295話 ドレッシング 挿絵あり
帰り着いたはいいもののフェリエットは後部座席で寝こけているので浮かせて運ぶ。バイトは先に犬小屋で休んでいるので、検査終了=付き添い終了としたのだろう。そんな姿を見ながら望田は離れに入り俺も母屋へ。玄関を開くと中からは夕食の生姜焼きの香りが出迎えてくれる。
「ただいま〜、帰ったよ〜。」
「お帰りなさ〜いって、フェリエットちゃんは寝てるの?」
「あぁ、今日の検査はハードだったらしい。汗かいてるから風呂にも入れたいけど、起きてからでいいだろう。夕食はもう?」
「ええ。出来てるけどどうする?那由多は部活の引退が近いからってもう少し遅くなるみたいだけど。」
「6月の高総体までか。武道系は危ないから試合できないのが痛いなぁ・・・。」
残念な事に息子に最後の試合をさせてやる事は出来なかった。R・U・Rの増産等色々手を回したり打診したりしたが、ガーディアン出現からの疎開でスィーパーが増え、それに伴い職に慣れていない学生同士での当て試合をさせるのは危険と武道系は型のみとなり、サッカーや野球は行うもののファールなんかが厳しく取られる事となった。
まぁ、それ以前にスィーパーと一般人で能力差がありすぎるので、そこでも区分を分けようと動いていたが結果として無駄になってしまったな。まともに武道として試合をするならR・U・Rを使うしかないが、普及率の問題でテレビ局まで回らないのよね・・・。それでもゲームセンター貸し切ってのプロボクサーの試合とかやっているが、アレはもうボクシングと言う名の何かだろう・・・。
流石に寝技足技はない。しかし、それ以外はほぼ何でもあり。なので腕は伸びるしカミソリパンチは強力なパンチではなく、拳圧で真空波でも出してるのか本当に斬れる。まぁ、薄皮一枚とかなのだが、それでも試合続行するのでルール的にはこれくらい負傷には当たらないのかも。因みに総合格闘技の試合になると寝技と言うかサブミッションと絞め技が増える。
フィニッシュはほぼ相手の意識を刈り取る事になる為にそれなのだろうが、たまにアゴにいいの貰ってKOとかもあるので奥が深い。そんな事を考えながら居間に入りフェリエットをソファーに寝かせてテーブルの上の麦茶で一息。フェリエットも寝てるし今日はキッチンの方で食べようかな。
「テーブルそっちに運んでいい?」
「いいわよ〜。後一品ぱぱっと作るからその間に移動させて。」
移動は引きずらずとも指輪に入れて出せばOK。3月末辺りは新卒者必須アイテムで引越し業者が軒並み廃業状態となっていたが、行った先で配線やクーラーの設置なんかを専門に請け負う事でどうにか生き残った。
ただ、運送屋+設置工事屋+ゲート関連依頼請負業者と廃業の危機、その業種吸収を繰り返したようで最終的に何でも屋になってしまった。他の企業も新しい部署作ったりしてるし市民レベルで改革しているが、何だかんだで仕事はなくならないものだな。
「はい、こんばんは豚肉の生姜焼きに酢の物、後はサラダよ。」
「見た事ないドレッシングだけどこれ何?」
「馬パウダーが入ってるんですって。面白そうだから買っちゃった♪口コミ的には高評価よ。」
馬パウダーって、セーフスペースの馬を粉にしちゃったか〜・・・。まぁ、旨味オンリーの物に味付けすればそれは多分旨いのだろう。贅沢を言うなら後は食感かなぁ。ドレッシングの時点で歯ごたえも何も無いが・・・。
取り敢えずサラダを一口。なんだろうな、凄く旨いゴマドレ?まぁ、普通のゴマドレよりも美味しいとは思う。ただ、劇的かと言われると悩む。
「旨いけどそれまでとか?」
「確かに美味しいけど目と口が光るレベルじゃないわね。」
「別に君の目は光らんだろ。」
「漫画的なあれよアレ。」
「ただいま〜、風呂沸いてる?」
