307話 刑罰 挿絵あり
「みんな日向ぼっこでもして過ごすなぁ〜。走り回って海に落ちたり車の前に飛び出したりしたら駄目。何かあったら私に聞くなぁ〜。後、人間の子供には優しくしないとご飯抜きだなぁ〜。」
「穴を掘っても?砂を掘るのは楽しい!」
「くぅ〜ん・・・。トイレは?そこら辺でしたら怒られた・・・。」
「人間の真似はいいかなぁ〜?身体を動かしたいなぁ〜。」
職員数人とフェリエットをリーダーとして見守っているが、この人数だと・・・、遠足かな?弁当を持たせる愛犬愛猫家はいいとして、持って来なかった者については金貨を徴収して昼飯を出すが、人数が多いので外注も視野に入れた。一応、数社にお願いしたので足りない事はないのだが、余ったら悪いので数日間は全部買い取りを行い、後日からは名簿を作成。
食堂の神近達は人数に戦々恐々としていたが、外注の話をすると光を見たような顔になった。まぁ、仕入れ量も考えると仕方ないし、元々スィーパー用の食堂なので大規模糧食は想定していない。ただ、獣人は食欲旺盛なので足りなかったら食堂行きかなぁ・・・。一応小銭と言うか、金貨は持たせる様に言っているので食い逃げする事はないと信じたい。
そして、預かりの御触れを出した後に露店の方では屋台が増えた。本当なら衛生管理法とかに引っかかりそうだが、緊急措置として認めてもらったので大丈夫だろう。腹壊したらエナドリ進呈と言う手も打ったし。
更に言えば人はごった返しているんだよなぁ・・・。元々スィーパーや企業人が仕事でうろうろしていたギルドに獣人が増え、それを見本市と考えたのか、どの犬種や猫種を獣人にすれば自分の理想とする者が誕生するか?そう言った興味から一般人含めて多い。
たまにいる犬に好かれる人や、猫に好かれる人はぱっと見ハーレムの住人の様に囲まれている。やはり匂いなのだろうか?俺もフェリエット含めてよく囲まれるのでなんとも言えない。そして、近くの保育園やら小学校からバスで子供達が来てふれあい教室をしていると・・・。
まだまだ獣人については分からない事もあるが、少なくとも飼われていた実績のある者は人に危害を加えないし、野良から獣人になった者もお食い初めが効いたのか飯抜きは恐れる。まぁ、それでも人間が苦手な者は遠巻きに同種の者と遊ぶ方が多いし、犬はよく走るし猫は寝ているか集まって猫団子の様になっている。
「それでクロエさんは何で囲まれてるんですか?探すのに苦労するじゃないですか。」
「私のせいじゃないですよ。勝手に集まってきてスリスリしてきたりするんです。そう言う夏目さんは変に避けられてません?」
「保健所や動物病院を回ってきたからそのせいでしょう。獣人って実子扱い出来るんですかね?」
「政府次第で早急に決めるそうですよ?スィーパーは命を落とす可能性が高いので、その際獣人だけ残れば後が困る。遺産相続して施設に入るか、ある程度自立出切るなら自立コースでしょう。神志那さんのアプリのおかげでかなり自立率は高くなりますし。」
昔なら『半導体が足りない!』なんて話もあったが、シリコンも何もかんもゲートから出るので、多少の供給不足はあるものの高級で足りないと言う事はない。なので、一部の獣人はタブレットをポチポチしている。
「はいお花!お名前なんて言うの?」
「主から犬丸と呼ばれてたが、そのうち改名するそうだ。中々いい名だと思うのだが姿に合ってないとか。」
金髪ロン毛で耽美な顔立ちの犬人。大元はゴールデンレトリバーとか?オスカルとかなら合うだろうが、獣人に成る事を想定していなかったのだろう。ぱっと見20歳くらいの見目麗しい兄ちゃんが子供から花を貰っているが、その横で大柄で厳つい顔の野性味溢れる犬人が寂しそうにしている。
