323話 宇宙服 挿絵あり
雄二に連れられてやって来たのはギルマスルーム。作りは概ね一緒と説明を受けたが、部屋の一つ一つの広さが大分の倍はありそう。そして、広いはずのギルマスルームは書類のせいで狭く感じる・・・。何でまたペーパーレス化しないかね?どうせ決裁すれば保管文書と言う名の指輪の肥やしになるだろうて。
手近な書類を見れば獣人の申請書の束があり、他の物に目を向けても出土品の問い合わせだったり、許可申請だったりと確かに雄二が采配権を持つ物が多いが分業化出来るモノは多数ある。ん〜・・・、人が多い分大分よりも更に割り振り先を決めないとどうしようもないなコレ。
「先入りした夏目さんはなにか言ってませんでしたか?」
「夏目さんか・・・、自衛隊の方で分業できないか掛け合ってもらってますよ。ただ、警察側からすればそれも面白くないらしくて、『それは本部長が決めないと不味いだろう?』って言い出したりして上手くいってないんです・・・。」
「増田さん、黒岩さんと大井さんに話は通せないんですか?あの2人に話が通せればかなり分業化出来るでしょう?」
「お二人共かなり上の地位ですがトップではない。それに派閥もあるので一筋縄では・・・。両組織とも出向して手伝ってもらってはいるのですが。」
どうしたもんかなぁ・・・。よし、ここは強権を振りかざすか。下手に出て駄目なら上から打ち据える。いくら若かろうと本部長の肩書は伊達ではない。そして、その肩書は各省庁のトップに比例する。つまり、トップがトップに物申す事が出来る。進まない仕事に意味はない。昔から思っていたが、派閥と言うのは鎧である。そして、その鎧の形はスケイルアーマー。つまり、自身が守られている様で其実、何かあれば剥がされて最終的本体さえ無事ならいい構造。
そして、その本体とはトップである。鶴の一声とはよく言ったもので、本体であるトップが方針を変えれば鎧はその方向に向くしか無い。だからこそ強権で殴るならトップ。遺恨も残るだろうが、戦う者が戦えない惨状は目に余る。そりゃあスタンピードが発生すれば事務仕事そっちのけで戦場に出るし援軍もあるだろうが、日頃からモンスターと戦えない様な状況は不味い。
「これ以上人員確保が出来ないなら民間と獣人を登用します。特に獣人についてはスィーパーが何らかの要因で行方不明になった場合、そのままギルドが面倒を見る方向性なので早期に教育を実施しましょう。神志那さんからデータは来ているはずです。」
「それは・・・。いえ、木崎本部長のGOが出るなら通達しましょう。教育と言いますが、どの程度の期間が必要だと想定しますか?」
「フェリエットを観察した限りなら雑務、ウェイトレスは出来ているので案内等の雑務は可能です。管理者を1人置きそれ以外を獣人に任せれば浮遊人員が生まれ、その生まれた方達を獣人では不安な所に再度割り振り業務の効率化を行います。」
「獣人かぁ・・・、食費かかるんでしたっけ?報告書とかは読んでるんすけど、あんまり接点がないからそこまでピンと来ないんすよね。大分ではどれくらい登用してるんすか?」
「今の所数人だよ。帰らないスィーパーの代わりに行き先のない獣人を引き取って、食堂や受付なんかで仕事させて給料プラス衣食住の面倒を見てる。まぁ、まだ教育段階だから明確にあの人がリーダーってのを決めないと、色んな人に話し聞いて指示が錯綜するんだけどね。」
実際ウチで登用している獣人はフェリエットをリーダーとして動いている。そして、フェリエットは何かあれば俺に聞きに来る。最初の頃は登用した獣人が色んな人に知らない事を聞いて回って大変だったな・・・。ただ、大分から貸し出した人員も一定期間で引き上げるし、継続的な人員不足は早期に解決しないといけない。
ここに来るまで見た感じ民間人がどれくらい職員登用されているか分からないが、多分少数なのだろう。別に組織でパイの取り合いをするなとは言わないが、足を引っ張り合って動きが鈍るのもまずいし、自衛隊と警察と言う大組織が人を出せないと言うのもおかしな話。
