324話 怪談話? 挿絵あり
飯を食いながらぼちぼちとスィーパーやら家の事やらを話一服。どうやら初期禁煙はウチだけだったらしい。証拠にテーブルには灰皿が置かれている。ただ、ワガママを言うなら飯食いながら他人のタバコの煙は吸いたくない。銘柄毎に味も香りも違うし、嫌いな人は嫌いだからねぇ。まぁ、今回は雄二が吸っていいと言うので吸っているが・・・。
「やっぱり稼働して数日は更に忙しそうっすね。」
「待ち望まれて稼働する分、個人が溜めてた仕事の矛先がこちらに向くからね。ある程度経てば職員も慣れるから忙しさは減っていくよ。」
「その数日を乗り切るのが問題っすね。余裕ある内に都市高走って来ようかな。」
「ん?バイクに目覚めたか。」
「貰っちゃいましたからね。実際頭空っぽにしたい時は都市高を流してます。ただ、最近最高速度が120km/hになったんで更にスピード感が増しました。」
「マジで?それ初耳なんだけど?」
「出土品出て以降物の性能が上がってるっすからね。流石にクロエさんのモンスターバイクはまだ、民間には出回ってないっすけど自衛隊さんはゲート内で乗り回してるみたいっすよ?」
「確かに原付き消えて普通免許で小型なら乗れる様になったし、時代の流れだね。」
「見た目だけならクロエさんはかなり幼いんすけどね。」
そんな話をしていると扉が開き煩いのと何処かで見た顔が・・・、確か槍使い?大会でボクサーとやり合ってた人だったかな?そうか、雄二は彼を副長にスカウトしたのか。実際、大会参加者は職員にどんどん勧誘したし、副長は本部長が任命していいので、自身の足りない部分を補う様な人を人選してもいいし、似た様な考えの人を選んでもいい。
例外と言えばウチの望田と井口くらい?大会から本部長になった人は対戦相手に声をかけたりして早めに確保する人もいたし、どうしてもいい人が見つからない時は他の本部長に相談したりしていた。ただ、副長は副長で責任ある立場なので素行調査はかなり厳しかったと聞く。
「そんで青山さんは念願のファーストさんの所で活躍してる?」
「どうだろう?でも、その為に俺はそこにいる。地位も名誉も必要ないし、願われれば願われた分だけ精進して前に進む。実際、スィーパーはモンスターと戦って、ゲートを旅してればいいんだろうけど、世間がそれを許さないしクロエさんは本部長の道を選んだ。なら、俺はそれのサポートが出来ればそれでいい。」
「ぞっこんな分実りがないのがまた悲しいな。おじさんはそんな燃えるような恋は卒業しちゃって話を聞くだけで火傷しそうだ。」
また知らん所で青山の評価が上がっとる。槍使いがぽんぽんと青山の肩を叩いているが、本当に話だけ聞くと立派なんだよなぁ〜・・・。ただ、実態はストーカーでストーカーなストーカー野郎である。身近に置いとかないと何しでかすか分からない爆弾だと考えておこう。
実際褒めて伸ばす云々よりも、お願い事して方向性を示した方が青山は扱いやすい。個人的に指示待ち人間は悪い存在ではないと思う。自分で考えて動けと上司は言うが、それは上司が指示を出したくないだけか責任を取りたくないだけ。
何せ良かれと思ってやってもミスすれば怒られるし、上司の考えにそぐわなければやり直しをさせられる。それはどう考えても二度手間だし、仕事を任せた後に終わらせて持ってきたなら明確なミス以外はそこまで文句をつけなくていい。報告書の表現が違う?はん!何度も言われたが、俺は上司本人じゃないからその人の情緒で文章なんか書けないし、構成を指定するなら最初から指定してくれよ・・・。
「あの人がウチの副長っすね。名前は新名さんです。新名さん、こっちこっち。」
「木崎本部長も飯って、ファーストさん?来るとは聞いてたけどここで会うとは。東京ギルド副長の新名 葉月。ファーストさん風に言うなら外人さんみたいにニーナと呼んでくれていいですよ?」
「新名さん!飯のオーダーはどこで!?今日のクロエさんは腹ペコで、かなり食べるから注文して運ばないと!」
「青山さん、ご飯はもう食べたのでいいです。雄二が自身で貴方を副長としたなら私からとやかく言う事はありません。これから雄二をよろしくニーナさん。」
草臥れたサラリーマン風で飄々とした感じだが、握手すると掌はぶ厚い。多分、槍を使う関係上握り込む事が多いので自然と分厚くなるのだろう。これだけぶ厚ければ汗で滑って槍を落としたなんて事は無さそうだし、落としたとしても槍は手元ですぐに帰って来る。
「一緒に昼食を食べようと思ったのに・・・。」
「ちょっと遅かったですね。それでは2人は今まで何を?」
青山には依頼処理をやらせていたが、新名も一緒にやっていたのだろうか?稼働前だが人が多い分依頼自体はなくなりそうにないし、ロビーを歩いた時に見たボードはボードその物が増設されているにも関わらずかなりの量の依頼が貼ってあった。
本当に落成式ってなんだろう?まぁ、仮運用でもしないとぶっつけ本番でミスしたら事なので仕方ないか。今日来てギルドを見た感じ、かなり忙しいけどそれでもショートする程ではない。余力も多少はありそうだし、このままの流れで正式稼働出来れば大丈夫だろう。
「依頼処理頑張ってました!迷子の犬、猫、獣人も見つけて来ましたし、なんか変な物も捜索して見つけて来ました。」
「おいちょと待てよぉ、変な物って何?」
変な物、よく分からない物って言葉は恐怖!昔なら・・・、昔なら変な物って言われても落ちた軍手がカビてボロボロになったものやら、悪くて腐った動物の死体とかで良かった。しかし、青山が変な物とか言い出すとか嫌すぎる!
