288話 良き隣人として 挿絵あり
「はいササミ。ところでフェリエット、このササミは旨いか?」
「旨いなぁ〜。未知の体験でざわざわするなぁ〜。これを食べたらもうカリカリもベチャベチャも嫌なぁ〜。」
カリカリはいいとしてベチャベチャは猫缶かな?アレ・・・、誕生日とかにあげるけど1つ500円くらいするからな?牛丼並を食っても釣りが来る値段だからな?嫌だと言うならもうあげない!
代わりに焼き魚定食とかを食べさせよう。寧ろ、今日の検査で人間と同じ物食えるなら被験体として旨い料理攻めしてくれるわ!実際、さっき松田に言った様に食での懐柔路線が出来るなら、その方向性が一番穏便だと思う。抑えつけても逃げるし跳ね除けるし、元が動物だから強いリーダーを見せようと暴力を振るおうとも、合理的でないと判断すれば獣人とて逃げるだろう。
なら、やはり獣人にはない文化で勝負!元々味蕾が少なくて猫は旨味を感じ取れなかったが、塩ゆでササミを旨いと言うなら、多分旨味も感じ取れている。その未知の感覚を先手取って支配してやんよ!
「次の検査ですが・・・。」
「味覚です。」
「クロエさん、それは後にしましょう。先に手先と尻尾の器用さを・・・。」
「いえ、味覚です。そして旨い物をたくさん食べさせます。」
「器用さの後にしませんか?満腹で眠くなられても・・・。」
「高槻先生、先ずは味覚。この一手で後の獣人への対応が変わります。」
高槻が怪訝な顔をしているが、先ずは空腹度チェックから。あれだけ動いていたから腹は空いていると思うが空腹は最高のスパイスとも言う。なら、腹が空いていれば空いているほどいい。なので両手をグーにしてフェリエットに突き出す。
「コレが空腹度MAX。つまりなにか食わないと死ぬ状態。それから指を1つ立てる毎に空腹度が減って行って両手がパーは満腹。何も食べなくてもいい状態です。では、今のお腹の具合は?」
「これだなぁ〜。そろそろ軽くなって空を飛ぶなぁ〜。」
出されたのは両手のグーを通り越して祈りのポーズ。本当かは分からないが相当腹は減っているらしい。猫は恨むと怖いと言うし早めに何か旨い物を食わせるか。
なら、味覚検査と言う名の昼食会と洒落込もう。取り敢えず無難にステーキとか焼き魚とかでいいかな?シンプルに塩コショウならそこまで身体に負担はないだろうし、食材が高級なら満足感もある。まぁ、アレルギーはないとしてレーズンやらチョコは一旦先送りにしておこう。
「ならば美味しいものを食べさせてあげましょう。いいですか?これは報酬です。ちゃんと検査を受けている報酬としてあげます。なので、未だある検査を適当に受けると次はありません。」
「能書きはいいからさっさと食わせるなぁ〜。勿体ぶるほど旨いものなら考えてやるなぁ〜。」
「では駄目ですね。考えた結果やっぱりやめたと言われたら困りますから。」
指輪になにか気を引きそうなものはなかったかな?フェリエットが見てアレは旨かったと知っている様な物。あぁ、確かゲートに籠もる時に腹の足しになると買った物があったな。自衛隊さん山籠り必須アイテム。食べごたえがあって、そこそこ塩気があって、衛生的に考えても不潔になりづらい食品。
「残念です・・・、本当に残念ですね。この魚肉ソーセージよりも更に美味しい物ですが、私だけで食べるとしましょう。あぁ、ササミはあげますよ?それよりも美味しいものなので、ササミでお腹いっぱいになったら勿体ない。」
ソーセージは眼の前で食べて見せ、代わりにササミを渡す。手にとって見つめているが、食べようとはしない。多分葛藤があるのだろう。本当に旨いのか?食べたらまだなにかさせられるんじゃないか?ついでに言えば旨い物のイメージはないだろうし、味覚が人より足りなかった分、未知の味を美味しいと感じ取れるかも不安そうである。
「本当に旨いかわからんなぁ〜。」
