313話 雪の森 挿絵あり
「中位なら取り敢えず武器の心配はないと。下位は下位で技量を試されますね・・・。まぁ、ここに来れる下位なら技量だけは保証できるでしょう。」
「でしょうね、検証は後にして私達も宮藤君を手伝いに行きましょうか。」
「そうは言うけど、単純にスーツ試したいだけでしょう?引き金戻らなくても次は助けませんよ?」
前に爆散しそうな事はあったが、米国では大丈夫だったし今回も大丈夫かな?まぁ、人の作るものに絶対はないから安全装置なんてものを付けるのであって、逆にそれがないと胡散臭く思える。そう考えるとソーツの作るモノは安全装置が見当たらないので胡散臭いのか?
いや。モンスターが廃棄品だとすると組み込まずに作ってるから暴走状態とか?う〜む、人とは感性が違うし駄目なら捨てて新しいモノを作った方が効率的という考え方もあるな。言ってしまえば安全装置って安全な緊急停止システムだし。
「それは困る。一応何度も試して不備がない物を持ってきていますが、モンスターの攻撃を受ければその限りではないですからね。では!」
橘も飛び立ちフェムもそれに釣られる様に飛んでいく。そこまで速度を出している様に見えないが、それに付き添えるフェムはなかなか上等なのだろう。さて、周りに誰もいなくなったし俺の方もぼちぼち行くとするか。
(なら、私が遊んで・・・。)
(悪いが私が先だ。後で遊ばせてやるから先鋒は譲ってくれ。初っ端から魔女達に頼ったら出来る事もイメージ出来なくなる。)
(・・・、いいわ。先は譲ってあげる。ただ、ここは中層なのでしょう?それなりに注意なさい。)
背筋がゾワッとする。あの魔女が変に優しい?ただ、そんな事を気にしている暇はないか。煙と植物・・・、いやもっと大きく森と取るか。明るいなら解釈として朝、朝なら森の上には飽和した水蒸気の煙が立ち昇る。
そう、ここは山岳地帯とは違い植物が豊富なら上よりも更に膨らませるイメージ材料には事欠かない。頭上には雲がない、しかし水があるなら蒸発もするし霧も雨もなければおかしい。どんどん処理しよう。木は燃えたモンスターはいるが森の住人。なら、上から降りてきたではなく街を追われたと一旦定義する。なら、そこにあるのは強くとも馴染めなかった者達。
敗者ではないが個である。なら、その個は私達新たな征服者よりも強いのか?それは否定しよう。既に街に・・・、外に迷い出た者は倒した。そして、それよりも深き所にいた者も倒した。
イメージして作り上げよう。自身にとって何が有利で相手にとって何が不利なのか?俺が使える煙とはそもそも魔法の材料でそれは混ぜ合わせれば作用もするし、混ぜ合わせなくとも魔法は使える。自由に思い描きその中でより強固にイメージ出来ればそれでいい。なら、生命力を奪うような物を前提にイメージを膨らまそう。
白ならば・・・。冬・・・?確かに広くていいがそれでは弱い。なら、更に付け加えよう。ここは森・・・、ならば雪山。凍てつく寒さに吹き荒ぶ風。葉なぞ存在しない。そんな生命の証の様な物は、俺の知っている冬の山には存在しない。骨の軋む音さえ聞こえそうなほど静かで、少しでも動けば気配が漏れる。それこそ、こちらを伺う視線さえ音があるかの様に。
しかし、それでも動かずにはいられない。どんなに優秀なハンターでも奪われる熱は多すぎれば凍結しいずれ死んでしまう。内燃機関があろうとそれは当然だ。モンスターは100%機械であるものは少ない。なら、その生身だろう部分は当然寒さに反応する。
ここに作り上げよう・・・、戦う為の場所を。氷を使う魔法は加納が得意としていたし、それによるモンスターとの戦いも見た。そして彼女も中位ならここで戦える者。必要なイメージは揃った。
「これでいいだろう。」
プカリと一服。思い描いた世界は確かにそこに存在し、ジャングルは冬山と化した。低い駆動音さえ聞こえないモンスター達だが、動くたびに何処かで新雪を踏む音がする。全てこのイメージで押し通せると思わないが、それでもだいぶ有利だとは思う。ただ、1つ難点があるとするならば・・・。
「寒いな・・・。さっさと倒さないと集まってきそうだし、離れてるとは言え宮藤さんに溶かされそうだ。」
歩く度に足の裏からサクサクと雪を踏む感触がしてくる。葉の落ちた木の枝の上を飛ぶ様に高速移動するモンスターがコチラに気づいたのか、そのまま木の上から自由落下で飛びかかってくるが・・・。コイツってもしかして、アレの進化した姿か?