落成式後・・・、ある程度ギルドが安定稼働した後に大手振って天下り先にされても困る。雄二にリーダーシップがない訳では無いが、老人から青年がお願い事をされれば中々嫌とも言いづらい。いっその事、獣人プラス若い人で固めてしまって長職だけノウハウのある先輩に任せるか。
実際これをすると各組織とも人を出してくれる。なんでかって?新しい組織だが締め出されるとまずいからだよ!どの程度人が足りないか割り出し、その人数が公務員を上回った瞬間、ギルドは民間の勢力圏となる。つまり、いくら警察や自衛隊がなにか言おうとも構築されたシステムに後から入り込むのは難しい。それに、民間系の人選は既に済んでいる。
「雄二、どの程度人が足りない?それが分かれば補充は出来る。まぁ、すぐにとは言えないし、相手がOKしないと駄目って部分はあるけど、ある程度身元の保証はある人達がいる。」
「マジっすか!1番足りないのは事務方っすね。特に警察と協力して犯罪捜査したりする人はそこそこ荒事が出来る人が必要なんすよ。俺の方で指名してスィーパーにお願いしたりするんすけど、どうしても拘束時間と身入りが悪くって引き受けてくれる人が少ないんすよ・・・。」
「ふむ・・・、増田さん。ギルド運営資金の職員報酬部分を増やします。保険の方もこそこそ軌道に乗ってきているのでいきなりショートする事はないでしょう。大会でも米国からも国家予算からもいい額貰って潤沢ですからね。それと、本部長選出戦に候補に上がったけど漏れた方。この方達を積極的にギルド職員として登用します。」
「それは・・・、警察も自衛隊も良い顔はしませんが?」
「しないなら人を寄越せと言う事です。大分を見て忙しそうだから落ち着いてから来て要職に就こうなんて、そんな舐めた考えは公僕には通用しません。ついでに言うなら足腰の痛みは薬飲めば治ります。重労働で出来ないと言う言い訳をするなら・・・、部門長や課長になってもらって責任だけ取ってもらいましょう。無論、報酬はそこそこ出しますよ?実働しないなら役職分だけですけど。」
部長首だ!!部長首だろう!?なあ部門長首だろう、おまえ首置いてけ!!なあ!!!あれも嫌これも嫌、でも甘い汁だけ啜ろうなんて美味い話はない。その汁を啜りたいなら責任の刃の前に首置いとけ。そうすれば、責任が降りかかるまではフォアグラ作るみたいに甘い汁を飲ませてやるから。
まぁ賄賂なんかは別として、出土品の不正横流しや、Aランク品の不正手続きでの払下げなんかは橘と言うか、警察も政府も黙っていないので不正自体が難しいところもある。本当は言い逃れ出来ないスクリプター2人体制で仕事させるのがいいのだろうが、こればっかりはねぇ・・・。
「人員の目処はいいとして、溜まってる書類をさっさと片付けましょうか。」
雄二と増田は先程の話を元に書面作りに入り、俺は溜まっている書類確認。ギルマスの印鑑をギルド用と個人用で作ってもらって良かった。思考訓練の一環としてキセルを吸ってプカリ。昨日の今日で速度が上がるわけでもないが、それでも煙を撒いて視界を変えながらどんどん書類を視て読む。
山積みだが分類分けはされているので後は間違い探しだな。神近と話したりして法律面もそこそこ覚えているので、忘れた部分は賢者に聞きながらどんどん進める。幸いなのは用途不明出土品が出て来てない事と設計図の持ち込みがない事。単純に箱の中に死蔵している可能性もあるし、持ち込み先が分からずに手元に置いているとも考えられる。
究極的に言って日本が頑張っても世界の何処かで出れば、それには規制も何も無い。海外支社のある企業なんかは日本で許可の下りなかった出土品を海外で研究しようなんて動きもあるし、出土品はそろそろ本当に危なさそうな物以外規制が撤廃されるかもな・・・。
(増田さん・・・、あれって仕事してるんすかね?キセルから煙出してるだけっすけど。)
(君に分からないなら私にも分かりません。あの煙は魔法なのでしょう?PCでモンスターをモデリングする時もケーブルを咥えたと聞くので、あの口の中になにかあるんじゃないですか?)