「確かに犬猫は甘み・苦味・酸味・塩味の4つしか感じ取れませんし、味蕾の数も犬より更に少ない。甘みに関してはそもそも遺伝子的に欠損があって受容出来ませんよ?獣医師会からの見解とするなら、彼女の祖先が猫ならその部分は欠落している可能性もあります。いくら身体的には人に近くなったとは言え、そのレベルでどうこう出来るものですかね?」
「なら、試しに検査をしましょう。ゲートで馬とか食べる為に調味料はたくさんありますからね。はい、舌出して。」
獣医師会の人が口を挟むが、ある意味ここは天王山で負ければ他の案を探さないといけないんだよ!ただ、そこがおざなりと言う事はないと思う。なにせ、人と同じ姿を取ると言う事は、言い換えれば同等の物が食えないと淘汰される。寧ろ、何でも食える雑食の方が生き残りやすい。
口を開けて舌を出すフェリエットの舌の上に砂糖を少々。コレを感じ取れるなら大体の料理は旨く食える。ただ、置いた瞬間に尻尾も含めて毛が逆立ったが大丈夫かな?流石に毒ではないし、猫に砂糖を与えないのは感じ取れない事もそうだが肥満防止の方が大きい。なにせ感じ取れないと言う事は、味に飽きが来ず無限に舐め続ける事が出来るのだ。
いる人間も興味深そうに見ているが、フェリエットは何も話さない。代わりに尻尾がピンと立って小刻みに震えている。確か嬉しい時がこんな動きだったかな?ただ、時折尻尾の先だけが動く事もあるので困惑や戸惑いがあるのも分かる。何気に顔の表上を読むよりも尻尾を見た方が感情を読み取りやすい。
「・・・、これは何なんだなぁ〜?初めてでびっくりしたなぁ〜!」
「今感じてるのは甘味です。こちらに協力するならこれを使った料理を食べさせてあげましょう。ただ、食べ過ぎると身体に悪いので程々の量になります。嫌ならしかたないですが私が食べましょう。」
受けは悪くないと踏む。初めての砂糖を異物と認識して吐き出すなら別の調味を舐めさせようかと思ったが、砂糖の甘味を感じ取れるならおおよそ人と同じ味付けでいいだろう。後は肉料理メインで出前を頼むか。流石に何処かの料亭やらに連れ出すのはまだ早いし。
「分かったなぁ〜、協力するなぁ〜。だから早くなにか食べさせるなぁ〜。」
「では調味料を出すので舐めて良い物と悪い物を分けてください。その間に料理を用意しましょう。先生方、判定の方をお願いします。私は適当に出前を注文するので、一緒に昼食を頼みたい人はリストか何かにまとめてください。」
街中なのでスマホで検索すると結構店が出るな。ウチの周りとかマックとピザぐらいしか来ないのに。いや、住宅街になったので意外と注文出来る店が増えてるかも。基本的に飯は手料理が多いけどたまに出前も頼む。唐揚げが有名な土地柄だが、実は自分の家で作るのと同じくらい唐揚げ買うんだよなぁ〜。しかもキロ単位で。
先生方は病院の方から弁当が出ると言う事で特に追加注文はなく、それなら摘めるものとオードブルなんかも頼む。どうせ残っても俺が食べればいいし、特に量は気にしない。どうせ直箸じゃなくて皿に取るだろうから汚くもないだろうし。
「唐辛子と酢はどうしますか?フェリエットちゃん辛いのと酸っぱいの大丈夫?」
「酸っぱい?辛い?腐ってなければ多分大丈夫だなぁ〜。」
「酸味を腐ってると取るかもしれないから後回し。辛さは味というより痛覚だからなぁ・・・、後回しにして味の素当たりから舐めてもらうか。」
「中華系も豊富でナンプラーとか豆板醤もあります。鶏出汁とかどうです?オイスターソースやらねぎ塩・・・、ネギ行けるかな?」
「臓器の作りを見る限りいけますな。玉ねぎドレッシングも試しましょう。そもそも野菜は消化できるのかが問題で確かそのまま排泄されるんでしたか?」
「ええ、普通の猫が猫草何かを食べてもそのまま排泄されます。ただ、消化器系がどう成長したかは分からないので食べさせて様子見でしょう。回復薬は効果あると思いますか?高槻先生。」
「回復薬の構成体は有機化合物がメインで吸収されれば修復して回復してくれますな。なので、仮に臓器に負担がかかったとしても大丈夫でしょう。ただ、検証は出来ていませんから食べさせた後に1時間毎に再検査して検証するしかない。まぁ、拒絶反応が出るなら吐き出すでしょう。獣医師会の方々としてはなにか気になる点は?」
