297話　美しさ　挿絵あり

　フェリエットを神田に任せて執務室で一服。昨日から伊月達とうろうろしていた夏目がいたので一緒に部屋へ。途中青山にもフェリエットの件を伝えたが気にかけてくれる様だ。様だと言うのは本人が獣人に興味がなくあくまで奉公する俺の近縁者だからと言うのが大きい。まぁ、それでも気にかけてくれるならそれでいいのか。テーブルを出してコーヒーを入れて座り情報交換と行こう。

「一先ず夏目さんの方から話を聞きましょうか。伊月さん達と何してたんですか？やっぱり獣人の捜索とか？」

「それも大きいですけど、疎開時にどれくらいゲートに動物とかペットが持ち込まれたか気になったんで、それを調べてました。大半は犬猫で時点は鳥やハムスター。流石に牛なんかの家畜はいませんでしたね。いい悪いは別としてガーディアン出現予定日までは安全と言う一応の保証があるので、畜産家の方達はギリギリまで世話をしてから疎開した様です。」

「なるほど、獣人選別ってそもそもゲートに動物入らないと、獣人に出来る出来ないのソーツ側の判定がありますもんね。ゲートの分布的に都心部や人の多い所にある傾向があるから、野生動物はそもそも論外なんですかね？」

「確かに何でも出来るって思ってたけど、ゲートに入る可能性のある動物ってかなり制限が出てくるのか。これが荒野のど真ん中とかなら勝手に入り放題だけど、騎乗して入る列に並ぶとか邪魔で仕方ないし。」

　考えてみればイジる生物の検体が必要なのか。その中で最多の物を考えると多分最初は犬が猟犬として出て来て、次に似た大きさの猫が疎開で増えてからと。確か犬猫は祖先が一緒だから大きな違いはないし、大きさと言う面から考えても大型犬よろしく大型猫もいる。なら、狼は？チーターは？と言われそうだが、ネコ科イヌ科だが袂を分けて害獣化しているので判定としては無理そうなラインかな。

　決定ではないがほぼ確定として獣人の要件は犬猫。野良は不明だがペットなら概ね成れるとかだろうか？取り敢えずボッチスィーパーの隣に獣人と言う構図が出てきそうだ。まぁ、それでも一緒に潜るなら育てないといけないのだろうが、普段は外で家の事をさせていれば邪魔にもならないし、戦う以外の面をサポートしてくれるならそれはそれで助かる。

「それで、検査結果としてはどんな感じなんですか？私は付き添えなかったので全く分からないんですが。」

「2日間に分けて調査したけど、初日の時点でゲノム解析上混血は出にくい事は分かった。人との違いは1.1%その部分が犬的な部分とか猫的な部分なんだろうけど、外見的にはと言うか骨格や中身は人との遜色ない。つまり、子供の出来ない夫婦にはなれるかな？」

　何歳の時点で薬を飲ませていいかは分からない。人が飲むと死ぬらしいが、まだ人が飲んで死んだと言うニュースは見ていないので国内で飲んだ人はいないのだろう。流石に海外ニュースを見ても変死体1つが大々的に報道されるかと聞かれると答えはNO。仮にあるとすれば余程の怪事件だろう。まぁ、昨日まで元気だった青年が急にミイラとかになったら余程の怪事件ではあるのだが・・・。

「2日目は主に身体スペックの再調査や学習能力についてですね。クロエからモンスターに対して威嚇したと言う話もあったんで、その辺りを詳しく調査しました。」

「身体スペックは相当だったでしょう。私も初日に海で遊んでいて振り回されました。まぁ、あの姿の娘に振り回されるなら悪くない。ちょっと顔立ちの良いメスの野良猫を探そうかな？」

「夏目さんそこまで餓えないでください！ステイですステイ。結果としては外見年齢と申告年齢を考えて14歳ほどの子供と推定した時に、人よりも遥かに身軽ですばしっこいし反射神経もいい。その反面持久力には劣りますね。後、集中力は本人の興味次第な所が大きいですけど、知能テストの結果を見るとほぼ人と同等でした。ただ、本人がと言うか元が猫なので人とはちょっと違う原理で物事を考えますね・・・。」

「違う原理？」

「簡単に言えばご飯が欲しいから自分を差し出す。それくらい野性的と言う事です。野良にエサあげた事ありません？猫にエサあげて仲良くなると見かけたら寄って来て頭をグリグリしてきたりとか、場合によっては膝の上に飛び乗ってモフモフさせてくれたりたか。」

