319話 東京に行く前 挿絵あり
「ラボから出張要請?日程等はどんな感じですか?流石に鑑定師不在はギルド運営に響く所がある。」
「早ければ数日、長ければ半月くらいかにやぁ〜。宇宙エレベーター理論で一緒に検証したいんだって。飛行ユニット系はぼちぼち形にできて運用までこぎ着けたけど、あれもいくつか問題点があるんだわさ。」
「問題点・・・、説明はできますか?」
「1番大きいのは安全装置系かなぁ〜。人が生身で空を飛ぶ、既にコレが問題と言えば問題だけど、飛行ユニットは飛んだまま固定出来る。平面ならその地点に運動エネルギーが停止した状態で拮抗してると取れるけど、それが現実世界となると大気に重力に風に座標指定ととにかく邪魔するモノが多い。」
ふむ、飛行機が垂直離陸できないのと一緒だな。航空力学的に言えば飛行機は下から押し上げられる力で飛んでいる。その力を得る為に滑走路を走りエネルギーを羽根に貯め、重い体を浮かせている。なので、滑走路のない所では飛行機は飛べないし、仮に飛ばそうとするなら崖から突き落として落下速度を得てから飛ぶしかない。
あの飛んでいたUFOをヘリとして見ても考え方は変わらず、ホバリングするにしてもプロペラ部分から下へ力を押し付ける必要がある。つまり、あのUFOは航空力学的には飛ぶ方がおかしくなる。なら、どうやって飛ばすかと言えば物理学になるのかな?大気の力を使うのではなく、純粋に自身で生み出した力でその場にいる物体。つまりは引力と斥力の自己精製。神志那の使うルンバがそうだし、使用者に意見を求めてるとか?
「ルンバの使用感を聞きたいなら電話でいいのでは?現地でなにかする必要性は無いと考えるのですが・・・。斎藤さんは輸送機を調査してたからある程度分かりそうですけどね。」
「たぶん分かるけど、安全装置となると先に危険要因の洗い出しが入るからねぇ。今んとこゲート内では飛ばせたけど、逆を言えばゲート外では飛ばせないのさ!風で揺れるならまだいいけど、地震が発生した時に地表を釣り上げたら事でしょう?」
「それが出来るだけのパワーが?」
「どうだろうね?出土品のフライボードは固定されてないし、地震が起きても浮いてるから動かない。でも、それが固定されて力を生むなら不可能じゃない。」
「先にケーブルが切れそうですけどね。いくら宇宙ステーションを繋ぎ止めてると言っても切れないわけではないでしょう?ステーション自体はロボットの姿勢制御を使えばある程度軌道修正も可能なのでは?」
聞くだけならそれで片が付きそうな気がする。仮にステーションの方が力が強いとしてもケーブルの強度自体は限界値がある。つまり、地表を釣り上げるだけの強度のあるケーブルなんてないだろう。まぁ、それが実際して釣り上がった場合日本の場所がちょっとズレるとか、火山が噴火するとか?
「問題はそれを起こさない事もだけど、鑑定師としてユニットを使いこなせないかだって。橘さんはイメージ的に厳しいみたい。どちらかと言うと武器系に強いからねぇ。時間をかければ出来るんだろうけど政府は急かすかして煩いからね。」
「話は分かりましたけど、政府が急かす理由って交渉権のせいでしょう?今年分は終了したとして来年になるんじゃ・・・。」
「その来年までに交渉の場を整えて権利を無駄にしない為に準備する。クロニャンが中層にGOしたのもそのせいだぜ!」
「言われなくても勝手にGOしますよ。出張の件は了解しました、行かせないとうるさそうですしね。ただ、出張中の鑑定依頼先は警察でいいんですか?ここに来る人多いんですけど。」
「警察でもいいし、ゲート使って行くから最悪緊急時は即戻れるよ。まぁ、没頭したらどうにかして連絡取って。出発は明後日の予定だけど、暇だったら先に行くかも。」
東京まで馬を使えば大体2時間、帰りは退出すればすぐに大分へ帰れるしそこまで危惧すること無いかな?問題とするなら滞る仕事だが、そこは伊月経由で依頼品を警察に運んでもらって鑑定してもらうかな?判定機もあるから常に山積みはないだろうし。
ただ、ここも企業の人とか入り浸って話していたりするのでそういう人は困るかも。まぁ、出張中の看板でも作ってかけておくか。しかし、前に国連からの呼び出しが〜と増田が言っていたが、現実味を帯びてきた。流石にあれだけ交渉権の事を話したしソーツも姿を見せたし言い逃れは厳しくなってきたかな。
取り敢えず本格的に要請が来るまでは静観でいいし、来たからと言っても取り合う気がなけれは取り合わなければいい。交渉権は持っているが国際会議で話し合うなら俺はメッセンジャーでしか無い。
つまり会議でなにか発言する必要性もなければ、集約したモノを持って話に行けばいい。下手すると内容も話す時まで見る機会さえないかもしれない。だって下手に見て改ざんしたんじゃないかと疑われても嫌だしね。ただ、あんまり舐めた事を書いていたら握りつぶす。