新人に狩られたり雑魚と言われたり、それでいて隠し腕やら槍を使って突いてきたり、ダメージが確認できない光でこちらをスキャンしている様なアイツ。ただ、雑魚と言われても本当に雑魚ではなく、一定数のスィーパーはコイツに刺されたり殺されたりしている。各言う俺も殺されかけた自衛隊命名、観察型モンスター。
「久しぶりとは言いたくないが、何食った?ずいぶんと酷い有り様じゃないか!」
「|1/t5iw1--l1@?yn4h《最初の1を発見、殺害》」
隠されていたはずの背中の腕は隠される事なく展開し、上で会った時よりも更に黒くなった肌は、生物的でありながら柔らかさは見て取れない。黒いゴムやタールそんな質感なので打撃は余り意味をなさなさそうだ。ただ、喋るモンスターの意味不明な叫びは確かこいつ等の願いなのだろう。だが、殺意に対する解答は殺意以外ない。
「あの時の三つ目は殺した。そして、新しく来た場所の最初の敵もお前だった。だから、当然のように殺す!」
突き出される槍は上の者とは比べ物にならない程鋭く、収納される事のなくなった腕は殴り付けもしてくれば、躱した先で待ち構えつかもうとする。緩慢な動きなどない。ただ、こちらを倒そうとする意思のみが動きの精度を上げている。
「凍てつけ足よ・・・、軋め身体よ・・・、雪上戦は初めてだ、ろ!」
槍を飛び退いて躱し、腕をはたき落とし、強化した身体で顔を蹴る。未だにあの光はなんだかわからない。だが、モンスターのしてくる事をみすみす受けるつもりもない。別方向を向いた瞬間に光る目は辺りの雪を溶かし蒸気へと変える。
(広範囲熱線?確かに脅威ではあるが、これでは他のモンスターにダメージが与えられないだろう?出力の問題か?)
首を蹴り飛ばした所で三つ目は止まらず、蹴られた首の方に身体を捻りながら衝撃を躱し雪を掴んで舞い上げる。上のモンスターにはなかった小細工をコイツは使うか。他の者よりも弱い分知性方面が高い?嫌なものだ、弱いモンスターが弱いままなら脅威じゃない。しかし、それが進化し知性を有して弱いながらにもがき続けるならそれは脅威だ。だって、それは人と変わりないから。
ここだコイツは確実に仕留めよう。むしろ、モンスターに見逃すなんて言う選択肢はないが、このタイプのモンスターは優先して確実に仕留めよう。腕を使い長い槍を振り回し、掴みかかる掌からはパイルバンカーの様に一瞬光の槍が飛び出す。だが、まだ軽く倒せる。遠距離攻撃が先程の広範囲熱線だけなら、まだ脅威ではない!
「最初は不意打ちだった。だが、今回は正面から打ち倒そう!嵐は冷たく氷は鋭利。刃の嵐は切り刻み、姿を細かく隠しだす・・・。」
突き出される槍を頬をかすめながら躱し、傷が巻き戻る頃にはすでに懐の中。両手で押し潰そうと迫る手よりも早く魔法を具現化し法を破る。現れた嵐は無数の氷を孕み、眼の前で荒れ狂いモンスターを削いでいく。そして嵐が過ぎ去った雪原は静寂を取り戻し、雪の上にはクリスタルと消えようとする残骸と槍が残る。
先に残骸と槍を指輪に収納し、拾い上げたクリスタルをまじまじと見るが、上の物よりやはり大きい。色はそこまで変わらないし、形も変わらないので、変化点は本当に大きさだけなのだろう。これ1つで小さな工場から数年は持つだけの電力は算出出来るらしい。
「さて、2人を追うか。森は・・・、ついてこい。今日の歩む先は雪がいい。」




