283話 頭はいいようだ 挿絵あり
「で、早々バレないと思うけどにゃん太はどうするよ?少なくとも千尋にはバレるだろ?」
久々の登校の朝・・・、空は青く晴れ渡りたまに生えている桜は葉桜になってしまい、惜しい気もするけどゴールデンウイークも近い事を知らせてくれる。五月病か・・・、俺の頭痛は何月病になるんだろう?去年からずっと頭を抱えているような気もするんだけど!?
「・・・、飼い猫が擬人化したとか?」
「いや、間違ってないんだけどドストレートに言っていいのか?通い妻風味だからバレるんだろうけどさ。」
「俺の癒やしが・・・、消えた・・・。」
父さんが美少女になって1年くらいしたら今度はにゃん太が美少女化するとか・・・。多分誰が悪い訳でもないんだろうけど、そろそろ呪いとか疑いたくなってくるよ・・・。傍目から見れば今の俺を羨む人は多いと思う。彼女がいて世界のファーストの家族で美人な姉と母さんに、新しく美少女化したにゃん太は妹枠とか?あれ・・・?
「まぁ、ガッコで早々どうにかなる事はないだろう?何でああなったかは知らないけどさ。理由分かったら教えてくれる?僕もちょっと猫捕まえてくるから。」
「ナチュラルに増やそうとするなって。ところで、実は俺はハーレム系主人公だった・・・、のか?結城、お前実は女じゃないよな!?ちょっとパンツの中見せろ!嫌なら触って確かめさせろ!」
「お前の心労は分かるけど叫ぶなって!周りの目がヤバいって!」
「千尋ちゃん・・・、彼氏さんはその・・・。」
「衆道に落ちて・・・、ないよな!?私に手の一つも出さないけど、もしかして結城との関係をカモフラージュする為の隠れ蓑にしたんじゃないよな!?流石にそれは泣くぞ!どうなんだ!」
「あ〜、僕は銀河系美少年だけどノーマル。あのな那由多、小さい頃3人で温泉入って隅々まで見てんだろ?」
「行った、見た、有った!でも、お前もブルータスかもしれない!」
確かに有った!付いてた!だけど見るまでは騙されんぞ?ちょっと目離すと猫だって人型になるんだ!なら、見えないズボンの中身がなくなってたっておかしくない。だって父さんは美少女になって昨日は尻丸出しでソファーに倒れてたし、下はついてなかったし・・・。
しっかし、父さんはなんであの下着なんだよ・・・。トランクスとかブリーフ履けとは言わないけど、もう少しこう・・・、縞パンとか猫のプリントパンツなら微笑ましいで済むだろ?よりによってTバックとか・・・。洗濯するから履いてるのは知ってた。でも、実際履いてる姿を見るとこう・・・、インモラル感がたまらない・・・。
「なんですかそのカエサルパクリみたいなセリフ・・・。でも、そんな小さい頃から仲良しなんですね。私は幼馴染とかいないから、ちょっと憧れちゃうな。」
「温泉の有名地だからな。友達同士でも遊んだら帰りに温泉行く〜?とかよくある。加奈子もギルド行った帰りに一緒に入るか?」
「考えときます。多分、遊んで帰りに温泉ってこの土地特有の考えなんですよね。友達同士でも裸見られたら恥ずかしいし・・・。」
「そうか、昔からそうしていたから余り気にしていなかったな。と、言うか那由多そろそろ結城のズボンから手を離せ!本当に擁護できなくなるぞ!?」
「男にはやらなきゃならない時があるんだよ!千尋も分かってくれ!」
「待て待て那由多!そのセリフは取り方によっては今から僕があ〜れ〜な事される風に聞こえるぞ!?」
「男の子同士ならアーッ!ですよ、そこは!」
「加奈子も冗談言ってないで悪友を正気に戻してくれ!待て!ベルトに手を掛けるな!」
「分かりたくもない。なんで私が男友達に彼氏をNTRようになってるんだ。そもそもなんでこんな事になってる!?」