「なるほど・・・、つまり獣人には煮干しやジャーキーをあげたら身体を好きにする権利がもらえると？」

　間違ってないけどなんかニュアンスが違うような・・・。いや、そこまで節操なしとは・・・、でも海での姿を見たら・・・。いや、考え方が違うのか。独り身なら彼女彼氏枠のパートナーにもと考えたが、夏目はそもそも女性が好きと言う関係上、子供に恵まれるかは微妙。それこそ精子バンクから買うと言う事も出切るが、その出生に悩む子供もいる。その点、獣人だとスタートは子猫かもしれないが何れ人と変わらない姿になる。

　フェリエットを見るに家族や仲間と言う意識はある様だし、浴衣の事を覚えてもいた。つまり思い出と言う過ごした年月分の重さは確かにその中にある。なら、同性婚が認められたうえでの新たなる子供枠になれる？ん〜、ソーツは多分適当な手駒増やすかくらいのイメージだったんだろうが、人間様は意外と面倒くさいんだよ！

　煮干しで釣って家族になって、最後は実子として過ごす。ない話ではない。寧ろ人と付き合うのが面倒ならそっちに走る人は大勢いると思う。ただ、分かれた後の獣人の処遇が問題になってくるよなぁ・・・。究極的に言ってホームレスでも困らないのが獣人と言うかフェリエットの考えだし。

「夏目さんの実子として獣人が登録出来るかは分かりませんが、もしそれを考えているなら早めに動きます。獣人の事はオープンにすると政府側からも話が出ているので、いっその事配信で獣人と人は対等と呼びかけてもいい。」

「はい？私は単純に獣人と遊んでみたいなぁ〜と・・・。しかし実子か。長く生きそうなんで確かにその選択はありですね。お金は稼げはいい。子供はいい娘の分増やせばいい。そして夢の親子丼を！」

　　

「夏目さん気をしっかり持ってください！それは偽の親子丼ですよ！」

「違うカオリそこそこじゃない！夏目さんもなに獣人より獣人チックな考えになってるんですか。ハーレムなんかは好きにしていいですが本当に本当に捕まらないで下さいよ！？」

「えい、単純に行き場のない女性や獣人をかこゲフンゲフン、支援しながら共同生活っていい事してますよね？」

　なんだろうな・・・。悪い事ではないが本音に『可愛い子と爛れた生活にしたい！』と透けて見える。双方合意なら成人しているので口出し出来ないが痴情のもつれで刺されたり・・・、した処でなんともないのか。だって妖怪だし。女性に囲まれて暮らす未来が見えてしまって仕方ない。

「夏目さんの将来は法に触れない限り好きにさせましょう。それでは話を戻しますが、性格はもう元が獣なんでこれから理解するとして、モンスターに威嚇した事については？」

　本題はここ。威嚇とは裏を返せば怯えである。少なくとも相手を脅威と見ていない限り威嚇する意味はないし、逆に勝てないと思うなら縄張り争いでもしていなければ逃げる。獣にとって怪我とは死に直結する物で足が折れれば餌は取れないし、下手に傷付けば病気になる。

　だからこそ群れて身を守る者もあれば、一人でも生きて行ける様に何かしらの特技を身につける。そんなフェリエットが映像を見ただけで威嚇したと言う事は何かしらの人には感じ取れないものが見えているのかもしれない。

「その点についてはモンスターの映像を見せると例外なく威嚇しました。クロエはタペタムとか言ってましたけど、確かにフェリエットちゃんにはそれが確認できました。そして、推測ですがモンスターの出している不可視光線に反応しているのではないかと言う結論ですね。」

「不可視光線と言うと紫外線とかですか？確かにモンスターは有害な物を垂れ流してると言ってましたね。」

「ええ、普通に人の目と遜色なく見える上に更に不可視光線が見えているので、フェリエットちゃん的には文字通り化け物が見えているのではないかと。」

　人もモンスターを見ると叩き潰したくなる不快感があるし、敏感な猫なら更に不快なのかも。何にせよ視覚情報が人よりも上ならそれだけ脳が疲れて眠くなるのも分かるな。探知系が苦手な人は新たな相棒枠として雇用も出来るし、悪い事ではない。ただ、タペタムがあるなら夜は目が光るのか。薄暗いゲートの中で大量に光る目を見たらそれはそれでホラーだな。

　まぁ、ゲート内で懐中電灯持ってうろうろしないから中々見る事はないだろうが、戦闘中にビームが通り過ぎる度に目が光るのは多少シュールかも。ただ、そんな事に気を取られている暇もないが・・・。