「そこ、こそこそ話さずさっさと書面作ってください。私はこれから署名やら捺印やらする作業に入るんですから。」
誤字脱字は赤ペンで印をつけ文章ラインでいいか。それ以外は問題なさそうだし、賢者が間違い探し感覚で訂正部分を示してくれるので楽でいい。それに、実は魔女は文章構成にうるさい。書類を一枚の絵として見た時、その部分にその言葉がないと美しくないから嫌いだとか。
ただ、やりすぎると本人が伝えたかったものと、魔女が美しいと思うものとの違いが出るので大々的には出来ない。まぁ、魔女は魔女で宇宙服のデザインをする片手間なので文句言ってもならやらないと返してくるだけなのだが・・・。
「何枚程度行うのですか?」
「そこの二山は終わりました。ただ、誤字脱字と文章間違いの書類が何枚かあるので、それは再度確認してください。分かりやすい様に印はつけています。」
「・・・、増田さん。クロエさんって東京ギルドの備品になりませんか?俺達がヒイヒイ言いながら確認してる書類の山が一部消えたんですけど・・・。」
「私もそうしたいですが本人が嫌がるでしょう。クロエ、何かコツはないのですか?」
「コツ?スィーパーの勉強方法講座は宮藤さんがやったでしょう?増田さんは参加してないにしても雄二は聞いて・・・、あの頃は既にバタバタしてたのか。コツというか先に応用になりますが、雄二が道を探す職なら正解までの道を探せばいいし、増田さんが狩人なら書類の間違いは他人が仕掛けた罠でしょう?罠を扱う者が罠の設置箇所を理解できない訳がないじゃないですか。」
エマは狩猟者で追跡者なので、事務作業には結構強くなったらしい。少佐から大佐に躍進したしデスクワークも増えたので、自身で応用しだしてかなりの処理能力があるとか。実際雄二達は手探りだった分戦闘方面には力を入れたが小手先の技と言うか、戦闘以外となると一歩劣る所がない訳では無い。
宮藤に頼んで勉強方法講習会とか簡単にはして回って貰おうかな?まぁ、書類作業に追われれば嫌でも応用しだすとは思うけど。取っ掛かりは大切だしね。
「話は分かるっすけど、印鑑とかは・・・。」
「そりゃあ手だよ。剣を振るみたいにさっさと押すといい。増田さんが押すなら飛び出し式のトラップの先を印鑑にしたらいいんじゃないですかね?」
危ない事はしたらいけないが、そうでないなら日常レベルで職を使うのは悪い事ではない。運送業なんかは指輪で既にモノを運搬しているし、遅刻しそうな学生は屋根の上を必要なら走る。最近ではゲート内で届け物が出来ないかも試されてるとか。ボッタクリ料金だろうと、回復薬が切れた時にデリバリーしてもらえるなら需要はあるからね。
まぁ、余り先には来てくれないだろうし、運ぶ本人もモンスターと戦ったりやり過ごしたりしないといけないので、考え方によっては荷物プラス傭兵のデリバリーとか?少なくともそのデリバリー業務をする人が弱い訳はない。
「これはシフトシェンジ・・・。いや、シフトアップですか。どうしても戦う力と考えてしまうから、そちら方面には結び付きづらいのでしょう。後数年もすればゲートの職で就職先も決まってしまいそうです。娘が大人になる頃にはどうなるか・・・。」
増田が亜沙美ちゃんの事を思っているが、段階を踏んだ変化なら受け入れられるだろう。多分混乱やゴタゴタで一番忙しく、そして面白いのは俺達だろうし。新しい枠組み作って形を明確にする者の特権である。
そんな話をして黙々と書類整理やら決裁やらをして、更に書類の山が消えた頃。流石に集中力が落ちてきたのか雄二が背伸びしながら口を開く。
「そう言えば書類仕事始めちゃって当日の段取りとか話してませんでしたね。落成式は明後日の10時から。テープカットと総理大臣からの話に俺の所信表明。クロエさんもなにか話します?所信表明後に時間作れますけど。」
「いや・・・、くす玉割るくらいでいいかな。下手に目立つと悪いし、何より東京ギルドの長は雄二だからね。そう言えば、宇宙服ってここの近くで作ってる?増田さんがくれるって言ってたけど。」
「斎藤さんや藤さんがたまにウロウロしてるのは見るっすけど、近くで製造してるのは聞かないっすね。ラボで作ってるんじゃないですか?」
「雄二君が言う様にラボで製造しています。基本的に旧式の白い宇宙服はこれから使う予定はなく、パワードスーツを流用した物がメインとなります。デザインについては・・・。」
「あっ!デザイン用意するんで形作るのは待ってください。」
(完成してる〜?)