顔は悪くないしタイプの問題か。闘犬何かを犬人にすると野性味溢れた感じになるし、逆にチワワなんかは小柄になる。生後間もない犬猫に飲ませるとそのまま排泄されるらしいので、飲ませるのは生後1年半から2年を目安にするといいらしい。人は死ぬのに不思議なものだ。
「割と頭がいいですからね。そう言えば数人いる引き取った獣人はどうしますか?」
「暫定的にギルドに住ませてますよ。飼い主が死んでしまっては行く宛もないし、何より帰そうにも自立の糸口がない。このまま職員としての登用も視野に入れつつ、ある程度法律が決まってから本人達の意思を尊重ですね。猫人はいいですが、犬人は主人を探しに行くと大変なんですよ?」
「義理堅いですからね、犬は。しかし獣人を飼うと言うか、同居しているとモンスターを狩る進捗率が悪くなる。スタンピードはまだないんですよね?」
「ないはずとしか。秋葉原から米国での猶予は約1年。それを考えると今年はないと思いますよ?なにか気がかりが?」
「51階層以降にまだ誰も行ってないのが気がかりと言えば気がかりですね。宮藤さんも教導で足止めでしたし。再現されたモンスターや米国で出た物がスタンダードなら先行しないと多くの人が死にます。」
夏目がシリアスに語っている。話は尤もだ。しかし、さっきら獣人がまとわりついてはスリスリしたり撫で撫でしたりしているので、シリアスさんが息をしていない。動物も黄金比が分かるのだろうか?獣臭くはないが大型種は寄って来るな。バイバインの胸とか太い腕は好みじゃない。
「ガーディアンが出現したり宇宙行ったり、挙句の果ては獣人が生まれたりとゴタゴタが続きましたからね・・・。ただ、東京ギルドも稼働が目前なので少しは落ち着くでしょう。うちより更に大きくなったと聞いていますが。」
東京湾にせり出す様に作られた東京ギルドは、大分ギルドをモデルにしつつ更に大型化している。庁舎その物も大きいが、土地面積だけで大分の倍はあり、本部機能だけではなく警察や自衛隊もビルを構え、更に教導スペースやら突貫工事で獣人用のスペースを作ったのでかなりゴミゴミした感じだとか。
ただ、この敷地にビルを構えるなら誓約書としてスタンピード発生時に接収と破壊されても異議申し立てをしない事が契約として取り交わされている。一応、モンスター出現圏内は何もないが時間の問題で作られそうだな・・・。ここは雄二が長となるがサポートとして増田もいるし、卓も次の東京ギルド稼働までは一緒にいるから大丈夫だろう。
LINEで仕事量を聞かされて唖然としたと言っていたが、慣れれば回せない量ではない。決裁者としての責任はあるが、法律屋も多数いるので混みはしても混乱は少ないだろう。後は本人がどれだけ人に頼る事が出来るかだな。
「夏目さんも応援に向かいますか?こちらは安定してますし、当初ローテーションで本部長研修をする予定でしたが、ガーディアン騒ぎで全員任地へ行ってしまって白紙状態ですし、何より本部長がいない任地では混乱もあるでしょう。」
「そうですね・・・、増田さんからの頼まれ事もあるので、話してOKが出れば向かいましょうか。いない間は赤峰夫人にお願いしてましたし・・・。そろそろ夫の腕が恋しいでしょう。」
そんな話をして執務室へ。獣人の登録申請が相変わらずわんさかあるが、決裁後はライセンスカードに獣人の名が記載されると共に獣人の方にも同じ様な記載のドッグ・タグが渡される。