「私が来たー！もっちー何処まで報告した？」

「今は身体能力とモンスターへの威嚇ですね。」

「なら私が後は引き継ぐよ〜。学術的な所もあったから私の方が説明しやすいし。」

「ならお願いします。流石に書面読むだけだと説明とは言いませんからね。」

　神志那が現れてバトンタッチ。学術的と言う事は数値的な何かが違いとして出たのかな？血液検査なんかもしてるしそのあたりが分かって来たのかも。流石に未知の生物なだけあって対応が早い。

「今朝東京の方から届いた犬獣人のデータも報告するけど、基本は猫獣人と一緒だから括りとしては獣人って括っていいよ〜。違いがあるとすれば筋肉の付き方が遅筋が多いからタフだね。継続させてなにかするなら犬、手早くするなら猫とか？ゲノム解析も1.1%の違いだから混血はやっぱり厳しいし、猫と犬のミックスも波形見る感じ厳しいって解説がついてた。」

「まぁ、祖先が一緒でも普通に犬と猫のミックスはいませんからね。流石に何億年も生きて違う種族出すし。」

「種族的恋愛不可かぁ・・・、そのうちドラマとかありそうですね夏目さん。」

「禁断の恋か・・・。いや、私は両方ウエルカムだからハッピーエンドを目指すよ？フェリエットを見る限りなかなか美人さんだろうし。」

「節操ないなぁ夏目っちは。まぁ、その容姿だけどそこそこ可愛いか格好いいのが出来上がるって事で間違いないよ。」

「えっ！なんでそこ確定なんですか！？」

　不細工がいいわけでもないし、そもそも醜美なんて時代で変わる。今、点眉下膨れでお歯黒の人がいたら美人ではなくホラーか時代劇の撮影だと思いはするが美人だとは思わない。だが、確定で可愛いor格好いいだとかなり厄介だ。何が厄介ってそれだけ欲しがる人が増えるんだよ・・・。

(貴女知らないの？美しさと言うのは武器よ？それも割と特上な方の。)

(いや、美しさが武器というのは知ってあるが・・・。)

(本質を理解してない。美しさと言うのは、そこにあるだけで武器であり鎧であり恐怖なの。)

　魔女が言うが武器は分かるとして鎧と恐怖？本質って美しさの本質ってなんだよ・・・。メイクは身嗜みと言うから口紅とか化粧品貰って付けたけど、なんか違うと思ってつけなくなったし少なくとも顔を見て逃げられることはない。

(はぁ～、及第点からそれ未満に格下げかしら？)

(いや、それはなんか困る気がするから駄目だ。少なくとも及第点になるくらいに教えてくれ。)

(いいこと？美しさとはそれだけで種を滅ぼすだけの性能があり、不可侵性を持たせられ更には失う恐怖も内包する兵器よ？よく覚えておきなさい。私は貴女の下である、ただ、上が愚物なら怒り出す。それは天と地が、黒と白が分かつ程明確な理よ。)

　魔女が大層お怒りだ。黒と白が分かつ程って多分星の外と中の区分くらい違うって事だよな。多分、前になり変わる為の裏技がそれ。なるほど、神落とす神話の再現か。上位者が不甲斐なければ確かに下は怒り出すし、武器を武器と認識しないとなるとそれだけで愚かだ。

　核兵器のボタンが本体に付いていたとして、それを兵器と認識しているなら囲いも作れば塀も立てる。監視者は24時間いるだろうしボタンを押せない様な細工する。だが、それが何か分からないならば？野ざらしでそれこそ近寄ってきた動物画押すかもしれないし、それをオブジェと見るならシンボルとして街を作るかもしれない。

　しかし、種を滅ぼすとは大きく出たが・・・、貂蝉や妲己か。戦争の引き金に1人の女性を求めてと言うのはあるし、勝利条件が個人に類するものならそこに辿り着くまでは止まらない。そして、美しければ手放したくないし守る者は鎧となる。そして、美しいから生かす事も。美しさを理解して武器として使うなら、確かに存在兵器とでも言えばいいのか、いるだけで目に映り他者に作用する・・・。やべーな・・・。そして、整った容姿を持つ獣人はそれだけ受け入れられやすい。

　嫉妬や妬みを買う事もあるが、種族として全体がそれなら諦めもつくし、何よりも身近な分手に入れられてしまう。種を増やすとしても勝手に増やす手法としては手軽だが確実性もある。やっぱりソーツの作るものは有用だが癖がありすぎる！