291話 テイマー 挿絵あり
青山の話だと奉公する者は1人?らしい。いっぱいいても煩わしいし、魔女としても小間使は1人でいいと言う事だろうか?まぁ、そもそも魔女の本体に会う方が難しいとも考えられるな。空を見上げて煌めく星よりも更に小さく、輝いているかもわからないソレを闇の中から探し出す。
幸運と言う言葉で片付けていいかは分からないが、少なくとも願いがあって探して会うのかそれともいきなり現れるのか?どちらにせよ会いたいような会いたくないような・・・。
「他の宇宙人も魔女には会いたいとか?」
(さぁ?他者を気にしても他者じゃないから知らないわよ。会うも会わないもその時次第、ただ1つ言えるのは、どこもかしこも袋小路で暇してる。デジャブだったかしら?長く生きれば生きるほどそれは繰り返される。)
「俺はクロエさんに会えるなら会いたい。奉公する者は仕える人から離れたくない。他の者は知らないらしいです。えっ!隣人と仲良くして布教しようとしたら止められた?何だそれは?」
ヤベー、奉公する者が何しようとしたかすげー気になるな。魔女かその話が出た瞬間に射殺さんばかりの雰囲気が漂ってるし・・・。まぁ、宇宙人にも宇宙人なりの苦労があるのだろう。変に高潔を叫んだりされるよりは人間味があった方が付き合いやすい。
「青山、私の事は布教とかするなよ?ひっそりと過ごしたいんだから。」
「大丈夫です!しなくても既に名が売れてるんで、後はその名声を維持するだけですから!」
くっ!いい顔でサムズアップしやがって!事実な分否定出来ないが維持しなくていい!そもそもな話、そろそろ落ち着かせてくれていいのよ?国独自でモンスター討伐して先に進んでもいいし、中位への至る証言はまとめて公表したし。出がらし扱いでこっち見なくていいんだよ!
実際、誰が何処までも進んでいるかは分からない。難関と言うかやはり40階層を超えるとモンスター数も増えるし攻撃も苛烈になってくるので、その辺りで彷徨うスィーパーは多い様だ。実入りと言う話をすると上でモンスターを倒すよりも素材自体は集まりやすいし、出る薬もいいものが多い。特に若返りはこの辺りから1週間とか寿命1週間とかなので、私兵を突っ込む金持ちはいる。
まぁ、その私兵も命あっての物種なので無理はしない。そもそもな話私兵自体が廃れているし市場を見ると売り手が強い。何せ命の価値=ゲートから持ち帰ったモノになるので安売りはしないし、事前に結ぶ契約も事細かに結ばれる事が多くなった。まぁ、雑な契約でトラブルが起こっても困るし、それだけ危ない所に行くのだから当然だろう。おかげでギルドの法律家に対する問い合わせは多い。普通の法律家や行政書士でも確認出来ない事はないが、どうしても死亡時の保証という所が多くなり嫌厭されがちである。
「維持ねぇ・・・、それは別にいい。寧ろ何もしなくていい。誠実に日々を過ごしてくれればそれだけでいい。」
「はい!」
なんか勘違いしてそうだが問題起こすなとオブラートに包んで言ってんだよ!ただでさえ獣人で頭痛いのにこれ以上問題起こされてたまるか!さてと、夜も更けてきたし俺も帰るか。
「今日は上がり。私も帰るからお前も帰れよ〜。」
バイクで帰ろうかと思ったが飛んだ方が早いので、受付嬢達に挨拶をして外に出て飛び立つ。夜空の飛行は気持ちいいが若干の寒さがあり、帰り着いた頃には頬は赤くなっているだろう。まぁ、それでもすぐに戻るのだが。駐車場近くにある犬小屋を見るとバイトはまだ帰っていない様だが、アレをどうにか出来るヤツも早々いないし車に轢かれて死ぬなんて言う事もないだろう。
22時を回っていたが玄関の明かりはつき、離れもカーテンの隙間から明かりが漏れているのでまだ望田も寝ていない様だ。良い子が寝る時間は過ぎているが、この家には夜ふかしな大人しかおらず、見上げれば息子の部屋の灯りもついている。
「ただいま〜。」
「お帰りなぁ〜、縄張りの見回りがしたいなぁ〜。」
「お帰りなさい。この娘ったら夜は暗いから駄目って言ってもずっと見回りに行かせろって言うのよ?」
「まぁ、元が猫だしなぁ〜。フェリエット、拐われるかもしれないから夜はダメ。やるなら昼にしなさい。」
「帰った時も他のヤツの臭いがしたなぁ〜。縄張り争いは仁義なき戦い、今なら耳をもいでやるなぁ〜!!」
自分で言っていてボルテージが上がったのか毛が逆立っている。極道映画の様な言い回しだが、確かに耳はよく噛まれたり引っ掻かれたりして怪我は多いんだよなぁ・・・。ただ、俺達では感じ取れない臭いが感じ取れる分、鼻は敏感なのか猫のフェロモンを感じ取っているのか判断に迷う。
「今のお前が猫を追っかけたら・・・、追い付けるか?猫に。」
「逃げるなら追わないなぁ〜。挑むなら三味線なぁ〜。食べ物をくれるなら見逃すなぁ〜。」
また古風な。猫皮は三味線の礎を築いたと言われる中棹の三味線に多く使われるらしいが、今時は合成皮がメインだろう。まぁ、その三味線を弾くのも風流な趣味と言う感じだが・・・。それよりも食べ物に釣られて誘拐されそうな方が本当に怖いな・・・。猫だったら餌付けで済むのだろうが、今の姿で飴あげるからちょっとおいで〜は、事案である。特にこんな時間帯なら尚更だ。
