く方が疲れるのだが、バイトを散歩に連れて行くのは主に息子と望田。つまり、数十km走った所で元気な2人組。普通の飼い犬なら見ただけで逃げ出しそうだが、コイツに逃げると言う選択肢はないらしく黙々と一緒に走る。

「ただいま帰った。なにか変わった事は？」

(いえ、何も。)

「そうか。じゃあ明日まで好きにしていいぞ〜。」

　繋ぎ紐を解いてやると、身体を振るわせた後に風の様に駆けて行く。本来ならご近所さんに大型犬を放し飼いするなと文句言われそうだが、今まで文句言われた事ないし、何よりバイトが人に迷惑をかけるとは考えづらい。

　まぁ、フェリエットの件があるので完全に大丈夫とは言えないのだが、自分の命と他人の命を天秤にかけた時、バイトは間違いなく自分の命を取るだろう。だからこそ、俺から不興を買う行動はしない。外でプカリとタバコを一本吸い終えて家に入るが、微妙に皆の帰宅時間より早かったのか誰もいない。

　取り敢えずお土産で生菓子系だけ冷蔵庫に入れて、適当な本を取り出してソファーに寝そべりテレビをBGM代わりに読む。骨相学？何で19世紀に流行って20世紀で否定された学問の本が出るかな？まぁ、手に取ったからには読むけどさ。出来ればユングかフロイトもしくは日月神示とかでも良かったな。

「中国とロシアが共同宇宙開発を表明しましたが、この動きどう思われます？」

「元よりこの2カ国は月面に原発を作ると言う構想があり、他の諸外国も中国主導の月面基地計画には参加していました。今回の話は先んじて配信されたファースト氏の地球外生命体との邂逅を意識しての動きでしょう。我々が確認出来た地球外生命体、宇宙人は2種族でしたが、見える方には更に多くの宇宙人が見えている。月に行ったからと言って出会えるとは限りません。限りませんが、出会えないとも限らない。ゲート関連での遅れが目立つ分、ここでアクションを起こさなければと言う焦りもあるのでしょう。」

「宇宙開発は元々注目されていましたが、こうして宇宙人と正式にコンタクトが取れたからには無視できない問題ですからね。やはり技術力はあちらが上であると？」

「当然と言えば当然ですね。ゲートや職、出土品に回復薬。不老に不死と言うモノまで可能にする技術力は人類にはありません。我々はようやく地球から外を覗く事が出来るようになった。言うなれば赤ん坊が捕まり立ちしてベビーベットの外を見ている様なものです。そして、そのベビーベットの外は既にハイハイの子供ではなく車を乗り回す人がいる。状況としてはそんな感じでしょう。」

「そうなってくると地球が安全とも言えませんね。やはり侵略はあると思いますか？」

「はっきりした事は何も分かりません。なにせ私達は彼等の言語が理解できない。ただ、仮に侵略するなら私達は既に侵略されていなければおかしいとも言えます。なにせ技術力で勝っている時点で交渉や警告などせずに、思うままに攻め滅ぼせば事足りますからね。まぁ、私達の地球に彼等からして魅力的なモノがあるかも分かりませんし。」

「難しい問題ですね。でも、私も宇宙人が見えるかもとシャコの目サングラスを買ってみました！本当のシャコの目とは違いますが、ブルーライトカット効果もついてお得なんですよ！それでは次、ギルド前広場からです。」

　確か2023年に中国主導の月面基地プロジェクトを発表して、その流れで原発作るとか言ってたやつかな？まぁ、目的が変わった様だが一体何を呼び込むつもりやら。少なくともソーツに関して言えば如何な声で叫ぼうが呼んでも来ない。

　他の宇宙人にしても、言語理解不能では変な代償を払わされる可能性がある。宇宙人との対話と言えば高尚なモノに聞こえるかもしれないが、本質は異種族間コミュニケーションなので見方を変えれば現代人と未開の部族が交渉するようなもの。当然、そこには価値観の違いもあれば生活様式の違い、或いは所作1つとっても何が失礼に当たるかは分からない。

　日本の芸人がツッコミで相方の頭を叩く事があるが、あれだって他の国の人からすれば信じられない行動と受け止められる。地球の中でもそれだけすれ違いがあるのに、宇宙人相手になにか申し出るとか交渉するだけの材料を持っているのだろうか？もしかして、なんの準備もせずにお願いだけ聞いてもらうなんて言う虫のいい話を考えていないよな？

　勝手に自滅する分にはその国の問題なので関わり合いになるつもりはないが、面倒なのは飛び火した時。だって、ソーツだって人の顔も見分けはつかないし、賢者だってみんな同じに見えると言っていた。アリの個体差を人が見分けられるのか？極論を言えばそうなる。そして、相手の癇に障ったら？アリなら巣に水を流し込まれるか蟻塚をぶっ壊される。

　つまり、そっとしておけばいいパンドラの箱を鼻歌交じりに開けようとしてるんしゃないのか？どこの誰ともまだ接触してないと思うが、実はヤバい方向に舵切ってない？

「ただいま〜って、まだ誰もいないかしら？」

「飯がほしいなぁ〜。」

「お帰り〜、俺が帰ってるよ〜。」

　妻の声がしたので思考を辞めて返事を返す。考えても行き着く先の結論は政府を通じて話すくらい。少なくとも宇宙開発やめろとは言えないんだよな。うちは良くても他は駄目。それはただのエゴで、相手は絶対にもっといい出会いがあるかもしれないと言って聞かない。なら、そちらの意見を多めに取り入れると言えば、次は更に取り入れろと言ってくる。

　まるで昔話だな。4人の男が共同で牛を買った。そのうちの1人が腹が減ったと取り分である牛の一部を切り取ろうとする。しかし、他の3人としては牛を活かしておきたいから、話し合って切ろうとした男に取り分を増やすからやめろといい、男はそれならと引き下がる。だが、すぐにまた牛を殺そうとして取り分を増やしていき、最終的に牛は全て男の物になった。

　当然牛をすべて奪う男の策略なので、その後男は牛を殺さずに牧畜にして老衰までこき使い、使い終われば肉として食べる。そんな昔話。とんちが効いた話だが、現実的にそれをすると恨みを買うのは当然だろう。1/4の料金で他3人の利益まで取ったなら、当然3人分の恨みは間違いなく買っている。

「思ったより早かったわね、最後の便で帰って来ると思ってたわ。」

「居着くつもりはないからね。くつろぐなら我が家が1番。」

「撫でる権利をやるからじゃこを寄越すなぁ〜。」

「お前じゃこで腹一杯にはならんだろう？晩飯まで我慢しとけ。」

「そうそう、つまみ食い常習犯オブ・ザ・イヤー不動の1位なんだから、少し食べなくても大丈夫よ。」