閑話 77 シスター達 挿絵あり
安息日には教会で礼拝して祈りを捧げる。地元の尼さんの歌う賛美歌はそこそこきれいで、小さい頃は真面目に祈ってた。そう。信じて祈れば救われて、ちびっとばかし小遣いから献金して親と帰る。みんなハッピーで悪い事ぁない。そう、神の家とはそんなもんだ。
「お前さん意外と敬虔だったんだな。」
「ぼちぼちだ、下心もあれば見物料代わりに献金もする。最近はここのシスターカレアの尻がいい。歩くたびにプリンプリン揺れて顔も悪くない。」
「おいコラてめぇ、俺の感心を返せ!」
「教会ではお静かに。」
クソっ、なんで俺が怒られなきゃならん。どう考えても横のドゥが怒られるべきだろう?教会にスーツ姿はいい。だが、なんで牛頭の仮面なんて付けてやがる?そりゃぁ、コイツは中位で素顔を明かせないらしいが、だからといってそのチョイスはどうなんだ?
そして、俺の知っている教会はこんなに物騒じゃない。話しかけてきたのは長身のシスター。修道女が婆さんばかりじゃない事は彼女を見れば分かるが・・・、ジョージ大統領の件があって以来、人の年齢は外見じゃ分からない。もしかすれば、眼の前の美人シスターだって本当は90近い婆さんかもしれない。
それに、俺の知ってるシスターは子供を優しく抱きしめてくれるが銃なんて持ち出さない。米国は銃社会だから拳銃を所持する事は問題ないが、間違ってもそんなゴッツい機関銃は駄目だろう?取り出す時は太もものフォルダーから抜いてチラッと肌が見える方が俺の好みだ。
「ダレス。シスターの言う事はちゃんと聞いて行儀よくしろよ?最近は炊き出しの食材取りにセーフスペースに行ったり、恵まれない子に分け与える為にモンスターと戦ってんだからよ。」
「貴方は・・・、ドゥさんですか。毎回仮面を付けて来て体格も変わるので声を聞くまでは確証が持てませんね。前回のゴブリンの仮面から牛頭なら、まぁ良しとしましょう。」
「仕事柄そうしなきゃならないんでね。ただ、文句言われない程度には献金してるよ。」
「存じています。司祭様も貴方名義の献金の額にお喜びで、イースターの際には子供達におもちゃやデザートを振る舞えました。それで本日は礼拝だけですか?懺悔が必要なら懺悔室は空いていますが。」
「礼拝だけ。コレも仕事のうちでね、教会が信者離れでやけ起こさないか心配なのさ。ダレスは懺悔するか?カードのツケを払えませんでも、ハミングに嫉妬してるでもいいぞ〜?」
ドゥの野郎がうるさい。確かにハミングに嫉妬してないと言えば嘘になる。同じチームで動いてアイツは至るにしても最後だと思ってたからな。しかし、蓋を開けてみればアイツが最初に下位を抜けやがった。軽いやつでノリが良くてそこそこ頼りになる同期。軍隊に入ってからはグリッド軍長よりも付き合いは長い。
日本が提示した中位に至るプロセスを考えると、アイツはアイツで何か見つけられたんだろうな。その事が眩しく思える。別に戦いだけが全てでない事はあの文書が示しているが、それでも戦いに身を置く者としては戦いに関するモノがそういった目標になるのではないかと思っている。
「なら、モンスターを殴り倒し足りませんだろう。砂漠でゲートで上層からそこそこ奥まで、歩いて走って殴って護って、出来る事はしたつもりだが、まだ足りんよ。」
「ゲートですか・・・。猊下はモンスターは悪魔であるとのたまっていましたが、そのメッキも剥がれ権威は失墜してしまいました。嘆かわしい事に今では神に祈る事に疑問を持ち、礼拝への足も遠のく者も多くあります。」
憂いを帯びた様にカレアが言うが、アレは神が悪いのではなくて法皇が悪い。モンスターをそのまま悪魔としたのはまぁ・・・、見てくれも行動を見ても分からんではないが、それを公表するのは時期が早すぎた。