そこそこ時間もあったし、壺の時に絵を描く速度は尋常ではなかった。あれがやっつけ仕事か否かは分からないが、筆を置いたなら満足行くものだったのだろう。ただ、人の精神に絵を描くのと自身が間接的とは言え着る物をデザインするのが違うと言われればそれまでだが・・・。
(そうねぇ・・・、貴方達が作るとすればこれかしら?煙で立体を出す?それとも、片腕だけ貸してくれるのかしら?)
流石に写真だけではどうしようもないと思い片腕を貸して、ペンはどうしようかと思っていたらキセルを化粧箱に突っ込み取り出した。あれはインク壺では無いのだが・・・。寧ろ、キセルはペンではない。しかし。ここで俺が苦言を言うのも変な話なので成すがままにプカリと一服。
他人にタバコを吸わされている様な違和感があるが、事実として利き手を貸したのでその違和感は間違いでもない。そのまま吐いた煙を指に集めて紙に押し付けると、プリンターの様にどんどん描かれていく。
「これはイメージを転写しているのですか?」
「器用なもんっすね。」
「そ、そうで〜す。器用なんで〜す・・・。」
昔アイドル・ハンズって映画があったな。エイリアンハンド症候群とかがちょうど話題になった頃のものだったと思うが、そうでなければアダムス・ファミリーのあの動く手とか?勝手に肩から先が異様な速度で動くので見ている俺としては結構不気味。しかし、雄二達的には器用で済むレベルらしい。
そうして出来上がった宇宙服のデザインだが・・・、魔女の野郎フザケやがって・・・。確かに綺麗な絵である。青や紫の花が咲き誇るように椅子に座り、金糸のあしらわれた純白のドレスに藍色の衣。精神世界で会う魔女を描けばこうなるんじゃないかなぁ〜と言う感じに仕上がっているが、これはドレス姿の美女であって宇宙服では無い。そもそもヘルメットもないので呼吸どうするよ?
確かに呼吸しなくても死なないし、この姿でも宇宙に行けるんだろうが流石に無理がありすぎる!そんな事を思っているとなんかドヤ顔の魔女の声が聞こえる。
(必要ないけど貴女は要ると言うのでしょう?主様が願うなら、それもちゃんと生み出しましょう。)
(普通に最初から着けてる絵でよくない?)
(嫌よ。久々に産み出す者として生み出しているのだから産まなくちゃ。)
そう言いながら貸した利き腕は更に絵を描いて行く。良かった、今度はちゃんと宇宙服用のヘルメットが・・・、なんだろうなぁ〜。宇宙服用のヘルメットと言いつつ何処か騎士のヘルムの様に見える。形は人の目を模したのか横長だし、中央に俺の顔が来るので余計そう見える。
(変更・・・、はい。これで作ってもらいます。)
仕様変更を申し出たがビビるくらい睨んできた。ま、まぁ?多分着る機会って相当先出し?祭壇見つければ着なくていいし?てか、地球の素材でこれ作っていいんだよな?変なもん指定されても困るんだが・・・。
(ゴミの素材なんて使う事は許さない。本当は一から十まで全て貴女が作るのが望ましいけど、作れないなら任せるしかない。)
どうせ絵心なんてねぇーです。モノ作りだって夏休みに子供の工作手伝ってテンセグリティ構造体の椅子作るのが限界。多分探せば今も家の何処かに転がってるはず!