「そう言えばこんばんは何食べた?」
「焼いた魚と白い虫みたいなヤツと泥みたいな飲み物なぁ〜。」
「焼き魚と米と味噌汁かな?料理名を覚える事。暗記したらその料理をたまに用意しよう。」
「なら覚えるなぁ〜。さっき箱から流れてきた子羊のローストは旨そうだったなぁ〜。」
くい意地は張っているようだ。まぁ、無作為に覚えさせるより何か興味やら目標があるといいだろう。フワリとシャンプーの匂いもするし、どの道このまま外に出すわけにもいかないしな。後は夜の脱走癖を直すばかりか。
「夕食は食べてきたのかしら?」
「いや、なんだかんだで食べてない。なにか残ってる?」
「魚と何かパパっと作るわ。リクエストある?」
「任せるよ。」
上着を脱ぎながら居間に行ってテレビを見るとおもしろ動画番組をやっていた。フェリエットは興味がないのか身体を擦り寄せて来るが若干狭い。那由多は上で勉強でもしてるのかな?結局受験か就職かは聞いていないが近い内に何かしらの答えは出るだろう。
「今日の風呂は1人で入ったのか?それとも莉菜と?」
「那由多と入ったなぁ〜。ぶらぶら揺れる棒をニギニギしたら怒られたなぁ〜・・・。」
息子の息子を触ったとな?まぁ、健康な男子なら反応しても仕方ないのだろうし、猫ならぶらぶら揺れる物には反応したくなるだろう。不可抗力なので不問とするが、息子がケモノスキーにならない事を祈ろう。まぁ、元々にゃん太は人懐こい性格だったが、人の姿に変わっただけで態度を変えていいか迷う。
それに学校がなぁ〜。諸々落ち着いてからになるだろうが、行かせるかどうするかもなぁ・・・。集団生活を学ばせるなら学校なのだろうが、そもそも猫ってそんなに群れる動物でもないしなぁ。メスなら群れるらしいが、それも自分の子供とかだと言うし厳密に言うと他人と一緒に生活しているわけではない。
「はいどうぞ。焼き魚と鶏肉が少しあったから塩焼きと、サラダに後はご飯とかき玉汁。お茶漬けの素はいる?」
「貰おう。麦茶漬けでサラサラと食べるのも乙だし、最近はゴールデンウイークも近いから暑くなってきた。明日は休みだっけ?」
「ええ、久々のゴロゴロタイムよ。フェリエットちゃんの服とかも買いたいし丁度良かったわね。」
「そのフェリエットだが学校とかどうしたらいいと思う?諸々落ち着かないとなんとも言えないんだけど、流れ的には人と同じと言うか労働力路線は取らない流れになると思う。」
「そうねぇ・・・、そもそもフェリエットちゃんって何年生くらいかしら?」
「う〜ん、多分中学1、2年生くらいとか?身長的には大体14歳で小柄な部類なら問題ない程度の身長はあるらしい。ただ、身長にしろ成長曲線にしろ今は当てにならないからなぁ・・・。」
小柄だろうと大柄だろうとみんな健康。前は成長曲線やらなんやらとうるさかったが、取り敢えず回復薬飲むと数値的には正常値と言うか平均値辺りが出る。世の中の中年は歓喜していい。健康診断で引っかかるという恐怖から開放されたんだから。
まぁ、それでも先天的な物はかなりグレーゾーンが多く、1型糖尿病なんかは生まれ付きの物なのでそのまま産まれる。ただ、治癒師に頼むとすい臓のインスリン分泌量を増やしてくれたり、健康な部分のすい臓細胞を増殖して治してくれたりと健康になれる。代わりに頭の方は中々難しくギフテッドとサヴァン症候群の違いを題材とした論文やらが色々発表されているとか。
「う〜ん・・・、それが数年内の出来事でも悩みどころよねぇ。何年でどれくらい歳を取るかも分からないし、元々にゃん太は成猫だったわけでしょ?コレからロスタイム的に成長するならいいんだろうけど、このまま年老いていくなら先に楽しい事を教えてあげるのも手だと思うわよ?」
「難しいな・・・。フェリエットが何年生きるのかもまだ分からないし結婚相手をって、人のおかずを取るな。」
「鳥の誘惑には勝てないなぁ〜。クロエは話してばかりで食べないから冷める前に食べてやった方が慈悲深いなぁー。」
鶏肉を掠め取って口に放り込んでいく・・・。まぁ、魚が残ったからよしとしよう。どうせこの後ハイボールと摘みで晩酌予定だし。
「人の物を取る奴に慈悲はない。鶏肉はいいけど摘みはやらん。」
「見えない何かよりも今見えるお肉がいいなぁ〜。フーッ!!シャーー!!」
「えっ!何事?どうしたのフェリエットちゃん?」
妻が急に威嚇し出したフェリエットを見てオロオロしているが、俺はその威嚇相手の方が気になり視線の先を追う。なるほど、確かに獣人はペットと言うよりはパートナー枠か。職でテイマーがいない事を何度か疑問に思った事がある。モンスター同士で捕食するなら当然といえば当然だが、初期から育てたモンスターを使い進化させて戦う事の出来るテイマー。しかし、それはソーツからすれば禁忌で作品を好きにされてたまるかと言う現れだったんだろう。
まぁ、そもそもモンスターが制御できるなら最初から俺達は必要ないし。そんなテイマーの無いだろう職の代わりとしてのパートナー。それが獣人なのかもしれない。なにせ、おもしろ動画がいつの間にか終わりテレビにはゲートのモンスターが映し出され、フェリエットはそれに向かって威嚇しているのだから。




