閑話 72 開発秘話 下
御堂が帰り拙者達も一息つこうと食堂へ。御堂がフル稼働させて4時間。トータル稼働時間は実験中も含めると200時間は超えているでござるがパーツ毎の時間となると微妙でござるな。最初に胴体部分次に腕、最後に足と作ったでござるが一番壊れてほしくない部分が損傷したでござる。
飛行ユニットがあれば地面を踏む衝撃も緩和出来たのでござろうが・・・、無い物ねだりしても始まらぬな。人の筋肉と同じ様にバイオメタルを織り込んで作っているでござるが金属素材その物を変えるか迷うでござる。う〜む・・・、e-ラバーを増やしてはどうでござろうか・・・。しかし、ゴム故連続使用時の強度が・・・。
「データは取れたので一旦糖分補給をしましょう。僕はアイスを頼みますけど藤君は?」
「拙者は餡蜜がいいでござるな。ただ、材料があるかどう・・・、遥殿いかがされたか?」
「忙殺されるでござるまする・・・。」
「らっしゃい!嬢ちゃんは来てからずっとこんな感じでい。注文した後によけりゃあ話し相手にでもなってやんな。」
話を聞けばJAXAからと言うか文部科学省と経済産業省が宇宙服をせっついているとの事。クロエ殿が有する交渉権使用の為ゲート内の祭壇が見つからなかった場合、今年は宇宙へ出向こうと言う考えらしいが、どこも一枚岩ではないのでござろうな・・・。
外務省が横槍を入れねば大筋でロボ完成は見えていたし、宇宙エレベーター作成の足がかりにもなったでござるが、空に足場を用意出来ぬ現状では宇宙エレベーターも作成は難しい・・・。
「服はいいの服は!デザインもまとめたし作成の目処も立てた。でも、スペースデブリ?それに耐えろとか馬鹿言わないでよね!?本当に嫌になる。」
「廃棄衛星の処理は今まで大気圏突入で燃やす前提でしたからね。思った以上に地球の周りにはゴミが溢れてますよ。」
「因みに当たるとどうなるでござる?」
「銃で撃たれたみたいな感じですね。地上と違うのは当たり所が良かろうと悪かろうと死にます。命綱で当たって飛んでいかないようにしようとも服の中はぐちゃぐちゃでしょうし、小型なら貫通してエアー漏れと出血で身動き出来ません。何せ秒速7~8キロで地球軌道上を飛んでいまからね。これは一般的なライフル弾の約10倍強の速度です。」
「分かったでござる・・・。寧ろスィーパーならそれを避けられると考えてるのでござるな・・・。」
「ビームを避ける事が出来るのでおそらくは・・・。ただ、スペースデブリ激突は不意打ちなので避けるにしても準備もなにもないですね。モンスターなら対峙してか、或いはいる前提で行動てきますけどスペースデブリとなるとなぁ・・・。イメージ湧かないでしょう。」
「藤さん達はどう?さっきロボ動かしてたみたいだけど。」
「こちらも似たようなものでござるな。初期予定の飛行ユニットの使用許可が取り消された故、走る大型ロボになったでござる。その関係でバイオメタルがさっき断線したでござるな。」
見た感じ芯はいいでござるが、周りの繊維が筋肉痛を引き起こす様に切れていたでござる。人ならばその後再生するのであろうが相手は金属。自動修復機能はないでござるな。あの輸送機からその部分のノウハウも取れればよかったでござるが、ないものは仕方ない。
「それなら電解液を流せばいいんじゃない?血液みたいに。今は糸状だけど細いパイプで毛細管現象利用して循環させればどうにかなりそうだけど?確か昔どこかで研究されてるって見たよ。」
「そんな事可能でござるか?斎藤殿はどう思われる?」
「う〜ん・・・、メッキの要領で細い管なら・・・。ただ構造的にパイプ状の金属を更にラバーで覆うから熱量が・・・。」
「e-ラバーを使って覆うのはどうでござる?断線時も通電して伸縮するから修復までの時間稼ぎに・・・。」
「硬度照射すれば表面は更に硬くなるんじゃ・・・。」
来た餡蜜を食べつつ話を進めるでござるが、遥殿も知識人でござるな。スマホで検索したでござるが確かに研究されたような文章が見つかり、内容的にはメッキ方法で修復する分修復箇所は筋肉同様太くなるとか。ロボと言う名の人造人間を作っている様でござるな。遥殿と高槻殿に協力要請をして管の修復時間や溶液比率をサクサクと調べていくでござる。
本来職がない状態で作ろうとすればオーダーメイド故、相応の時間がかかるのでござろうが、鍛冶師に装飾師、造形師に調合師が揃えば何かを作るなと言う方が無理でござろう。試作品のパイプはバイオメタルを空洞化したもの故伸縮性も十分。
更に言えば伸縮させる為に通電する必要性があるので、溶液を流して循環させ続ければ溶液内の金属が無くならない限り修復するでござるし、何よりも背面に圧縮装置で圧縮した溶液を積んでいるので必要ならば追加で送れるでござる〜♪
「しかし、通電させると熱量が上がりましたね・・・。宇宙なら放熱すればいいし発電に回せるけど、地上だとパイロットが蒸し風呂に入ったみたいになるかも。試しに腕を動かしたけど37度くらい?」
「サーモで見ると指先とかは更に熱いでござるな。爆熱とまでは言わぬが50度くらいでござろうか?可動する分電力が集中するでござる。乗る場所も動かせばヒートアップするとして放熱剤かパイロット用の断熱材がいるでござるな。」