「NTRとかしたくもなければされたくもない。那由多、話すぞ?てか頭冷やせ!」
「疑惑は深まってるからな?なんでこんな事になってるかは俺から話す。ちょっと集まって・・・、そこの路地にでも行こう。」
結城は変化していないよな?最近と言うか1年毎に常識がアップデートされて疑心暗鬼になっている気もするけど、やっぱり自分の目で見たモノを信じるのが一番だよな?見えない宇宙人は見えないからいないモノとする。でも、見える奴はいるから宇宙人はやっぱりいる。あれ?にゃん太は宇宙人だった・・・?薬がどうのこうのとは言ってたけど、犬の筆談?煙談?を信じ・・・、るしかないよな?この目で見たし。
「ウチには飼い猫のにゃん太がいる。」
「知ってる。カッコいい顔立ちだが実は雌で、たまに飛び越えようとした用水路に落っこちたり、ネズミ捕り用のトリモチに絡まって助けてくれと鳴く奴だったな。」
「なんですか、その残念な猫・・・。」
「古い話だけどガチだからなぁ。そのせいで一時期毛がなかった。確か屋根裏に逃げ込んで司さんが天井ブチ抜いて助けるか悩んでたっけ?」
「そう、幸い天袋から救出出来てブチ抜かなくて済んだ。そのにゃん太が外で喧嘩して怪我したらしいんだけど・・・。」
「発情期だからな。前も耳齧られていただろう?」
「でも、それと結城君のパンツの中身確認するのはなんの関係が?那由多君も発情期だからってわけじゃないですよね?千尋ちゃんいるし。」
「卒業までは責任取れない事はしない。一緒になるならみんなに祝ってもらわないとって、何で千尋は両手で顔を隠してるんだよ?」
「ちょっと愛を噛み締めてた。後で惚気けるから先を言え。」
(加奈子、惚気は長くなるからその時は逃げるぞ?)
(お供します結城君。)
「お前達のアイコンタクトは何を言いたいか分かるからいいとして、そのにゃん太が個体成長薬って薬を飲んで人型になって帰ってきた。」
端折って話してない。ただ俺が聞いてもわけが分からない。望田さんの話では声紋はにゃん太とその娘は一緒だから同一人物と言うか、同一猫で間違いないらしい。父さんは父さんでバイトの言う事と言うか書いた事で納得したし、母さんはその父さん達を見て納得した。俺も流れに乗るなら納得するんだろうけど、飼い猫が急に獣人になったら誰でも混乱すると思う。
「・・・、昨日よく寝れなかったのか?那由多も疎開してなかったし寂しかったのか?それなら抱き締めてやるが・・・。」
「千尋、抱き締めるのは俺がする。にゃん太の件は事実なんだよ・・・。証拠と言うか結城も見てんだよその娘。」
「えっと、結城君・・・。本当にいました?」
「那由多の妄想じゃないのは確か。現に僕も朝から会ってチーかまねだられたからね。見た感じ耳・・・、頭に猫耳付いてるけど特殊メイクとかじゃないっぽいし、尻尾はうねうね動いてたよ。」
「待て結城、話すって喋れるのか?カタコトとかじゃないよな?」
「僕が話した感じは普通だったなぁ〜。おっと、その娘は語尾になぁ〜って付けてたよ。そこんとこどんな感じなの?」
「取り敢えずそろそろ遅刻しそうだから走ろう。」
人に話して多少落ち着いたけど、姉ちゃんはもう連絡もらったのかな?一応後でLINEしとくか。学校にはギリギリ間に合い4人で雪崩込むように教室に入る。先生が点呼を取るけど疎開して欠けたクラスメイトはいないので一安心。ニュースではセーフスペースに行くまでに勝手な行動をして怪我人も出たと言っていたけど、薬かはたまた治癒師のおかげか死亡者はいないらしい。