確かに入れば死ぬ恐れのある地獄の門で、溢れ出せば被害は甚大だが、それをやめろといくら神に祈ってもその祈りは通じず、イジれるのはファーストとエイリアンのみ。そのファーストでさえ交渉を有利に運んだ様だが歓迎はされていない。
一時期ファーストを聖人の列に加えると言う話があったり、マルタ騎士団に迎え入れるという話もあったが、それはことごとくフラレたらしい。まぁ、見た目だけなら天使の様な姿だが、大佐に話を聞く限り中身は中々スパルタらしい。それを聞くと天使と言うよりはワルキューレか。
「それでも身一つでゲートで稼いで施しをしてるなら、立派だと思うよシスターカレア。」
「1人ではありませんから。孤児院の子達はこれから先も生きなければなりません。なら、何らかの道標を作るのも仕事のやり方を教えるのも間違いではないでしょう。私も孤児院から修道女となりこうしているのですから。」
「その割には物騒な物の扱いに慣れてそうだがな。」
「それはドゥが手ほどきしてくれました。」
さも教会の礼拝で見つけた様な事を言ってたが、コイツは先に知り合ってんじゃねぇか!横を見ると表情は見えないが牛頭がそっぽを向く。R・U・Rも輸入されて大佐が優先的に使えるように取り計らってくれ、買い足して更に増えているがドゥは使いたがらない。寧ろ、人との模擬戦は無意味とやる気もない。
そんなドゥが手解きしたとなれば、か弱いシスターに見えてトンデモ兵器になるんじゃないか?助言や師の必要性と言うのは軍内部含めどこでも議論されている。何せ大佐と言う実例は米国として全く待って無視できない。思えば砂漠で赤峰に手解きされて動きは良くなったし、ディルは小田や夏目を見て治療の仕方を根本から変えた。
スタンピード前の数時間、スタンピード後の数日。それは多分、俺達にあった黄金期だったかもな。更にスマッシュヒットを叩き出すならファーストに面会しに行けばよかったか?ハミングが叫び外に出て見たファーストの踊りは夕日も相まってとても美しかった。ただ、あれが何の踊りかは誰も知らない。日本人に聞いても知らないと言うのだから、本当に何踊りか分からないのだろう。
「てめぇ・・・。俺達には何もしないのになんでシスターには手解きしてんだよ!」
「あん?勘違いしてないか?俺は武器の扱いを手解きして、ゲートの歩き方の初歩を教えただけだ。マンツーマンレッスンでベッドも手解きしたいが、流石に修道女に手を出すのは気が引けるし・・・。」
「不穏な気配がしましたが?」
「待ちなさい、師匠の皮を被ったモンスターかもしれません。」
奥から武装したシスターがまた2人・・・。スィーパーの犯罪者もいるから自衛と思えばいいのだろうが、俺の知ってる教会とはやはり違う。過去に遡れば修道騎士団はあったが、シスターが武装するならメイスだろう?なんで剣やら銃火器になる・・・。
ただ、その矛先はおれじゃなくてドゥに向く。一緒に仕事をする仲で顔は知らないが中位として頼れもするんだが、コイツは一体どこで何をさせられてるんだか・・・。
「逆だ逆。モンスター風味な師匠だ。これからゲートか?」
「ええ、晩餐の食材調達に。」
「その次いでに小銭稼ぎに。その為にシスターカレアを呼びに来ました。」
事もなげに言うが、その精神の図太さは眼を見張るところがあるな。時間が経ったとは言え、米軍内には初期の無力なイメージを抱える者も多い。
「そうか・・・、ダレス。ちょいとシスター達を手伝ってくれないか?」
「俺がか?」
「あぁ、盾師なら守るのは得意だろう?お嬢さん方をエスコートしてくれ。」