首輪みたいじゃないかって?カードだと獣人達が失くすんだよ・・・。一度フェリエットにボールを預けたがすぐになくし、新しく買って預けたがそれもすぐになくしてしまった。そして、在り処はどこだと探したら1つはバイトの家の中で、もう1つは木の上・・・。木の上には猫だった頃に隠したであろう物もあったので、失くすと言うか隠したの方が正しいのかもしれないが、隠した事を忘れるならそれは失くしたのと変わらない。
ただ、スィーパー達もそのまま渡すのではなく、チョーカーの様にしたりして自分の子にお洒落をさせている。ドック・タグのチェーンの方が頑丈なのだが、必要なのはチェーンではなくタグなので特に何も言うことはない。
「お疲れ様〜、書類整理替わるよ。獣人達見てくる?今なら男女問わずハーレム体験が出来る。」
「そんな事言ってると莉菜さんがヤキモチ焼きますよ?と、言うか上から見てましたけど囲まれてましたね。マタタビとか撒いてました?」
「まさか、何も使ってないな。獣人の申請は増えそう?」
「薬がある限りは増えそうですね。後はいつまで薬が出てその後自然交配して、そこから生き残るかどうかですかね?」
「予想だと減らないと思うなぁ・・・。美男美女だから生存戦略的には強いし、獣人を迫害する勢力と言うか天敵がいない。なら、後は人が繁殖に対して規制するかどうかとか?『ウチの子は血統書付き、雑種との結婚なんか認めないザマス!』とかね。」
箱入り娘ならぬ箱入り獣人。人が獣人を恋愛対象として見るかは別として、関係性は十人十色なので恋人と思う人もいれば、子供と位置付ける人もいる。スィーパーとして純粋に戦力とか後継者とする人もあるかもな。他の国では魔術師が魔術師の弟子を欲しがったりする事もあるし、職ごとに誰かを目標として習うなんて事も多くあるようだ。
風の噂では異種格闘技戦でカンフーが弱いと言われていたがR・U・Rの登場で、最後に立っていた人が勝ちと言う風にシフトチェンジしてきているので、古武術やカンフー等の実戦以外眼中にない殺人拳の方が強くなってきている。ニュースにもなったが、開始直後に両手を広げて近寄り金的一撃ノックアウトなんて試合もあった。
男だったから痛みは分かるよ・・・。気絶して負けたらしいが、本物の玉々は潰れてないので後は精神的に大丈夫な事を祈ろう。と、言うか服装も何々スタイルと名打たない限り自由なので、袴の人なんか見ると格ゲーを思い出す。流石に武器は禁止が多いが、これも時間の問題だろうな。
「フェリエットちゃんが結婚かぁ〜、旦那様は誰なんでしょうね?」
「さぁ~?見方を変えれば集団預かりって合コンとかお見合いだし、そのうち妊娠して帰ってくるかも・・・。なんだろう、頭痛の種が増えた。遥や那由多より先にフェリエットの子供が生まれたら祝わしい事ではあるけど複雑だな・・・。」
犬猫のオスはあんまり子育てしない。犬のオスは生後2ヶ月位から群れのルールを教えるのが役割だし、オス猫に至っては子作り後すぐに別のメス猫を探しに行く。人間に当てはめると中々よろしくない人となるが、多頭出産なら数がいるので死亡<子孫となり多くと交尾した方が種としての生存戦略では正解なのだろう。発情期なんて期間もあるし。
「野性味が強いですからね・・・。ある日突然お腹が大きくなったなぁ〜って言っても不思議では・・・。」
「娘さんをくださいと言いに来られても困るけど、相手が分からないのももどかしい・・・。この泥棒猫!って本当に叫びそう。」
眼下で寝たり遊んだりしている獣人達はみんな大人な訳で、フィーリングが合えばちょっとそこの物陰で・・・。それこそポメラニアンっぽい少女風な獣人が野性味溢れる大男・・・、セント・バーナードっぽい耳の男とイチャイチャしている。これは愛情表現やスキンシップであり、決してヤバい人がヤバい事をしている訳ではない!