「アレは確かに変な物・・・、でいいのかな?ファーストさんはセーフスペースの怪談って知ってる?」
「怪談?百物語とかのあの怪談ですか?」
「そう、それそれ。6階層のセーフスペースで囁かれる怪談話なんだけどさ、簡単に言うとなんでか1体だけセーフスペースにモンスターがいるって話。真っ赤な姿で理由の分からない事を叫ぶ時もあれば、襲わず立ち去ってばかりなんだって。」
「そのモンスターを見つけたと?青山さんと2人なら即刻処分でしょうし、そもそもセーフスペースにモンスター?」
「噂ではゲートで亡くなった方の怨念なんかじゃないかって言われてます。それをまとめた文章ですよ、見つけたのは。」
青山が指輪から取り出した文章を見るといくつかの証言がまとめられている。曰く叫ぶ。曰く二足歩行。曰く髑髏っぽい。疎開以降セーフスペースには人の出入りも多いので、そんな怪談話も出来るのかな?実際カタコンベと言う訳では無いが身近な墓場と言われれば、確かにスィーパーが亡くなるのでそう思えないこともない。
薄暗いセーフスペースで誰か肝試しでもやろうとして、それが無関係の人に見られて怪談話になったとか?確かに木は不気味だし植物も不気味だし、何なら馬は三つ目で人の考える造形とはかけ離れている。そんな中で得体のしれないモノを夢想してしまってもおかしくはない。
「まぁ、学生スィーパーも増えましたし悪ふざけする人がいてもおかしくない。それに秋葉原でのスタンピードが発生した日も近いですからね。どうしてもゲート内と言う事で恐怖のあまり見えないはずのモノが見えてしまっても仕方ない。と、これは?」
文章に付随してイラストが1枚。赤いメカニカルな装甲をつけた髑髏はモンスターと言ってしまっても遜色ないのだろうが、頭部が人を模しているだけでどうしても人の成れの果ての様に見える。証言を集めた末に描かれたものだろうか?
「証言を元に描かれたものですよ。ウチのギルドはゲートの横に共有ノートが置いてあるんです。木崎本部長たっての願いでね。書くも自由、書かないも自由。でも結構書く人は多い。ノートが切れたら補充するだけで殆どウチ等は中身見ない。」
「え、雄二見ないの?」
「仲間内での思い出だったり遠方から来た記念だったりで結構プライベートなもんすからね。公のノートに書いてあるんです見てもいいんでしょうけど、本部長として書く事はないんで見ないようにしてます。」
雄二なりの線引きなんだろうな。本部長としてスタンピードの際にはスィーパーを指揮しなければならない。その際にこのノートを見て躊躇する事を無意識か意識的かで避けたのだろう。ただ、もう雄二に対して若いからと言う言葉は使わない。少なくとも対等な同僚なのだから歳は関係ない。
「そう決めたならいいんじゃない?必ず見ないといけないものでもないしね。さて、話し込んじゃったけど当日の会場とかも案内してよ。」
「了解です。行きましょうか。」
雄二と歩きギルド内を見て回るが、注目されまくっている。まぁ、大分にいるはずの俺が突然現れたら仕方ないだろう。そんな騒がしいギルドを過ごしホテルへ。エマと飲み怪談話を話して夜もふける。忙しいが落成式が終わればまた大分に戻れるしもうひと踏ん張りだな。