「これでお願いします・・・。」
「なんでお願いしている本人が嫌そうなんですか。素人目から見ても美しいと思いますよ?」
「そうですよね増田さん。クロエさん、作り終わったらこの絵落成式記念に貰ってもいいっすか?」
「好きにして・・・。必要なら裏に署名もしとこうか?」
「お願いするっす!」
出来上がったデザイン画の裏に署名をして渡すと、雄二より先に増田が受け取りバインダーに入れて指輪に収納してしまった。物欲しそうに雄二が見ているが、これからラボに持ち込むそうなので仕方ないだろう。あの絵がなければ宇宙服作れないしね。
増田が絵と人員確保プランの書類を持って出て行き、雄二と二人残るがさてどうするかな。書類はまだあるが、仕事を手伝いに来ただけではない。一応作りが同じとは言え視察も兼ねてるんだよ。
「結構書類減ったし視察と言う名の散歩行かない?」
「そうっすね。朝から手伝ってもらって昼飯も食わずに進めたから、なにか食べてから見て回ります?気になる所があれば案内するっすけど。」
「気になる所・・・、基本的に法務課も食堂も医務室も問題なく回ってるんでしょう?」
「回ってるっすけど法務課は魔窟・・・、あそこがなかったらギルド運営上かなり問題が出るっすけど、マスターである俺も頭が上がらない・・・。」
「ウチも一緒。お願いして引き受けてもらったけど『現場の方がどれだけ楽だったか・・・。』って愚痴られる。誰が悪いって訳じゃないけど、どうしても新しい法律は出てくるからね。」
「そうっすね。ただ、そこの負荷を減らす為に弁護士会に掛け合ってゲートの法律に強い法律家を育成してます。」
「おぉ~、弁護士さん達はゲート関連の法律はコロコロ変わりやすいからって嫌厭してたのに、よく協力体制取れたね。」
「いやぁ~、今関わらないと弁護士の仕事10年でなくなるって言ったら割とすんなりと。」
「・・・、ガチでなくなる?」
「なくなるっすね。」
求道者ね。ガチで未来視出来るんだろうか?雄二が確定事項として話すと嫌に説得力がある。確かに現状から10年後を考えると確かに弁護士と言う職業の必要性は0になる。16で職に就き10年で26。大学に行ったとしてもストレートなら仕事を始めて4年目。後輩もできて先輩からも頼られるポジションの人間が山程いる。そうなると既存の職業に職が密接に関わってくる。
今の所警察に捕まれば弁護士を雇う流れは変わっていないが、例えば警官の殆どが追跡者や鑑定師となった場合犯人は言い逃れ出来ないし弁護依頼は目減りする。
公文書だってスクリプターがいれば相違点はすぐ見つかるし、既存の法律が知りたければネットで確認して、後は警察に行けば早期に解答が貰える。弁護士とは法律のアドバイザー本来はドラマの様に異議ありとは言わないし、言うとすればそれは検察側の手続きの進め方に対して。
つまり、ガッチガチに証拠も犯人も分かった状態で弁護士が出来る事は限りなく少なく、原告側に交渉を行い不起訴にしてもらい示談で済ませる様にするしかない。まぁ、民事なら代理人弁護士なんて道もあるかもしれないが、スィーパーが罪を犯した時点で奉仕刑なんだよねぇ。
薬の精度が上がれば心神耗弱状態って話も無くなりそうだし、捕まったらそのまま有罪からの刑の執行となるだろうな。冤罪なんて言葉も風化対象か。情状酌量は裁判官が決めるから弁護士が訴えない事もないが、10年後は訴えても相手にされなさそうではある。
「話聞いて時間なんぼでと言う、知識と資格で飯食ってたけど、その話がくる対象が減ればそうなるか。育ったらウチにも回してね。」
そんな話をしながら部屋を出て食堂へ。やはりと言うか何と言うか、ここもかなり広く最大で400人は入れるそうだが、昼飯時を外しているのにかなり混んでいる。ただ、雄二はそんな混んだホールを通り抜けて奥へ。どこに行くかと思えば『マスター及び来客者用』のプレートが貼られた扉を潜ると、食堂よりも少し豪華な部屋となる。
大分ではいらないと言って作らなかったけど、東京では逆にないと不便だろうな。あの混み様を考えると流石に、ちょっとご飯でもと要人やらを連れていけない。
「メニューから好きな物選んでください。」
「大分もそこそこメニュー多いけど、ここもまたメニュー多いな。夜間警備要員とシェフは兼任してないの?」
「なんですかそれ?うちは何かあればすぐに警察も自衛隊も来ますからね。一応シフト組んで自分が残ったり、副長が残ったりする予定です。」
「そう言えば副長決まった?」
「それなんすけどねぇ・・・、増田さんにお願いしたいですけど、流石に忙しすぎて無理そうなんで選出戦で来た人に目星つけてお願いしました。」
「ほう、誰?」
「バトロワの槍使いの人っす。魔法職系も考えたんすけど、卓と比べちゃいそうなんで物理で殴る事にしました。今日も出勤してるんすけど、多分動き回ってるんじゃないかな?」




