314話 撤退 挿絵あり
「燃えろ!」
「相変わらず精度がいいですね、私も魔術師が少し羨ましくなってきた!」
「そう言う橘さんは暑くありませんか?辺りは火の海にしてますけど。」
「大丈夫、この鎧はこのまま宇宙にも行けるんですよ?鎧を作るコンセプトはどの場所でもパフォーマンスを維持しつつ動ける事。実は攻撃については二の次でいいんです。なにせ、生きてさえいればスィーパーは生身でも戦えますからね。」
「それだけ聞くと魔法糸のジャージ以外も欲しくなってきますね!」
ある程度燃えれば炎は消え、それ以上燃え広がることはない。魔法で出したものが引火したのだろうけど、自分としては消す手間が省ける分制約はなく感じる。これが外なら大火災となって多分面倒になるけど、それさえもスィーパーがいれば消し止められる。記憶に新しいのはオーストラリアの森林火災かな?
毎年の様に乾燥した季節には森林火災のニュースが舞い込み、去年もそれはあったけど、スィーパーのお陰で火災の規模は最小限に止められ、今年から対策として乾燥した季節には魔術師達が大々的に水を撒くようになった。
そんな森林火災を思わせる様な業火の中で、自分と橘さんはモンスターと戦っている。橘さんがこちらを羨む様な事を言っているけど、自分としてはその鎧の方が魅力的かも。単独飛行も燃え盛る中での熱さも大丈夫だけど、防御力と言う面ではどうしても心伴い。だってジャージだし。ただ、意気込んでここに来るのかと言われると、どうしても自分は違うと思う。
何せ当然の事をやりに来ただけなのだから、気負う事もなく淡々とこなして行けばいいし、たまに言葉を発するモンスターは入念に叩き潰せばいい。前は出来なかった事、今は出来る様になった事。多数と少数、どちらがいいかの論争は未だに尽きないけど、自分としては少数が楽でいい。だって、多数だと燃やし尽くして仲間に引き入れてしまいそうだから。
「飛行型は少ないか・・・。と、言うかクロエもまた派手にやってる。山火事と雪山なんて早々一緒に見れるもんじゃない。」
「映画ならたまにありますよ?雪山をテロリストが爆破したりするやつ。」
「あれはフィクション・・・、だといいな。年寄りを気取るつもりはありませんが、普通雪山なら雪崩でしょう?よく見える分そこまで暴れるつもりはありませんでしたが、私も少し本気を出してきましょうかね。宮藤君は1人でも?」
「ええ、何気に失くした片腕は盾にもなれば義手の様に何かを掴む事も出来ます。」
灰で出来た腕は今では身体に馴染み伸ばす事も出来るし、そのままモンスターを捕まえて引きずり倒す事も出来るし。今も走狗の様に走り迫るモンスターの射撃を低く躱し、そのまま懐に潜り込み頭部だろう所を掌打で打ち上げ、がら空きの胸を溶岩の様に融解させ燃え落とす。
そんなモンスターを見ようとも、仲間意識なんてないモンスターは後から後から射撃を行い、倒したモンスター毎自分を蜂の巣にしようとする。そして、地味に面倒なのは誘爆・・・。背面に何か積んでいたのか溶かされた後に他のモンスターから撃たれれば眼の前で小規模な爆発を起こす。
特にダメージはない。あるとすればそれは外壁となるジャージやインナー。燃え盛る家はその熱さで他も巻き込み延焼し拡大する。何せ自分は記者でもあるのだ。燃え広がり拡大する様を伝え、拡散して大火災へと変えられる。そんな中を黒い犬・・・、バイトが悠々と駆け抜けモンスターを齧る。
アレが何なのか?自分は聞けないし聞かない。予想はつくけど、それを聞いて確定させてしまったら殺し合い以外の道がなくなってしまうから・・・。
「そちらはどうです?橘さん。」
「新型は悪くないよ!よく動くし大型化も残ってるから、ね!!」
宮藤君は大丈夫だろう。いや、私が心配するのもおかしなものか。彼は秋葉原の戦闘区域内を生き残り、自身の足でこの場に立っている。鑑定すればその身体はどんどん熱を帯び、下手に触れれば大火傷は間違いない。元部下とは言え今の立場は同僚か、或いは彼の方が上かもしれない。