「採血を多めにしたいですね。猫エイズ等の人ではなく猫がかかる病気に感染するのか?或いは逆に猫ではなく人の病気に感染するのか?治療を頼まれてもその辺が分からないと今後の治療方針に影響が出てしまう。」
「その辺りはDNA解析次第でしょう。人一人分のデータ解析で約50分。もうそろそろ結果が出てきてもいいんですが・・・。」
「後10分くらいで結果出ます!元データがないので人の物と猫の物、両方と照合するので時間がかかってます。」
フェリエットがなにか舐める度に先生達が一喜一憂しながらデータを取っていく。味が混ざらないように舐めては水を飲むを繰り返していたが、誰かが熱いお茶とアイスを用意して熱さと冷たさへの反応を見たりとしているが、お茶を長めの舌でピチャビチャ舐めるのは割と可愛い。
ただ、元々猫の舌は顎が犬ほど強くなく骨を噛み砕けない代りに、骨から肉をこそげ取って食べる為のモノだったが、ザラザラ感はなくなり代りに人より長く結構自由に動くようだ。お茶の飲み方が舌で掬う様にしているので間違いないだろう。夜中に顔を舐められた時も痛くなかったしね。
「そろそろ味だけじゃなくてなにか食べたいなぁ〜。本当に倒れるなぁ〜。」
「もうすぐ来るから待つ。と、そう言えば胃袋も大きくなってるんだった。普通の猫と違って大きくなったから食べる量も消化時間も変わってる?」
「多分変わってますよ。普通ならトータル3時間位で消化してしまいますけど、MRI画像で見る限り胃が大きくなってるんで外見よりも多く食べられます。かわりに小腸大腸はそこまで長くないですね。」
「胃液の検査をしたら人よりもphや消化酵素も高いのでエネルギー変換率は高そうです。多分腸での吸収率も高いんじゃないかな?」
「腹持ちと言う面ではどうなのか?最初に撮影された画像では少量の飲食物が確認できたが・・・。」
1つ疑問を投げかければ色々答えが返ってくる。返ってくるが今度は返した人間同士で話し込みだす。学者は楽しそうだと思っていたが医者も楽しそうだと。やはり、研究家肌の人としては未知に惹かれるのだろうか?権力やら派閥を取っ払って行って残ったのは探究心でしたとか?ここにいるのが全員職のオカルトなら色々探究してくれそうではある。
頼んだ出前が続々と来てどんどん金貨で支払っていく。最近の出前はカードと電子マネー、そして金貨が主流なのかウエストポーチから小銭ジャラジャラと言うのは見なくなった。何気に現金不可、金貨可の表示の店もあり最初から小銭を考慮する気がないのだろう。確かに1食金貨1枚なら高級な料理だが店側としては数え間違いもなくなる。
締めて47品、全部金過払いだから47万円。何処かの高級店でフルコースが食べられる値段だが、量はこちらが上だしわざわざドレスコードなんて肩肘はって飯を食わなくていいのでリラックス料金として受け止めよう・・・。経費じゃなくてポケットマネーなので文句は言われないはず!補充するならゲートを探索するか。モンスターもそろそろ倒したいし。
「ほら、フェリエット。料理が来たので好きな物を食べていいですよ。ただ、直箸ではなく皿に取って食べる事。取る時は料理に箸を置いておくのでその箸を使う事。」
「面倒だなぁ〜。棒切れは使いづらいなぁ〜・・・、手でいいかなぁ〜?」
「なら私が取ってあげる。さぁ!タダ飯ほど旨い物はないから食うぜぇ!」
「タダ飯は旨いのかなぁ〜?」
神志那が抵抗なさそうな料理を適当に紙皿に乗せて手渡すが、箸の握り方は握箸か。まぁ、後から教えれば覚えるかな?指は自由に動くので大丈夫だろう。なんだかんだで指を使うのは脳の発達にいいらしいし。最初は匂いを嗅いでどれにしようか迷った挙げ句塩唐揚げから。箸で刺して口に入れて噛むとまた毛が逆立っている。そして、皿に取った分をどんどん口に入れているが喉に詰まらせないだろうか?
