287話 胃袋をつかもう 挿絵あり
「現状、分かった事を伝えます。基礎スペックを考えるならウチのにゃん太、改名してフェリエットになりましたが、スィーパーでない人間と対比するならフェリエットの方が上です。ただ、スタミナの部分だけは人に軍配が上がるようですが、これも成長すればどうなるかわからない。そして、去勢していましたが子宮があります。多分、人体構造を考えた時に人為的に切除されたのは不自然という判定でしょう・・・。」
「・・・、こちらの方は一応会談が終了し方針らしきモノも出ましたが・・・、確認しますが獣人を1つの種とした見た時に敵対の可能性はありますか？」
松田が言い淀んで聞いてくるが、多分反乱と言うか発起して反乱する可能性を危惧しているのだろう。これはとても難しい問題で人間なら上が気に食わなければ下剋上するし、群れる動物もボス争いなんて事をする。
つまり、来る日が来るのかと言う確認だろう。猫の反乱・・・、モッフモフのマヌルネコとかがわんさか飛び掛かってきたら負けていいかも・・・。肉球でプニプニされながらあの毛の大群に囲まれる・・・。駄目だ！勝てない！と、現実逃避している場合ではない。
「人も含めて動物である以上、下剋上はないとは言い切れません。ただ、国規模の主権を取りに来るかと聞かれると判断に迷う。だって、今はフェリエットしかウチにはいないんですよ？話した感じは戦うよりも面倒事からは逃げる姿勢です。」
勝手にするから勝手にすればいい。縛られる事を嫌う言葉だが動物的ではある。これが私の勝手にするなら個人の意思がある分警戒心は上がるが、話した感じは意思はあるものの群れを率いると言うよりは、自分本位で同じ獣人がいたとしても気に食わなければ勝手にしろと言う風に思う。
仮に猫人が2人いたとして、片方が腹減ってても知らない奴であったり気に食わないやつなら簡単に見捨てる的な？まぁ、生存本能を主体として考えるなら確かにそれで問題ないのだろう。
「何にしても判断材料が少ないと言う事ですか・・・。賢者として考えたとしてもそれで間違いありません？」
「賢者足る者先ずは知る所からです。知らない事を知った風に言うのは愚者ですよ。それで、方針はどんな感じでまとまったんですか？」
「公ではないですが概ねの流れとして、獣人が発見された場合は政府に届け出を行う。飼い主がいる場合は責任は飼い主が負い、現時点では余り考慮しませんが、野良の場合は発見者が届け出を行い一応は政府管理となりました。ただ、政府管理と言いつつギルドに大半を投げるかもしれません・・・。一応ゲート関連の事象ですからね。」
「・・・、それって責任丸投げなんじゃ・・・。えっ、管理って何するんですか！？職員登用して自立させろと？元が動物なんで下手すると野山で暮らしだしますよ？」
腹減ったら鳥を採って食べる。間違ってはないし、狩猟民族なら誰でもやってるんだろうが、それを現代日本でやりだすと色々問題でない？そりゃぁ、休みの日に公園で鳩に餌やって食べに来た鳩を捕まえて食っても、生物としてはおかしくないんだろうけどさぁ！多分、生食するから口の周りとか血でべったりだろうし、何よりも先に発生した時点では服を着ていないので野良と分かりやすいだろう。
しかし、松田の言いぶりでは投げる気満々っぽいがどうしよう・・・。力による抑え付けは悪手だし、今日検査したばかりでどう付き合うのが成果もわからない。フェリエットは元々飼い猫だからいいとして、飼った後に捨てる人がいる場合は？
全員ギルドで面倒見ろと言われたら予算や住む場所問題が出てくる。教育してセーフスペースに住ませる？広さは大丈夫だし、野生化の懸念さえ目を瞑れば棲み分けは出来るが、外から来た獣人と中で住む獣人との間で格差とか生まれない？いや、別に住むだけであって外に出るなら出ればいいのか。
「予算は出るんですよね？丸投げ状態にするにしても物入りですよ？住む家の建設に教育に戸籍をもたせるなら、そのへんの管理は政府です。管理しろと言われれば、1つだけフワッとした感じの事は今だけなら出来ますが。」
「ほう？そのフワッとしたとは？私も会っていないので判断は別としてなにか策があると？いやぁ〜、流石クロエさん、流石賢者様！叩いて何もでないなら叩き損ですが出るなら話は変わってくる。で、なんですその方法って？」
えらい食い付いてくるがコチラとしても確証はない。ただ、これは獣人だけではなく人間でもちょっとクラっと来るかもしれない。何せ3大欲求の1つを使うんだし。
「衣食住足りて礼節を知る。住む所は獣なんで彼等は多分、そこまで気にしません。性欲は勝手に解消してもらいましょう。数が出れば増えるなと言っても無理です。それを言い出せば戦争する事になる。なら、搦手でアホほど旨い物を用意してすぐにたらふく食わせる。詰まり、胃袋を掴むんです。」
「・・・、本気ですか？」
「グルメの旅でフランスに行く。馬鹿げてると思いませんか？時間も労力もお金も結構かかるのに、わざわざ遠くに出向いてほんの1時間の満足の為だけにそれを支払う。スケールダウンするなら、東京からラーメン食べに地方に出向く。それだけ旨い食い物って魅力的なんですよ？」
「ふむ・・・、ペテンに掛けてませんよね？」