再開された授業は遅れを取り戻す為か、かなりハイペースだけど、みんなスィーパーになったおかげか特に文句はない。不思議なもので、職を使えば何らかの方法で教えられた事を暗記しやすくなるので便利だ。俺は鍛冶師なので、記憶を改造して作成した引き出しにラベリングして詰めるようにイメージしている。
千尋なんかは教えられた事をそのまま記憶に投げ込んで忘れない様にすると言うし、結城は悩んだ末に覚えるのではなく壁とかに染み込んだ声を囁いて貰うらしい。人それぞれに暗記術を考えてテストを受けるので、余程おかしなテストでもない限りは点が取れる。
さっきの授業で抜き打ちテストが行われたけど、最低でも90点代。赤点ギリギリを彷徨っていたクラスメイトでさえ、それだけの点が取れるのだから勉強が楽しいと感じたのか、休み時間に本を読む奴やネットニュースを見る奴も増えた。
各言う俺もコッソリと事業中にスマホで獣人の事を探ってみたけど、殆どは二次元美少女とかコスプレ写真ばかりで有益なものはない。やっぱりゲートから出た薬だからペットに飲ませる奇特な人はいない様だ。
「さて、昼休みだし話してもらおうか。その為にこっそりと屋上に来たんだしな。」
「加奈子なんか疲れてないか?」
「大丈夫です・・・、ちょっと体育で着替えに行ったりトイレに行ったりする時に千尋ちゃんから那由多君の素晴らしさを洗脳されただけです。あっ!ナユタクンハカッコイイ・・・。」
「何やってんだよ千尋・・・。」
「ふふ、冗談ですよ。私はどちらかと言えば美少年系が好きですから。」
そう言いながら加奈子が結城に笑いかける。割とお似合いに見えるからそのうち付き合うかもな。実際結城もまんざらじゃないみたいだし、お互いの乗りが合うと言うか打てば響く的な?まぁ、実際結城の好みは包容力があって一緒にいて楽しい人がタイプなので加奈子はありだと思う。
「取り敢えずスマホで写真撮ってるから見てくれ。」
ソファーで丸くなって寝るにゃん太の写真を見せる。こうして見ると耳と尻尾がなければ変わった髪色の少女にしか見えないけど、行動を考えるとただの少女と言うにはエキセントリック過ぎる。だってにゃん太の餌入れからカリカリ食べて水飲んでたし・・・。
「なんと言うか・・・、思った以上に人だな。」
「ですね。もう少しこう・・・、後ろ足で立った猫を思い浮かべてました。結城君はこの子に会ったんですよね?」
「朝イチ那由多迎えに行ったらお出迎えされたよ。はっきり話してたから最初親戚の子かと思ったよ。」
「なぁ〜ってつける語尾は困ってるかららしい。屋根に登って降りられなくなったにゃん太もそう鳴く時があったから、多分今の姿に戸惑ってるんだとは思う。ただ、気が散りやすいから本当に困ってるのか、なぁ〜も単純に取り忘れかも分からない。」
「それで、この子って今は家に1人?一匹?なんですか?小さいからそれだと危なく思うんですけど・・・。」
「いや、父さんがギルドに連れて行ったから一人じゃない。多分色々検査とかするんだと思うけど、何がどうなるか全く見当もつかないよ・・・。因みに身長だけなら父さんより高いかな?」
朝から父さんの後ろを付いて歩いていたのを見る限りだと、にゃん太の方が父さんより若干大きい。そのせいかにゃん太的には父さんは遊び道具感覚なのか身体をスリスリと擦り寄せたり、膝の上でゴロゴロしたりと、元々懐いていた分人型になっても甘えているようだ。
「薬で人型になるならこれから増えそうですね。それとも、その薬って1本だけなんでしょうか?」
「正直本当に分からないんだよ。初めて聞く名前の薬だし、俺自身もゲートにあんまり入らないし。会いたいんなら休みの日にでも遊びに来るかギルドは・・・、厳しいかな?流石に色々調べてるだろうし。」