「ほい冷たいお茶。ゆっくり食べるにゃ。」
よほど腹が減っていたのか他の料理もガツガツ食べだしたが、野菜はいいとして酢の物は避けている。酸っぱい物は好まない様だし物が野菜なので食指が向かないのだろう。実際自然界で酸っぱい物ってほとんど腐った物だし。
「タダ飯は旨いなぁ〜♪でも、いつもタダ飯だった気もするなぁ〜・・・。寝て起きてご飯食べてまた、寝てた気もするなぁ〜。」
「元の生活に戻るなら料理はなしです。さっき食べてたササミで生活出来るならしてね。」
「・・・、タダ飯が食べたいなぁ〜。」
多分今食べてる物=タダ飯と言う名前だと思っているのだろう。料理名とか教えてないので仕方ないが、毎回これだけ用意する気もないし適当に理由付けしていい物が食べられる時と言うのを分からせておくか。
「これはお祝いだから豪華なんです。フェリエットが産まれた日のお祝い、ちゃんと言う事を聞いて協力してくれたお礼。そう言ったモノを加味してのご馳走です。これからも協力してくれるなら食べる物はちゃんと出しましょう。」
「分かったなぁ〜。コレを食べたらさっきのササミは味のない何かになるなぁ〜。」
一応、フェリエットに限り胃袋は掴めそうかな?そのうち魚介系スープのラーメン屋に並ぶ猫人とか焼き肉食べ放題に集まる犬人が見られる様になるかもしれない。それはそれで時代の移り変わりなのかなぁ・・・。まぁ、薬の本数=獣人の数と考えると増えない訳はないんだろうが、その前にどれだけの人が飲ませるかだな。
「ゲノム解析出ました!」
俺も飯を食おうと皿に料理を取ったら、解析していた先生が紙を持って走って入ってきやがった!クソッ!食べそこねたじゃないか。他の先生達も弁当に手を付けた時だったので走って来た先生も飯を食おうとしていた先生達も若干気まずそうにしているが、気を取り直して結果を見るとしよう。
「98.9%ですか。チンパンジーよりは人に近いですね。」
「逆に99%は人に近いと取れます。ただ、1.1%違うので人との混血は厳しいですな。」
「寧ろその1.1%を揃えると人類と言う種と獣人が混じり合ってどうなるか分かんないね。」
「彼等は侵略者じゃないと言った手前、生存競争させる気はないんでしょう。混血が産まれないなら適当に住み分ければいいし、子孫を残すなら同族という考えになる。」
悪い方には考えたくないが、今のうちから獣人を誕生させて人類の後釜にとか考えてないよな?いつどの種が滅びるかは分からない。それこそこれから先未知のウイルスが南極で発見されて人類全滅なんて事もない訳ではないのだから、先に教育させて全滅した場合のサブ覇権種族とか・・・。
混血が産まれない以上同族交配になるのだろうが、少なくとも猫人はフェリエットしかいないので今の所繁殖の希望はない。ないのだが、薬を適当なオス猫に使えばアダムとイブの出来上がり。う〜む、働かなくて寝て過ごせる愛玩動物は薬を飲んだらエデンの園を追われるらしい。その場合蛇は人間か。
悪魔側に立ちたくない人は火を与えたプロメテウスとか、知性を授けたのだから神だとか言いそうだが、本人達からすればどれも一緒だろう。一長一短で旨い物は食えるがその分労働させられるとか?まぁ、そのまま人が奴隷コースもあるな。
