閑話 69 動き 挿絵あり
「ドゥ!状況は!」
「そこで転がってる格闘家で最後だよ、大佐殿。施設って程規模も設備もないけど鉛にコンクリにゲート産の箱。輸出する気満々だったんじゃないかね。」
テロリスト死すべし!慈悲はない。人がゲートに入ってドタバタやっている間に勝手に宇宙に行って交渉して、私が外に出たら出たで今度はテロリストを潰して回れとオーダーを貰いこうしてテロリストを潰している。
本来と言うか相手の規模によっては紛争染みた銃撃戦。しかし、今の状態なら数よりも少数精鋭の方が動きやすい。現に他の国もエージェントナニナニ何ていう誰かが少数で動いている。まぁ、国同士の付き合いがあり事態は逼迫しているので現場単位でバッティングする事もある。事前にどの地域にどんなエージェントがいるか教えてもらえるのはありがたい。
「それでそのミンチより酷でぇ格闘家さんは何がどうなったんだ?」
「簡単な話だ。拳に合わせてクレイモアを出したらそのまま殴りつけてボンッ。痛みさえ感じる暇は・・・、あったかもな。身体能力が高い分、死ぬまでの時間も長い。」
「そうかい。俺のほうも片は付いた。どうやらこの組織は輸出してから脅しをかけて金をせしめ取る計算だったらしい。ただ、モンスターは捕獲出来ずにゲート内で処理するとしてあった。鑑定してもそれ以上情報が出ないなら間違いないだろう。」
転がる肉片は10人分のミンチだが、テロリストも人材不足なのか過去に大規模組織とされていたが見る影もない。証拠と言っていいか分からないが、最後にふっ飛ばした奴は組織のボスじゃなかったか?
いくら崇高な使命を叫ぼうとも、いくら人を魅了する説法をしようとも、個人が力を持って行動していればそこに綻びは出る。誰だって鉄砲玉にされて死にたくはない。なら、さっさと足を洗って勝手に稼ぐ道を探す。何せゴールのゲートはどこにあるか知っている。一度入りさえすればほとぼりが冷めるまで潜伏するか、必要な物を買って逃げ込む事を繰り返せばいい。
わざわざ逃げ出した下っ端1人を探すほどテロリストも暇ではない。それを許さないと言うのなら、心酔させるか逃げ出したくなくなる様な待遇をするしかないが、それはもう下っ端ではなく幹部連中になると言う事だろう。
まぁ、その幹部にしろ頭にしろこうして現場で作業している現状を見れば、テロリストはそろそろいなくなるかもしれないし、バックの組織も弱っているので自然消滅も考えられる。その前にこうして、狩り尽くさなければ危ない状況になってしまったので狩っているのだが・・・。
「エマ大佐、そちらの処理は終わったか?」
「終わったが後どれくらい狩ればいい?正直人を狩りすぎて嫌気がさしている。」
「さてな。私の頭の中のリストにある限りはかなり減った。秘密作戦じゃなくて公にテロリストが撲滅出来る分人員は注ぎ込めるし、何よりもクソ共を大手振って殺して回れるのはいい。」
「それはお前がデスクにいるからだ。現場は血とクソで長居したくない惨状だぞ?」
「それでもだ。配信は見ただろう?ガーディアンの脅威は分からんが警告してくるなら処理せんと何があるか分からん。壊滅規模が大きければ最悪国がなくなる。」
ウィルソンの声がインカムから聞こえるが、聞きたいものでもない。大佐になったが1兵士として、こうして前線で暴れている。実際相手もスィーパーなので、圧倒的に有利に事を運べるかと問われると迷う。確かに仕留める事は楽になったし、武器の持ち込みも指輪があれば事足りる。至ったハミングなんかはkm単位での狙撃を個人で行い、記者のおかげで射線軸上の人払いも出来て見えない暗殺者と化している。
そして、それを意気込んでやるのではなく、鼻歌交じりでやるのだがら精度の程が伺える。まぁ、ハミング以外にもゲート籠もりを体験した兵達は精強で精神的なタフネスがある。言い方は悪いが常に戦地で寝ずに戦う。コレだけでも十分に訓練になる。
「インディペンデンスデイでは宇宙船のケツに特攻していたが、現れたら私の代わりにウィルソンがやれ。大佐として命令する。」
「生憎と戦闘機の免許は持ってない。」
「スクリプターならテストは受かるだろう?訓練はいらん、特攻して死ぬ片道切符だ。良かったな、お前も英雄になれるぞ?」
「私は英雄よりその英雄を祝う方が良い。近くにドゥはいるな?」
「いるぞ?相変わらずヒーローのコスプレに見えるが仕事はした。これは日本で買ったものをカスタマイズしたのか?」
「軍の制式採用パワードスーツの利権をどの軍事企業も欲しがっていてな。それに採用試験官もドゥは兼ねている。喜べ大佐、君の装甲を模したものもラインナップに乗るかもしれんぞ?」
「その時はふんだくるとしよう。」
「俺も顔出せれば利権に絡めるかねぇ?悪い暮らしはしてないが、金はいくらあってもいいし、今なら現物支給も大歓迎だ。差し当たって、若返りに高級な回復薬に不老なんてのもいいな。」
欲張りな事を言っているが、鑑定術師と言うだけで若返りは貰えそうだ。何せ中位はまだ少なくS職となるとほぼウチの国にはいない。それこそ、知っているのは私自身とドゥくらいだ。鍛えて先を見て誕生すればいいが、誰にでもチャンスがあると言う事は誰にもチャンスがないと言う事と同じだ。