「おかえり〜、沸いてるから入るなら先に入っちゃいなさい。」
「フェリエットも一緒に入れてくれる?」
「昨日の事で思春期男子の心に負ったトラウマへの考慮は?」
今日もロードワークだったのか汗だくの息子が帰ってきた。トラウマってフェリエットにナニをニギニギされた事かな?まぁ、嫌がるなら俺がいれるか。しかし、那由多とフェリエットだと本当に兄妹くらいの感覚だろうて。妹の好奇心くらい受け止めてやればいいのに。
息子が風呂から上がり、寝入っていたフェリエットを起こして風呂へ。首から下は大丈夫なので気持ち良さそうに湯船に浸かっている。ただ、頭と言うか顔に水が掛かるのは苦手なのか髪を洗うのには一苦労した。でも、そのうち一人でやってもらわないとな。
「週末友達を呼ぶ件だが、今日話し合って獣人についてはオープンにする方向なんで大丈夫だろう。」
「そっか、なら大丈夫って伝えとくよ。しっかしこれから保健所の人は大変だろうな。野良の処分とかしてたら猫の顔が人に見えてくるかも。」
「そのうち猫島が本当に猫獣人島になるかも。限界集落とかで獣人受け入れ表明して、人より獣人が増えるのはあるかもな。」
「ファンタジーね〜。フェリエットちゃんみたいな獣人に囲まれて暮らすならありかも。アニマルセラピーならぬ獣人セラピーとか?」
「ゴロゴロしてるから勝手にするといいなぁ〜。」
「そう言えばフェリエット。働かざる者食うべからずと言う言葉がある。」
「私は縄張りの見回りと昼寝で忙しく働いてるなぁ〜。仕事したからご馳走が欲しいなぁ〜。」
「フェリエットちゃん、夜の見回りは却下ね?猫の時から駄目って言ってもよく脱走してたけど、本当にその姿だと駄目よ?」
「でも、私達は夜に集会したり縄張り争いしたり、オスを見つけて増えたりするなぁ〜。」
「オスを見つけて増えるって今は無理だろ・・・?えっ!父さんハーフって産まれるの!?」
「何を想像しているかは大体想像つくが、検査結果的にはハーフは産まれないようだが、まぁ先の事は分からん。責任取らなくていいからって変な気は起こすなよ?」
「起さねぇーよ!」
「私じゃ駄目かなぁ〜?小さい時から一緒に寝てるのに手を出さないから雄としては落第だなぁ〜。クロエは旺盛だからどんどん増やすといいなぁ〜。」
息子は項垂れ俺と妻は一瞬止まる。流石に息子の前で言われると互いにクるものがある。知りたくないだろう?両親の夜の仲良し度合いとか・・・。子供がいる時点で隠すもなにもないのだが、そこはほら・・・、暗黙の了解とか?流石に妻も止まってるし家長として話題を変えるか。
「増えはしないが見回りの代わりの仕事をやる。明日からできる範囲でウエイトレスしろ。場所はギルドの食堂で仕事の出来次第ではご褒美がある。」
「それがなんの仕事か知らんなぁ〜。面倒なら嫌だなぁ〜。」
「単純に出来た料理を運ぶだけでいい。それと、美味しい料理が全部ご馳走って名前じゃない事は分かるな?」
「板・・・、タブレットで分かったなぁ〜。でも美味しそうな料理は全部ご馳走だなぁ〜。」
「フェリエットちゃん。それだと腐った豆をご馳走って言って出すわよ〜?私納豆好きだし。」
「なら、俺も手伝うよ。そうだなぁ〜、にんにくソースのステーキとか食べたい?」
「肉だけよこすなぁ〜。臭いと鼻が悪くなるなぁ〜。」
「そう言う事だ。ウエイトレスして料理の名前を覚えて人の中での生き方をぼちぼち覚えてくれ。急ぐ必要はないし、タブレットをやりたいならそれで勉強してもいい。ただ、面倒臭がらず新しい経験から目を背けないで欲しい。」
「小難しい事は知らんなぁ〜。でも招き猫くらいならやってやるからお供え物をいっぱい貰うなぁ〜。・・・、料理を運べば美味しそうなものがねだれるなぁ〜。」