ウチのコ可愛いから貢ぐ、ない話ではない。実際俺も付き合ってる時も結婚してからも妻にお菓子とかビールとか他にも色々貢いだし。結局プレゼントも貢物も相手に渡すと言う意味では変わりないしねぇ・・・。
「違う1.1%って何が違うんですか?まぁ、耳や尻尾があるとでそれが1.1%の違いと言われればそれまでですが・・・。」
「1.1%は猫に酷似してますね。バランスだけで考えるなら猫と人をミックスしていいとこ取りした感じになります。今の姿が幼体として成体をイメージするとスレンダーな猫耳美女とかでしょうか?目も暗所でもよく見えるようですし。」
ゲート内は薄暗いので51階層までは助かるな。その51階層もまだ薄暗いので夜目が聞くのは助かるし、瞬発力や空間認識力が高いのもプラスになる。性格は別として他の獣人も同じ感じなら十分に戦力になるし、一応まだ就けないが学習すれば職にも就ける。
やはり隣人コースだな。奴隷にするには余りにも危険を孕み過ぎている。他の国がどう考えるかは別として、日本としてはこの方向でプッシュして行こう。まぁ、国外にどうこうと言う前に国内で話をまとめないとどうなるかわからないが・・・。
ただ、混血が出来ない人と同じ様な作りの者となると、一部の産業がアップしだすし薄い本も厚くなる。そのうち金持ちの好事家は猫耳メイド何人お抱えだよハッハッハ!とか言い出しそうだな。ただ!抱えてもそのうち何人が仕事をちゃんとするかは分からないし、そのうち獣人用のブリーダーと言うか教育機関なんてのも作られるのだろうか?
そんな先の話は置いておくとして、現状で粗末に多頭飼いとかしている人が使うと逆襲されるかも。ロボットではないからロボット三原則は適応されないし、そもそも猫って撫で回したりしてると普通に噛んでくる。つまり、どう穏便に考えても敵対する時はする。
なら、力で抑えつけて反抗心を膨らませるよりも、ある程度不自由だが反抗するまでではないと思わせる状況を作る方が上手くいくだろう。子育てと一緒だな。頭ごなしに怒れば反応するが、面と向かって話し合えばある程度お互いの言い分も、そこから出る落とし所も分かる。まずは対話。
そして相手を知り、願いを知り、こちらの言い分を伝えてから妥協点を探す。まぁ、それが出来なければいくら獣人を増やそうとも、遥かに人間の方がまだ多いのでその場から逃げ出すだろう。そう言えばそもそもフェリエットは子宮があるとしてもう子供が産めるのだろうか?猫換算なら複数子猫を産んでいてもおかしくないが・・・。
「フェリエットはもう子供産める?」
「さぁ?良いオスがいれば何回してもいいなぁ〜。いっぱいすると子供が産まれるなぁ〜。この中にはいい匂いのオスはいないなぁ〜。誰か試しにしてみるなぁ〜?」
「その・・・、猫に月経はなくてあるのは発情期だけでして・・・。」
ガツガツ飯を食っていたフェリエットに聞いたが、本人では分からず代わりに獣医の先生が答える。発情期は知ってたけど月のものはそもそもないのか。ただ、発言から察するにその辺りは奔放と言うか野性的というか・・・、お試し感覚でお誘いするらしい。
確かに野良だと何時いいオスと出会うか分からないし、ビワアンコウとかはメスに噛みついたら最後は同化するとも言うし・・・。その辺りは、野生寄りの考え方なんだな・・・。寧ろ、初めての発情期前に去勢した分興味津々とか?