「ふ〜む・・・、取り敢えず夕食作りに行く時はいても驚かないようにしよう。」
ーside リーー
「私も会ってみたいですね。良いお手本になりそうですし。」
一歩踏み込む。テイから上がってきた情報では親戚の子と言う話だったが、よもや飼い猫が人型になったとは誰も思わないだろう。話を聞いて写真を見せられた私でさえ半信半疑なところがある。コレは悔しいがテイの根回しと言う名の嫌がらせを活用させてもらう。
「ん?お手本って何?」
「えっと・・・、お恥ずかしながらコスプレが趣味なんです。派手なのは余り着ないですけど、アニメでキャラクターが着たジャージとかちょっと猫耳つけてみるとかの。本物がいるなら似せれないかなぁ〜と・・・。やっぱり忘れてください!私がしても似合わないですよね!?」
「いや、そんな事はないと思うけど。なぁ結城?」
「うん!すごく似合うと思うよ。あっ!なら会いに行く時猫耳カチューシャとか持ってくる?」
「あ〜、本物には太刀打ちできないから先ずは見てからですね。でも、私が会いに行ってもいいんでしょうか?」
「友達の家に遊びに行くくらい良いだろう。行く時は私に声をかけてくれ、流石に男二人の所に1人で行くのは親御さんもいい顔しないだろうからな。」
「ありがとう千尋ちゃん。那由多君と結城君の家が近いって事は聞いてたんですけど、住所とか全然知らないから呼ばれてもどうしようかと思ってました。」
不自然にならない口実はこれでいいだろう。友人が友人の家に遊びにいく。先に対象の家に行きその流れでファースト宅へ行く方向で考えていたが、状況的には一気に駒を進められそうだ。私自身無趣味だが、中々趣味というものも侮れないな。何処で何がどういう口実になるか、実在しない時枝 加奈子と言う人物の肉付けを行政ではなく個人単位でするならばこう言う風にすればいいのだろう。
いっその事何かもう少し付け足した方がいいのだろうか?現状、このグループ内で私はかなり馴染めて来ているが、古くからの付き合いのある面子の中に入るにはもう一歩何か踏み込める材料があってもいいように思う。ただ、話の中で出た個体成長薬を私はまだ所有していない。
祖国なら確保している可能性もあるが、出土量が分からない以上1つの事例として報告に上げるに留めるしかない。仮ににゃん太なる獣人が有用なら、人に変わる新たなる小間使いとして繁殖させる方針も打ち出される可能性もある。ただ、1つはっきりさせなければならない事がある。
「確かに加奈子はウチに来る用事がないもんな。まぁ、夏休みの宿題とかする時にウチで集まってやる事多いから知っておくといいよ。ウチに来れば結城の家も自動的に分かるし。」
「だね、なんたって斜向かい。僕単体を訪ねてきてくれてもいいのよ?」
「お散歩コースに良さそうなら考えます。と、そう言えば何で写真の子がにゃん太ちゃんだって確信したんですか?結城君も結構すんなりと受け入れてたみたいですけど・・・。」
ゲートがある現状で何が起ころうと不思議はない。不思議はないが猫が人になれば流石に疑う。確かにファーストの配信は突拍子もなかったが、まだ映像がある分無碍には出来ず編集の有無等を調べていけば、その動画がフェイクかどうか分かる。そして、調べられた結果はテレビで真実だと放送され疑う余地は消えた。
仮に真実だとする事がフェイクだとするならば、何かを隠したいのだろうが世界に向けて配信し、検証等様々な事をされると分かった上で隠したいと言うなら、そもそも警告動画のみを乗せればいい。
少なくともガーディアンは同士の国に現れ、被害が発生したらしいが私の任務には関係ないので話を聞くだけ。テレビでは被害なしと言っていたが、ロシアも噛んだ施設だったので思うように廃棄できなかったのだろう。まぁ、それもこれも消えてさっぱりなくなってしまったが・・・。