そんな彼の魔法を記録し蓄えて自身の力として管理する。クロエの魔法?あんな物は見たくない。出来れば有用だろうが、雪の降る森に視えるそれは、鑑定すれば辺りを食い尽くさんばかりに広がる不快な霧。
様々な人の魔法を見たが、彼女の魔法だけは鑑定したくもなければ記録としても残したくない。管理ライブラリに登録して残そうとするだけで、自身が何時か侵食されるのではないかと言う恐怖感がある。それでいて毎回イメージを作っては捨てて、捨てては作ってと繰り返すのだから質が悪い。
魔術師のイメージはそのカテゴリーにある程度沿ったイメージがあるので、概ねその通りのイメージとして受け止められる。宮藤君と卓君が同じ火なので例え水を出そうが、それは火の延長線上にある水でしかない。だがクロエは・・・、黒江 司と言う変質した人物の魔法は魔術師の様に特定のイメージの延長線ではなく、その時その場で必要な物を必要なだけ生み出し、不要になれば躊躇なく捨ててしまう。だからこそ彼女の魔法は使った彼女に追い縋ろうと、何時かまた形にしてもらおうと付き従う。
一度彼女と2人でゲートに入り、耳を塞げと言われた時に残された音声データが有る。これは聞く前に加工され生データは既に無いが・・・、仮にアレが・・・、あの言葉そのものが魔法だとするなら多分、彼女を止められる者はあるのだろうか?
口を開き話す。それを静かに聞き、行動に移す。結果はクリスタルとモンスターの残骸が残る平原。ダブルEXTRAと言う情報は聞いているが、その時点でその高みへと登る算段がつけられない。騎士と言われたが、守られる者の方が遥かに強いと言うどうしようもない立場から何時か脱却出来るのだろうか?
宮藤君の炎にあてられて私もこのスーツを動かしだす。ゲートの中にあって異物。ソーツと呼ばれた宇宙人が作ったのではなく、一部を使用したとしてもこれは人が作りしモノ。なら、人である私が扱えない理由はない!
宮藤君から離れて木々の間を縫う様に飛翔する。木が目に入ればそれの形は分かるし、どう生えているかも手に取る様に分かる。なら、激突するいわれはない。木の間、地面の凹凸、通り過ぎた風景の中でそこには無いはずのモノを感じて引き金を引けば、あるのは潜むモンスター。
実弾だけではなく、ビームに爆発物と私を追って追い抜き彼方へと煌めき進む光の筋を辿り、大元を斬り伏せ更に殺到する弾丸を編集して、それのなかった世界を当てはめる。飛来してきた物がどうなったかは分からない。あるとすれば、元からなかった事になるのか、或いは空間に押し潰されて消失するのか。
モンスターにもこれが作用すればいいが、流石にそこまでうまい話はなく、編集しようとも半紙に落ちた墨汁の様に残る。エディターに至ろうとも完全にクリスタルを内包するモンスターを消せないらしいので、やはりその先を目指すしか無いか。
「コレも試すとしましょうか、フェム!」
離れて撮影に専念していたフェムを呼ぶと、彼女の太ももが両肩に乗りそのまま頭を挟み込むような肩車の姿勢になる。作った斎藤さん達には悪いが、絵面悪くない?大きさの限界を考え収納スペースを頭部とした時にこの様な姿勢になるのは仕方ないにしても、このままの姿でいたいものではない。
「機体ドッキング後、私は警告及び生命維持を担当します。緊急時に於ける機体制御の音声認証をお願いします。」
「認証する。帰ったら髪を整えてあげよう。」
指輪から取り出した撹乱幕を展開し、機体に飛び込みそのまま接続!変身時に敵が待ってくれるのはアニメだけで、今もなおビームや想定外だった実弾が飛んでくる。被弾するなとは言われていないが、実弾はスペースデブリを想定しているので、スィーパーの武器を耐えられるかは多少疑問が残る・・・。
「損傷は?」
「軽微です。機体運用に関して問題はありません。ダブルリアクターを使用しますか?」
「いや、単一でいい。ダブルで使うと機体の方が悲鳴を上げる。外装が吹っ飛んで怒られるのは避けたい。」
試験運用でフル稼働させた時の活動時間は15分。砲撃にエネルギーを回せばその限りではなく、武芸者の玉で補助をすれば更に伸びる。ただ、伸ばした所で玉を解除すれば機体は自壊寸前なのであまりやりたいものでもないし、切り札と言う位置づけでいいだろう。