頼る相手がいれば確率は上がるかもしれないが、私は追う側の人間でクロエの様に対話でどうこう出来るほど口は上手くない。まぁ、それでも命乞いしてくるテロリストはどんどん後続に押し付けて一応の連携はできているが・・・。
「それで、次はどこだ?まさかゲートの中の街を潰せと言うんじゃないだろうな?あそこはテロリストもマフィアもジャンキーからホームレスまでいる掃き溜めだぞ?」
「追加で一般人もだ。ゲート内は自己責任、コレが初期の発表でゲート内は自国じゃなくてよかった。新天地に見える場所も蓋を開ければ地獄と変わらん。まぁ、それでも紛れ込ませた人間が言うには外よりも安全らしいぞ?なぁドゥ。」
たまにいなくなるヤツだが、潜入工作員をしていたか。まぁ、街に入るだけなら潜入工作もクソもない。私も一度行ってみたが、行くのも大変で誰かに場所を聞いてイメージして行かないと着くまでにかなりの時間がかかる。どの街も、或いは村も何かしらのシンボルがあるので、一度行ったならそれを目指せばいいが、一番分かりやすいのはクロエのポスターが掲げられた街というのがなんとも皮肉な話だ。どうせ無許可で使って本人は知らないんだろうしな。
「法は鉄の掟。他人に迷惑をかけない限りあそこの住人は大人しい。逆になにかやらかすと殺されても文句は言えない。ハムラビ法典を地で行くような所だが、互いに力を持つ分争いを嫌う傾向にある。前に調子に乗って盗みやらなんやらやった奴は街を追い出されて処刑されてたな。そうでなくとも6階層を追われて次に行けば15階層まで降りる羽目になる。」
自己浄化作用とでも言えばいいのか、外よりもゴミはないしジャンキーだろうがヒッピーだろうが受け入れてくれるし、クスリをやっても文句を言われない。回復薬には脳を回復する効果もあるので、よほどやらかさない限りは快適なのだろう。ただ、我が国の回復薬製造プラントも同じ階層にあるので襲撃されないか心配ではある・・・。
「で、次はどこだ?」
「マンハッタン地下、一応それが潰せれば最後だ。宗教系のテロリストは軒並み息を引き取って解散している。問題は密輸系だ。ゲートに入ってない一般を攫って売り金にしようと言うクズ共だ。」
「買う変態がいると?」
「いる。大人だろうが子供だろうがスィーパー相手に一般人は無力だ。差し当たって調教してペットか奴隷にでもしたいんだろう。」
「嫌な話だなオイ!さっさと行こう大佐。」
「今ピックアップ用のヘリが向かっている。それで現地へ向かって欲しい。」
程なくして来たヘリに乗り込みマンハッタンへ。それほど時間がかかるわけでもないが、ヘリにあった資料に目を通す。どうやら今回は多いらしいし、地下の通路も無数で逃がせば面倒になる。作戦的には多方面から人を入れて最後にアジトか。
「ドゥ、宗教系が息してないとは?」
「ん?ああ、その話か。どの宗教にも神はいて、なんだかんだで人になにかする説法がある。しかし、配信で宇宙人が正式に観測された。そして、その宇宙人は俺達よりも高等で寿命なんかの人の夢を叶えてくれる。つまり、いるかわからない神に祈る理由がなくなっちまった。」
現金な話だ。いるかわからないモノよりいるモノにシフトチェンジする。確かにゲートの恩恵は計り知れないし、新しい生活様式をこぞって打ち出す中でゲートが消えれば混乱が生まれる。わずか1年で神は廃業になったらしい。
「そうなるとバチカンなんかは大変そうだな。」
「大変さ。教皇の位権も何もかんも地に落ちた。まぁ、元々土から産まれた人が土に帰っただけ。珍しく困るのは権力者で下々の俺達は仕事するだけさ。」
「そのうちゲート教団とかゲート監理団体が台頭してきそうだな。」
「なら、教祖はファーストだな。」
「本人はやる気ないぞ?それなりの時間を過ごしたが、人を使うのは余り得意ではないタイプだ。かと言って騙されるほど馬鹿でもない。」
祭り上げられるのが嫌なら人前も嫌。そうでないならあの容姿を武器に好き勝手しているだろう。元が男と聞いたが、それが事実だとしても些事だろう。なにせ目に映るのは今の姿でしかない。
「それでも、だ。配信を防人に見せた話は?」
「初耳だ。我が国に防人がいたのか?」
「つい最近見つかったよ。で、配信内容を頭からケツまで日本語で書かせたが・・・。ガーディアンは元々ファーストの物らしいぞ?」
「・・・、何をどうしたらその結論に?」
「配信の最後の方、ソーツとファーストが言い合ってた時に出たんだよ。『現在ガーディアンは停止させている。コレを弄っていいよ。』ってな。上はまだまだファーストには取引材料があると睨んでいる。」
やれやれ、知らない事だらけだな。集音性の悪いマイクからの情報漏洩だが、彼女は一体ゲート内で何をなして何になったのか?生涯の内でその真実が聞ける日は来るのだろうか?
「話し中すまない。ここからパラシュート降下だ。」
ドゥと顔を見合わせるがどうやら仕事の時間だ。考えるのは後にして猟犬として仕事をしよう。