「僕は那由多が言ってたから信じたかな?本人と言うかにゃん太にチーかま上げてたのも事実だし。」
「私はまだ半信半疑と言える。実際に会ってしまえば納得も出来るのだろうが写真だけではな・・・。まぁ、司さんの事もあるし何があっても不思議ではないんだろうが・・・。で、那由多はなにか根拠があったのか?」
「ゔっ・・・。ぼかして触れないようにしてたんだけど、1つは望田さんが声紋が一緒って言ったんだよ。話してる時はそうでもないんだけど、語尾のなぁ〜はにゃん太と全く一緒なんだって。それとね・・・、父さんがね・・・、バイト・・・、ウチの飼い犬に筆談と言うか、煙で空中に文字書かせて口を割らせたんだ・・・。」
頭の痛い任務だ・・・。ファーストの情報を祖国に流さなければならないのに、そのファーストが飼い犬から情報を得た?全く持って意味がわからない。朝から那由多が暴走していたがその気持ちに共感出来る・・・。
粗方何か確信出来るモノが欲しかったんだろう。私としても犬が筆談で正確な情報を伝え、猫が人になれば自分の中の常識を疑いたくもなる。ただ、これで注意点は分かった。少なくとも望田は鑑定術師の様に私を見ても中位とは簡単に見抜けないだろうし、犬の方も眼の前で疑われる行動を取らなければいい。
ファースト本人が私を見抜くかと言う所が最後の争点になるが、既に何度か出会った上でそこを言及されないなら大丈夫だとしておく。ここで泳がされていると言う線は捨てないが、それまで考慮しだすと身動きが取れなくなってしまう。
「あの犬頭良かったんだな・・・。吠えないし大人しいとは思ってたけど・・・。」
「そんなレベルの問題か?結城も毒されてるが、普通犬に何があったと聞いても餌くれとか散歩行こうくらいしか返さないぞ?」
「千尋ちゃんも毒されてます・・・。まず犬はワンワンしか返せません!」
ーside 司ー
夏目達が風呂から上がって来たのでテストをやろうか、その前に平仮名を教えようかとあれこれ考えているうちに昼を周り、昼飯食ったら寝たフェリエットを起こして机に向かわせる。テスト?ささみで釣ってやらせたが、問題を読んでやらせた空間把握系のテストは良好。カラー印刷で猫には見えない赤や緑色も織り交ぜられていたが、ほぼ正解と言う結果になった。
ただ、そこで集中力が切れてしまい他のテストは分からないの一点張り。仕方ないので妻のいる救護所で寝かせている。流石にギルマスルームに猫のコスプレした娘がいたら急な来客の時に問題だしね。
「ふ〜む・・・。クロニャンテスト結果どう思う?」
「難易度が分からないのでなんとも言えませんが、正解率だけ考えると相当高いんじゃないですか?元々猫ですし。」
「採点してて思いましたけど、これって結構難易度高いですよね?私でも首ひねる問題をパッパと回答してましたけど。」
「私はシャワー連れて行って水を嫌がらない方が新鮮でしたね。それと、あの髪はなんですか?本人の意思で動いてるっぽいんですが・・・。」
「多分ヒゲの代わりですよ。触るとほんのり温かい分、人よりも過敏だと思います。それに身体に巻き付けて寝るのを見ると毛皮の代わりも兼ねてるのかなぁ・・・。」
みんなでああだこうだと見た感想から行動までを話すが、やはり人っぽい猫と言う印象になるようだ。ただ、物覚えは本当に良いらしく夏目が教えたあいうえおは書けた。後は識字の問題なのかな?50音全ては教えてないし、カタカナや漢字もまだまだ知らないので先は長そうだが・・・。
「多分フェリエットは天才だよ。」