「白いのも黒いのと良くしてるなぁ〜。気持ちよ・・・。」
「はいそこまで!その先は言わなくていい!それに私はクロエです。人には名前があるのでちゃんと名前で呼ぶ事。わかりましたね?」
「なぁ〜。」
何か良からぬ事を暴露しようとしていたので慌てて止めた。周りからの視線が痛い!ふ、夫婦だからおかしくないもん!しかし、声が漏れないように気を付けないとどこで何を暴露されるか分からない。今までは猫で喋れないから気にしていなかったが、なんか気苦労が増えそうな・・・。てか、学校とかどうしよう?外見的には小学校から中学校辺り?
人に混じって勉強させるのが難しいなら家庭教師とか?目の届く範囲に置くなら神志那と言う天才がいるから彼女にお願いするのがベターだが、神志那式学習法をフェリエットが理解できるかどうか・・・。頭のいい人と凡人では回転速度の違いでなんでその結論に至ったか分からない時もあるし、フェリエットのIQもまだ分からないし・・・。これは一旦保留だな。
「ゴホン。プライベートに対する発言は聞き流すように。残りの検査は何がありますか?ある程度データが取れたら政府に送って方針の微調整をしたいと思います。」
その後は文字の読み書きやらを教えての記憶力テストをしたり、ロールシャッハテストをしたりとこなしていくが、大まかに全容は掴めたかな?まぁ、座学系は得意ではないと言うか集中力があまりないので休憩を結構挟んだ。
ただ、そろばん式計算方法を教えた後にフラッシュ暗算をやらせるとかなりの正解率で、画面の中が動いているのがいいのか割とポンポン解答していた。総合的に見るとフェリエットは動く理系タイプとか?急遽買ってきたそろばんはパチパチするのが楽しいのかずっと指でイジってたし。
逆に国語の読解力と言うか、この時のこの人の気持ちは?と言う問題に対してそいつじゃないから知らんと返した。ある意味間違いではないのだが、察する力と言うモノは低いようだ。まぁフェリエットが空気を読み過ぎて『多数の為に少数を切り捨てるなんて間違ってる!全員助かる方法を模索して、誰一人列車に轢かれない道を探すべきだ!』とか言い出したら頭を抱えただろう。
机上の空論でそれを叫ぶならまだいいが、今のフェリエットがそれを叫ぶとかなり面倒。なにせまだ少数の獣人なのだから私達は切り捨てられる少数と叫びだしかねない。切り捨てる気はないが隣人である以上、互いに見捨てる覚悟も持って理解しておかないと同調意識で反乱されても困る。
まぁ、将来獣人と人間が結婚でもすれば、その辺りは個人レベルの問題になるのでいいかな。獣人か人間を優先するのではなく、愛するパートナーを優先する。コレならまだ感情論としても理解しやすい。
「もしもし松田さん?本日の検査は終了です。出てきたデータの精査はこれからとして、内密でも公でもいいので・・・、いや。フルオープンで獣人の事を公開しませんか?」
「もしもし?かなり急な話なんで、すぐにハイと言うと思いますか?」
「思いませんね。なので適当なタイミングでいいので話がまとまったら獣人保護と言うか、受入国として声明出せません?出来ればどこよりも先に。」
「・・・、それを言う根拠と利益はどこかにありますかね?出来れば考えが出揃ってから、後追いの方が混乱は少ないでしょう?」
「それは分かりますけど、大多数が奴隷労働者として認識したら覆せなくないですか?要は知能があるのに右も左も分からない子供に教育もせずに賃金も出さず働かせるのか?という話になります。個人的な意見ですがそれを言われる前に隣人であり1人の個であるとして扱った方が法を作るにしても、仕事をさせるにしても納得する根拠になる。」
どの道獣人になったら寝て過ごせるわけではないだろう。そこで仕事をさせるにしても強制的にさせるか、納得させてさせるかの問題になる。まぁ、仕事したくないなら元々はペットなので愛玩奴隷なんて言う選択をする獣人もいるかもしれないが、それは横においておくとして生きる権利はないといけない。
流石に残飯漁りされても困るし見た目が人に近い以上、遅かれ早かれ愛護団体なんてのも出てくるくらいなら、先手を取って行動していきたいんだよなぁ・・・。




