317話 ドール国
忙しくて短いです
「それで?作りかけは流石にそのまま廃棄として、完成品って何体あるんてすか?私が知る限りだと橘さんと遥に渡す2体だけ?」
「難しい質問でござるな・・・。時にクロエ殿、エンゲージドールは何故エンゲージドールと名付けたか聞いておるか?」
「いえ?合流してちょっと話して紹介されただけなので詳細は知りませんよ。まぁ、話して空飛んでロボットに乗り込んで生命管理してくれるくらい高性能なのは聞いていますが。」
自分で言ってなんだが高性能だよな?既に人形を逸脱してアンドロイド・・・、もしかしてフェムって名前はフェムボットから?安直だが女性型ロボットを指す単語で、アレが雛形だとすると全てのフェムボットの母になる?
いやいや、似せて小型化してるから雛形ではあるが原型にされるのは流石に・・・。ただ、日本では訴えが通るかもしれないが、海外やガレキなんかの個人作成は止められない・・・。違う違う、問題はそこではなくて動いて喋る事だ。
似た姿の人形は最悪蝋人形とでも思えばいいが、それが喋って動かれるとちょっと話は変わってくる。一報的に愛でられるだけならまだ我慢できるが、似た姿の人形が野郎に囁きかけてイチャイチャ仕出したらちょっと立ち直れない。
やはり人格面が問題か。高性能AIだと思っていたが、あの身体にそれを詰め込むにはちょっと無理があると思うし、基礎ベースの人格設定を何にしたかも気になる。単純にAIの疑似人格ならいいが、人のデータから再現されていたら・・・。いや?仮に俺から再現されていたならアレはない。いくら優先事項があろうとも、今まで人命軽視をした覚えは・・・、多分あんまりない、はず!
「あのドールはそもそも依頼を受けて作りはしたが、大元はただのサポート人形。会話も出来なければやれる事はパワードスーツを大型化した時のパイロットの生命維持程度のものぞ。」
「ものぞって、それはそれで凄いんですけどね。それで?なんでそのサポート人形がエンゲージドールなんて言う大層な名前になって話してるんですか?」
「自分もそれは気になりましたね。撮影してるの見ましたけどかなり高性能なのでは?こちらの動きにもよくついてきましたし。」
橘最優先なのでフェムは俺の撮影はさっさと終わらせて、橘達の方について行った。まぁ、焼かれるのと凍るのどちらがいいかは分からないが、割と誰もいないからと俺の方は無差別にやっていたから、結果として橘達の方に行って正解だろう。
「うむ・・・。斎藤殿話してしまっても?」
「いいですよ。最終的にワンオフにのみ搭載する予定ですし、何より創り手とパイロットが揃わないとどうしようもない代物ですからね。後、職のイメージとか?」
何を搭載してんだよあの人形・・・。取り敢えず藤と橘がいれば作れるのかな?まぁ、何をどう作ったかは分からないが、話してくれるらしいので聞いてみよう。そこそこ面白い話かもしれないし、ツッコミしかない話かもしれない。まずは対話と相互理解から。それで分かり合えないなら肉体言語でいいだろう。奥に行った帰りなのでそこそこ手が早いかもしれないし。
「先ずは拙者の職、付喪からでござるな。造形師から中位に至りピグマリオンがかなり使い勝手良くなったのだが、ピグマリオン王と効果はご存知か?」
「ええ、平たく言えば人形偏愛と期待に答えたい願望ですね。偏愛の方はピグマリオンの後にコンプレックスと付きますが。」
「それが分かるなら話早い。この2つは相乗するので嫁達が拙者に期待すれば拙者がブーストし、拙者が嫁達を愛すれば嫁達がブーストする。そして、ピグマリオン王故理想を追求し作る事ができるのでござるよ。」
「話はわかりますが、それと動く事はイコールじゃないでしょう?」
今の説明だと凄く上手に人形作れますとは取れるが、だから動きます喋りますとはならない。人形が勝手に動くならピノキオとか?しかし、妖精はいないからそのイメージはないだろう。何ならフェムが妖精っぽいし。
「王がいて嫁がいたら次は民でござろう?」
「そりゃぁ、夫と妻だけなら夫婦で王では・・・。ゼウス?エウロペ?て事は青銅の巨人?」
「相変わらず理解が早いでござるな。ピグマリオン王もゼウスもギリシャ神話。魔術師:雷なら雷霆も雷も操れる故、イメージもしやすければ大型ロボは送った青銅の巨人とすればよい。」
1人ギリシャ神話かよ!まぁ、確かに王なら民はいるしゼウスは神々の王だしで符号はできる。そして、民なら働くし動かないといけないが・・・、そうなると大型ロボは橘の物じゃなくてフェムの物になりそうだな。
「話は分かりましたが肝心な部分は?」
「橘殿が民となった。故に王は民の証としてウチの国の者と婚約する。故にエンゲージドールであり・・・、オフレコでござるが、フェムは橘殿が思い描いた性格で理想の女性像でござる。ピグマリオン効果と橘殿のスクリプターとしての記憶管理能力。そして、鑑定師として武芸者の玉を使いこなしフェムは自立しておる。」
話を聞く限りだと量産の目処は立ちそうにないし、かなりややこしい作りをしている様だ。順を追って考えると、藤王国の民になるには国民と婚約しないといけない。その国民が人形なのだろう。まぁ、付喪で本人も人形っぽい身体なら嫁達も人形だし。
そして、その婚約者は国民になると言う志願者が理想とする者の姿で現れる。なにせピグマリオン王は理想の女性を作る為に彫刻を頑張ったり餓死寸前にまでなったりしたらしい。そんな王が妥協するわけもなく、理想の姿を作ってくれる。
そしてその先。作られた人形は婚約者の元に向かい、エウロペの様に王から貰った巨人を動かすと。イメージは分かるが背筋が寒い・・・。藤はオフレコと言うがフェムは橘の理想なのだろう?性格は抜きにして姿が・・・。
「橘さんから距離おこうかな・・・。」
「そういう事があるから言いたくなかったのでござるよ・・・。人は誰しも言えぬことを抱えておる。そっと見守るがよかろう・・・。」
他の面子も押し黙るので空気が重い・・・。確かにこれは聞かない方が良かったな。しかし、橘はキツめの性格の女性が好きなのだろうか?
「本人の為に言うが、人格的な物は橘殿の記憶を加工しているゆえ複合的にあると思われる。拙者も作成で加工したゆえに中身まではわからぬ。」
「精神的効果の強いピグマリオンだから出来るんですかね?記憶の加工とか。まぁ、量産は難しそうなので了解しましたが・・・。」
「私の貰う人形って喋る?」
「遥殿も民になるでこざるか?なったからと特にする事はないでござるが、強いて挙げるならドールを大切にする事でござるな。芸術方面に強いと優遇するでござるし、遥殿なら服が作れるゆえにどんどん優遇するでござるよ?」
「優遇って?」
「ドールのメンテ無料でござる。」
「ならなろうかな?どうせ今も服作ってるし、喋って教えたら助手とかにもなれそうだし。」
なんだろう、娘がいかがわしい宗教に誘われているように聞こえるが、橘とフェムを見た後だとなんとも声がかけづらい。しかし、前に国作らないよね?と聞かれたが、先に藤が国作っちゃったかぁ〜。領土はないけど民はどんどん作れるので、いずれドールの反乱とかも・・・?まさかね。