「天災?なにか引き起こして引っ掻き回すとか?確かに常識を引っ掻き回してますが。」
「違う、天賦の才能の方。書いた文字見てみ。」
神志那が紙を差し出すので見るが、十字を切ったマスの中にあいうえおがきれいに書かれている。う〜む・・・、PCに慣れて手書きしない現代人よりきれいなんじゃないコレ。
「マスの中にキレイに書かれてますね。感覚も等間隔ですし、一度夏目さんが教えてコレならすぐ50音覚えちゃいそうですね。」
「モッチーそこじゃないよ。そのマスと十字線は私がさっき定規で書いた。最初に渡したのはただの白紙で上手く書ける所に書いてって言ったら中央にその5文字を書いた。コレの意味分かる?」
「紙の中心が分かるって事ですか?それだったら私もここだろうと言う所は分かりますが?」
「それはだろうでしょ?定規で図って正確な位置に3文字目の中心を置く。これって空間認知処理能力がずば抜けてるって事なんだよね。フェリエットが眠いって言うのはもしかすると・・・。」
「脳が情報を処理し過ぎてクールダウンの為に休眠を必要としていると?」
「憶測の域は出ないけどねぇ。本当にただ集中力がないから面倒になって寝てるだけかもしれないし。まっ!文字覚えるのは早いと思うよ?結局文字って図形と一緒だからね。」
神志那の憶測が正解とするならフェリエットは情報処理に強いと言える。物の全体像を捉えるにしても、異なるデータの関連性を見抜くにしても必要な能力なので高いに越した事はない。う〜む、集中力がないのではなく、その短時間だけ物凄く集中していると取るとどうだろう?猫は興味があればそれに集中して遊ぶ。そして、唐突にやめてしまう。
それを人に置き換えるなら遊び飽きたと取れるだろ。では、遊び飽きるとは?答えはそれを理解してしまったから。RPGをやっていてラスボス手前でゲームを投げ出す事が俺もあったが、色んな外的な理由を取っ払うと最後に残るのはラスボス倒してハッピーエンドで終わると理解しているからではなかっただろうか?
もちろんそれを目当てでやる人は大勢いるし、何ならその後やり込んでステータスを上げる人もいる。でも、ルーティン化した戦闘に確実に倒せるモンスター、分かり切ったエンディングが揃えば残りは文章を読むしかない。そして、その文書も数あれどハッピーエンドと分かってしまったら?途端にラスボスを倒すのが億劫になる。
俺も憶測でしかないが、フェリエットはそれをごく短時間でやっているのかもしれない。だが、逆に興味のある事が延々と続けば物凄い処理能力を発揮してくれるかも・・・。
「クロエさん、青山デリバリーです。見てくださいこの個体成長薬の山!喜んで貰おうとわんさか集めてきました!」
フェリエットについて考えているさなか青山がうるさくやって来た。まぁ、薬を集めて来たようなので良しとしよう。ただ、わんさかと言われても薬は指輪の中なのでどれくらいあるか分からない。
「ありがとう。で、何本ある?」
「未開封の箱も考えると30はあると思います!1〜5階層を全力疾走しつつ箱だけ回収してたんでこれくらいですね!無料で差し上げるのでお収めください。」
「・・・、はぁ?ちょ!おまっ!持ってそうなスィーパーから集めたんじゃないのかよ!」
「?、クロエさんの呼びかけに応えるのはスィーパーとして当然でしょう?なので先にゲートの中から集めてきましたが?」
出土量!ふざけんなよコンチクショー!午前中青山が走り回ってそれだけ集まるって事は世界各地でポンポン出てるって事じゃねぇか!財源圧迫もそうだけど、絶対何処かから獣人出てくるじゃん!神志那も話を聞いて半笑いしているが、これどうすんの!?