トロ火で焼かれて低温やけど。回復薬で治ろうとも蒸し暑いスーツを着て歩き回りたくはないでござるな。ただ、これくらいなら耐熱ジェルで大丈夫でござろう。ファイアースタンドでも耐えられる故に50度程度ならびくともせず、更に上がろうとバーナーで炙られるよりは涼しかろう。ただ、密着制御の方が心配でござるが・・・。
「通電耐熱ジェルを使おうか。宇宙なら暖かくていい暖房機能になるけど地上だとキツイからね。」
「そうでござるな。ついでに排熱設計も仕込むでござる。やはり背中からか蒸気パシューッがいいでござるが、流石に趣味に走るわけにもいかないので空間を作って動けば自然と熱が逃げる様な設計でござろうかなぁ・・・。」
「サーマルリサイクルである程度はシステム制御に回せるけど熱すぎると熱暴走するからね。いっその事ヒートポンプ使って水冷却を試そうか。そしたら蒸気排熱も出来るよ?」
「おぉ!それならそうするでござるか。何処かにシャワーノズルを付ければ降りた後に汗やジェルも流れるでござるし。」
「出来るだけ小型のポンプを探そうか。取り付け場所は任せるよ。」
「うむ!かっこよさげに隠して付けるでござるよ!」
空き空間自体はまだ残っているでござる。飛行ユニットの取付部とクリスタルリアクター設置箇所。この2つを取り付けられれば性能も飛躍するでござるが、リアクター式は橘殿のワンオフと言われたので量産型にはシステムとアシスト用のバッテリーでござるな。
そこからは正にプラモデルでござった。基本は背中にコンパクトにまとめ羽の様な排熱板にしたり、無骨に地上を走り回るタイプにしたり。途中装備庁よりテストパイロットを名乗る浦城殿が来られて試したり。話によれば装備庁も独自量産機を作りたいらしく技術交流がてらに乗り回してもらったでござる。
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「えっ?使っていい?今更?いや・・・、嬉しくないわけではないですが・・・。ええ、ただ宇宙と地上で換装式にしますよ?はっ?換装時間?あのですね、簡単に出来るかどうかはこれから試して・・・。ええ・・・、次はクロエ本部長を通してください。私達は政府のパシリではありません。」
計画を進める中、電話に出た斎藤殿のスマホを握る手が震えているでござる・・・。何やらまた雲行きが怪しいでござるな・・・。ただ、使っていいと言うからにはアレでござろう。また取り付け位置を模索せねばならぬな・・・。
「藤君・・・、飛行ユニット使用の許可が降りたよ。ただ、全機搭載じゃなくて宇宙に上げる物だけだけどね。」
「また空間探しでござるな・・・、取り付け位置はやはり腰か背中でござるか?」
「機体制御を考えるとそこだね・・・。ふくらはぎではバランスが悪いし、胸ではダメージを受けた時に一番に損傷する。最悪正座か椅子に座るようにさせてお尻の下に飛行ユニットを仕込めばどうにか・・・。」
「技術的に浮遊脚って行けるのでござろうか。足が飾りとはいいたくないのでござるが・・・。」
宇宙に行くならあの人はそのうち現れるのでござろうか?まぁ、網膜投影フルフェイスヘルメットを被るのパイロットは全員仮面の人になるのでござるが・・・。寧ろヘルメットに制御系が集まっているので、御堂の様に複座式にでもせぬ限り全て自力運用になるでござる。一応、緊急システムでヘルメットなしでも動かせるのでござるが、アシストなし故に反応が良すぎる。
「飾りというより腰掛けて作業している感じですね。うーん、一応サポートユニットとして作るか換装パーツとして作るかなぁ・・・。飛行ユニットがあればそれくらいはいけるよ。」
ないはずの物が取り付けられる。喜ばしい様な面倒な様な・・・。話を聞けば外務省に文句が集まったとか。他国とのやり取りや平和と発展を担う組織だとするなら間違ってはおらぬのだろうが、こうも意見を変えられては困る。今まで他国の顔色を伺う事が多かった分、思い切った事が出来ぬのでござろうなぁ・・・。
「ふむ・・・、宇宙用に換装するなら冷却システムを外してしまえばいいでござるな。幸いと言うかその部分につけたでござるから。」
「完成は見えてきましたね。そう言えばあの機体は?」
「アレは橘殿の機体でござるな。悪ふざけとジョークを詰め込んだオーバースペックの専用機。装備庁との合作でリアクター式でござるな。前に斎藤殿が言った様に宇宙から降りてこられるでこざるよ。」
「え〜!僕そっちに参加してないんだけど!?」
「これは当初バトルスーツでござったし、設計思想が今作っているものとは違うでござるよ。」
橘殿の機体がワンオフと言う由縁は拙者達が作った作業用兼戦闘用ではなく、完全にバトルに全振りしているでござる。そもそもあの機体は作業用ほど大きくなく、約175cm程度の橘殿と同じ体格のもの。それが今4m近くある由縁は拡張パーツとして手足をドッキングして延長したからでござる。
なのでロボの手足が砕ければバトルスーツで、それにガタが来れば生身でとマトリョーシカになれるでござるな。他の作業用ロボもゲート内ならば最終的にステゴロする事になるでござろう。因みに今は電磁結合しているでござるが、更に運動性能を上げてリミットブレイクすると武芸者の玉が侵食するとか・・・。元々鎧にも武器にもなる物故に当然でござろうか?