この機体も玉の方が武器として理解と言うか、使い慣れて記憶してくれれば玉だけで再現できる様になるだろう。何せ、武器の性能を引き出すのは使用者なのだから。
「さて、新型機の性能とくとご覧あれ!」
眼下に見える山火事と雪原のコントラストは、色のなかったゲートの中に確かに人がいる事を指し示す。いや、ここは木の様な物が単色である場所。今は上の階層でさえ稀ではあるが人の灯す光か見える時がある。なら、いずれここも人が来るようになるだろう。
「相変わらず1人でSFに向かってるなぁ〜。宇宙開発用って触れ込みだけはこれから信じないようにしよう。」
三つ目のせいで帽子が駄目になった。多少残念に思いつつ雪原を歩むが中々混沌としてきたな・・・。離れた所では宮藤が森を焼き、頭上では大型化した橘が攻撃を回避しながら射撃している。鑑定師らしい鑑定師の戦い方とでも言えばいいのか、機体に危なげな動きは見えないし武器も鑑定して買い取った物か、或いは支給された物を惜しげもなく使っている。
持っている銃だけで俺の胴体よりも太そうだ。そんな銃はクリスタル使用式を改造したのか硬かった木にも風穴を開けている。う〜ん・・・、取り敢えず隕石は破壊できるのかな?スペースシャトルで着陸して核は設置しなくて済みそうだ。
三つ目を倒して以降もモンスターを倒しつつ森を歩くが、中々次へのゲートが見当たらない、上から煙を撒いて範囲を広げればすぐに見つけられたが、ここですると巨大な木の洞なんかもゲートに見えない事もないのでなんとも。
更に捜索範囲を広げるか、或いは切り上げるか?派手にやっているのでモンスターはかなり集まってきているし、こちらが木を壊せるのと同様にあちらも木を貫通出来るので、ビームで穴開けた後に実弾をワンホールショットしてくる。
相手に取って視界とはなにか分からないが、上よりも攻撃性が高い分面倒だな。ただ、エマなんかは地形的に有利そうだし、増田も同じ職なので喜びそうではある。この地形で不利な職・・・、ないな。
身体は鍛えているし木の上を跳ねて行けば足場は気にならないし、問題があるとすれば視界だが、ここに来るまでに嫌と言うほど襲撃も受ければ不意打ちも受けている。今更ここで泣き言を言うことはないだろう。仮に言うならそれは死の間際。どうし様もなくなった時に言う言葉で十分だ。
歩いて倒して、たまに木に絡まる様にしてある箱を回収して捜索しつつ進むが・・・、一度合流して話し合うかな。上昇アイテム使用で外に出たなら話は通るし、地形が分かっただけでも収穫あり。質量兵器の事も話さないといけないし、何よりここで戦い続けてもジリ貧になりそうだ。
そうなるとどちらと合流するかだが・・・、橘かなぁ。宮藤の所に行けば雪溶けで更に視界は悪くなるし、上の橘ならまだ話せない事もない。なら、一旦イメージを作り変えて更に視界を良くするか。上がるにしても背中を撃たれたらたまったものではない。
「四季は巡り流転する・・・。雪溶けの後、更に巡り草木は枯れて木枯らしが舞う・・・。私は息吹を否定する!既に雪に侵され枯れ木の園に葉は落ち、積もる事なく消えていく。」
魔法を紡ぎ葉を落とし、森に紛れようとするモノを炙り出し、手近な襲ってくるモンスターから燃やし、刻み、潰し、残る物は更に念入りに壊していく。確かに硬いし、抵抗力も強い。しかし、まだ行ける。ここで音を上げるには早すぎる。
「姿があれば影がある、影があるなら姿がある。なら、それを断てば傷を負う。逃さんぞ?今回はコンキスタドールとして来たんだ、根こそぎ奪えるだけ奪うのが流儀と言うもの。」
自身でやっているが、かなり無理をした?米国で見た空間攻撃をイメージして更にそれを扱いやすい様にアレンジしたが、なにか違う。アレがやったのはもっと単純だった気がする。アレがやったのはこんなにまどろっこしくなかった気がする。試す場としてはココは確かに良い。しかし、下手に広げ過ぎればあたりを巻き込む。
(君達風に言うなら未完成の失敗作だね。)
(イメージがそぐわないと?)