「・・・、男女分ける?」
「温泉では分かれてますね。」
「いや、獣人と言えど耳と尻尾以外は人だから!流石に混浴は容認しない。」
水遊びしたさそうな成人集団(犬耳猫耳付き)ビーチを作る計画は許可したが、有志でどうにかするのでいいだろう。ただ、浮島にするにしても犬人が穴を掘るので、そこだけが気がかりだ。
「人と獣人の混浴はあるんですけどね。と、そう言えば宮藤さんから連絡がありましたよ。『そろそろ落ち着いたので奥に行きませんか?』と言う。」
タイムリーな話だな。夏目とも話していたし、安定した現状なら潜ってもいいだろう。それに政府の方からも祭壇を探せと言う催促も来ている。他国としても公式では40階層から45階層辺りへの到達者が少数だがいると言う話もあるし、ぼちぼち潜りだすかな。
「カオリは最近ゲート入った?私は全然なんだけど。」
「入らない事はないですけど、日帰りとか短時間が多いですね。どうしても業務を考えると時間が・・・。」
「さらなる細分化か潜れる仕組み作りがいるなぁ・・・。そう言えば青山は?静かなのはいいけど、いないとそれはそれで不安なんだけど。」
「はいはい!貴女の青山はここに!楽しかったお茶会の続きですか!?」
いらん噂なんてするもんじゃない。いなければいい青山は煩く扉を開けて現れた。楽しいお茶会ねぇ・・・。褒め言葉と賛辞を聞き続けるのも、それはそれで苦痛なんだがな。しかし、半日ほどお茶をして収穫がないわけでもないというのが嫌なところ。特に元ホストと言う事で夜の店にはそこそこ詳しい。
個人としてもギルドとしてもあまり関係ないが、スィーパー達のせいで夜の治安が悪くなってないかと心配していたが、その辺りは元いた蒼天が治安維持してくれてるし、伊月曰く警察にも協力的で助かってるとか。
「茶はいいけど単純にどこに行ったのかと思っただけだ。あるだろう?夏の夜に蚊が飛んでて眠れなかったのに、ふっと音が消えたら気になるだろう?」
「気にかけてもらえて感激です!俺も獣人の様に耳と尻尾を付けたらスリスリしたり撫で撫でしたりしてもいいですか?」
「駄目。」
「いいって言ったら抜き取って取り付けてきそうですもんね・・・。それで青山はどうしてここへ?」
「はい!伊月さんから放火殺人した犯人を奥へ連れて行って欲しいと言う話があって呼びにきました。些事なので俺が送りましょうか?」
「送るったって5階層まで一緒に行って次に行くのを見届けるだけだろう?いいよ、そこまで行って何階層降りるかは判決出てるんだろうし、死んでしまってもセーフスペースに居着いてしまっても私達は関知しない。確か、首輪カメラは連続使用でも1年以上は保つんでしよ?」
液化クリスタルは中々使い勝手が良く、再度固体化も出来るので次世代バッテリーとして注目されている。リアクター程の出力はないらしいが、元がモンスターの核と言う事を考えると、かなり高性能なんじゃないかな?あれからビーム出してるかはしらんけど。
「それで?その犯人はもう護送されて来てる?」
「ええ、取り押さえられた時から薬で眠っているそうです。そうじゃないと周りの被害も増えますからね。遺留品の鑑定や追跡者の発見でも犯人で間違いないので最短で送るそうです。」
「ふ〜ん・・・。で、階層はどこまで?」
「35階層とクリスタル200個でサイズ問わずです。」
「そこまで行くと中位に至って帰ってきそうですね。」
「死刑判決に近いけど死刑ではない。国として死刑が確定すれば執行出来るけど、誰もそのボタンは押したくないからね。更生の余地は知らないけど、仮に反省してるなら素直に法廷に立てばいい。」
仕方なかったからやった。反省して更生の見込みがある。言うのはいいが、された本人は何を思う?死人に口なしではないが、その罪は正当な罪なのだろうか?俺はその放火殺人犯の背景を知らないが、刑が確定した以上は執行しなければならない。
そんな話をして部屋を出た後に伊月と会い、眠っている犯人を見る。歳の頃は30代半ばの男性で、これと行った特徴もない。次に起きた時はゲートの中、逃げても隠れてもいいがその分刑期が延びるだけだ。
「では、刑執行に関する書類にサインを。」
「ええ、サインを。実際どれくらいの人が刑期を終えてるんですか?」
「さぁね、知ってるだけなら半数にも満たんよ。ゲート送りになるのはそれなりに重い罰だしな。」