映画からのイメージだと、どうしても宇宙人は友好的か敵対的に分かれるし敵対するならしたで何故か倒せる設定のモノが多い。まぁ、倒せなければ話に収集がつかないし、全滅エンドはあまり好まれない。ただ、ソーツの様に無関心な宇宙人の映画ってあったかなぁ〜?いや、無関心の時点で映画として成り立たないのか。別ストーリーをバラバラにやられてもそれは既に別作品である。
「あら、貴女もお昼?」
「お昼というか仕事で神志那さんの所に行ってた。君はこれから?」
「ええ、少し押しちゃったけどこれから。一緒に食べる?」
「そうだな、一緒に食べようか。」
神志那の部屋を出ると妻がロビーから食堂に行く所だったのでそのまま一緒に行く。弁当はあるが、たまの外食もいいだろう。疲れたから甘いものが欲しくなるわけではないが、新作のデザートは少し気になるし。
食堂は時間を外したので人は少ないが、全くゼロではなく仕込みの事を考えるとどこかでクローズしたいのだろうが、喫茶店的な扱いでもされてここで商談している人も多いし、スマホを眺めて依頼を確認している人もいる。そんな中、多少の注目を集めながらも食券を買って注文を済ます。
「ふひ〜。保険料払ってる人はいいけど、全く払ってない人は後から払えるのかしらねえ?」
「それは医療保険の部類だから外部の病院でいいんじゃない?前払い以外は受付対象外だし。」
「それでも何回も入ってる人は、大丈夫って言い出してそのまま入ってるのよね。年間で払ってればいいけど、怪我した後に金貨1枚出して先に治療しろって叫ぶ人もいるの。まぁ、金貨の後払いはそこまで問題じゃないんだけど、足捻ったくらいで騒がれてもね。」
「まぁ、酷い捻挫は痛いからなぁ〜。逆に指切断とかの方がアドレナリン出ててあんまり痛がらないし。」
「そうなんだけどねぇ・・・、いっその事医務室下に下ろしてもらうか、軽症用の医務室作ってもらおうかしら?」
「軽症用かぁ・・・、いっその事エナドリの大量生産をお願いしようかな?それ飲んで、まだ悪いなら医務室とかでいいかも。高槻先生もジュースの製造ラインをいくつか買ったって話してたからもう少しすれば、エナドリもコンビニで買えるくらいに一般化すると思うし。」
薬事法?既にこれだけ広まって米国にも卸していたりするのに、今更差し止められても困る。寧ろ、難癖付けて来た医師会には販売しないと言う話で落ち着き、こっそりと手術の際の緊急措置として使っていた医師は阿鼻叫喚で、自腹でスィーパーから購入したとか。
ここまで来るとプライドではなく執念を感じるが、医療を受ける側としてはクソ食らえである。誇りを持って仕事をするなとは言わないが、それで助かる者が助からないなら手術を受けた側は悔やみきれない。
実際その事で裁判になるケースは多く、医師会所属医師はかなり減っているそうな。別に医師会に所属しなければ医療行為が出来ない訳でもないし、公務員医師でもなければ医者は会社員と変わらない。ただ、その免許で飯を食っているだけである。
「なら、自販機置いてもらおうかしら?金貨1枚で。」
「それでいいかもな。って、わざわざ私の口に料理をいれなくていいよ。1人で食べられるし。」
「いいじゃない夫婦だし。」
「産めよ増やせよだなぁ〜。」
フェリエットが料理を運んで来て、いらん事を言いながら立ち去る。産めよ増やせよと言われても物理的に行為はしても増やせないんだよな・・・。ただ、フェリエットはそのあたり気づいてそうだが、何で増えると思ってるんだろう?作り方を知らない訳ではないと思うが・・・。
「そう言えば、ドレスは決まった?落成式で着るんでしょう?」
「・・・、今更なんでドレスをとは言わないが、その話自体初めて聞いたんだが?」
「そうなの?望田さんや柊さんが選ぶって言ってたし、私もどれが似合うか選んでたんだけど?」
ドレスねぇ・・・、取り敢えず去年1年は着る機会が多かったけど未だに何がお洒落なのかは分からない。多分永遠の謎とはこう言う事を言うのだろう。長い人生、それを追い求めてもいいが本質的に男性だからなぁ・・・。いっその事タキシードとか奇抜にパンクファッションで行こうかな?TPOガン無視だが、パリコレとかそんな服しか見ないような気もするし、ドレスが間に合わせといいつつシルバードレスで来た議員もいたし大丈夫?
そもそもドレスって究極的に言ってワンピースタイプのスカートだよな?デザインや豪華さは別として。なら、シルバーアクセサリーで飾れば割と・・・?
「変なコト考えてそうだけど任せておいて!私達が美人さんでどこに出しても恥ずかしくないようにするから!」