(それもあるけど、枯らしながらやるのは少し君には早い。普通の魔法ならいいけど、今使ってるのだって無いダメージを無理やり転写させてるからねぇ。ただ、師としては喜ばしいかな?そこそこ君も魔法使いになってきてるし。)
(そこそこね、使い続けるとやばいか?)
(いや?どうせ巻き戻る。ただ忠告はしよう。ちゃんと完成させないと暴走した時に解除しづらくなる。魔法の根幹を今一度思い出すといい。1人なら良かった。相手がいたから変わった。なら、それを押し通すも受け流すも自由だからね。)
まーたなんか訳の分からん事を・・・。ただ、魔法が上達しているのは素直に嬉しい。俺は最適化されなかったけど、殴り合ったおかげてそこそこコードが馴染んできたのかな?あぁ、そう言えば俺は聞いとかないといけなかった。
(賢者、下位は最適化されたとしてここで戦えるよな?)
(戦えるよ?ただ、少し中位に至るのが遅くなる。何せそれ一辺倒でここまで来てしまったからね。至れない訳しゃないけど、最適化された後に何かを思い描くのは少し難しい。)
(了解した。)
トータル的に考えると段階を踏めと言う事かな?まぁ、箱の中身次第ではここに来たい人もいるだろうし、来るなと言える立場でもない。ただ、それとなく言うくらいは許されるのかな?何せ誰がいつ至るかは分からないし。
こうしてここで戦っている間にも何処かで誰かが至っているかもしれないし、至る時に死んでいるかもしれない。中位は弱くない。しかし、戦いの中で至れば相手が強い事もある。ふむ・・・、やはり引き際か。のんびりと進んでいい訳でもないが、焦って仕損じる方が損失が大きい。今回連れてきたのは橘と宮藤だし、他の誰が損失が少ないと言うわけでもないが、引き際だけはきっちりとしないとな。
(あら?私の取り分は?)
(次の機会、そのうち一人で来た時はすべて渡す。それでいいか?)
(・・・、早くなさい?今でもゴミを見て潰したくて仕方ないのだから。)
いつにもまして魔女が好戦的だが、藪蛇になる前にさっさと離脱しよう。飛翔して高速移動する橘の背中にしがみつき話す?接続する?どちらでもいいか。物理的に接触しているなら電気信号は送れるし。
「橘さん時間です。離脱しましょう。」
「マッハのセカイで背後から抱きつかれたら、どれだけ怖いか分かってるんですか!?」
「なら、有線か何か付けて下さい。こっちとしてはどうやって連絡とっていいか分からないんですから!」
「・・・、改善提案として上げましょう。ただ、先に言うなら背中から抱きつかなくとも音声は普通に拾えます。」
「そうですか、なら次からは叫ぶとしましょう。それで気付かないなら雷でも降らせます。」
「はぁ~・・・、フェム。クロエからの撤退要請は優先的に拾って伝えて下さい。フレンドリーファイアで壊されても困る。それで、宮藤君は?」
「先に橘さんに声かけましたって!ランダム回避がキツイ!身体が潰れる!」
「ビーム避けたり弾丸避けてるんですよ!?嫌なら離れてください!撤退は了解しましたから!えぇい!鬱陶しいモンスターが!」
離れると橘が集まっていたモンスターを減らしに走るが、ジリ貧なんだよなぁ〜・・・。下の宮藤にも声かけたいけど、叫んだら聞こえるかな?
「み〜や〜ふ〜じ〜さーん!撤退でーす!!」
チラッとこちらを見たので、再度撤退を伝えると火の勢いが収まりだす。これなら集まって上昇アイテムを使えば大丈夫だろう。宮藤の横に降り立つが、ジャージがなくなりインナーだけの姿に。前よりも鍛えたのかシックスパックが浮き出ている。
「撤退はいいですけど何かありました?」
「いえ、このままだとジリ貧なので一度情報を持ち帰ろうかと。橘さんにも伝えたのでコチラにごうり・・・。」
『ダブルリアクターを使用します。周囲の方は気を付けて下さい。使用後砲撃を行います・・・。カウントツー!ワン!ファイア!!』
フェムの声が木霊し砲撃が発射されるが、カウント早すぎない?森毎モンスターを焼き払ったみたいだけど、橘自身は大丈夫なのだろうか・・・?