橘殿にも人形を送ろうか迷うでござるな。予備の武芸者の玉運び用とかどうでござろう?オペレーターとしてないと困ると紹介しておんぶさせるのも一興でござるな。肩車では小形化せぬと入り切らぬし。まぁ、宇宙で大型の物が必要ならば今の物から再設計すればよい。
「諸元的には?」
「全長約3.5m〜4m。総重量は手足含めて約700kg。パージしてバトルスーツのみなら200kg程度でござったかな?クリスタルリアクターから電力供給する故、熱は全て排熱するので最高パフォーマンス時は陽炎が見えるでござる。武装は装備庁の物を使うので米国で使ったクリスタルランチャーはあるでござる。飛行ユニットも装備済みなのでスラスターで飛ぶよりも鑑定すれば自在に移動するはずでござる。速度=ビーム回避可能速度。単発ならいいでござるが地上でやられるとソニックブームで周りがヤバイ奴。頭の角は剣士の剣を加工した衝角で垂れ下がってる紐はムチになると言っていたでござるな。」
元々橘殿はド根性で耐えていたでござるが流石に危ないと安全仕様になり、スペックは米国戦の物を超えつつ安全面に配慮されたでござる。つまりは、ガンダムからνガンダムに進化したでござるな。中間機体?そんな物はないでござるな。
「歌舞伎の毛振りが見れるんですか。えっ!知らない間に試運転とかしてないよね!?」
「斎藤博士?藤君にそんなに詰め寄ってどうされたんですか?」
「橘さん!?」
「サプライズでござるな。さっきの電話がなければ完成でござったろう?まぁ、換装するだけなので実質完成でござるが。」
「あぁ、君達も外務省からなにか言われた口か。あそこも躍起なんだよ。この前国際貢献についてとか言われて話を聞きに行ったけど、国が少し閉じようとする時に国外に目を向けないといけない組織は辛い。共産圏には未だにパイプが欲しいと出向く事はあるけどそろそろ打ち止めらしいし。と、コレが私の新しい武器・・・。そう言えば藤君や斎藤博士の作った機体には名称はあるのかな?」
「それぞれの頭文字を取るくらいしかないでござるな。後は使い手が自由に名付ければよい。」
「そうですね。大事なのは中身で装甲板や手足はある程度マニピュレーターから交換とかもできますし、フルパージしたらシルバーのボディビルダーですからね。」
アーキタイプの素体さえ無事なら何度でも出撃できる。手足が千切れたくらいならすぐに接続出来る。変化する時間は待ってくれぬ故に着せ替え人形の様なロボとなった。だが、規格化するならばやりやすいであろう。それに状況対応力も増す。
「なら、私は一足先に試運転してきます。注意事項ってあります?」
「拙者からは特には。」
「僕からもないですけど、最高のパフォーマンスは見たいです。」
「分かりました、久々の新型なんでちょっとはしゃいできます。」
機体を眺めて鑑定したのか、武芸者の玉をステップに駆け上がり入り込んで起動。様になっているでござるなぁ〜。飛行ユニットの扱いはお手の物、初期からスーツを使っていただけあってこの新型もスムーズに使うでござる。
急制動にバク転に慣性の法則を無視するかのように機体をひねり心身宙返り。それでいてバイオメタルは切れておらぬ。初期より人体に近くなったとは言えやはり目を見張る者よのぉ〜。はしゃぐ橘殿の写真を撮影しコメントを入れてクロエ殿へ。拙者達はやり遂げたでござるよー!!