「胡椒は金と同等。人が辿った歴史ですよ？学習する事も彼等は出来ますが、現時点で加工食品作れと言っても無理です。だって彼等は狩猟者であって耕作者ではない。草食獣だって草がなくなれば移動してしまって育てないんですよ？」
「その案が一番穏便そうだと？」
「観察した結果ですね。検査を嫌がる度に小出しでササミあげてました。それも味がほとんどない様な塩味の物を。それでさえ美味しいとがっついてたんですよ？なら、味覚も検査して好みに合う美食を振舞って、食べたいなら大人しくしろと言うのが穏便でしょう。それに、S料理人なら味も栄養も好きにできる。」
微妙と思ってた料理人いてくれてありがとう！食文化コミュニケーション政策が打ち出せるよ！まぁ、戦闘も出来るし飯も作れる職なので弱くない。ただ、ゲートでの戦い方を聞くとモンスターを3枚におろして食べたり、活造り？にして食べたり出来るらしい。
まぁ、機械的な部分は無理だが生身の所ならねぇ・・・。って、最初に食った奴は勇者と言うか蛮勇だろうて。どの時点で食べたか知らないが絶対汚染肉とかだろ・・・。寧ろ、肉に見えて肉じゃないまであるし・・・。流石飯の為に世界を飛ぶ種族だけの事はある。
「そのうち美食に目覚めた猫とか出て来そうですね。」
「猫は割とグルメですよ？猫缶の後にカリカリ上げると鳴き声あげて抗議してきますから。」
「取り敢えずデータを後で送ってください。獣人に該当しそうな動物はまだわからないのでしょう？」
それが分かれば楽だが中々無茶を言ってくれる。にゃん太がフェリエットになってまだ数日、未来まで見通していたらそれは賢者ではなく預言者だ。仮に統計学を極めて見通しを立てても必ず揺らぎはある。そして、その揺らぎがある限り100%はない。
「分からないですね。いっその事動物実験として片っ端から飲ませてみます？ネズミが小人になったら中々ファンダジーでしょう？」
「レプラコーンではなくグレムリン枠なので飲ませるなら慎重にどうぞ。実際米国からも薬の件で問い合わせが来てるんですよ？『人に飲ませると中位、或いは上位になるのでは？』とね。コチラとしては人に飲ませると死ぬと伝えましたが、無理を通すならデータをくれと言ってやりました。」
何人かは『俺は適合するから飲めるぞー！！』っと、飲んでしまいそうだな米国人。まぁ、松田ではないが飲んだ結果を提供してくれるなら文句は言わない。ただ、犠牲になったらなったで隠蔽して闇に葬りそう・・・。しかし、あちらは鑑定師の中位を狙っていたようだがまだいないのだろうか？
エマが米国に帰ってから数ヶ月たち、ゲートに籠もったりしているのでそろそろ1人くらいは中位がいても良さそうだが、急かすものでもないので判断に迷う。ただ、スタンピード経験者も至るに当たっての資料もあるので、心構え次第だろう。
「何にせよギルドに話を投げるなら、先ずはある程度の予算と方針からです。でなければ好きにやりますよ？責任は押しつけますが。」
「早々尻拭いをしたくないので早めに文書として出しましょう。連絡は密にお願いします。それと、黒岩さんの方から全国の警察官に獣人について連絡してもらいました。次が出ないとも限りませんからね。」
「私服警官がまた増えますね・・・。まぁ、獣の耳やら尻尾付けてストリーキングしてる奴がいたら、どんどんしょっぴいてください。それが世の為人の為、本当の獣人なら保護対象ですしね。」
室内で全裸猫耳尻尾少女と二人暮らしのおっさん。犯罪でない確率は今のところ無いが、これから先あり得る光景だよなぁ・・・。せめて服を着る、着せる義務とかも作った方がいいのだろうか？フェリエットも服は窮屈と余り好きではないし・・・。
松田との電話を切り部屋に入るとフェリエットがドッタンバッタンと走り回っている。音は静かだが、動きはダイナミック。なんでそんなに走っているのかと思って見回すと、神志那がレーザーポインターを使ってフェリエットの狩猟本能を刺激しているようだ。ただ、多少広いとは言え元々リハビリルームなので下手に走り回らせると機材が壊れる！
「ストップ！ストップ！なんで走り回らせてるんですか！要請して貸してもらったんで壊すと弁償費用が！」
「いやぁ〜、追ってくれるから面白くなっちゃって・・・。ただ、何もなくテストさせるよりも目標あった方が動きがいいよ。」
そりゃぁそうだろうけど被害が！医療器具って高くないの！？首を引っ張るやつとか、電気治療器具とか！一応ポインターの位置は考慮してるけどフェリエットは集中していて最短しか見ていない！
「破損した機材は私が持ちますよ。クロエさんが出てから少しして遊びがてらにやりだしたのですが、今の今まで集中力が途切れてない。優先すべきは本能なのでしょうな。」
費用を持ってくれるからいいってもんでもないが、話を聞く限りでは中々の集中力。ただ結構汗かいてるな。猫って元々暑い所の動物だから水はそこまで飲まなくてもいいらしいが、さっきがぶ飲みした分が出てるのだろうか？体操服もうっすら貼り付いてるし。
「やめたなぁ〜。飽きたなぁ〜。腹減ったなぁ〜。」
追うのをやめてその場で丸まって・・・、うつ伏せで大の字か。最初は丸まろうとしたが暑くて汗も気持ち悪かったからか身体を開いてバタバタしている。まるで駄々っ子の様だが髪が浮く分熱が抜けて涼しそうだ。
